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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第一章   ストライクバック
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アトラス・ストンプ

 「なんてことしてくれんだっ!てめーはっ!」


 シャロンが消えたのを確認すると戮丸はリーダー格の男を持ち上げた。

 肩に担いだとかそう言うのではなくて、首を掴みワイングラスを掲げるように軽々と片手で持ち上げた。


「俺を殺してみろ!そしたらお前はPKだ!そうなったら全部が敵になるぞ!」


 PKプレイヤーキラー


 どこでも説明しているが、ここでも説明しよう。簡単に言えばゲーム内の殺人である。痛みを感じないネットゲームではよくある事。単純に享楽目的。ゲーム内資産目的。簡単に人殺しが出来、罰則もない。それゆえに横行する。


 システム面で出来ないゲームもあるし、法が存在するものや、逆にそれもスリルの一環と奨励するもの。さまざまである。

 戮丸あたりは『ゲームをやれ』の一言で済ませそうだ。

 対戦色が強いゲームではPKと言う事がないことから…


 蔑称として認知されている。


 このアタンドットには殆どない。ほかのゲームとは違い痛みが存在し、その上、財産の強奪ができないからだ。それ故にほかのゲームより忌避されるものだし、罰則も決まっていない。


 元より初日に宣戦布告した戮丸にはどうでもいいこと。



「良く回る口だ…お前にはまだPKに見えないのか?」


 持ち上げた戮丸の手に装備されたグローブが青白く光を放つ。

 あのアイテムの効果か?しかし…


 いや、戮丸の行動は正しい。何で俺はその行為が出来なかった。一刻も早く殺してやらないと、本体の方に支障がでる。


 痣なんかのフィードバックはしょっちゅうだが、あそこまでの重症は経験がない。

 何でその発想がなかった。

 悪影響が及ぶ前に治療か殺傷は…


 …俺の役目だったんじゃないか?


 言いたい放題言われて、身動き一つ出来ず、自分を守ることに頭がいっぱいで…どうしようもねぇ…

 惨めで涙がこぼれた。

 握った剣も落ちる。乾いた音だけが響いた…



「やはり敵はお前か?…ヒューマン…」


 戮丸は俺を見つめていった。何処か悲しげに見えたのは気のせいか?


 悔しい!覚悟は決めたはずなのに心臓が鷲掴みにされたような恐怖はなんだ。おれはここまで来て怯えるのかっ!


「ま、待ってくれ俺たちはシャロンを守っていただけなんだ。他意はない」


「そうか。じゃあ聞いてみよう」

「へ?」


 戮丸は鎖骨の辺りにナイフを差込、そのまま腿まで切り裂いた。右の後は左。肩甲骨と肋骨砕き切る音と絶叫が響いた。


「何しやがるっ!」


 シャロンを取り押さえていた取り巻きが叫ぶ。


「運搬に邪魔なものをはずした。止血も必要だな」


 そう言って傷口にランタン用油を流し込む。

 当然、火はつかないが服の残骸に引火した。


 耳にいやな悲鳴が残る。


 戮丸は四肢を取り外し、止血をして運ぶつもり・・・実際にそれが出来たかは彼にとって重要な事ではない。


「今から宿に運んでやる…救助活動…だ…」


 男の悲鳴はもう支離滅裂で言葉にならない。盛大に文句を言ってるのだろう「助けてやっただけなのに」などの言葉が途切れ途切れに聞こえる。




 馬鹿な男だ。俺のように言いくるめは効かない。


 全部見抜かれているのが気がつかないのか?


「戮丸!」



 そういったのはオックスだった。その顔は面白いくらい真っ青だ。マンガじゃあるまいし…

 その惨状はよほどショッキングなんだろう。俺は慣れてしまったが…


「脚もいらないな。邪魔だ」


 表情を変えず太ももの付け根にゆっくりと短剣が沈んで行く。

 暴れる男。

 振り回されたては戮丸の体を力なく叩く。

 腱と骨は断ち切られているのだから致し方ない。

 足は宙をかく。


 ブツン!


 男の左足はダラリと垂れ下がる。


 グポッ!


 関節の間に空気が入った音だろう。

 関節にナイフを差し込んだのか?

