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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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091 煽るディグニス

明けましておめでとう御座います。

本年もよろしく。


新年早々何書いているんだ私は・・・



 優勢な場所があれば劣勢な場所がある。

 それは当然なことだし、そもそもマティたちの場所は戦場のごく一部でしかない。殆どの場所は抵抗勢力すらなく文字道理無人の野を行くが如しだった。


 抵抗勢力があり、尚且なおかつ劣勢といえば大吟醸たちのポジションだろう。彼らのレベルは15前後。ムシュフシュの半分に満たないマティの更に半分にも満たないのだ。


 現に彼ら前に三体のオーガが現れた時点で逃げて当然。

 生き残ったら『良く闘った』というのが普通の判断である。

 五体のオーガに勝ったらそれだけで【奇跡】と評価されるだろう。


 時間を区切れば数倍に匹敵する戦力を持つが、それは情報収集をして、対策し、短時間のみという但し書きが付く。

 準備時間は無い。少ないではなく―――無いのだ。

 当然対策も出来ない。

 更に終わりは見えない。

 戦力を数倍にするという戦術トリックは使えないのだ。


 彼らが生き残っているのは修練の賜物・・・と言いたい所だが、実はそうではない。戮丸の大量虐殺による確保されたスペースと、彼が生死不明という現状に、ムシュフシュたちの圧力が敵を散らせた。その散らせた戦場で何とか引っかかる程度の実力があった。


 それが本当のところである。


 その恩恵に浴しているのは大吟醸達だけではない。ディグニスやロランといった面々もそのおこぼれに預かっている。彼らには更に地形と大吟醸という壁役たちが居るのだ。


 オーガたちも彼らを危険とは思っていない。

 はっきり言って敵として認識できるのは大吟醸までで、巨大な災厄は去った。

 次の災厄が訪れようとしている。


 ウェーブとウェーブ間の休息・・・準備の時間だ。

 そこに大吟醸という無視のできない脅威がある。


 大吟醸を攻撃しているのは『判っていない連中』か『深く理解している連中だけだ』

 わかっていない連中は単純に敵が居るから攻撃している。

 深く理解している連中は速やかな排除が必要不可欠と判断して行動をしている。


 残念なことにこの二つの派閥は全体から見れば小数派だった。


 指揮官が居ればそんな事にはならなかったのだろう。


 大吟醸たちは苦しそうだし・・・時間の問題に見える。屋根の上のは鼠だ。雄叫び一つで逃げ出すそれに裂いている余力は無いのだ。


 何よりも当面の最大の脅威の終わりが告げられていない。じきに仲間の一人が奴の首を掲げる。それまでは緊張を解く訳にはいかない・・・それにしても時間がかかりすぎている。

 攻撃に加わるスペースは無い。じれながら時を待つ。

 それにしても鼠が煩い。キーキーと甲高い声が癪に障る。


 鼠と思ったが猿か?やつらは自分の安全が確保できているとなると途端に態度が肥大化する。

 我らオーガはそんな奴らに斟酌しんしゃくしない。


 ・・・それにしてもやかましい。



 ◆ ラットモンキー



「あはっ、苦戦中ですねwwwwアンタバカ?」


 大吟醸はオーガの一匹を絶命せしめた。脇腹からだ。成功率は非常に低いが敵が多すぎる。狙っていかないと埒が明かないし、飛べるだけの体力も時間ももう無い。

 苦し紛れの一閃でも最上を狙わなければいけない状況は、色々な意味で体力を削っている。


「すっげwwwオーガが一撃かとナニソレ凄い。どんなチート?チートだよね決定www幾ら使ったのご苦労様www、悪・認・定!!!」


「・・・戮丸の気持ちがわかる・・・」


 そうノッツがぼやいた。オーガの膝を砕き蹴飛ばして一呼吸を得る。

 その一呼吸をぼやきに使ってしまった。


 その間も殴られてはいるが逐一仰け反ったりはしてやらない。それだけの身体能力は付いていたし、無視できることに気付いた。

 無視してもダメージ軽減にはならない。むしろダメージは上がるが、行動に隙間が出来るのを嫌った。


(・・・殴られて悲鳴を上げるのは贅沢な事だったんだ・・・)

