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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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085 名も無い集落の名も無い理由

月曜分です。



 やっと手に入れた安住の地だった。

 最初は掘っ立て小屋から始まった。ソレが数棟立っているだけのみすぼらしい物だった。固いアザミをかき分け進むと見えてくる。そんな光景が最初の光景だ。


 集落なんて物じゃ無い。子供の秘密基地を大げさにしたようなもので、幾人かが住んでいた。

 誰もが焼け出されたとか、領主が逃げ出したなんて・・・

 そんな話は珍しくも無い。


 別段優しくされた覚えもないし・・・いや、あの時茣蓙(ござ)をかけてくれた。

 身重の女房には有り難かった。

 それで、夜露をしのぐ為に柱を立てて・・・それでも邪険にされなかった。

 自分達がそうであるように、他の住人もそんな感じで集まってきた。


 自然は驚異だったが、飢えずに済んだ。


 誰かがちゃんとした家を建てた。それを見て一斉に建てだしたっけ?あっという間に集落の体裁は整った。


 獣道は馬車が通れるような道になり、誰かが名前を決めようと言った。

 だが名前は決めなかった。夜盗のいい的になると。残念ながらその意見が採用された。


 子供が生まれた。―――すぐ死んだ。


 嬉しかったなぁ・・・

 嬉しくて悲しかった。生むまではちゃんとできた。次はちゃんと育ててやらんと・・・


 妻は子供を生めない体になっていた・・・


 落胆する私を見上げる痩せこけた子供。そんな子供で溢れていた。

 溢れた子供は次々に吸い込まれるように家に入っていった。

 家族になった。

 いずこも同じだった。


 子供は五人だ。内二人は死んだ。一人はさらわれた。器量のよい子だった。


「売れば幾らになっただろう?」


 こんな言葉も失礼ではない。こんな考えも生きる知恵なのだ。


 一人は嫁に行った。うちに来たときに既にそれなりの年齢だったが片腕が無かった。思えば真っ先に死ぬだろうと思っていた子だ。


 妻は「せいせいするよ」といったが泣いていた。もう帰って来るんじゃないよという事だろう。

 私は額を地面にこすり付けてやる事しか出来なかった。


 残る一人は男の子。家の仕事は手伝わせていたし、集落も安定していた。金持ちの商人まで住み着いたのだ。ちゃんとした職に着くまでは私も頑張ろうと思った。

 職に就き、嫁を貰い、家を建てる。そんな普通の未来が普通に・・・


 しかし、男が告げた。


 ―――この集落は危険だと。



 ◆ 夕暮れに降るドワーフ



 風が全身を吹きぬける。浮遊感は無い。冷たい風がきつすぎるのだ。

 戮丸は宙を漂っていた。それは客観的な視点での話で、実は高速で落ち続けている。

 自分の胸に触れる。いわば自分を持つ行為になるので、アトラスパームは効果を発揮し重量を打ち消した。

 しかし、触れたままでは発泡スチロールより軽い。体積に対しての重量が足ら無すぎる。空気抵抗で即座に減速が始まるのが道理だ。そこで戮丸は胸から手を離し、自重を復活させる。


 アトラスパームの特性は移動速度が損なわれない事。重量が復活したなら即座に運動エネルギーが尽き落下するだろう。しかし、そんな事にならないのは実験済みだ。

 はたして彼は砲弾のように空気抵抗を切り裂いて上空へと舞った。複雑な心境だ。質量喪失は感覚的なものだけで、実際には質量自体存在するのか?

 今のところ仮説として、引力を遮断するフィールドを形成していると言うのが一番辻褄が合う。

 そうなると、推力まで打ち消すと言う理屈に合わなくなるが・・・


 兎も角こういう効果のあるアイテムだと認識するのが一番早い。戮丸は集落を見渡し要救助者を探す。

 ドワーフとは言え目が多機能なだけで視力自体がいい訳ではない。ただ、赤外線も光と認識できる目は熱量を光源と認識する。冷たい風がありがたい。冷風に洗い流された地表に生命の光は見つけやすい。


 ――見つけた。しかし遠い――


 戮丸は中空でオーガ離し、それを蹴って方向転換した。

 当然細かな重力遮断が要求されたが、これから訪れる着地に比べれば容易なものだった。


 放り出されたオーガの末路は悲惨の極地であろう。そんな事は意に介した様子もなく、彼は着地に成功した。


 100mくらいの誤差が出た。


 集落は東西に伸びる大きな道に貫かれている。その中間地点に南北に一回り小さな道が貫いている。そのた枝道は無数にあるが、岩や高低差を避けるかのように曲がりくねっていた。

