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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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108 計測不能と限界突破



 不意打ちとは言え、人間大の飛来物を避けられない訳がある。


 人間はある一定以上のサイズの物が飛来すると動けなくなる。

 交通事故で轢かれる寸前に停止する描写は此処から来ている。

 しかし、慣熟は可能で慣れてしまえばどうということではない。


 当然戮丸は完熟を済ましているし、正直、遅い部類の飛来物だ。


 意表を突く攻撃といえなくも無いが、オーガが入り乱れる戦場。つまりは人間大飛来物などさして珍しいものでもない。


 戮丸はサッとかわした。



 ――かわした(・・・・)


 ノッツは何か違和感を覚えた。

 それが重大な見落としだと確信に至っている。


 ――単純に打ち落とすことも出来たはずだ。


 ノッツはひたすらに注視する。画像としてシグナルがある確証はない。

 ――徒労、馬鹿の考え休むに似たり。


 それでもそれしか出来ない。頭の中の俯瞰図とひたすらに照らし合わせる。


 ――見つけた。

 ―――配置が違う。




「遅れました!すいません」

 大吟醸は暢気な声で参戦を表明する。

 当然、「バイトか!」と不満は出るがそれでいい。それで空気が変わる。

 実際は戦力が+1だ。実際優位のアクシデントなのだ。当然加入できる戦力には事を欠かない。ただ、あの戦場でカウントに入れられる人間となると、レベルじゃないものが足らない。

 ――雇用過多の人材不足。



 オーガも人間も観戦モードだ。



 ゾクリッ!



 背筋に氷では生ぬるいものが奔る。


 ――ヤバイ、勘違いをしていた!

 ――戮丸がこんなに弱い訳が無い。


 実際、グレゴリオも瞬殺で転がされたし、銀も・・・何故トドメを刺さなかった?いや、刺せなかった(・・・・・・)と思い込んでいた?

 訓練の際は「トドメまで考えて行動しろ」と言われ続けていた。

 その戮丸が一連の行動連理に、トドメを入れられない訳が無いのだ。


 ディグニスが撒き餌だった。それは噺家の言うテンドン。本当の撒き餌を隠すための――――


《逃げろ》

《逃げろ》

《―――10割が始まってしまう!》


 アイツは・・・冷静に考えれば【狂戦士の激情(ベルセルク・ガング)】中の戮丸が真っ先に考える事は・・・


(みなごろし)!》


 発狂状態だろうにそこまで・・・何があの男を作った?


 敵対勢力は須らく殺し尽くす気だ。当然といえば当然か。

 それでこそベルセルク・ガングだ。てっきり(ぬる)さは全体のペース配分と思っていた。全員殺しきるのにペース配分は必要不可欠。しかしそれでは――殺しきれない。


《人間は都合のいい事しか―――信じない》

《全くその通りだ》


 仮に今のペースで半分殺せたとしよう。100人以上は残っている。その全員が蜘蛛の子を散らすようにてんでバラバラに逃げたら?所詮は一人の戮丸には殺しきれない。――考えすぎ――いや、やつはシバルリ村の解放をやり遂げている。 

 ひたすらに逃げろと本能が警告する。


 しかし――どうやる?


 敗走状態で尚且つ逃げられない方法。――誰を殺す?――いや、誰から(・・・)殺す?

 現状キーマンはマティに移行している。アレはやりづらい筈だ。


 ―――確かスナイパーが戦場で隠れた敵をおびき出すために斥候を弄んで殺す。

 それが敗走する敵を足止めする方法の一つ。


 じゃあ、マティを―――弱いな。

 マティは十二分に強い。窮地に至って助けを求めるか?いや、それ以前に、マティが一瞬で窮地に立つほどのパフォーマンスを見せつけられて駆け寄って何か出来ると思うヤツがいるか?


 では他のやつ――


 ムシュ・グレゴリオは論外だ。戦士として完成しすぎている。

 大吟醸―――もう出がらしだ。反撃のキーマンはではあるがそれだけだ。

 それに言いだしっぺだ。


 ダイオプ爺さん・・・妥当なところだがやはり五十歩百歩だ。彼がかけがえないのは自分達だけ――全体の総意ではない。他の人員は普通に見殺しに(正しい判断が)出来る。


 理想的なのは今のパフォーマンスを維持したままで、全体の指揮系統をにダメージを与え――つまりは指揮官だ。それも、単品では戦力にならない青瓢箪あおびょうたんで影響力の大きい――


 ――俺か?


 その思考こそが破滅へのトリガーだったのか――

 戮丸と視線が噛み合う。


 その表情は嫣然えんぜんとした艶めかしさをたたえていた。




 ――ディフェンス!