 解体する気だ。生きたまま。



「もうやめてくれ」見ていた男が膝から崩れた。

「もういい!十分だ!わかったわかったから!」


 叫ぶオックス。



 …ライトニングボルト…


 その言葉は小さかった。


 震えていた。


 怯えていた。


 どうしようもなかった。


 つたなかった。


 だのに、意味を成した。


 オックスの脇から何時の間にか突き出された杖の先に、倒龍のイカヅチがともる。


「馬鹿やめろ!」


 光は臨界を超え、世界は光を少し失う。残された光?光のパイプとなって戮丸の胴に狙いをつける。


 ・・・カラン・・・


 スレイの杖が落ちて乾いた音を立てた。当の本人は背を向けしゃがみ込み、頭を抱え懺悔の言葉にならない声を零す。


 これから起こる惨劇はそんな事では止まりはしない。


「やめてくれぇえええっ!」


 オックスの懇願が響く。


 しかし、手遅れだ。


 戮丸の胴に円形の穴が開く。ポッカリと光の奔流がその穴を流れる。紫電の網が触れるたびに真っ黒な炭へと変える。

 信じられない光景をオックスは目に焼き付けた。

 消えてはくれない。


 紫電は凄く細い。その細い線が戮丸の前進を真っ黒に感光させる。何十・何百・何千・何万の紫電が通れば人一人余すことなく感光できるのか?

 そして、複数回通過した箇所は炭化を通り越して赤熱・爆散する。


 残ったのは炭の人形だった。虫食いのように見えるのは小爆発を起こしたからだろう。


 4体の炭の人形は消えた。死んだのだ。


「スッ!…」


 我に帰ったオックスが怒鳴り声を上げようとしたが…やめた。

 スレイは地に付し体を丸く抱えガタガタと震えていた。


 ヤルだけヤッて…惨めなザマだ。だが、その姿がオックスに落ち着きを取り戻させる。


「大丈夫ッ?」

「大丈夫ってお前・・・スレイの面倒を頼む。後で話す。要救助者1損傷…なしだ」


 追って現れたトーレスに指示を出し、辺りを見回す。ライトニングが炸裂したのだ部屋は惨状という有様で、ほかの生存者の姿はないようだ。


 戮丸は暴走していた。部屋に現れたエルフが説得をはじめたかと思ったら、突然の光の奔流が走って戮丸たちは炭になった。その衝撃で俺はしりもちをつく形になった。


 その炭も光に帰り、エルフの持つ松明だけが唯一の明かり。

 オレンジの明かりは温かみがあっていい。


「…終わったのか?」言葉がこぼれた。


「ああ、終わった。立てるか?…お前…」


 松明を持ったエルフは上位レベルのオックスだった。こちらにも気がついたようだ。





「お前…本当にレイプ魔だったんだな…」


 その言葉が胸を刺した。涙が毀れる。止まらない。


「誤解だったか…すまない。ほら泣くな。終わったんだ」


 誤解されたから泣いているんじゃない。正解だから泣いているんだ。信じてた。漠然と。そういう事はしない人間だと心のどこかで信じていた。それがコレほどもろいものだとは知らなかった。常識という空気に守られていただけの擬態だ。常識自体が変われば、簡単に転がり落ちる。


 嫌悪してきたと思っていたことが、何てことはない。

 嫌悪するという免罪符を張って安心してきただけ。


 ―――何も出来やしない。


 今回の事だって《しなかった》んじゃなくて《出来なかった》。

 ただそれだけ。


 だから、涙が出た。


「もう帰ろうぜ」



 オックスは穏やかな声でそういった。

 肩を振って泣きじゃくるが…


(そうやって後悔した振りをすれば許されるのか?)


 コレも擬態?


(責めていれば、罪を忘れられるからつごういーよな)


 別の声…俺?


(そういうてめえもな)


 また、そういったのも俺だった。


 きりがない…


 今の涙を最後の一滴として俺は立ち上がった。




 ◆ 




「お、立ち直ったか、取り敢えず帰ろう。まずはそれからだ」

「エルフって言うのは、みんなそんなにイケメンなのか?」

「?いや、公式設定だから、うらやましい?」

「ああ、惚れちまいそうだ」

「キモ!」

「そういう意味じゃねーよ」


「俺は最近ドワーフのほうがカッコいいと思うんだが…」

「わかる」

「あんた名前は?」


「大吟醸 ヨシツネ」


「歌舞いてんねぇ。いい名前だ」


 噴出さなきゃ満点の返事だ。まぁ、狙い道理なんだけど。



「そっちの魔法使いは大丈夫か?」

「アリエネーよなびびりライトニングなんて…」


 スレイの背中がビクッと動いた。


「無理言うなよ。戮丸の戦いぶり見てるんだから」

「ノッツお前も来てくれてたんだ。…戮丸の戦いぶりッて?」


 顔を覗かせたのノッツ。見知った顔に安堵した。


「トロル4体片付けてんだよ…アイツ」


「ほぁ?」


「一体目は斧で解体。二体目は振り回して壁に叩きつけて撲殺。三体目と四体目は吹っ飛ばした」

「訳わかんねぇよ」とヨシツネ。本当に理解できない。


「俺たちにも二体目以降はわかんないけど。一体目は上手かったよ」

「どういう風に?」

「急所を狙ったんだよ。腱とか筋とか目も突き立ててたな。多分、あいつは能力低下系の急所がわかるんだ。そこをぶち抜いて、行動を制限してから即死系の急所に斧を叩き込んだんだよ」


