071 ラストアタック7 意外な結末?
「お嬢さん。こういう時に男性に抱きつく女性は居ないんですよ」
「え?」
美女の胸には聖別された小剣が突き立っていた。
「そう!どんなピンチでも男に抱きつく女は居ない!ソースは俺!そんなもんに騙されるか!くたばれバンパイア!」
そう大吟醸は何度も女性を助けてきた。その度に微妙に距離を置かれた。罵詈雑言を浴びた事もある。考えてみれば当たり前だ。襲ってきた男から逃れて、同じ男に抱きつくなどありえない。それこそ『イケメンに限る』ファンタジーだ。
ちなみに、大吟醸もノッツもカッコよく作ってあるので普通に美形だ。それでもモテ度に差が出る・・・いや、モテナイネトゲの不思議。
哀れである。面の皮一枚に左右されない非モテパゥワァー!恐るべし。
―――!
耳障りな絶叫が響き、もだえ苦しむ。女の両手は歪に伸びその爪で大吟醸を引き裂こうと襲い掛かる。
「悪いが三刀!」
本来の剣と仕込み剣で両腕を斬り飛ばす。両腕は霧散した。
余談だがこういう時は普通にかっこよかったりする。
「っておまっ!そんな事で正気に戻るか!」
突っ込まずには居られない。
マティは腰の剣を抜き、お構い無しに横から聖別された小剣ごと心臓を貫き地面に縫い付ける。
「いかんの・・・ひくんじゃマティ」
そう言ってダイオプサイトが地面に縫い付けるようにハンマーを叩き込む。美女だったものの顔に面影は無い。苦悶の表情と怨嗟の断末魔が響く。意外なほどにもがいていた時間は長かった。基礎Hpが非常に多かったのだろう。それが消耗しきる時間かかったのだ。
さっきはとっさにノッツが【覚醒】をかけていた。意外なほどに便利な魔法だ。バンパイアには【魅了】の固有スキルがある。その瞳を直視してしまったのが大吟醸だった。
トラウマが正気に戻った原因・・・ではないと思いたい。【魅了】に【覚醒】が効いたか確認する間もなかった。
バンパイアはゆっくりと灰になった。それを見守った。既に囲まれている諦観もある。バンパイアがこれで完全に死ぬとも限らない。
「これで終りかのぅ」
「いや、棺桶も処理した方がいい。色々と作法があったはずだ」
「それは、こちらでやろう人間よ。混沌に組していないならば時間が欲しい。改めて礼がしたい」
「自然に会話に混ざるなトロールの若造!」
トロールの声はとても良い声で安心感すら与えた。その外見からは想像もつかない。声だけ聞けば落ち着いたナイスミドルを連想させる。
―――ノッツは大きな溜息をはいた。
「あなたは?」
「私か?私は女神ケティスに仕える【カルト】【ケティスモーラ】の神官にして【ダークロード】の正直者のグレゴリオだ。異教の神官よ・・・貴方は?」
すっげぇ礼儀正しい。それだけで気圧される。それに【ダークロード】って・・・
「私はノッツ。見ての通り神官です。ただ、神様の名前は知りません。勉強不足で・・・」
「その身を捧げる神の名も知らなくて、神官が務まるのですか!―――人間は違うな・・・」
「無所属の神官というところでしょうか?」
何を言っているのか?自分でもそう思うけど、こういうゲームの中の僧侶がどの教団に属しているか、言える人いる?
グレゴリオは素直に感心している。何と言うか柔軟な人だ。この人なら話して通じるかもしれない。
「興味深い・・・そちらの方々は?」
「私は氏族【赤の旅団】に属する戦士マティです」
マティは警戒だけは緩めないが釣られて敬語になる。落ち着いて名乗った。周囲ではトロールとゴブリンが囲っている。半分は破壊に興じている。神殿を汚す必要があると聞いた事がある。バンパイアの復活防止策の一つだろう。
「俺は大吟醸 義経。シバルリ村の戦士だ」
「それは、大吟醸という氏族の義経という意味ですか?」
意表をついた質問に大吟醸は目を白黒させる。考えたことも無かった名字といってわかって貰えるか?
