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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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077 マティ枯山水に因縁つけて入浴



 マティがインしたのは仲間達が去った後だった。

 先の妨害は最悪のタイミングだったが、そのおかげで最上の結果になったのは皮肉な話しだ。

 もし、白だったとしても一言言わずにはいられない相手―――


【ディクセン猟友会】


 胡散臭い組織である。彼らの無事を願わずにはいられないが、遅れを取るとも思えない。

 心配事はお人よしな性格が裏目に出なければいいが・・・


 こちらも動かなければ―――裏取りは彼らに任せたが、他の準備を始めておく必要がある。

 裏が取れ、実際制圧に移行したときも、彼らなら抑え切ってしまいそうだが、戦力が有ると無いとでは話が違う。無用な血を流せずに押さえられるはずだ。


 ―――相手の力は未知数なのだ。


 ポリスラインには書面を提出した。答えは予想通り戦力の確保は出来ないという事。

 旅団メンバーのディクセン入り禁止がでかい。

 もちろん旅団以外の腕利きはいるが強力なパイプがマティには無い。


 別の【猟友会】を頼るしかないか・・・

 真っ先に浮かぶのが猟友会【枯山水】。

 正直、既知外の集団だ。方向性の違いからオーメルを露骨に敵視している。【自由通商同盟】とも仲が悪い。つまり、孤高を気取った者の集まりだ。

 ただ、実力だけなら折り紙つきだ。


 気乗りはしない。言ってしまえばマティは巨大クランのペーペーだ。しかも、旅団外の猟友会・・・旅団内にも猟友会はある。それでは当然駄目だ。マティから見れば旅団に入れなかった者の集まりに顔を出すのだ。気乗りがしないのも当然というもの。


 他にも【猟友会】はあるが、二線級、三線級・・・戦力的には足りるだろうが必要なのは気位の高さ。超一流でなくては交渉の余地が無い。


 その溜まり場、西日の差し込む【宿り木亭】。その牧歌的な名前に反して看板は斜めにぶら下っており、いかにも安酒場といった面持ちで裏通りにある。ここが本当に【首都アルブレスパ】とは思えない。


 事実ギルドの運営実体から考えても、表通りに居を構えてもなんら問題ないのだ。旅団と共同歩調を取らないジェスチャーでもあるのだろうが、他の大手クランの隠れ蓑になっている実態も無視できない。


 腕章を外して来ようかとも思ったが、逆に舐められるような気がして――いつものいでたちだ。


 木製のスイングドアを押して店内に入る。壁には巨大な武器がかかっている。イモータル装備だ。特別な性能の品ではないがイモータル武器は形状がまちまちで見ものの目を楽しませる。

 中には巨人の剣などもある、これは多分、使い手が居ないのだろう。

 大きすぎる。入手行程を想像すると憧れよりもゾッとした寒気を感じた。


「旅団のお巡りさんが何の用だい?」

 その一言はマティの腕章を見ての言葉だろう。

「【枯山水】に協力を頼みに来ました」


 マティは宣言するように言った。店内がざわつくが、程なく静かになる。戦士にエルフにドワーフ。容姿は様々だが、共通して修羅場を潜ってきた枯れた目つきだ。「旅団に協力するわけねぇだろ!」と言外に視線が語っている。想定内だ。


「猟友会を名乗る組織が、ディクセンでかどわかしを行っている疑いがあります!」



 ◆ 巴龍退治の顛末



 前髪からたれた雫が球体になるのを目にした。

 室内は湯気で満ちている。湯船に腰をかけ巴は視線を動かさなかった。



 ゴールドドラゴン掃討は成功に終った。

 ただ、成功に終っただけで、結果は最悪に近い。パーティ【ドーラ】は空中分解状態だった。


 ――どうしてこうなってしまったのか?

