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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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095 欲張りすぎた男の告白



 敵わないまでも横から手伝う分には目がある。


 そう思ってしまうものだ。

 それが罪だと言うのだとしても、それを償うのは自分じゃない。

 果敢に戦い続ける勇者ばかだ。


 その安心感から錯覚し、殺到する。

 その結果がどんな結果でもその手伝いの想像の範囲外の結果・・・という建前が・・・


 虐めの現場ではよく有る事だ。


『こんな事になるなんて思わなかった』


 だが、そんなことはここでは通用しない。

 当然オーガに弱いもの虐めの意識は無いが安全な戦い方にすがった。

 結果は同じ行為へと相成った。


 そして、ソレは戮丸には通用しなかった。

 いや判っていた。その対策方法。有無も言わさず封殺すればいい。

 戦闘闘争で害意に対処するのは当然のことだ。

 しかも、その害意を当然の権利として主張するのであれば、物理的に害的行為不能に陥れればいい。

 彼は昔から強者だった。


 弱さを武器に生きるのはいい。ただ、弱さを武器に戦う者を好きにはなれなかった。

 彼らが利口だと嘯けるのは、戮丸の保身に依存した結果。

 法や、情に守られた結果だ。

 そのぬるい攻撃を喰らうたびに自分が弱くなるのを感じた。


 対処は出来る。避けられないだけで・・・

 できる事をしない。不条理はいや、自分の肉体に対する不義理は切れ味を鈍らせる。

 そういう因果応報は必ず己を蝕む。


 悔しかった。悲しかった。見え透いた嘘を是としなければいけない事が。

 肉体や野生は奔りたがっている。

 その声を無視してきた自分がだ。


 だから、暗い、澱のように沈殿し堆積した。

 アギトが育ってしまった。


 ―――せめて気付け――


 オーガの死体は積み重なっていく。


 彼、戮丸が強いのは当然の事だ。

 だが、実は遮蔽物を利用した近接戦闘と言う物は難しいのだ。

 先ず、遮蔽物の形を正確に認識しなければならない。

 漠然とした認識では戮丸の迂回した攻撃は、すり抜けたように感じるだろう。

 次に半身を庇った戦い方はどの武術にも存在しない。


 実際は片足をかなり前に出した構えはあるが、その構えの特徴はスイッチ出切る事にある。

 実際引き足側に仕込んでいるのは、大砲で、大砲を撃つには引き足を前に出す。

 半身を庇った場合、引き足を全く前に出せない。


 完全に横を向いてしまうフェンシングのような構えもあるが、それでは遮蔽物の恩恵は受けられない。

 隠れながらでは駄目なのだ。


 隠れると攻撃を完全スイッチしなければならず、ソレ専門の修練を積んで無い限り児戯にももとる。

 そして、その事さえ認識していない。


 オーガの踏み込みの内側を踏みしめ、その足の膝でオーガの膝を外側からS時にロックする。

 ロック自体は数瞬のものだし、外すのは難しい物ではない。

 ただ、その数瞬だけはロックできた。


 事実ロックしているのは足首から膝まで、これは被験者の認識。


 実は下半身が完全にロックされているのだ。

 踏み足は完全に封じられている。そしてその加重は引き足方向に掛かっている。足は半重力で浮くものではないため引き足も動かない。

 いや動きはする。足の裏を巧みに使って尺取虫のように動かせば動く。

 だが、ソレさえも加重によって押さえ込まれている。


 両足は封じられた。ソレすなわち下半身をロックされたことを意味する。


 片足に絡められただけの意識と下半身を完全に封印された意識のギャップが全身をロックする。

 ソレはほんの一瞬。


 短剣を咥えたうでが心臓に到達するには十分な時間だ。




 戮丸は一枚の壁を延々と使い廻したりはしなかった。

 彼は巧みに壁を代え戦い続ける。

 正直に言えば必死で避けているようにしか見えない。

 攻撃の手段は殆どブラインドで勝手に死んでいくように見える。

 だが、其処の違和感に気付かれないように見せる攻撃も織り交ぜる。


 氷山の一角。まさにその言葉が適切だろう。

 あの戦いぶりの裏には、下手をすれば倍する凶悪でえげつない物が潜んでいる。


 ――えげつない。

 ――あざやかじゃ。


 ノッツとダイオプサイトの評価は正反対言葉を口にした。漏らした。


 言ってしまえば、戮丸の戦いぶりは反則技のオンパレードだ。

 格闘技の戦いでは眉根に皺がよるものでしかないが、それが武術といえるレベルまで昇華されている。

 即座にやれと言われて出来る代物ではない。


 ノッツは額に汗を滲ませながら、戮丸の戦いぶりを見つめる。


「攻略は出来るか?」

「待って――」


 大吟醸の問いに一同はギョッとするが、ノッツだけは苛立ちを浮かべながらも見つめながら答えた。


「正気か――」

「戮丸は近接は絡み技を多用する。ブラインドが多い。絡み技に持ち込まれたら、なんで死んだかも判らない内に殺される。ソレより接近戦――剣の間合いでは軽身功を多用する」

「軽身功!?――マンガじゃあるまいし」

「僕もそう思うが――そうとしか表現できない。見ててくれ――」


 丁度、オーガが戮丸の膝を薙いだ。

 戮丸は当然吹き飛ばされるのだが―――その様は異様で綺麗過ぎた。

 戮丸の体は風車のように綺麗に回転し―――ソレも半回転で終った。


 回転の勢いを利用した蹴りが頭部にヒットしたのだ。


「俺の知っている軽身功はあんなに物騒じゃない――」


 ムシュフシュの感想はもっともだ。フワフワと風に舞う薄絹のような動きを連想してしまうが――アレが戦闘用の軽身功だということも理解してしまう。

 軽身功でなくともカポエラか?


