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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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072 ラストアタック8 避けられない避けたい戦い。



 天を仰ぐ。むき出しの天井は静かにそこにあった。何処から毀れてくるのか、光は満ちている。辺りには人のいない町並みが広がる。街といってもミニチュアで、副葬品だそうだ。


 副葬品には殉死者からその代替品の埴輪を埋めるのは良くある話だ。花や種などが発見された話を聞いた事があるが、街というのは珍しい。権力欲の象徴か、それとも単に故人がさびしがり屋だったのかはわからない。

 薄ぼんやりとした橙の光で浮かび上がるその光景は寂寞としていて、それでも何処か暖かくていいなと感じた。


 これが吸血鬼の聖堂ということを忘れてしまう。多分、この遺跡は吸血鬼となんら関係が無かったのを悪用していたのだろう。


 中央には舞台とそれを半面覆うような壁。棺は見当たらない。これが墓所なら中央のこの場所が・・・もしかしたらこのミニチュアの一つ一つが墓標なのかもしれない。


 文字は風化してしまった。そこには町並みだけが残るのみで・・・


「ささ、一献」


 ゴブリンとトロールたちが酒を注いで回る。恐怖を通り越して笑ってしまう。臆することなく飲み干したダイオプサイトが「コレはいい酒じゃな」といったので、続いてあおった。

 喉が焼けて咽た。グレゴリオが鷹揚に笑い「きつかったですかな?」といい。ダイオプサイトは「何じゃだらしない」と嗜めた。その顔も笑っていた。

 その名も日本酒のような大吟醸は猫背で舐めるように挑戦を繰り広げている。マティは慣れたように軽くあおる。お酒に強いようだ。

 「口の中に含んで冷たさが感じなくなってから飲み干せば。咽ませんよ」とグレゴリオはいう。その声は大人びた優しさに満ち溢れていて、安心へと誘った。


 穏やかな時間だった。


 トロールたちは財宝を運び舞台の袖に積み上げている。『働いていないで飲みなさいよ』そんな言葉が喉に出かかった。

 グレゴリオの人徳だろうか、そんな気がする。


 これから殺し合いをするのだ。




 それはほぼ決定事項だろう。ダイオプサイトが態度で教えてくれた。挑発的な言動は、己の闘志を鼓舞するため。柔弱な発言は危険度が高いためだ。ドワーフがトロールと敵対してるといっても、そこまでダイオプサイトが安い人物ではない。ああやって僕らを守っているのだろう。

 ただ、戦いたくない。そう思う・・・いや、感じるのだ。

 何とか回避する手段が無いか探してしまう。マティも同じ気持ちらしい。先ほどから何度か言いかけては居るが、それを僕は仕草で抑えた。

 任せてくれるらしい。盃を空にした。


 大吟醸は何も考えていない。というのは失礼か、この邂逅を楽しんでいる。話が遠慮がちになってきたので「戮丸なんて大したことねぇよって前に言ってたじゃないか?」と話題を振った。

 こう言われれば、いかに戮丸が強いか、つまり、気負った発言になる。これでしばらくは大丈夫だ。


 勝ち目は無い。むしろ、バンパイアの方が良かった。明確な弱点があった。そこに向かう道筋もあった。だが・・・今は悔いない選択を模索している。


『現実を見ろよ』


 そう、訊けばいいのだ。

 ただ、訊けばこの時間は終ってしまう・・・


 それが言い出せず、酒を舐める。



 ◆ 評価値という考え方



「何故、貴方は私達に丁寧・・・いや、したでに出ているのですか?」

 終焉へと向かう質問を僕はした。


 考えなくてもこの場で最強はグレゴリオだ。居丈高に迫ってもおかしくない。むしろそっちの方が普通だ。したでに出るから、不戦の可能性を模索してしまう。


「したで?・・・私は素直にあなた方を尊敬しているのです」

「尊敬?・・・何処をどう見ればそう見えるのでしょうか?確かに僕らは自分に自負はあります。しかし、ダークロードの貴方に尊敬されるとは思えないのです。三人は10レベルちょっとの実力しかありません。飛びぬけて高いマティでも20ちょっと、貴方の半分しかありませんよ」


 そう、グレゴリオは45レベル。歯牙にもかかりはしない。


「なるほど。そういう見方・・・見えないのですね。よろしい。説明いたします。」


 そう言ってグレゴリオは盃を置いた。


「まず私の視界ではあなた方のレベルが見えます。それは同じでしょう。ただ、私達は道具を必要としません」


 僕はゆっくり頷いた。


「それと同時に評価値というものが見えます。レベルはあくまであなた方の肉体の性能を現しているに過ぎません。評価値はあなた方がなんレベル相当のモンスターかを示しています。言葉が悪いのはご容赦ください」


 ダイオプサイトが言っていた。あのレベルだ。そういう表現になったのも理解できる。


「驚くことにその差が全員15以上有るのですよ。あなた方は」


 大体の想像はついていたが、そこまで差が有ると現実に宣告されたのは衝撃だった。


「義経殿に至っては20を越えているのです。これには脱帽としか言いようが無い。わかりますか?わかりますよね。私には想像すらつかない。あなた方はどんな宝石にも劣らない奇跡なのです。その上連携まで・・・もう数字では計れません。そんな相手に居丈高に迫るなど出来よう筈もないのです」