「ほぁ?」理解できないヨシツネ。


「そう思うよな!全部目の前で避けてよ。頭おかしいよ」


 体が大きくなれば直近が死角になる。実質、戮丸が回避したのは接敵するまでの一回のみ。

 その後、武器を振ってあたる部分に戮丸は居なかった。もちろん、いずれ捕らえられる。


 膝の裏の腱を切り片膝を突かせ、武器持ってないほうの後ろ側に回りこみ攻撃。そして残った膝に攻撃を叩き込みトロルに手を突かせる。


 トロルの首が射程に収まる。


 顔を張り飛ばし、首の伸びきったところに斧を叩き込む。それを三回。

 持ち前の回復力で立ち上がったところを…斧で首をはねた。


「あのでっかい像を倒すあのゲームのスーパープレイ見てるみたいだった」


 オーベルは感想をもらした。


「あ、それ!おれ出来る」

「マジッ!?」

「…ゲームのほうな」


 意外なスキルを持っているヨシツネに、尊敬の眼差しが集まる。


「弱点さえわかれば作業だ練習しだいで…ってここでも出来んの?」

「少なくとも戮丸はやりましたよ」とスレイ。

「うっそ。コレってタンカーゲーじゃないの!」


「情報ふるっ!」

「てめ、ノッツ!そんな情報どこに隠してたッ!」


 締め上げるヨシツネをなだめながらスレイとオックスが一部始終を説明した。


 その結果は…


 orz


「見事なまでのorzですね」

「その情報源をぶち抜いたのは誰だ?」


 orz orz

  増殖。


「その情報聞いた時点で一旦宿に引き返していれば、今回の事件はなかったんじゃないですか?」


 トロイの一言に総orz状態。


 その後、誰の責任かで大きな論争を巻き起こした一行ではあったが…


「どの面下げて宿に帰ろう?」


 ―――それが結論であった。





 ◆





「お前は無痛症か?」


 ベッドから跳ね起きた戮丸に、ガルドはそう問いかけた。

 ほかの面々は痛みにのたうっている。高圧電流とそれによる発熱、痛みという面ではフルコースだ。

 現状、痛みはない。その記憶は脳に焼き付いている。痛みが消えたという認識を脳に教え込むには暫しの時間がかかる。

 そういった意味でガルドは言った。


 戮丸は辺りを見回す。


「シャロンなら別部屋だ。お疲れさん」


 ガルドは今、ベイネスが付いている事を告げると、ふぅと深く息を吐きベットに腰掛ける。


 が、周りをみまわす。


「場違いだな」

「おいどこ行くんだ?」

「外出て頭冷やしてくる。本体も心配だしな」

「お前でも命はおしいか?」

「ここに居る時点で死んでないだろ?救急車呼ばれたら厄介だ」


 手を振ってログアウトゲートに戮丸は消えた。




 ◆




「ガルドちょっと…」


 ん?


「彼女、戮丸に殺されたのが相当ショックだったみたい…一旦落ち着いたみたい。今は本体を見に行かせたけど、よかった?」

「ああ、今はシャロン自身の体が心配だからな」


 先の話にも出てきたフィードバックはここでは観測できない。言ってしまえば催眠術と原理は一緒なのだ。個体差も当然ある。データを取れば統計学的な数字が出るかもしれないが、それは予想に過ぎない。

 ここで、生存を確認できても、吐血で喉を詰まらせている可能性は十分ありうる。痣も異様に直りが早いとの事だが、ロジックがわかっていない以上、確認に勝るものはない。


「『どうだったか教えてね』っていっておいたけど、また来てくれるかしら?」

「さあな、コレばっかりはなんともいえない」


 ガルドはトラウマを危惧していた。男性恐怖症は現代社会で生活するうえで重大なデメリットだ。

 それに、怯えて生きている人間の方が被害にあいやすい。


 ―――コレはゲームだ。

 

 どんな仕様であったとしても、ユーザーには楽しんでもらいたい。


 悪いほうに転ばなければいいが…




 ◆


 


 シャロンこと高槻夏樹ベッドで目覚めた。首の後ろに端子はあるが、仰向けに寝るには支障のない位置だ。端子を抜きボタンを押してリールをまく。掃除機のアレのような道具だ。リールをまくには、軸の部分に大きな黒いボタンがついていて商品のロゴがついている。そこを押すのだ。


 興味がないので覚えていないが、小さすぎる文字の羅列は艶やかな半球上の上に入った模様のように見える。カタツムリをひっくり返したような密閉型のボディはいろいろな機能を備えている。…らしい。


 らしいというのは機能の全ては、サポートボードで呼び出せるので実感がないのだ。カタツムリを見つめSBサポートボードを操る。SBというのは嫌い。食品メーカーを思い出す。