「ホント化け物だな――」

「だから、あそこに隙を見るんだ。戮丸はああ動きたがる。なら大吟醸なら対処――」


 ――ドガッ、ガキッ、ザシュッ!


 ・・・・・・・・・・・・・・・アレは硬身功か?


 戮丸は横薙ぎのアックスを右の裏拳で打ち落とし、反対から襲ってきたメイスを左の掌底で打ち上げる。当然戮丸は大剣を持っている。その大剣は攻撃のたびに空いている手に背中越しにトスされているのだ。最後の音はそのまま大剣を振りぬいたのだ。


「・・・おま・・・死ぬぞ?」


 ムシュフシュの指摘は正しかった。その事は大吟醸にもよくわかった。

 そんな甘い読みで突っ込んだら・・・


 冷めた視線がノッツに集まるが・・・ノッツはそれ所じゃないらしい。

 泣きそうな目で衝撃的な事実を告げた。


「――奴はあんな事してノーダメだ――」


 ・・・・・・・・・・・・・・・嘘・・・・


「ホントなんだってば!野郎のゲージは全く減って無いんだ。素手で斧を打ち落としおいてビクともしないだよ!ゲージが!」

「ブロッキングか?」

「・・・チート乙」

「どんな理屈だよ?完全防御なんて盾でも出来ないぞ」


 盾で受けても微細なダメージは通る物。その方が自然なのだ。

 防御に成功すれば、当然致命打は避けられるものの腕がしびれたりはしているのだ。

 剣道の防具や野球のプロテクターと同じ理屈だ。痛いものは痛い。


「大吟醸?アレじゃないのかの?」

「アレって・・・アレか!」

「――知っているなら話せよライ○ン」




『アレは【グラップラー】だな。称号の・・・』

『でもアレは【リフレクトダメージ無効】であって・・・』

『そう前提条件として攻守が逆転して無いと駄目なんだ』


 観察者たるガルドと女史も同じ事を論じていた。

 ガルドの弁ではこういう事だ。

 つまり、あの瞬間、戮丸は防御ではなく攻撃したのだ。

 襲い掛かる武器に対して判定は先ず振り抜きの鋭さ。そして命中箇所。


『だから、戮丸の技量で被害者と加害者を逆転させたのさ。便利な世界だ』

『便利って・・・』

『アレ実際やると目茶目茶痛いんだぞ』

『・・・経験者は語る・・・ね・・・』


 ・・・出鱈目振りではガルドも負けていない。

 確かに昔やっていた・・・いや、よくやっていた。


 痛かったんだ。

 やっぱり。


『まあ、技術で圧倒できて初めてって所だな』

『じゃあ、足らなかったら?』

『・・・お勧めはしないな。痛いだろ?』




「【グラップラー】持ちなんてそういるもんかよ」

 おずおずと手を上げる大吟醸とノッツ。

 大吟醸は最初戮丸とは距離を取った。酒場の話の流れで取得方法を知って、嬉々としてダンジョンに飛び込んだ。オックス達の様に手取り足取り学ぶ気にはならない。

 

 条件は地味に厳しかった。【無手による5KILL】技術面で早々に白旗挙げた大吟醸はゴブリン五匹を撲殺したのだ。

 野良犬5匹撲殺する労力を思い浮かべて欲しい。・・・押して知るべし。

 ・・・大吟醸は廃人になっていた。


 その姿を見て戮丸は大吟醸のケアに当たった。この出来事が距離を縮める結果になったし、ノッツはノッツで【グラップラー】はいいやと思っていたのだが、【ぽいっちょ】の練習過程であっさり取得。当然大吟醸は黙っていない。

 そこで食って掛る大吟醸を制しているうちに、武術の修練の方向に話が進み現在に至る。

 ・・・苦い思い出だ。


「って事は同じ事出来るのか?」


 二人は猛然と首を振る。理論は兎も角その度胸が無い。


「静動合一って禁忌じゃなかったのか?マンガの話だが」

「戮丸が言うには階梯が上がるほどその辺は曖昧になるって話だ」

「雑魚のお前に聞いてない」

「お言葉ですが件の【トロール殺し】の名手が大吟醸ですよ」


 ムシュフシュの暴言にマティが食って掛った。強いのがどちらかと訊かれたら当然ムシュフシュになるが、大吟醸が勝っても不思議には思わない。【トロール殺し】のような形になっていないが、光るものはその動きに山ほどある。


