089 反撃の狼煙
メリークリスマス。
資料もあげています。爵位の序列がわからない方の参考になれば・・・
「聞いての通りだ・・・」
マティはそう言って大きく溜息を吐いた。
こちらの要求は大吟醸たちにとって致命的な自体を導いてしまった。警察官と言う仕事柄今回の一件は重く見ている。
それでも以前はかなり違う・・・重さが違うのだ。
胃の所にしこりを感じながら説得を続けなければならない。
「ふむ。これだからオーメルなんぞにしたがって・・・って言ってる場合でも無いな。ドナの北の集落か・・・」
猟友会【枯山水】のリーダーであるムシュフシュはそう言って髭をなぞる。50レベルの戦士で、増筋はポーションでやったのであろう。グレゴリオのような体躯を持つ。他のゲームでは気にしなかったが、ここまで大きいと装備は全て特注装備となるのが痛い。
そんな条件で戦ってきた歴戦の勇士だ。それらを全てカバーする装備の収集を思えば、その自信の程がうかがえた。
ムシュフシュにはその記憶があった。オーガの群れにも心当たりがある。あの辺のオーガに捕まると性質が悪い。あっという間に群れを作って襲ってくる。集落に逃げ込んだこともしばしばで、言ってしまえばムシュフシュの下手で住人を死なせたこともある。
ただ、猟友会のメンバーはその集落の有難みも知っていたし、住人も襲撃を受けることは珍しくも無かった。
だから防衛に力を裂いた。その結果、集落は存続している。ムシュフシュの対処が良かったからと概ね住民には良く受け止められた。
ただ例外はある。遺族とムシュフシュ本人だ。遺族が悲嘆にくれるのは当然の権利だ。住民はその悲嘆には同調しなかった。
ソレが荒野での生活と言うものだ。
全てわかっている。納得もしている。それでも胸に残る痛みは消えるものではない。
「出るぞ」
その号令一個で【枯山水】は団結した。
思いは同じであった。
むしろ面食らったのはマティのほうだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、向こうとの連携もあるもうちょっと情報を・・・」
「その辺が旅団だな。てめぇらは石橋がぶっ壊れるまで叩いていればいいさ。うちはあの集落には借りがある。旅団とは関係なしにいくぞ」
「しかし、戮丸とぶつかったら!」
「――ねじ伏せるさ。そいつも所詮はPCだ。死んだところでどうということは無い。時間が惜しい」
「しかし!」
「くどい!命が惜しい奴はここに残れ!いや、荒野の集落に命掛けられない奴は猟友会には要らん!去れ!」
集落に逃げ込む事になったら総力戦は猟友会の常識だった。当然そうならないように普段から心がけるがそれでも例外はある。
ソレでなくとも野戦陣地を引き、総力戦で被害を最小限に食い止める。それで勝ってしまった時、歩く事もままならない状態で、やっとの思いでたどり着く集落の何とありがたいことか。
問答無用とはこの事だろう。
【枯山水】のメンバーは一様に決戦兵装に身を固めゲートへと向かっていった。
マティの言葉を聞くもはいない。このままただ行かせるのは――
耳元にマティにしか聞こえない声が響いた。
「・・・死にたくないのぅ」
チィッ!と舌打ちしてゲートへと飛び込んだ。
◆ 名も無き村酒場
「――ここは?」
ゲートから現れたのは銀だった。
別に予想外の場所に出たと言うわけではない。
固定されたクロスボウがこちらに向いていた。これは戮丸が用意した罠で、辺りには横にしたテーブルで作られたバリケードで囲まれている。
設置には銀も協力したが、そのわなが自分に向かって設置されているのは奇妙なものである。
「誰だい!?」
「私です。銀ですよ戮丸の仲間の!」
予定ではバリケードでゲートに押し込みつつクロスボウの雨が降り注ぐ事になっている。確かに、これをやられたら以下に銀と言えど唯ではすまない。慌てて身の証を立てることになるのも当然か。