 それを差し引いてもノッツの労働量は群を抜いている。この環境でヒールワークもこなしているし、現状打破の作戦立案もノッツに期待を寄せている部分も多いだろう。


「そこの僧侶も凄いね。戦士でもそこまで闘える人はいないよ。でもここでミサイルぶち込んだら?」


 ノッツは瞬時に盾を構える。


「キャハッ!魔法に物理防御は関係ありませぇん。ビビッた?そうでしょ?今ビビッたよね?はずかしwww。ちょーはずかし。そんなビビリー君も、うちなら使ってあげるよ。俺やさし。・・・何、君、賢者なの?うっわDQNネームキター超笑う。君のあだ名はタイム君だ。賢者タイム爆・誕wwwww!」


 当然ノッツは自分の名前に賢者などと入れるような性格ではない。

 れっきとした称号である。よく見ればその文字色が違うし、それをユーザー側で加工できる類の者ではない。

 ただディグニスはこれが何らかのズルによって行われた行為と勝手に判断し、それを嗤ったのである。


 冷静になれば嗤ったほうが恥ずかしいのだが、反論する余裕もゆとりも無い。あったとしてもそれは死体回収に向けるものである。

 それにその情報が正しいかどうかなどは気にしていない。

 ・・・嗤えればいい。

 ディグニスはその手の類の男だ。


 で、肝心な死体回収は・・・ほぼ不可能。もう既にどれがどの部分だかもわからない。

 何体かは人の形を残しているが・・・


 落ち着いて収集しても全員分が回収できるかどうか怪しい状況だ。

 今ならまだ間に合う。現実には死んだら終わりだが、自分達は今の状況から救うことが出来る。


 それは素晴らしいことだ。


 目の前で人が死ぬのは嫌なものだ。赤の他人でも、いや、だからこそ遣り切れない感情が込み上げる。

 物事の善悪は置いておいてその嫌な感覚を味わいたくない。

 正味ノッツはそんな行動原理で動いている。


 現状の打破を考えなくてはならない。

 足元に半分になった頭が転がっている。

 しゃがんで拾い上げたい。

 その暇が無い。

 伸ばした手が空を切る。

 もう少し腰を落とさなければならない。

 そのもう少しが致命的で出来ないのだ。


 そもそも、たった一人に執着している事が重要か?

 拾い上げれば腕は塞がるし、何処かに収まる様なものでもない。

 盾側の手で抱えれば持てるが・・・自分の頭部が守れない上、能動的な防御行動はできなくなる。


 もっと根本的な解決策・・・


 圧倒的にが足らない。ここで何とか一人【蘇生】させて回収業務を委託・・・

 ・・・しかし・・・


 懸念はあった。ノッツのストックに蘇生は一個しかない。それ自体はどうでもいい。やりようは幾らでもある。ただ、【蘇生】をかけて失われた肉体が復活するか?

 肉体はほぼ欠損状態だ。その呪文の出自を考えれば、全身復活する筈なのだが・・・


 その下のレベル呪文に【四肢再生】が有るのがにくい。

 あいにくノッツはそちらの持ち合わせが無かった。


 更に言えば、よしんば復活したとして現状でパニックならないか?

 死んだ経験なら豊富にあるが、先ず間違いなく無理だ。


 更に更に、蘇生した人間が奇跡的に自分達の意思を汲んでくれたとして現状で回収行動が出来るか?それをあの魔法使いが見逃すか?

 こちらは5レベル魔法の【蘇生】であちらは1レベル魔法の【マジックミサイル】。


 ―――割に合わない。


 思考は焦点を得ずグルグルと同じところを堂々巡りしている。

 こんな状態も思考停止というのだろう。

 頭はフル回転しているのに建設的な案は出ない。気休めの一手すらうてる余裕が無い。

 『そんな時は深呼吸して~~(なになに)

 そんな言葉が蘇る。要は落ち着けという事なんだが・・・


 それが出来れば苦労は無い!!


 ―――グシャリ


 ノッツは踏んではいけない何かを踏み潰した。呆然とする暇も許されえては居ない。屋根の上では歓声と嬌声が入り混じった高音が響き渡る。


 まるでクリスマスプレゼントを貰った幼子のようにはしゃぐディグニス。


 混沌とした戦いは続く・・・

 物語ならばこの瞬間にヒーローが現れ形勢逆転するのだろう・・・



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