 仰向けになった。天井に画像ウィンドウが設定される。照明器具がウインドウの端にかかる。明かりを落とせば、気にならなくなるのだが気に入らない点の一つだ。

 プロジェクターじゃあるまいし画像はゆがまないのだが…そんなことの為にリフォームするのも…もどかしい…。


 右手をインターフェースに乗せて操る。先ほどカタツムリのカメラで録画した画像を見るためだ。


 手が止まる。

 ゲームでの映像がよみがえる。

 目をつむるが、ウィンドウが瞼の裏に浮かぶ。

 更にいやな記憶がよみがえる。

 設定を変えていなかった。インするときには便利な機能なんだが…


 録画したお笑い動画でも見ようか?


 後回しにしても仕方ない。

 カーソルをフォルダに合わせてクリックした。


 その画像は夏樹の思考と手を遮断した。

 両手をかざし視界を遮断し、目を硬くつぶるが画像は消えてくれない。

 身もだえよじっても、その画像は夏樹の眼前に突きつけ続ける。

 彼女は苦しみ続けた。


 死人のような顔には、ゲームの足跡がクッキリと痣として刻まれているのだ。





 それすら慣れた。


 画像をOFFにしシャワーを浴びよう。汗と涙でグシャグシャだ。

 熱いシャワーを浴びれば少しは…


 汗まみれな部屋着を洗濯機に突っ込み。動作ボタンを押す。コレで乾燥まで終わる。洗剤投入ボタンは2回押した。


 サー


 水温が高くなったのを確認して浴びる。

 技術は進歩したのにこんなところは改善されない。皮肉だ。

 胸に手を当てる。戮丸に刺された場所だ。


 そこは綺麗なもので、痕は無い。明日には正確な位置がわからないだろう。


 それもそのはず戮丸がもてる全ての技術と神経を費やし、己の限界さえ忘れて繰り出した神撃。痛みなど余分なものは残りはしない。


 命だけを貫いた。


「…どうして?…跡も残ってくれないの?」


 彼女は知らない。


「戮丸…りくまるぅ…」


 枯れたと思った涙が溢れた。今日始めての悲しみの涙。

 力なく男の名前を繰り返す。


 彼女は知らない。


 …私を殺さないで…




 ◆




 戮丸と呼ばれた男が目にしたのは、天井に付いた赤い液体。


「またか…」


 案の定シーツは血まみれだ。

 男はよたよたと歩き蛇口に口をつけ口をすすぐ。吐き出した液体は真っ赤だった。それを、透明になるまで繰り返し、コップに水を注ぐ。


 乱暴に胃薬のビンを開けると数粒取り出し、口に含んで水で流し込む。

 思い出したように他の薬を取り出し、また飲み込む。


 飲水制限オーバーだ。


 頭を乱暴にかきむしる。その手は、次郎坊のそれより細い…素直に衰弱していたといったほうがいいか?


「どうすんだよ…コレ…」


 悩んでもしょうがない。血まみれのシーツと枕カバーをむしりとる。

 念のために敷いて置いた新聞紙をめくってみる。


「許容範囲か…」


 問題は掛け布団。完全にアウトだ。


 アウトなのはシーツと掛け布団。コレは捨て。敷布団も洗濯したいぐらいの有様だ。初日のが効いてる。干そうにもこんなショッキングな代物は干せない。捨てるほうも一工夫しないと…


 明日買ってくるとして、今日は新聞紙で我慢か。

 そうだコイツも…寝巻き代わりのTシャツもちろん血まみれだ。


「人には見せられねーな」


 脱ぐとそれをすすぎ、敷布団をどかし椅子を持ってきて天井を拭く。

 椅子は回転式の安物でガクガクとゆれる。


「チッ…ポンコツッ!」


 そう言ったのは椅子にではない。安物とはいえ古いものではない。男の脚にだ。枯れ木のような脚には継ぎ接ぎのような傷があり、膝もグラグラと横方向に揺れる。バランスのとりようもない。


「洗剤使わないと駄目か?」


 拭かれた天井は血痕には見えないものの、明らかに色が違う。男が愛飲するタバコのヤニもあるのだろうが…カラフルだ。

 全てを拭き取ったとしても、血のシミが浮き出るだけだろう。


 風呂を沸かし、沸くまでの時間タバコに火をつける。


 目を閉じる姿は、タバコを堪能してるようにも見えるが、インターフェースを操る右手だけは忙しく動いている。


 SNS・PTSD・トラウマの治し方・婦女暴行etc、忙しく検索を繰り返す。全ては手遅れなのに…


 ボコンッ!