 ――戮丸でも次郎坊でも早く戻ってきて欲しい。


 単発のアタックで成功したわけではない。

 5回の挑戦でやっと成功した。それはカタルシスではなく、無駄な時間をすごしてしまったという徒労感に支配された。

 最初の三回はブレスによる全滅。最も長時間生き残ったのは巴だ。パーティの面々は意見を活発に交換した。

 そう、巴以外は知りもしなかった。ブレスを生き残ってしまったものの不幸を――


 スレイの意見はいつの間にかドラゴン打倒から、なんターン生き残るかに変わっていた。もちろん、生存しない事には打倒は叶わない。当然だ。

 でも、5ターン経って生き残りが巴一人では意味が無い。それを如何にして6ターンに増やそうかと話し合っているのだ。

 ドラゴンに満身創痍で一人挑む絶望感を理解しようとはしなかった。


 ついに巴は折れた。4回目の挑戦前の事だ。


 持ち前のhpヒットポイントLAランジェリーアーマーの重ね着による防御力。そして抵抗値の高さによる抵抗成功で生き残ってしまう。


 それをスレイはわがままだと断じた。巴の目の前は真っ暗になった。


 その騒動を聞きつけ怒鳴りつけたのが、精霊雨アルブスレインのクランリーダー若きエルフ。ナハト・ムジークだった。


 ナハトは流刑地との売り込みのシバルリ村を観光がてらに訪れていた。

 スレイの考えの甘さを指摘し作戦を刷新した。その際に何で旅団が注意しないんだ?と訴えたが、緘口令が敷かれているとの新事実がわかっただけだった。

 スレイは次郎坊に対抗意識を持っていた。当人も気付かぬ内に・・・


 余力を残した戦闘法を提案していた。事実次郎坊はその次のトラブルを予見し、常にそれを見越した指示をしていた。

 当然スレイは予見できない。ならば余力だけでも、そう考えてしまうのは仕方が無いかもしれない。


 だが、相手はドラゴンだ。余力など残るわけが無い。


 ナハトが言うのは大魔法をいかに手早く吐き出すかが重要だといった。ドラゴンブレスはドラゴンのhp分のダメージを与える。つまり、最初に大技を使って削れば、ブレスは脅威ではなくなる。そして、その状態になってからが戦士の仕事だ。


 戦士の枚数を幾ら増やしても、ブレスは貫通する。意味が無いのだ。

 ドラゴンは概ね寝ている。その状態でいかに大ダメージ与えるか。そして、ファーストアタックは必ずブレスだ。Hpを削りきれていない状態でいかに被害を最小限に抑えるか?魔法使いが生き残るかが戦いの鍵だという。


 作戦を根本から練り直して・・・失敗した。だが、手ごたえはあった。


 そして、5度目の挑戦でドラゴンが話しかけてきた。話をしてみたら、善人だという事がわかった。これは懸念の通りなのだが、懸念の通りだからこそ始末に悪い。


「これ以上追い立てられるのは叶わない。宝はやる。そっとしておいて欲しいと――」


 それでも殺した。

 後には引けなくなったスレイと強者を倒したいというオックスの意見で―――


 ―――善人を殺した。


 戦闘終了後喜んでいたのはオックスだけだった。そして、スレイはぺしゃんこに凹んでいた。

 一番の被害者は巴である。謝って欲しいとは言わないが、どうしても励ます気にはなれなかった。

 それだけではない。

 特に巴の特色である剣技が全く意味が無かった。非人型モンスターには剣技・格闘技は全く使い物にならない。それは次郎坊が何度と無く指摘していたが、これほどまでとは思わなかった。ドラゴンクラスになると戦いというより土木作業だ。

 いかに剣のスピードが優れているといっても道具の段階で意味が無い。


 こうして、修練に汗を流しても全く手応えと言うものを感じない。


 煮詰まっている。ゴールドドラゴンの財宝により10レベルに到達してしまった。ダンジョンにも入れない。かといってシバルリ村を出る訳にはいかない。理由を話せば理解してくれると思うが、そこまでして外に出たい理由が見つからない。


 最近完成した施設共同浴場に来ても、虚空を見つめるという有様だ。


 こうしてみると美少年にしか見えないトロイが、湯船に顔だけ出してぷくぷく言っている。


 そう、勝利して失望を手に入れたスレイ達。

 敗北して次を手に入れた大吟醸たち。


 バランスは遥かにスレイ達の方が良かった。対して大吟醸たちはバランスも人数もバラバラ。


 この話を戮丸にすれば、えてしてそんなもんだと笑っただろう。



女性は長湯です。

次回は11/24 7:00です。

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