 ダイオプサイトは進行ルート上に居ない。振られた《・・・・》のだ。その為の配置の違和感。


 つまりはそう決まっていたのだ。

 この後のプランはどうなっているのかは判らない。

 ただ、指揮官が真意に気付き、指示を出すまでの――戦場からすれば刹那の時――そのタイミングに殺そうと。


 考えれば憎いタイミングである。

 撤退指示を出す。その仕事があるから死ぬ訳にもいかず、かつ逃げられない。

 敵を散らせないための餌としては申し分ない。


 その時間までヤツは戦場をあっためていたのだ。


 頭に血の上ったヤツには思考をまわせない。

 ご丁寧にヤツはそのタイミングだけを狙い澄ましていた。


 ――表情で見抜かれた――


 《・・・もうやだ》


 漆黒の影が飛来する。間違いなく酷い目にあうヤツだ。

 脇を抜かれた青ざめたダイオプサイトの表情だけが心に残る。


 こうなっては欲を言ってはいられない。ただ『逃げろ』と叫ぶべきだ。

 欲を言えば大吟醸に殿しんがりを任せて・・・

 しかし――その意思も肩を襲う激痛に漂白される。【軽身】状態なら左右の手は関係ないのか――


 拳銃で打ち抜かれるとこんな感じか――

 あまりの痛みに俯瞰意識が、我ながら下らない感想をこぼす。本当に下らない。


 ―――だってそうだろ?

 ―――戮丸シェフ惨劇スペシャルフルコースが待っているのだから・・・


 ・・・おれ、何か悪い事しましたか?




 グュゥインッ!!


 しかし、惨劇は訪れなかった。

 その鎧は白い全身鎧で赤いラインがアクセントになっている。隙間からはびっしりと、ルーン文字が刻まれ青く発光しているのがうかがえる。その手に持った大型の盾はユニークアイテムだったはずだ。――これが防いだ。不思議と同じ意匠・・・いや鎧を合わせたのか?

 チープな印象だが正義の騎士とはこんな感じなのだろう―――


「待たせたな」


『―――オーメルッ!!!』


 兜の面貌を上げた男に一同の声が重なる。




 ◆ 出鱈目の形




 しかし、いかにオーメルの参戦と言えど状況はなんら変わらない。それでも「助かった」と感じてしまった。戦力としては確かにプラスだが・・・

 オーメルが戮丸クラスの化け物で無いと―――

 

 それはあまりといえばあんまりの言葉だ。あんな猛獣がもう一人などありえない。ただ言える事はあの猛獣の扱いに一日の長があるのは確かだ。


「状況は?」

「―――あと一人。あと一人いるんだ!」


 ノッツは思い出したように叫んだ。


「この惨状に・・・か・・・」


 オーメルは辺りを見回した。死屍累々としか言い様が無い。死体があればいいが、もう既に血の混じった泥だと思う。

 常識的な判断では、この規模の襲撃で被害者1なら妥当だ。良くやったほうだと思う。逆に探せというほうがおかしいとおもう。

 自分がどれだけ馬鹿なことを言っているか、自覚してもノッツは睨んだ。


「わかった。じゃあ、どいて貰おう」

 

 そう言ってオーメルはスタスタ歩き出した。

 ノッツはその行為に青ざめるが、意外なことにオーメルの仕草にしたがって戮丸は歩き出した。


「これは我々の戦いだ!」

 グレゴリオが不満を発した。彼にすればそうだろう。彼は強者と戦いたいのだ。しかし、あの状況で仮にハッタリとしてもそれが言えるのは凄い。


「たぁすかった~。グレゴリオ安心して隊長オーメルめちゃくちゃ強いから・・・」

 その対極のマティが腰を抜かし尻餅をつく。微妙に会話が噛み合っていない。


「そんな事は判っている!100オーバーだからといって戦闘を奪っていい道理が無い!」


《―――今何つった?》


『あっちゃ~~~~~―――』

『まぁ、そう出てるな。しかし、ブン投げすぎではないか?』

『だってしょうがないでしょ?彼はほんとにむちゃくちゃ強いのよ。システムに従った強さだから計測できちゃうけど』

『だったら正確な数字を出すんだな』

『無意味よ。50上限のゲームでダブルスコア叩いているのよ。レベルの意味が摩滅してるわ』

『ふむ』

『って言うよりどっちが強いのよ?歴戦の戦士のカンってヤツでわかんないの?』

『――俺が言って結果が覆るのか?』

『え?』

『そりゃな、言えば言えるが完全に勝負は時の運だ。野暮なことは抜きにしよう』


『――同格二人ってことね』



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