 少なくとも大吟醸はめちゃくちゃ強くなる。その確信はあった。

 遠く無い未来。その名の通り【八艘飛び】の異名を取るだろう。

 それでさえ一番芸の無い未来予想図だ。


 その時俺は・・・

 雑魚と呼んだムシュフシュを是とした瞬間追いつけなくなりそうで食って掛った。


 ムシュフシュは大吟醸と呼ばれた男の顔を見つめた。

 戮丸の戦いぶりを冷や汗を浮かべながら見つめる。

 マティの戦いぶりで判った。一瞬では有ったがあっさりとソレまでの常識を吹き飛ばした。


 今までの努力が間違っていたのか?そう頭に過ぎった。

 それほどの戦いぶりだ。旅団の情報という逃げ場はあったが、現物と対峙すると心は揺らぐ。


「ムシュッ!早く!」


 戦線を支えるメンバーが叫んだ。戮丸はオーガたちを圧倒しているが、その圧力は前線に圧し掛かる。枯山水メンバーは盾を前面に押し立ててオーガたちを押し返しているが単純な筋力の差で押し込まれている。大体、オーガと人間の力比べで人間が勝つ訳が無いのだ。上手くコントロールしてやら無いと・・・


「よし!全員散会して・・・」

「まってくれ・・・」


 大吟醸は振り向きもせずに呟いた。


「なあ、アンタ事故現場って遭遇したことあるか?」

「何言ってるんだ?こんな時に!」

「いいから!あるかって聞いてるんだよ!」

「あるよ。子犬が引かれた瞬間を見たことが・・・」

「子犬か・・・じゃあ、違うな。俺もある。ばあさんが血まみれで倒れてたのを車の中から見た」


 ―――こいつは何を言っているんだ?


 ムシュフシュは眉根を寄せて渋面を作った。

 それを見て大吟醸は困ったような笑顔で言った。


「あんたはいい人だな。俺らよりよっぽどマシな神経をしている」


 ?


「俺らは大声出して笑ったんだ。『スッゲー血が出てたった』興奮して無邪気に・・・」


 事故現場を通り過ぎた後だった。そこまで不謹慎になれなかった。人は集まっていたし、仕事の途中だったこともある。止まって救急車を呼ぼうなんて模範的な行動を取る奴なんて居なかった。

 人が居なかったらまだ車を止めて救助したかもしれないが・・・

 俺のしたことは次の日休憩所でタバコをふかしながら自慢げに仲間に話すくらいだ。

 ようは暇つぶしのネタだな。


 ・・・・


 その言葉にムシュフシュは言葉はなかった。

 胸糞のいい話ではないが咎めるような話でもない。

 『違うな・・・』の意味も漠然と判った。


 同じ状況なら同じ反応をしたかもしれない。


「たぶんさ。最近ニュースでやってる通学中の子供に車が突っ込んだって場合でも同じだろう。俺は・・・」


 この男は何が話したいのか?自分を卑下したいのか?

 現状と無関係ではない事が判るだけに口が挟めない。続きを待った。


「今なら判るんだ。笑ったけど楽しかった訳じゃない。楽しい訳が無い。ばあさんが死ぬか生きるかなんて俺には無関係だ。ただ、自分ではどうにも出来ない巨大な事態に遭遇して、その被害者が自分じゃないことに笑ったんだ。・・・笑うことしか出来なかったんだ」


 まわりもそうだった。だから楽しいアクシデントで片付けた。

 周りも笑っていたから楽しかった。


「・・・下衆の昔話を聞いている時間は無いんだ」

「ああ、下衆だよ!半裸の女の子が死に掛けててもおこぼれに預かれるかもって身動き取れないほどの下衆だよ!でも魔法が使えたらどうだ?」


 やはり、トラウマになっていた。

 ノッツには判ったが、ムシュフシュには判らない。


 ただ、死ぬまで誰にも言いたく無い類の告白だと言うことはわかった。


「おれは空気を読まずに乱入して、怒鳴りつける奴らを無視して復活させて治療して高笑いスンだろう!治療が出来たことを笑うんじゃない。俺スゲーって笑うんだ。不謹慎だッて怒鳴る奴に『怪我人なんて居ませんよ』って勝ち誇るんだ!後の事なんて知ったこっちゃ無い!俺はそんな人間だ。ご立派に出来てねぇんだ!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・


「そんなゲームがあったらどうよ?」

「・・・死ねばいいと思うが」

「ははっあんたはいい奴だ。俺はやりたいね。俺だって、それだけのゲームなんて反吐が出るが正直に言う!俺はやりたい!」


「・・・地獄に落ちろ・・・」

「っは!そうだな。地獄に落ちるべきだ。地獄に落ちて『何でこんなことしちまったのか』って頭を抱えるのが素晴らしく俺らしい。それでも、まだ俺は地獄に居ない。まだ落ちてない。どんな後悔が待ってるか知らない。だから言える。軽口が叩ける」


 ――スゥッ

「俺は俺がスゲーって騙す為だけにぶっ生き帰すんだ!」



言い訳乙


また当分間が開きます。スイマセン。

2/28改定

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