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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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093 偉物進入



『――進入した』


 種を明かしてしまえばどうという事は無い。

 ガルドは全てのプレイヤーと繋がっている。戮丸の思考までは解析できないが、彼が感じている情報は知ることが出来る。


『精神干渉!』


 女史は一つの可能性を危惧する悲鳴を上げた。


 だがそんなことにはならない。人間の脳・・・精神はソフトウェアに見えてハードウェアだ。たとえ一割変更を加えても残りの9割の自己診断で補正が入る。治るのだ。


 例え川の水を操り流れを変えても、それは一時的なもので時とともに元に戻る。

 地形を書き換えないと駄目なのだ。水は意思や魔力によってその形を形作っているわけではない。単純に流れると言うルーチンワークを行っているに過ぎない。それが川に見えるのであれば、そうなる為の雌型が世界に・・・いや、その世界こそが雌型なのだ。


 閲覧ぐらいではビクともしない。


 故にガルドは女史の叫びを無視した。


 この情報も伝えるべきか・・・?


 ガルドも自分を超越する達人の脳に触れたのは初めてだ。

 単純に警報が・・・嫌な予感、ヤバイ感じがビリビリと頭の芯を焼く。


 別に戮丸が危険な人物と言う事ではない。

 戮丸自身が危険な状態だと言う事だ。彼が感じる肉体の異常はガルドにも自分の肉体の異常として感じられた。


 彼の視界は極めて狭い。


 小さな穴越しに世界を見ているような感じだ。

 度重なる疲労からくる視野狭窄。アバターのダメージはそれほどでもないが、精神の疲労はパラメーターでは誤魔化せない。何も見えていないに等しい。

 それでも視野を除く五感がフル稼働して大体の状況は把握できる。


 だから彼は走らない。ゆっくりと歩を進める。





 その姿は大吟醸には違って映る。

 ゆっくりと歩く戮丸の腕と足には甲冑。その手には大振りの剣が収まっている。

 戮丸は皮鎧に小剣というのが彼らの知るスタイルだ。

 その姿に恐怖した。


 単純に強い人間が武装した・・・それだけならこれほど怯えない。

 彼は木刀の打ち込みに腕を巻きつけてへし折った事がある。

 剣ではそうは行かない。仮にも刃が付いている。やれたとしても数度が限度。しかも限界に達した時点で手は使い物にならなくなっている。

 当然の事だ。


 其処に付け入る隙があった。それは全ての攻撃を避けて全ての攻撃を当てれば勝つという暴論にちかいが、彼らにはそれが現実的に彼に勝てる唯一の方法だった。

 腕に防具を付けていると言う事は、その一縷の望みすら消え失せていると言う事。


「・・・死亡確定じゃな」

「・・・パワーアップに完全成功した戮丸先輩UC・・・」

「止めろ!処刑BGMがなるだろ!」


 ・・・脳内再生乙。


「ふざけている場合か!」


 穏やかな顔しか見せたことの無い銀が一喝する。


「どうなっているんだ!」

「無事でよかった!」


 ムシュフシュとマティ達の到着だった。



 ◆ その頃シャロンは・・・



「シャロンさんお願いします」


 そう言って旅団の若い男は頭を下げた。


 旅団はディクセンを制圧し虜囚となった人々の解放に動いていた。

 ただ、誤算があった。

 戦力は十分、兵站も確保していた。だが、治療と言う面では落ち度があったと言わざる終えない。

 動員数と言う面では十二分だった。だが、性的暴行を受けた人間の治療と言う条件付けが入るとその人員は途端に役立たずになった。


 恐慌状態。つい先だってのシャロンの状態がそうだ。


 女性プレイヤーが極端に少ないアタンドットならではの不具合だった。症状は様々だが共通して言えるのが異性では話にならない。そこでシャロンにお鉢が回ってきたと言う事だ。

 NPCには高レベルのものは少なく。NPCでも女性は当然少ない。

 旅団もそういった人間の保護は通常業務として行っている。

 その方式は乱暴で閉じ込めて、訪れる飢餓状態に交渉と言う手段で行う。


 ただ、今回は緊急を要する人間も多数居るし、数が洒落になって無い。業を煮やしたプレイヤーの中には女性キャラクターを作成するものも・・・例外なく人間不信で終ったが・・・


