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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
50/162

075 ラストアタック11 皮肉な最後

月曜投稿分です。予約投稿という手もあるのですが、前回お休みを貰っていますので。


次回は水曜投稿になります。



 残弾1。

 予定が狂った。歯車は狂ったまま回り続ける。止まってくれと思っても、もう遅い。


義経(・・)すまんっ!」


 そう叫んで、呪文をマティに投射した。


 レベル4呪文【強化】(ストライキング)


 この呪文は攻撃の威力を上げるもの。戦士職なら誰でもかけて欲しい呪文だ。

 ただ単純な威力増加では足りない。しかもこの持続時間はレベルに依存する。ノッツではかけた瞬間に消える。

 これでは、ろくなプラスにならない。戦況を覆せる呪文ではなかった。


 だからこの呪文は大吟醸用と決めていた。彼のスタイルには筋力が・・・正確には握力がものを言う。それに、心臓まで貫通させなくてはならない。


 だから、忘れてくれと言った。


 同系列の呪文は多数あるが、それは魔法使いの呪文で、武器に魔力や炎を付与する。当然、威力・持続時間は上回る。使用レベルも低い。戦闘効率では魔法使いに軍配が上がる。


 しかし、この呪文は肉体(・・)にかける呪文だ。

 つまり、【増加筋力】。


 全員が言葉の意味を正しく理解した。


 マティは茨の魔剣を拾い上げ、イニシャライズを行う。

 マティの目の前に警告文が浮かび上がる。内容にも目を通さず、それら全てにYESを選び、最後にインジケーターをMAXに指定した。


 光の茨が腕を這い上がり胸まで覆う。想定していた以上だ。体の内側も根のように食い込み、何かを吸い上げる。

 それは痛みを通り越し、吐き気を催すものだった。

 片手では支えられず両手で・・・瞬間添えた手を這い上がり、意識が遠のくのを感じた。


「爺さん!早く!」


 言ってもしょうがないが、叫ばずには居られない苦痛に耐えて時を待つ。

 解き放つだけでも大ダメージ確定なのだがそれでも足りない。




 このアタンドットはプレーンなゲームに見えてそうではない。

 他の追随を許さないリアリティ、[痛み]が最大の要素だ。それだけで十二分な印象を与えている。そして、戮丸が看破した物理法則に則った格闘技の技の存在。ゲームエンジンの物理法則が許す限り全ての格闘技が成立する。

 その上で、オーメルのキャンセルにマティのアクセル。その使用条件も全て異なる。

 もちろん系統は存在する。

 戮丸のはリアルグラップル。ゲームシステムには技と認識されていない。普通の格闘技だが、桁違いの練度が劇的な効果を発揮する。大吟醸の構えでカウンターを取るのもこれに属する。最大の特徴はキャラクターのみならず、プレイヤーも使える。ただし、そのポテンシャルがキャラクターにあればの話だが・・・


 オーメルはコマンド式。入力を受け入れる角度とタイミングが存在する。それを逃せば、大きな隙を作る。


 マティのアクセルはアイコン式。説明の必要は無いだろう。


 そして、ダイオプサイトが行っているのは【シャウト式】になる。


 コレは言ってしまっえばカメハ○破や波○拳などに近しい。

 叫びさえすれば、技は幾らでも出る。格闘技というより呪文だ。ただし、その時の音量が規定値に達していればの話で、声量がものをいうのだ。


 今ダイオプサイトが行っているのは【祝詞】。【シャウト】には【祝詞】でロックのかかっている物がある。

 テレビアニメ等でお馴染みだろう。必殺技の前に特定の言葉を発する。そういったデザイナーの遊び心がふんだんに盛り込まれているのだが、アニメのように敵が行儀良く待ってていることは皆無。難易度は極端に跳ね上がる。


 【祝詞】は一音一句たがえずに、が条件だ。「噛みました」では通用しない。


 では何故ダイオプサイトが無事なのか?


 大吟醸の猛攻が支えている。

 状況は理解している。

 選考に落ちた。

 足を引っ張った。

 アレがラストチャンスだった。

 ――――決めきるべきだった。


 ―――――だが、ノッツは義経と呼んだ!


