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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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092 疲れた思考は戦いを考える

大変遅れました。

今後も遅れます。



 義憤というものは醒めやすいものだ。

 誰もが簡単に憤り、それゆえに醒めやすい。

 義は偽と言える。


 憤るものは被害者では有り得ないのだ。

 それで醒めないのは人間的に問題がある。


 単純な商業原理・・・誰が損をするか?と言う観点では圧倒的に第三者に過ぎない。


 損益を出していないのに中傷、糾弾を放つ。この場合は与えると言ったほうが正しいか?


 正直に言えば大吟醸にとって、住民がどんな悲劇的な最後を迎えようと知ったことではない。

 しかもゲーム・・・つまりは遊びだ。


 戮丸に毒されたのか?憧れたのか?

 気が大きくなっていたのかもしれない。


 今となってはわからない。


 ただ、人が死ぬのは嫌だ。


 だから、ゲームの中で人が助かるなら、それの方がよいというだけで・・・大した物ではないのだ・・・


 ましてや、こちらが死に物狂いな目にあうとは・・・


『―――何でこんなにもつらい目にあっているのだろう?』


 一度思ってしまった。

 その是非はわかっていても、もう止められない。

 何処で間違ったのか?

 腕は上がらない。

 剣を持ち上げるモーションで突っつくのが精一杯だ。

 ダラリと垂れた腕から突きを射出する酷い有様だ。


 傍目にはそれなりに見えるかもしれないが現状は撫でているだけ、戦っているポーズを取っているだけだ。


 それではオーガは死んでくれない。

 それえはダメだ。と何度も自分の身体に刷り込んできたのに。


 疲労は精神を磨耗させる。

 何もかもが、どうでも良くなる。

 

 ・・・もう終わりにしてくれ・・・




 ―――逃げろ!


 誰かの声が響いた。

 その言葉に大吟醸たちは身構える。逃げろと言われても何処に逃げればいいのか?

 逃げ場など当然無い。

 それは斬撃の踏み込みを止めた程度の事だったが、それが功を奏した。


 ポッと小さな音がした・・・気がした。

 地面と水平に線が走る。

 世界は立体物だ。水平と言っても・・・いや・・・彼らが見ている視界に真っ直ぐな線が引かれた。


 その線は断絶の隙間だった。


 思い出したかのようにその線は炎を吹き上げる。

 

 炎はやんわりと過ぎ去った。

 ・・・断絶線より上は綺麗になくなっていた。



 ◆ 壊れた玩具と壊れた理由



『何が起こったの?』


 観測者の女史は疑問を口にせずにはいられなかった。もう一人の観測者は状況を正確に把握していたので語った。


『戮丸が剣で斬っただけ』

『でも、相性が最悪で役に立たないはずじゃ・・・』

『役には立つさ』


 相性とはアトラスパームと魔剣の相性の事だ。

 アトラスパームの重量無効は魔剣の性能を生かしきれない。両手剣はその重量こそ最大の特徴だ。その重量を打ち消してしまうアトラスパーム。もちろん重量無効は斬った対象にまで影響を及ぼすから通常なら振れば当たって敵は吹っ飛ぶ。