 大吟醸は顔を高潮させ、マティは何か言いたげだが・・・納得してしまった。


「つまり、戦闘力に敬意を表して持て成した・・・と、戦闘は不可避ですね」

「ご理解いただけて何よりです。さあ、戦いましょう」

「まってください。戦闘は不可避・・・コレはいいのです。が、聞いて頂きたい事があります」

「何ですか?」


 立ち上がりかけたグレゴリオは腰を下ろした。


「私達は助命嘆願・・・つまり命乞いをし、それに貴方が激昂して戦闘に至る。それが今回の筋書きだったのだと思います。それでも貴方の目的は達成される。少し話した程度で何事が変わりましょうか?無価値といってしまえばそれまでですが・・・私は完璧を望みます」

「完璧・・・ですか?」

「そうです。貴方の本当の願いは評価値通り、もしくはそれ以上の性能の私達と戦いたい・・・そうですね?」

「然り・・・しかしそれは追い詰められれば自然に発揮できるものではないのですか?」


「結論から言えば無理です。仲間に聞いてみましょうか・・・」


 三人は異口同音で無理だと返した。


「何故です?」

「それは私達が圧倒的に・・・いや、決定的に弱いからです」

「?・・・弱い?・・・それより何故あなた方は助命嘆願などするのですか?」

「私達三人は不死です。ご存知の通り。それゆえに別れに弱いのです」


 グレゴリオは密かに滾らせた怒りを解き訊きに入った。


「私達プレイヤーは本来、食べる為でも殺した経験は有りません。もちろん全くないとは言いいませんが、殺意を持って殺した事は殆どない。ましてや尊敬する相手を・・・尊敬してくれる相手を殺した事・・・人殺しは絶無です。不思議に思われるかも知れませんがそういう社会に属しています」

「あなた方は不死では・・・死ぬのですか?」

「死にます。今の私達は人形のようなもので、その人形が死なないだけ・・・死んでも直せば良い訳で、最悪代わりを用意すれば、問題なく動きます」


 酒を舐め喉を湿らせる。


「逆にその操り手である人間が死ねば、この体は動かなくなります。というよりも存在できないでしょう」

「では、その操り手と戦いたい」

「無理です。世界の外側に居ますし、その操り手は酷く弱い。魔法も仕えませんし、剣も持ったことがない」


 グレゴリオは衝撃の告白に唸った。ダイオプサイトも驚きを隠せない。


「馬鹿にするつもりはありませんが、我々にとって生死は遊びなのです。どんなに真剣に取り組んでも呪われたように遊びなのです」


 ノッツは丁寧に話した。何処で激昂してもおかしくない。それでも伝えたい。その一心で話した。

 この素っ頓狂な話を信じてもらえるか?


「だから、とても弱い。人の死に、言葉を交わせる相手の死に全く耐性がないのです。戦士の覚悟を声高に叫んでも絶対に・・・遊びなのです」

「そして、仲間を失いたくない。人の死は禁忌です。耐性がない。その上貴方は礼を尽くした。最悪です。私は好ましい人に殺意を向けることに、拒絶反応を起こしていると思っていました。私はそんなに大した慈善家ではない。ではなぜ?答えは簡単です。人殺しを犯す事が怖いからです」


 沈黙が流れた。人殺しが怖い。冒険者としては三流の言葉だ。それもトロールにそれを訴えている。救いようがない。


「では、私の態度は逆効果だったのですか?」

「貴方が貴方である以上、結果は変わりません。唯礼を尽くしてくれた。それに答えたい自分が居ます。無駄ではなかったと思いますよ」

「それを聞いて安堵いたしました。ではなぜ?」


「その二つのすれ違いがあったままでは、本気になれないというのが一点。そちらの軍勢全部には勝ち目が全くないのが二点。そして、さらに一点。三点目は私達はバンパイア対策しかしていないのですよ。御恥ずかしいことに」


 グレゴリオは鷹揚に笑った。


「それなら私達は存分に話し合った。一点目は解消ですね。二点目は、元より奴らに介入はさせません。会話の半分も理解できないやからに振舞う気はないのです。そして三点目はよろしい。存分に作戦を練ってください。興味があります」

「いいのですか?逃げますよ?」

「この期に及んでですか?」

「ええ、そちらも作戦を練ることをお勧めします。逃げないと宣言しては評価値が落ちると思いますので」


 グレゴリオの笑い声が木霊した。


「よろしい。では全力で」

「はい。戦いましょう」




 舞台の上で陣を二つに分け、作戦会議が始まった。


「ようやった。これで戦いになるわい」

「あーつかれた。何とかイーブンまで持ってこれたよ」


 トロール・ゴブリンの不介入の約束。コレは大きなプラスだ。それに作戦タイムが作れた。作戦自体は戦いながらでも練れるが、意思の統一が出来ているとないでは雲泥の差だ。会話の余地があると信じて闘うのはいいが、それが個人の意見では困る。


「で、作戦はあるのか?」

「あるよー」

「どんな手でいく?」

「まずねぇ・・・逃げよ」


 三人はあんぐりと口を開けたままだった。



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