 逡巡が残っていた。

 叫ぶ必要は無かった。

 理解はしている。


 相手をこの場に釘付けにする。

 押し勝ってはいけない。

 殺されるのも論外だ。

 呪文を唱える余裕は与えてはいけない。


 永遠とも思える時間の七撃の応酬。

 大吟醸の盾が砕かれ吹き飛ばされた。それでも攻撃をやめない。

 仕込み剣の基部が拳の圧力に耐え切れず吹き飛び、グレゴリオのボディが突き刺さる。それでも構わず脇の下に剣をねじ込む。


 グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ・・・


 もう剣戟というにはあまりにはみじめなこじりを絶叫とともに捩じ込む。

 コノママ心臓マデ貫イテシマエ。

 その執念を嫌ってか、大吟醸を横に振り払う。


 ――――軽かった。


 その軽さに総毛立った時、ダイオプサイトの咽頭が見えた。


 ―――!!!


 グレゴリオは全身を音に打ちのめされた。この音自体に破壊力があるのではないか?そう思えるほどの轟音の塊をダイオプサイトは腹から吐き出した。


 ハンマーは黒い光を宿し、宙に軌跡を残しながら地面に突き刺さる。外れた訳ではない。その過程にあった全てのものを無かったかのように・・・

 鎧も、服も、皮膚も、肉も、骨も有った。有ったのだ。

 グレゴリオの下腹部は確かに有った。

 幻影でも蜃気楼でもない。

 音も立てることさえ許されず、えぐり取られた。


 ダイオプサイトのハンマーは円炎を水面のよう・・・流氷のように割り砕く。

 飛沫のように青い炎と地面は逆巻く。その全ては鋭利な槍の穂先のようで、抉られた穴も鎧も構わず突き上げる。

 多段ヒット技なのだろう。妙に長く続く。

 終わりを待たずしてマティの斬撃が走る。

 胸の鎧をサクリと切り、胸肉をゾブリと抉り――


 ―――魔力が弾ける。


 マティの体に異変が起こる。身体中に根を張られたと感じていた。そこから『大事な何か』が吸い取られた気がした。だがそれが魔剣の求める代償の全てではなかった。

 全ての根に鉄串を捩じ込まれる感覚。

 マティは悲鳴を全精力を費やして曲げて「アクセル!」と叫んだ。

 

 ―――往復だ。

 斬り下ろしは斬り上げに変わる。全身にみっちみちに茨が詰まる。

 (何%俺が残っているのか?)

 射出を終えた斬り上げに両手は要らなかった。右手は腰に走る。

 愛剣アロンダイトの元へ・・・


「悪いが三刀・・・」

 模倣者は意地と根性とプライドで模倣者たり得た。

 腰先からアロンダイトは出撃した。それは突きであったが、射出といっていい。狙いは二度の爆撃で露出した内臓――心臓だ。

 アロンダイトの出撃後、時を置かずしてマティは沈黙した。


 グレゴリオはここに至ってやっとカラクリを理解した。心臓だ。これを傷付けられるとヤバイ!慌てて右手でかばいアロンダイトを弾き飛ばした。

 だが飛ばなかった。アロンダイトは手甲ごと貫通し、刺さったままだ。

 そして――


 ノッツのが銃の形を作った手を向けている。


 ――左!!

 【重傷】《シリアス・ワンズ》


 庇った左手が爆ぜる。


 それも理解した。

 ノッツは場所が指定できる!


 呪文を放つ瞬間ノッツの身体が揺れた気がした。

 ――気のせいか?

 否!気のせいで済ましていい事象は彼らには無い。


 大吟醸!

 多分大吟醸がノッツを踏み台に跳んだ。

 彼の見せた数少ない攻撃パターン!

 最悪だ!大吟醸はそれに特化した戦士だ!


 しかし、そんな物は・・・

 ノッツの銃口は心臓に狙いを定めたままだ。

 視線が外せない!

 蛇に睨まれた蛙のように身体が動かない!

 身動じろぎでかわせる程度の技量じゃ無い。


 瞬間のひらめきに全てを預ける!

 考えている時間は無い!




『悲報!!!我々の偉大な計画は何者かに妨害されましたwww!諸君が身命を賭して築いてきた計画を台無しにされたのですwwwこれを―――』


 ノッツは耳を押さえて蹲る。その姿に気を取られたグレゴリオの目の前にグシャリと音がした。

 大吟醸が顔から地面に落ちた。

 グレゴリオは距離を取って様子を伺う。


「何が起こった?」


 思わず口から言葉が毀れる。大吟醸・ノッツ・ダイオプサイトが呻いている。

 腕を見る。吹き飛ばされた左腕は筋肉が派手にはじけただけで再生が始まっている。右腕にはアロンダイトが刺さっている。足は腹から腰骨・内腿を抉られた。だがその攻撃から腰骨全体は損なっていない。再生が始まっている。


 口でアロンダイトを引き抜き右手に持つ。細すぎるが今はいい。

 この戦いを続けるためには木の枝でも過分な武器だ。



終りませんでした。

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