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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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083 救いようの無いもの

金曜分です。



 基本はそれでいい。今度はディクセンの警護だ。難民と貴族には必要だ。難民は混乱を招きやすいし、貴族は法の場に引きずり出す前に消されては意味が無くなる。

 自分が逆の立場なら、この機に証拠隠滅を謀るだろう。その為の道具立てもさせてはいけない。


 勘違いしてはいけない。これは、ディクセン攻略でも戮丸救出でもない。犯罪者の一掃が第一義だ。このタイミングが勝負どころで、一気呵成に攻めなければあっという間に雲隠れしてしまう。

 圧力は高く、しかし、浮き出たものを刈り取る手を緩めるわけにもいかない。猟友会の裏に隠れた相手に楔を打ち込まなくてはならないのだ。


 この次元に達すると旅団内部の人間ですら信用できない。伏兵を忍ばせる。旅団内部の人間ですら想像できない所に、精霊雨・砂の冠を苦手意識で使わない訳にもいかない。

 敵の敵は味方。そんな理屈は通用しないが、不透明な戦場では蠢く影で敵を牽制してのけなければ・・・


 オーメルは忙しく指示を出す。頭を抱える贅沢はまだ許されてはいないのだ。



 ◆ 戮丸起床



(ここは何処だ・・・)

 戮丸はベットでムクリとその身を起こした。室内を見渡し、どうにか得心とくしんをえたようだった。黙々と装備を確認する。

 鎧、孤独の象徴は壊れてしまった。篭手ガントレット部に致命的な損傷を受け、今は別のガントレットで補っている。


 性能評価は下がったままだが、魔法の一品に変えた。これで、変形はしない。元々、シールド代わりに使おうと思っていたので、良い契機かもしれない。


 余談になるが、篭手を盾代わりに使うことは出来ない。衝撃が抜けるからだ。他にも色々理由があるが・・・


 しかし戮丸の技量はそれを可能にした。


 馬鹿げた話だが、バールの一撃を腕で止められる技量が目安だ。彼にはソレが出来る。

 硬気功イングンフーと人は呼ぶが、当の本人が否定している。


 正確には、世に気功と呼ばれる物を彼なりに解釈し、開発したものだ。

 単純なテクニックだと彼は言う。


 気功に解しての私見は、後に彼自身から物語中に聞けるのでここでは割愛する。


 白髪の短髪に芯まで焼けた肌。ブラックレザーの鎧に片腕だけ焼けた地金の篭手をはめ、ドワーフというにはスリムすぎる、ただスリムと言うには太すぎる体躯を鎧で更に締め上げる。

 顔は愛嬌のある大きめな瞳が特徴だったが今は険しい。


 新規で手に入れたアイテムは銅貨で両替しておいた。

 この世界の銅貨は鋳造ではなく鍛造で、百円で買えるクッキーのようなインゴットで、ゴロリと重量がある。

 これ一枚でりんごなら五個くらい買える。食料品の物価が安いのか一般市民の通貨は銅が主流だ。お釣りは青銅よりも各自治体が発布している木銭貨で流通が行なわれる。

 その町や村でのみ通用する通貨で、持ち出す際に青銅に代えるといった具合だ。金属需要が高いこの世界では安い貨幣は自治体にとっては貴重なのだ。


 戮丸はその銅貨を数枚つまみ手で操る。手品師のように。その技量は普通に見事だが、手のアトラスパームが明滅している。力加減を誤れば吹き飛んでしまうことから、見た目以上に神経をすり減らす行為だ。

 歪だったコインの動きは徐々に滑らかさを増している。

 ひとしきり操る事に満足するとコインをしまう。


(・・・あの夢は何だったのか?)