「所で戮丸は・・・来てますね。今何処へ?」
「うちの人を助けに行ってくれてるのよ。アンタは?」
「やっぱり、悪い予想が当たってましたか・・・援軍です。追ってケイネシア【赤の旅団】の精鋭も到着します」
「助かるんだね!ありがとう!本当にありがとう!・・・今戮丸さんが一人で・・・オーガが本当に凄い数なんだよ」
――最悪の状態である。
戮丸自体はどの戦場でも生き残るだろう。ただ、防衛となると話が違ってくる。更に救出となれば・・・
「ここはいいからあんたも手伝いに行っておくれ。お願いだよ」
「えっ・・・ええ」
いかにレベルが高いとは言え数が数だ。素直に「はい」とは銀も出てこなかった。それでも索敵などやれる事は多い。この宿の防衛と言う考えも・・・
「何がどうなってるんだ!」
「ムシューッ!いい所に来てくれたよ!」
老婦人とは知己なのだろうゲートを潜って出てきた巨漢に抱きついた。
「ムシューって【枯山水】の!」
「お前は【砂の冠】の銀かっ!」
どういう状況なんだとお互いが面食らっている。銀もまさかここで【枯山水】が出てくるとは思わなかったし、ムシュフシュも【砂の冠】に出くわすとは思わなかった。
流石にこのレベルの人間が予想外の邂逅を果たすとその裏が引っかかる。時間は無いが腹を割って話さないと始まらない。
だがその必要も無かった。ここに割り込んだのがマティである。
マティも自分の立場を詳しく説明する時間は無いが、大吟醸たちが何処で交戦中かは判る。
「――なるほど東門近くか、わしらはすぐに向かう。銀は屋根の上から索敵を頼む」
「判りました。マティ君だったね。君はここで防衛の指揮を執ってくれ」
「何人必要だ?」とムシュフシュ。
「ワンパーティ。多分指揮を取っている暇はありません。旅団と合流したら説明しなければなりませんし」
「なるほど確かだ。おい、レビンお前ん所が宿を守れ」
「了解」
「戮丸とは極力戦闘を避けてください。貴重な戦力です」
ムシュフシュも現状を見れば、銀の弁を疑う気は無かった。実際集落の防衛は出来ている。そう言って遜色ない現状だ。
正直よくそこまで頭が回ると舌を巻く。それにマティがその強さを証言しても、銀の太鼓判には叶わない。
「いま、仲間が死体を保護しています。急いで!」
マティの言動には問題があったが、回復要員も居るとの事だ。ここで責め立てるよりは急ぐべきだとムシュフシュは判断した。
ソレでなくとも、現時点で旅団放逐は決定事項なのだ。その心意気を無にするのは忍びない。
銀は表通りに飛び出した。腰から棒状のものを取り出すと展開し・・・
――二閃。
迂回したのか?襲い掛かってきたオーガの首が二つ飛んだ。
そのまま屋根の上に壁伝いに飛び上がる。その時点でやっと銀の武器が確認できた。
大鎌だ。折り畳み式なのだろう。
即座に姿が見えなくなってしまったので、どういったものかは詳しく判らない。ただ、見ちゃいけないレベルの武装だと言うことだけはわかる。
「流石だな」
そう言って現れたムシュフシュも洒落になって無い。
まんまグレゴリオだ。分厚い鎧に身を包み、巨大な両手斧を持っている。巨大・・・本当に大きい。斧刃の体積は優に大人一人分はありそうだ。
その重量でムシュフシュは駆けた。接敵すると足を止めるが距離が足りない。いや、ムシュフシュの体は慣性でスライドし・・・
胴薙ぎの一閃でオーガを三体吹き飛ばした。
交戦が開始される。
枯山水のレビンも慣れた手つきで仕留める。マティも先のトロール戦の要領で仕留めた。あの戦法はここでも通用したのは行幸だ。
オーガはトロールより若干強いモンスターだ。だが、再生を持ってないので普通に戦ってもマティクラスにはそれほど危険なモンスターではない。そのせいか枯山水もマティを戦力と数えてはいたが・・・
「・・・やるな」
レビンは感想を漏らす。イモータル武器ならいざ知らずノーマルの武器で一刀の元に切り捨てるのは破格の動きだ。
「コツがあるんですよ」