 風呂釜がなった。@3分。医者には止められているが、体の倦怠感を吹き飛ばすような熱い風呂が好きだ。元々は嫌いだったが、体に活力を蹴りこむにはコレが一番だ。わざわざ、その為にこの家を選んだ。


 服を洗濯機に放り込み、風呂の蓋を取る。その熱気が風呂の温度を教えてくれる。鏡には出来の悪いパッチワークの肉体が映る。


 逞しかった人間が衰弱すると異様だ。人よりワンサイズ大きい骨格は、衰弱した筋肉を引き伸ばし、砕かれた骨は人体には無いはずの突起を残す。更に今は胸と背中に大痣とそれを中心に蜘蛛の巣状の痣。

 顔も右と左で違う。骨格から…


 風呂に入るが骨格の調子が悪いのか、身を数回よじる。まさしく座りが悪い。落ち着いたのか、ここで初めて、ふぅ、と一息ついた。

 鏡には醜い惨状が映っているはずなのに、歯牙にもかけた様子は無い。


 苦労して体を洗った。


 入浴時間は長くない。青白くなった顔はすぐに赤くなった。

 寝巻き用の新しいTシャツとジャージに着替え頭を拭きながら部屋に戻る。


 その間も検索は止んでない。

 思いついたようにウィンドウを閉じ、名簿を引っ張り出しコールする。

 この辺は携帯より便利だ。


 待ち時間に冷蔵庫を覗く。キャベツとキューリ、モヤシにトマト。米は保温があったな。ジャーを開けるとへばりついた量を確認した。


 問題ない。


「どうした?」繋がったようだ。

「いや聞きたいことがあってさ。治安問題どうしてる?」


 キャベツは2枚剥いて畳んでざく切り、キューリとトマトは適当にスライス。でかすぎる塊はもう一度包丁を入れる。モヤシもがさばるので一回だけ包丁を入れた。


「法を強いて警察機構を設けてる」

「なるほど…そっちは治安はいいのか」


 フライパンに油をいれ温まったら一度捨て油を少量追加する。


「悪いのか?」「民度サイテー」


 フライパンに野菜を投入し、味塩とコショーが一体になった製品を振り掛ける。一口味見をする。水っぽいがかろうじて塩の味がする。完成。


「初心者部屋は切り離されてるからな…何か問題が?お前なら跳ね返せるだろう。むしろ…」

「俺が負けるかよ。問題は…女の子拾ってさ」

「…珍しいな」

「何か隠してるのか?…まぁいい。その子はゲーム自体が初心者で…ってコレも…いいか。事件が起きてさ」


「どんな?」

「貞操関連どうしてる?」

「?…LA装備させてるが?」

「LA?」

「ランジェリーアーマーでLA。ある男が量産してるビキニアーマーだよ」

「鴨葱じゃねぇか」

「まぁ、きけ。それがな下穿きは不可だが、重ね着は出来るんだ」

「ほう」

「しかも、AC(アーマークラス)はプレート相当で本人以外脱着不可の全身鎧のマジックアーマー。破壊は不可なんで下着として使わせて置けば安心なんだ」

「んがっ!きいときゃよかったっ!…ちなみに値段は」


「チェインと同じで、気温ぐらいなら寒暖は受け付けないオマケつき」

「俺が欲しいくらいの性能だな」

「女性専用だ。へんな気起こすな。で何があった?」

「男集がお祭り起こしてダンジョンに連れ込んでPT壊滅」

「あほか」

「しかも、半分頭吹き飛んだ女の子に悪戯しようとしてたんだ」

「うちのシマじゃマグマに蹴り落とす。その子どうした?」

「俺が殺した」

「殺し方は!?」

「俺も八つ裂きなったり、ライトニングでぶち抜かれたりしたから分かる。心臓一突きだ」

「良く対処できたな」

「賭けだったよ。心臓は治しようが無い器官だから即死判定のスイッチが仕込まれてるって踏んだ。すぐ消えたからあたりだったと思うが?」

「パーフェクトだ」

「痛いかな?」

「お前の腕前による。余分な器官を傷付けてれば痛いさ」

「そうか」

「お前なら多分これ以上ないって、で、その子は?」

「ログアウトした。もうはいってこねぇだろうが、トラウマになってなけりゃ…チッ…あの子銀行の受付だった…最悪」

「仕事に支障が出るな確実に…」

「いや、ありがとう。愚痴聞いてもらう形になったが助かったよ」

「…お前は大丈夫か?」

「いいゲーム教えてもらったよ。大丈夫だ。じゃな」

「ああ」


 通話は終わった。



「俺は大丈夫。後は死ぬだけだ。知ってんだろ…」



 残ったのは残骸のような料理。男に許されたのはここまでだ。


「あ・・・さめちまった・・・」




 ◆




 次の日、宿は静かであった。住人もおっとり刀で事件の惨状を察したようだ。死ぬことは珍しくない。が、PT全滅は異常事態だ。そして、重傷者に迅速な対応が出来ないことがどういうことか。肌身にしみた。