 その用途なら使いようもあるが、そうなれば箒でもなんでもいい。物干し竿だって良いのだ。


『・・・なんで斬れるの?』

『いや、斬れるさ。ただ、宙に浮かんだ散紙を両断できる腕が必要なだけで』

『あの炎は?』

『アイツの剣は炎は噴かないんだが・・・。その熱量は握りの圧力に左右される。瞬間的に強烈な圧搾を受けた空気が更に加熱され延焼しただけだ』

『・・・しただけって・・・』

 剣線に限界まで圧縮された空気に加熱。つまりプラズマを纏いながら過ぎ去った剣戟。


 ここで自然界では絶対に起こらない事が起こっている。いかに高熱源体が通過しようとこうはならない。熱量の移動にはそれなりに時間がかかる。

 戮丸の剣の能力は【加熱】。高熱源体ではなく、高熱を与える因果。

 空気を切り裂くそれだけでも切断部の空気は圧によって温度上昇が見込まれる。その一瞬に自然法則を無視して大量の熱量が無理やり上書きされる。

 ・・・語弊でもなんでもないプラズマその物が発生する。


 ガルドの関心事はそんな事より他に移っていた。

 単純に戮丸の技量。

 そこそこ出来る程度は・・・いや・・・将軍も剣技を隠していた。


 予測はしていた。

 戮丸がどんな腕前かは実際関係ないが、ガルドも剣の世界に生きた人間である以上関心事は其処に移る。

 そしてその技量はその武術に匹敵するレベルなのだが・・・


 ・・・匂いが違う・・・


 我流はもちろんそうなのだが、道場剣術、実践剣術そのどれとも違う生い立ちを匂わせる。


『戮丸の技量だぞ?限界に放り込めば大抵のことは出来る。ただ、性能を生かすためには限界の技量を要求されるから嫌がっていたんだ。疲れるだろ?』


 空中の紙をスライスするような作業だ。ガルドでもげっそりしてしまう。


 映像の中の戮丸は悠然と歩く。


 チリチリと焦がす炎の音が聞こえるが間接接触部にはたいした熱量を与えていない。

 その剣自体は魔力の影響で変化は生じない。最高表面温度は溶岩に匹敵するが、熱を抱えない性質なので今は大人しいものだ。


 ――下半身が倒れた。




 我に返ったオーガの一匹が戮丸に襲い掛かるが、突然その頭が弾け飛んだ。

 その後も小爆発は断続的に続く。

 次から次へとオーガの頭が爆ぜる。

 当然その結果は絶命で・・・


 戮丸はゆっくりと歩いていた。



「逃げるぞ!・・・奴は正気じゃない!」


 それは銀の声だった。

 その声に大吟醸は真っ青になる。


 正気じゃないって?その原因に心当たりがある。と言うか俺達だ。

 だから、死んでいる事を期待したし、死に物狂いで取り返そうともしていた。

 取り返しの付く状態なら・・・まだ話し合える。


「しかし!」

「時間が無い!殺されるぞ!」


 反論は一つの現実に潰された。


 ・・・銀の片腕が無かった。


「奴に持っていかれた。―――可笑しいだろ?ぜんぜん痛く無いんだ・・・今の奴に理屈は通じない!逃げろ」


 切れ味が良すぎたのか?

 恐怖心で痛みが飛んだのか?


「・・・今逃げたら殺されますよ!」


 ノッツだ。これは心情的な意味の言葉ではない。今の戮丸は猛獣のそれと同じだ。一目散に背を向けたら、その瞬間に殺される。


 そう本能が警鐘を鳴らしている。


 戮丸の体からは青黒いオーラが吹き上げている。

 たとえば、海の深いところに沈んでいる戮丸の画像のみ、大雑把に切り取ってあるかのように見える。その表情は暗く読み取れない。


 ダラリと垂らした腕。剣を持っていない方の手が何かを弾く動作繰り返している。




『指弾だな・・・』

『指弾?』


 ガルドの呟きに女史が訊く。

 指弾と言うのは小さな礫を親指で弾いて当てる技で、それが中国武術に昇華されたものだ。達人となれば皮膚に食い込む威力だ。違法改造のエアガン並みの威力になる。


『アトラスパームの有効利用だな。重量無視のおかげで拳銃くらいの威力はあるな・・・あれは銅貨だ・・・な』


 ガルドは目を凝らしてその正体を突き止めた。女史にはその弾道すら見えない。


『あの手に何枚握られているか・・・いや・・・意味が無いな。奴は短剣を持ってる・・・』


 弾切れのタイミングを狙っても、瞬間短剣の投擲に移る。その重量だけでも指弾の威力を上回ることは想像に難くない。


 オーガたちも混乱は収まらない。

 襲うべきか、

 逃げるべきか、

 威圧感は全く無い。

 ただ、カウントダウンを読むように一人また一人と死んでいく。

 無感動に死んでいく。

 オーガ達は指弾の因果関係すら掴めて無いだろうが、取りあえず寄り添った。

 不安もあっただろうが・・・


 戮丸が動いた。


 初動が読めなかった、まるで重力が真横に移動して相手に向かって落ちていくようにスルリと―――

 そして、オーガ達は切断され炎に包まれた。


『炎の剣と言うより火葬機能付きって感じだな』とガルド。


 女史は喋らない。人間はいきなりな事態に遭遇すると言葉が見つからないものだ。

 計器類は有り得ない数字を列挙していく。

 ―――呆然と眺める。


 サッカー選手でクイックネスに定評のある人間が、走り出しは倒れる力を利用した方が速いと言っていたのを思い出す。

 サッカー選手の技量を未熟と見るわけではないが、その結果が生死に直結する世界で生きてきた戮丸の技量は・・・他の追随を許さない。




 大吟醸と女史は息を吞む。

 二人の取った行動は同じものだったが、見ているものは違った。


 戮丸を中心に無数の障壁が浮かび上がる。それは戮丸の脳内にしか存在しなかったものなのだが・・・

 その画像は一定時間で次のオーバーレイに切り替わる。

 今度は無数の弧が戦場の随所を貫いている。その線は各々の首や肩、肘や膝を切り裂いている。

 それは、映像だけで・・・

 今度は戮丸の無数の影が戦場を走る。


 しかし、現実の戮丸はゆっくりと歩いているだけだった。


『――次はどう動く?なんて訊くなよ』


 映像で見えている女史と、見えないが経験で正確に把握している大吟醸。その差をガルドは口で説明するのは無理だと面倒くさそうに言った。


 つまり、この映像は戮丸の行動予測映像を現実の映像に重ねたのだ。ただ、それでも情報量が多すぎて表示しきれないから画面をパンさせているのだ。


『それでも・・・』

『だから、全部可能性があるんだ。単純に武術のスキルでは戮丸の方が上なんだ判るだろ?将軍の時と一緒だ』

『じゃあこの画像はどうやって・・・?』


 ガルドは首筋を突いて言った。



『――進入した』



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