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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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087 観測者の憂鬱



 ――辛そうだな。


 観測者ガルドの言葉だった。

 女史は『何故?』と訊く。


 彼は圧倒的な戦力を誇示しているし、老人達に指示を的確に出している。敵の物量は圧倒的だ。

 それでもなんと言えばいいのか・・・


 ―――彼はがんばっていた。


『動きに精彩を欠いている。じきに捕まるか破綻するぞ』

『――まさか』


 ガルドは自分を指して『経験者』と言った。言われてみれば確かにそうだ。画像からは精彩を欠いている部分は女史にはわからない。ただ、ガルドは同じ様な状況で戦った経験を持つ。百戦錬磨と言っていい。そのガルドが言うのだ間違いはないのだろう。


 今、戮丸の足が間欠泉のように吹き上げ、オーガの顎先を蹴り上げた。見事な動きだ。この動きに一切のほつれが見出せない。

 ガルドの舌打ちが聞こえる。

 自分の意見を否定するように戮丸が動いた―――と言うわけではないようだ。彼から見ればこの所作も懸念材料を肯定する動きなのだろう。




『理解を求めようと言う考えはわかる――だが、説明して人を動かすのは限界がある。特に初心者は指示の意味を正確に理解できない。熟練者だってそうだ。ただ、熟練者には自分が完璧に理解できないということを知っている』

『――どういうこと?』

『初心者は指示よりも自分のひらめきを優先させる傾向があるし、指示が出てないのは〈指示するまでもない命令〉と解釈してしまいがちだ。つまり、戮丸の指示通りに何も考えず従えばいいのにそれが出来ない』

『破綻しているようには見えないけど』

『それを必死でフォローしているのさ。あんな戦い方はそう長くはもたない』


 良く見れば確かに指示の食い違いはうかがえる。そのミス――を戮丸が指摘していない。その間に状況は次のシーンへと移行してしまう。

 戮丸の顔に疲労の色が浮かぶ。


 老人達の『集落を守りたい』と言う思いはわかるが、戮丸はその状況に対処していた。人命や財産は安全な所に退避してある。

 死ぬ必要のある戦場ではない。

 これが、退避が間に合わない状況だったら老人達の意見が正しいだろうし――そうあって欲しいと思う。


 無人の集落がいかに蹂躙されたとしても命があれば皆で片付ければいいだけなのだ。


 彼は、貴重な何かをすり減らしながら戦っている。


 戦闘の他にも口論は続いた。


 戮丸は本当に根気良く説明を続けた。

 オーガに対し老人達が何の役にも立たないのと同じように、彼は老婦人の前では完全に役立たずだ。その事を訴え続けた。戦いながら、言葉を巧みに変えて。


『見捨てればいいのに――見捨てても戮丸は悪くないわ』


 そんなのは老人の自己責任だ。戮丸が負う事じゃない。戮丸は良く戦った。

 巨人戦を含めれば―――お人よし過ぎるくらいに戦った。


『そんな理屈が老婆に通用しない事くらい判らないのか?』


 瞬間、冷水を浴びせられた気分だった。


 そんな事はガルドも戮丸も判っているのだ。


『――――そんな事言ったって、戮丸限界なんでしょ?いい加減意地を張らないで言うこと聞きなさいよ。見てられないわ』


 照れ隠しか、老人に対して悪態をつく。

 そんな様が微笑ましいのか、ガルドは言った。


『案ずるな俺の幻体を向かわせている』

『何時着くの?』

『―――3時間後』


 ガルドの言った数字は気の遠くなうような時間だった。


『ちょ、それって意味無いじゃない』

『奴なら保たせる―――可能性がある』


 確かに期待できる。出鱈目な結果を導き出した前科(・・)が戮丸にある。だからガルドも向かっているのだろう。

 ガルドの出鱈目な強さは知っている。仮にも英雄だ。この場で必要なのは老人達の決意を打ち砕く悪役。ガルドは練者だ。上手くやってくれるだろう。


 そう考えると、戮丸がつらいと言った。ガルドの弁が良くわかる。


 ―――希望が生まれた。


『――おっ?』


 変化が起こった戮丸の説得が功を奏したのか、老人達が宿へ移動を開始し始めた。

 戮丸の挙動に女史でもわかる艶が増した。



 ――全てが上手くいくかに見えたが――


 ズガガガガッ!!!


 無数の光の矢が老人達をつらぬいた。

 呆然と見守る戮丸はオーガの波に埋もれていった。



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