 ログアウトしてその惨状を目の当たりにすれば、ゲームなどとは言ってられない。心配した家族が家族会議を開いた例も少なくない。

 このゲームに愛想を付かした人間が補填など騒ぎ始めたが、その内容は契約事項にちゃんと書いてあったし、ゲームを理解し始めたユーザーたちに止められた。


 このゲームがサービス打ち切りは投資額から言ってもユーザーの本意ではない。が、過剰に反応したユーザーにそれを理解しろというのも無理な話だ。


 自分が痛い目にあった。その事実こそが彼らの第一義なのだ。


 最大の被害者を思えば、そんな意見は出ないはずなのだが、耳を塞ぎ権利と平等を振りかざす。

 そんな互いのフラストレーションが積もり積もって緊張状態を作った。


 当の戮丸は比較的平常運行に見えた。事件当日も再度インし、自分の被害状況を報告した。その後もダンジョンにもぐり次々と財宝を運び込むが、その行動はソロでPTを組もうとはしなかった。


 現に財宝の幾ばくかをトロイに渡し、謝礼としたが、トロイのほうから「謝礼はPTで」の言葉に黙って首を振った。そうなっては、勧誘は出来ないと諦めた。


 のちにガルドから戮丸が探索時間を厳密に決めてプレイしていると説明を受けた。


 観察すれば、確かにきっちり帰ってくる。探索時間はお世辞にも長くない。そのペースについていくのは無理だし、途中退場はこちらの戦力的に無理な相談だった。

 戮丸は業務をこなすかのように黙々とプレイを重ねる。


 日を追うごとに罪の意識は薄れた。自分たちが何をしたのかを忘れるには速すぎるが、糾弾者の不在は罪人の増長を生み「やつはずるい」などの陰口が横行した。


 論旨はこうである。


 強烈な戦闘能力とシステムに対しての深い洞察力を持ち、その恩恵を平等に開示しないのは罪である。


 ここまで読んだ方には理解できないと思うが、本気でこう思っているのだ。利権を啜りたいのだろう。ありとあらゆる罵詈雑言がとんだ。


 それが情報戦術と嘯くものまで現れる始末。


 根競べと杯を片手に笑う。そんな光景が当たり前になっている。


 コレにはさすがにヨシツネも憤慨した。そして憤慨するものが現れれば餌を得た金魚のように群がり、真の加害者が群衆の皮をかぶり権利と平等を盾に誇らしく語るのだ。


 そして最後に「今日も他人の不幸でめしがうまい」




 一方戮丸が情報を秘匿してるかといえばそうではない。質問すれば答える。ただ、する側が要領を得ない上に、戮丸の眼光に耐えられないのだ。 

 たとえば異常な回避率。問えば、見て避けてる。と答える。そこで異常さを訴える。そりゃ、見てないからだ。理解できない。


 種明かしをすれば、戮丸はリーチで避けてるのだ。命中率30%と言えど、範囲外の敵には当たらない。エイムが作動しないといったほうがいい。そして、その判定が下ったタイミングを見計らって前に避ける。攻撃の軌道が見えていれば、当たることはまずない。


 さらに応用で稼動範囲もある。どれもコレも集中して見る事が肝要。嘘は言っていない。正鵠を射ている。



 スレイ達には理解できていないことも察して、噛み砕いて説明していた。最悪、理解できなくてもそうなるように導いた。


 ただ、その必要を感じなくなった。


「理解できません。理解できるように教えてください」


 そういえば、戮丸はちゃんと説明した。だが意外にコレができない。

 それを知っているからこその丁寧な説明であったが、今は時間がないし、彼も一ユーザーなのだ。他人に割く時間はない。それに、そこまで行く前に逃げ出してしまう。


 戮丸に、そこまでする義務があるのか?


 逃げ出した。しかも、戮丸の仲間に重症を負わせ襲った。影に入れば嘲笑を繰り返す。そんな風潮を作った一端を捕まえ、理解するまで説明する義務が…


 戮丸は孤立した。


 クスクスと笑い声は響く。




 ◆





「心配したよ高月君。三日も休むなんて」


 夏樹はパジャマのまま、上司の加藤を応対した。

 連絡は入れていたが四日目にして上司の家庭訪問を受けることになった。

 痣が消えるまでは出社できない。そう思っていた。だが、その痣も消えた現在、もっと酷い現実を認識した。

 夏樹の脚はがたがたと振るえ吐き気が止まらない。全身は虚脱感に支配され、熱に浮かされているようだ。


\\\\\\\\\怖い。


 PTSD・トラウマ・対人恐怖症・男性恐怖症。


 理解した。理解してしまった。自分はその状態だ。今となっては痣が消えてしまったのが恨めしい。理由がない。

 治る?いつ?いつまでも休んではいられない。でもこれは治るの?