 其処にシャロンの存在は眩しかった。


 時に善意ほど残酷なものは無い。


 シャロンは小さな勇気を胸に首を縦に頷いた。


 戮丸にしてもらった事を今度は自分がする番・・・そんなちっぽけな善意は・・・


 ・・・一瞬で消し飛んだ。


 背後で音を立てて扉が閉まった。


 ガチャガチャっ


 シャロンは慌てて脱出を試みる。

 『出して』と叫ぶシャロンに答える声は『お願いします』という涙声。砂を噛むような思いで吐き出したその声は、シャロンの耳には酷く遠い。


 だって彼女らは女性と言うにはあんまりな物体だったのだから・・・



 ◆ そしてオーメル



「・・・それはバーサークじゃないか?」


 オーメルは銀からのギルドチャットに私見を吐露した。


『それは・・・最悪だ。とてもそうは見えない。ゆっくり動いているんだ』

「あいつが達人だからだろう。バーサークは凶暴化じゃないのかもしれない。戦闘に全ての思考が支配された状態だ。全てのリミッターが外れた状態だ。容赦と言うものを全て捨てたゲーマーがガチャプレイをするか?と言う事だ」


 妙な説得力があった。


『じゃあどうする?』とムシュフシュ

「どうもしない。バーサーカーの扱いには慣れているだろう。敵は全部戮丸に喰わせろ。IFFは辛うじて生きているはずだ。IFFが刷新するような行動は絶対にするな」


 IFFとは軍事用語で敵味方識別コードを意味する。


『アレと共同戦線か・・・肝が冷えるな・・・丸投げでもいいか?』

『―――待て!』


 言葉がそこで途切れた。概ねの予想が立つオーメルは暫し待つ。


『――一気に・・・何体だ?・・・よくわからんがいきなり走り出して更地・・にしやがった・・・』


 ―――予想通りだ。


 奴のパターンだ。


 しかし――

 ならば――


「信じられないかもしれないが、奴はアイドリング状態だ。奴は奴なりに必死でIFFを保持している。だから紛らわしい行動は絶対に取るな。アクセルを踏み込んだアイツは――ヤバイ」

「旅団に通達。聞いていたな!戦闘班は現場に突入。戦線を押し上げろ!この命令は今までの全ての命令を刷新して行え!戮丸はダストシュートだ。ゴミを叩き込め!」


『―――長くは持たんぞ』


 ―――どっちの意味でだ?


『オーガ如きじゃ止められん。よしんば止められたら――』


 ―――戮丸の死を意味する。


「―――好都合だ」

『いい加減にしろ!―――』


 チャット越しに銀の歯噛みするようなうめきが伝わる。


『お前が付き合いが長いのは良くわかった。だが実際よ。どうする?敵が切れたらアレは俺達に牙をむくぞ。時間切れまで粘るのか?』

「それは私が対処する。戦うのは敵同士がいい。そうだろ?それに特効薬に心当たりがある」

『―――わかった。任せる。早く来い!野放しの猛獣相手にこっちの指揮系統が崩壊するのも時間の問題だ!』

「ああ、準備が済み次第そちらに向かう。回線はオープンのままだ頼むぞ」



 ◆ 現場の意見



「―――特効薬と言うのは?」

「シャロンだ。女性の僧侶だ。美人かと訊かれれば人の好みによるだろうが・・・戮丸は彼女を最優先で守っている」


 だから、性質たちの悪い状態に陥っているのだが・・・


「それなら確かに特効薬だ」


「―――何の話だ?」


 状況が理解できない大吟醸。

 単純にバーサークは美人の説得で静まる。それが解除方法として一番可能性が高い。


「―――たかがバーサークでしょう?」

「ロードスのオ○ソン」


 ノッツの問いにムシュフシュが一言で答えたが、彼らは理解できなかった。


「―――このゲームが二つのTRPGをもじったタイトルと言うのは知っているね」


 銀が説明を始めた。

 この二つのタイトルは源流と言って過言ではない。片方はコンピュータRPGへと継承された。おなじみのシステムで、もう一方はおもにシミュレーションゲームへと継承された。

 同年代にゲームは他にもあったが両極端なこの二つが源流と言って過言ではない。

 片方はお馴染みなので割愛する。もう一方の戦闘ターンの実時間は2分なんだ。


「―――2分!?」

「なげぇっ!」



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