 おぼろげに白い空間と子供の笑顔を思い出す。

 ソレが内面の願望を意味しているのではないか。

 ―――と言うことに思い当たり表情の険しさはいっそう増した。


 鈍い頭痛が頭の芯に疼き、頭を叩かれたような衝撃を感じた。

 衝撃に痛みはない。ぱーんと爆ぜるような感覚で、これはが持つ持病の症状だ。

 本体の影響をキャラクターが受け始めた。

 それは危険なサインなのだろう。

 確証はない。誰も答えてはくれない。


 ・・・ただ不安だけをかき立てる。


 首を撫ぜる。痛みは無かったなと思いだすが、首を切られる感触を思い出し総毛だった。

 レベル表示はついに10だ。

 ここでも不安は残る。シバルリに転送されるのではないかと言う不安だ。

 その懸念は自分で否定できた。気の迷いというものだ。


 手に入れた大剣はレア等級で+5。彼は知らないがイモータル武器ではない。

 彼の目の前で縮んだ。

 通常人では非常に使いづらい大剣といった所で、付加能力はバーニング。


 少し悩んで引き出した。金庫管理はスクロールで行なえた。宿屋限定の行為なのだが。

 腰に小剣を差し、ベルトにナイフを装填して階下へと向かった。



 朦朧とした頭では階段の下りは辛かった。

 降りてみると数人の人が見える。

 戮丸に気付いた住人は寄ってきて「助けてください」といって戮丸を困らせた。


 意識がはっきりしていないことを自覚した。


 あれほど時間をかけたと言うのにだ。何とか住人の要望を頭に流し込む。オーガの襲来を受けているらしい。防衛に何人か出た。それも防げる数ではない。決定した終末を遅延させるための囮という意味だ。


 緊急事態だ。だが実感がわかない。遠い国のニュースを聞いているようで自分の身体が起動しない。そんな感覚に理性は焦れと告げる。

 それさえも遠い現実で・・・


 コップで水を胃袋に流し込む。まだ動き出さない。


 ―――何度も確認した。

 『―――残るのか?』と―――


 それでも彼らは旅人の馬に飼葉を用意してやらないといけないから・・・そんな理由で残った。それ自体は美しい。

 ただ、新生活に怯えているだけだという事が戮丸には判ってしまった。

 ―――大人だろう?。そのごまかしの対価に命がかかっているのは理解しての判断なのか。そこまで覚悟があれば、真意など取るに足らない。よそ者である戮丸の踏み入れられる領域ではないのだ。


 それでも・・・何度も聞いてしまった。


 案の定、結果は最悪を連れて来た。


 恰幅の良いおばさんはしな垂れかかって懇願する。


 ―――もう無理だ。

 限界なんだ―――

 

 しなだれかかった肢体に全く価値を感じない。死のうが生きようが関係ないとは言わないが、何も感じない。戮丸は覚悟があると感じたから引いたのだ。


 むしろ嫌悪感が沸き立つ。

 貴族は安寧に酔い、住民は美談に酔った。戮丸の声を無視して・・・


 ―――同じだ。

 いつもと同じだ。


 これで出来ても対価に足るものは手に入れられない。


 失敗したら罵倒し、どんなに助けたかったかを涙ながらに語るのだろう。成功したらハードルが上がり、今度はもっと美談に酔うために勝手な行動を始める。


 ・・・そして最後には小さい男だと勝手に落胆するのだろう。


 美談の向こうにある結果こそが普通であり当然だと。


 ―――普通ってなんだ?


 その結果のために必要なことは叫んだ。それを無視した。

 その対価は払わなければいけないのだ。

 俺が一人で払いきれるはずがないんだ。

 ―――それくらい判ってくれ。


 ああ、めんどくさい。

 いつもいつもいつもいつも・・・この金切り声を止めてくれ!


 ただ、戮丸は人助けを勝手にやる。

 その自覚がある。

 勝手な行動だ。

 なのに・・・いや、だからこそ勝手にやめる訳にはいかない。

 ―――不思議な矛盾。


 勝手に始めたことだ。勝手にやめればいい。

 結局評価は変わらない。あんたは何をやっても俺を罵るよ。


 帰らぬ人になったらわかるか?いやわからんだろ?

 俺が入院してもあんたは変わらなかった。


 普通普通普通普通。

 

 俺にはソレが出来ない。ソレが出来た体はとっくにアンタの無茶にくべてしまった。

 もう無いんだ。品切れの店でどんなに、がなっても無い物は無い!


 走れば止め、休めばけしかけ、焼け野が原で助けろと問い詰める。


 この首を捻れば静かになるのか?


 いや、手を汚すまでも無い。このまま死ぬんだ。

 放っておいても、自分がどれだけ愚かだったか呪いながら死んでいけ。


 俺はそうする。お前もそうしろ。


 




 ―――それでも子供は泣くんだろうな。



 戮丸は朦朧とした目つきで母親を押し戻す。


 決別の言葉を言うために。

 最後の言葉を言うために。

 これで終らせるために。





『まかせろ』


 ・・・救いようの無い馬鹿だ。

 世界の果ての神様だって彼は救えない。


 だってそれは、そんなものがいたとしても―――


 ―――彼は救う側なのだから・・・



ヒーロー惨状。

ホント救いようがないよね。

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