「どんな状態なのかだけでも説明してもらえないだろうか?」

「いつ復帰できるかだけでも聞いていきたいんだ」


 加藤にとっても譲歩だろう。それはわかる。でもいつ?言える訳が無い。自分だって知りたいのだ。正直に話そうか?医者にかかれば…


 でも、自分は受付業務。対人恐怖症の受付なんて聞いたことが無い。


 懲戒免職?



 ウェエエエエェッ!


 そう思ったら、その瞬間込み上げた。抑えきれない。ボタボタと胃の内容物が溢れ出す。身体はひき付けを起こしたように震える。


「大丈夫かっ!高槻君!」


 加藤は慌てて駆け寄って背中をさする。

 逆効果だ。痙攣はますます酷くなる。呼吸が出来ない。


「がえっで!いいがらがえってっ!」


 夏樹は悲痛に叫んだ。


「救急車!いまっ!…」

「だえっでぇえええっ!おねがいだがらっ!」


 加藤は逃げ帰った。



 ◆



 落ち着いた。汚物は掃除した。惨めさが溢れてきた。それでもお気に入りのパジャマを捨てなきゃならない。会社にコールをし加藤に失礼を詫びた。明日、医者に行くといって一応の結論は付いた。


 精神科にかからなければいけない。気が重い。


 これからの将来のことも…


 未来は暗鬱として、それを思い出すたびに嗚咽が毀れた。


「…助けて…助けてよ…戮丸ぅ…」


 意識はしてなかった。毀れたのは自分を殺した人間の名前だった。




 ◆




 戮丸は頭を抱えていた。

 当然下界の事など気にしていない。


 受け取ったゴブリンキラー専用のシナリオが、思った以上に難解なのだ。


「無理ゲー…しかし…」


 内容は地下集落に襲撃をかけてくるゴブリンの退治。正直に言えば戮丸には役不足な案件である。

 ただコレに、一つの条件を加算すると難易度は跳ね上がった。


 死傷者を出さない。


 もちろん依頼は防衛であって住民の被害はカウントされない。そう考えれば、問題は無いのだ。ただ、このシナリオには特設ルールとしてタイムストップを採用している。


 戮丸がダンジョンにインしていない時間は、ダンジョンの時間が凍結するのだ。


 被害者0プレイの光明が見える。それでも、かなり厳しい。


 ほぼ不可能な見通しだ。


 更にゴブリンは伝染病持ちで感染すると身近な生物に襲い掛かる。つまりゾンビゲーのアレである。


 まとめると、


・ゴブリンの出現位置不定

・感染有り(PC・NPCともに)

・ウェーブ構成で第6ウェーブまで耐えれば勝ち。

・村長宅を陥落されると負け。

・タイムストップ有効。ウェーブ中も有効。

・AIはガルドと同じ状態で普通の人のように振るまう。説得は効くがパニックも起こす。

・持ち込み可。


 どんな鬼畜ゲーだ。


 当然、子供達が感染すれば撃ち殺さなければならないし、戮丸自体が感染すれば体の自由を奪われ、むしゃむしゃと住人を食い散らかす。


 ここのデザイナー絶対殺す。


 受けた時点でそれが罠。こんなシナリオ久々だ。アタンドットでなければ、多少の被害は目をつぶるのだが…


 聞いた瞬間、集落を全速力で一周しマップを完成させて、宿屋に飛び込んだ。


 何度、時間を永久凍結してやろうか?と思ったことか。


 やらなければいい?

 現在第二ウェーブを突破して罠設置タイム。


 器用になんて生きられない。それが戮丸クオリティ。


 理性と財布の紐はぶちぎれた。

 やってるのは墨俣一夜城を運営するゲーム。現在はとかく金。木材などは全部買わなければならないし、食糧問題も…レベル制限は無いものの、10レベルでこの部屋を追い出されたとき、どう転ぶかわからないので極度のレベリングも不可。


 対策として潜った際に回収するのは全て未鑑定アイテム。コレが現在の収入源だ。鑑定するたび悲鳴を上げたくなる。鑑定しないと値段がわからない。


 グレードはコモン・アンコモン・レア・ネームド・ユニーク。


 コモンは基本的にショップ品・ユーザーメイドクラスである。値も対したことはない。次郎坊が腰につけているランタンはコモンである。


 構造面で火が消えづらく、腰に装備できるようになっているが魔法の品じゃない。もちろん、魔法が使われていないだけで、使い勝手のよい品はある。


 アンコモン。俗にいうプラスで表記されるもの。製造技術が高いものや簡単なエンチャント品。この辺まではユーザーでも作れる。強化を施されたもの。


 レア。特殊な強化を施されているのが一般的。追加効果、炎など。


 ネームド。数量の限定は無いが固有の名前とフレーバーテキストが付いたもの。特殊効果のほかにもカタログスペックに無い特性を持つものも多い。次郎坊のガルドの手弩はコレに当たる。