 東西の道と南北の道を平坦かつ真っ直ぐにするのが、住民達の限界だったのだろう。良く頑張ったほうだ。

 宿は交差点脇にある。新規で作った酒場は宿の向いだ。宿の看板は外され酒場のほうにかけてある。小賢しい手段だが無いよりマシといったところだ。


 オーガ達は北東から攻めてきている。戦う決意を決めた者は東西、道の東端に陣を構えていた。南東に誘導するつもりだろう。だが東西道を西進されてはあっという間に宿を襲われる。

 ここが分水嶺だ。ここで敵を釣って、南東にある金持ちの屋敷跡に誘導できれば、一時しのぎではあるが作戦は成功といえる。


 相手はオーガだ。体長2.5mの巨躯の前に曲がりなりにも戦闘を行わなければならない。


 一部の人間は即座に南に向かって移動するが、オーガはそれを無視した。鼻が利くのかもしれない。慌てて投石を試みるが、まるで効果は無かった。

 数名が西進を受け止めようとバリケードで戦闘を試みるが・・・

 戦闘と呼べるものではなかった。

 障子紙のようにあっさりと食い破られる。


 相手がゴブリンならある程度は効果はあったろう。しかし、オーガだ。一体で集落存続の脅威に成りかねないレベルのモンスターがざっと見ただけでも100じゃきかない。

 オーガ自体も全て北東から攻めてきている訳ではない。あぶれたものは北と東の門へと迂回して攻め込んでくる。数が圧倒的過ぎる。


 オーガの進撃はとまらない。無人の野を行くが如し。


 それを誘導する存在が居るはずだが、戮丸には見つけられなかった。



 ◆ 合流



「宿に引き上げろ!こっちで引っ張る」


 戮丸は叫んだ。その声に答えたのは当然オーガだった。幸い言葉の意味は解していないようだが・・・

 三体のオーガが殺到する。


 戮丸の周囲にはカードと弧が配される。

 カードは死へと誘う門。弧は門と連動していた。

 オーガの手を掴み捻り込みながら投げる。そのオーガの足を空いた手で払う。アトラスパームに導かれた二つのベクトルがオーガの身体に襲いかかる。

 オーガの身体では当然それに耐えられない。股関節や腰骨に無理にかかった負荷はグシャグシャに関節を砕き、肉塊となって投げ飛ばされる。

 そのめちゃくちゃな肉体の端部の軌道こそが弧の正体だ。

 ここでは踵だった。その踵は別のオーガの顎を砕いた。


 これで二体。


 しかし実際は三体だ。戮丸は片腕で二体の敵を片付けたに過ぎない。片腕が空いている。その片腕は蛇のように宙を這いオーガの胸に何時抜いたのかもわからない短剣を突き立てた。

 当然オーガにも胸骨はあるが、それを意にも介さぬように胸に滑り込んだ。


 ―――脅威だ。


 そう認識したのだろう。オーガが集まるが数で対抗できる種の脅威ではない。

 曲がり角から奇襲を受ける。棍棒が戮丸に向かって横なぎに襲うが・・・

 奇襲と言うのはあくまでオーガ側の主観で、戮丸は股関節を軸に横に回転し、振り抜かれる腕を追うように足を絡ませ馬乗りになる。高飛びのベリーロールのように。


 当然そこで終わりではない。オーガの首は既に戮丸に盗まれていた。回転運動は無駄にしない。首をね空いた手でそれを掴む。


 ――咆哮


 それを掲げ叫んだ。

 オーガは行儀良く並んで戮丸に突貫した。前のオーガが怯むから列はつまり、直視に耐えないから前のオーガの影から出られない。

 そんな心理作用が行列を作らせた。


 それはあまりにもあんまりな下策である。

 アトラスパームの性能なら常人でも美味しい現状だ。しかし、戮丸は大人気おとなげなかった。

 氣を練って、調息を整え、助走まで付けてまで踏んだ震脚。

 踏み固められたはずの道に踝まで埋まり込んだエネルギーは時を置かずして裂帛れっぱくの気合とともに放たれる。


 ―――!!!


 先の咆哮に負けず劣らずの大音声が響き、10体ほどのオーガが巻き込まれる。皮肉なのがその攻撃を受けたオーガ自体は絶命に至らなかった。それでも瀕死の重傷である。

 オーガの身体が砲弾のように跳び哀れな後ろの臆病者どもを轢殺したのである。

 致死にいたったのは2体。残りは重傷に喘ぐだけの存在と化した。





「――生きてるな」

「――あ、ああ」


 戮丸は悠然と老人に話しかけた。老人のほうはと言うと、桁外れの戮丸の振る舞いに唖然として言葉が出ない様子だった。


「撤収だ。お前んちのおばさんか?――それに頼まれた」



先週はスイマセンでした。今週も怪しいです。

これから水曜分の執筆に移りますが・・・金曜は絶望的ですね。

よろしくお願いします。

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