 ユニーク。猫型ロボットがポケットから出しそうな性能。このゲーム内でそれしかないので、出鱈目な性能を持つ。普通売らない。天文学的な値段が付く。買える人間が居ないのも特徴。戮丸の持つアトラスパームがそれ。


 ちなみにその性能は[質量無効]の一言のみ。


 単純にどんな重いものでも持てる手袋といった所だが…とんだじゃじゃ馬。双掌打を放てばトロル二匹は通路の果てに飛んでいくし、出鱈目に振り回せば頚が取れた。質量無効と書いてあるがボールペン一本分ぐらいの重さは感じる。現状では質量が無くなった様なマジックエフェクトを付加する手袋と推察しているが…


 危なくってつかえたもんじゃない。


「うれっかな?」


 ガルド買取拒否。


 腕立てやって天井のシミになるのはごめんだ。

 ボールペン一本分の重さを感じるのは安全装置だろう。

 コレが戮丸の現状である。


 そんな事件の前後もあいまって戮丸は忙しく動いていたし、さすがに腹に据えかねたということもあり、当人が思っている以上に、人を寄せ付けないフィールドを発生させていた。


 そして、戮丸がダンジョンに向かうと、誰からとも無く安堵のため息を漏らすのだった。




 ◆




 朽木遼平は全てを妻に明かし、タイミングを待っていた。

 妻、慧のいとこ高槻夏樹がアタンドットを始めたこと。

 その過程で遼平の友人に出会ったこと。

 友人いわく、夏樹は酷い被害を受けて、それ以降連絡が無いこと。

 友人は信頼できる男で、最大限の配慮を行ったこと。


 妻はネットゲームに理解があった。出会いがネットゲームがらみだったと言う所もある。アタンドットがどんなものかは知っていた。夫の猛反対を受けて参加はしていない。経済的な理由もある。


 それだけに激怒し、友人というのはそんなに信頼できるの?と遼平を問いただした。その際に妻に友人の名前を明かした所、あっさり理解を示し遼平は命拾いをした。


 そして、連絡は来た。医者にかかるから付き添いをお願いしたいと・・・


 妻は夫に車を出させると言って話を進めた。


 もちろん夏樹は遠慮したが、「アタンドットが原因?」といったら素直に話してくれた。

 遼平には始めた事を伝えていたし、行き先が精神科…黙っているよりはいいと考えたのだろう。


 電話口ですすり泣く声が聞こえる。今まで抱えてきたのだ無理も無い。

 詳しい打ち合わせをして電話を切った。


「あなた…大丈夫かしら?」


 年の離れた従兄弟は仲がよかった。夏樹はなついて来たし、慧はそんな夏樹がかわいかった。美人だし自慢の妹。そんな妹の声が見る影もなく憔悴し、泣いていた。


「私行って来る」


 遼平は外泊の許可を出し、慌てて出て行く妻を見送った。


 遼平は友人にコールした。程なく出た。夕飯時だ。予想通りだった。


「なんだ?」

「いや、名前を交換してなかったなと思ってさ」

「そんなことか一人目は…」

「もうサブキャラいるのか!」


「必要にせまられてな。ユニーク拾っちまったんでよ」

「……ふぁ?」

「ふぁ?じゃねーよ。一人目はドワーフで群党左門芝瑠璃 戮丸」

「ふぅぅん」


「いや、お前らしい厨二だなとおもっただけだ。何でまたドワーフ?」

「お前が昔ドワーフシーフでブイブイ言わせてたって、いったじゃねぇか。それでだよ。初めてなんだ強キャラ作って飛び込んだっていいだろ?」

「なるほどね。PT(パーティー)速度強化か…で、もう一人は?」

「次郎坊…シーフだ」


「戦士じゃないのか?意外だな」

「勝手が分かったからってのもあるが、面白そうだったし…脳筋どものおかげでシーフが一人もいねーってのもあるな。で、おまえは?」

「戦士でオーメル」

「サイエンスかよ手堅いな」


「理由は一緒だ。《赤い旅団》ってなまえのクランに所属している」

「またその名前か?ってことはお前がリーダーだな?」

「そのとおりだ。俺はリアルでお前に勝てる気がしない」

「俺はゲームでお前に勝った事が無い」


「じゃあ決まりだな」

「せいぜい今のうちに逃げ道確保しとけ」

「鋭意建造中だ。お前の墓穴もセットでな」

「で、落とし穴を仕掛けると…お前らしい」


「二番手に事を始めて二番に逃げ出すのが俺のポリシーだ」

「ぬかせ」


 通話は切れた。


「お前は俺が首を差し出したら怒るんだろうな」


 遼平はそう呟いた。 

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