「家の名前じゃよ。トロールの若いの。氏族の中の家、わかるじゃろ?」
「なるほど、勉強になりますドワーフのご老体・・・貴方は?」
「わしゃ、シバルリの群党左門芝瑠璃が族のダイオプサイトじゃ。よろしゅうな」
「ほう、これは失礼しました。透輝石殿・・・しかし解せません、あなた方ドワーフで石の名前を冠するドワーフは族長の位にあると聞き及んでますが?それにシバルリとは?よく出てきますが?」
―――!
色々びっくり。衝撃の事実。まず戮丸が族長?その辺もわからなくは無いが・・・族長クラス?オプ爺さんが?
「まず、我らが族長はわしより強い。いろんな意味でわしが惚れ込んだ。群党左門芝瑠璃戮丸じゃ。覚えておくと良かろう」
ゴブリンたちが悲鳴を上げた。オプ爺吹き過ぎとも思ったが・・・ゴブリンマッシャーの威力はここまであるのか・・・。
「なるほど、只者ではない御仁とお見受けする」
「うむ、おぬしのような若造はちょちょいのちょーいじゃ」
ま・て・よ。幾ら戮丸だってダークロード相手は無理だ。
「その戮丸が治める村がシバルリじゃ。そこの二人はその村のものじゃ。氏族の名乗りは挙げておらんがの」
―――村長の霊圧が消えた。
「氏族の名乗りを挙げてない・・・?」
「うむ。でっかい男じゃからの考えがあるんじゃろ。わしらドワーフは自動的に族長に仕立てた。当人は知らんかもしれん。まあ、些細なことじゃ」
些細で済ますな。当人に拒否権は無いのかとも思ったが、族長なんてそんな物かもしれない。
話を交わすとグレゴリオは神託を経て混沌征伐に出てきたらしい。てっきりトロールも混沌に組しているものと思ったが、まるっきり別の集団らしい。トロールは混沌を嫌悪している。
「彼らは食べても灰になってしまうので食べた気がしないんです。その上、毒だ。論外です。口を開けば醜い醜いと煩いだけで虫よりしつこい」
(―――そんな理由ですか・・・)
グレゴリオは訊いた事には素直に答えてくれた。
グレゴリオは普通のトロールより一回りでかい。通常のトロールのようなでっぷりとした印象の体格ではなく。屈強なスタイルでどう悪く言っても固太りといったところだ。
甲冑も着られている印象も無い。装甲板を貼り付けたように見えその鎧には無数の光のラインが埋まっている。魔法の品だろう。脇腹も首元も覆っている。大吟醸の戦法はともかくマティでは無理だ。
装甲板は煤けたような色合いで歴戦の風格を醸している。
そして、分厚い盾を持っている。鎧と同じものなのか意匠も同じでその性能が伺える。
「薄汚いゴブリンですが血はまだいけますよ」
ペットボトルのキャップを捻るようにゴブリンの首をねじ切りグビリグビリと一杯やる。一行が遠慮するとグレゴリオはトロールに投げ渡した。受け取ったトロールはバキバキと音を立ててそれを喰らう。
「人間を喰うのはオーガじゃなかったんかよ」
「ゴブリンですよ?それに逆です。彼らは好き嫌いで人間しか食わないんですよ。だから、あんなに不健康で奇形なのです」
「――――――――――健康ってのは見る間に傷が治るってことかい!?」
「そうです。トロールは何でも食べます。だから健康なのです」
皮肉交じりの大吟醸の突っ込みに丁寧に返答をする。
「トロールの悪食グルメ振りは、わしらにゃ定番の笑い話じゃよ」
「重金属ソープの深い味わいが、分かち合え無いのは残念でなりませんね。体が受け付ければ美味しいんですよ」
本当に残念そうにグレゴリオは言った。心からそう思っているのだろう。軽く悪夢だ。
「どうですか?一献。薄いですが人間の酒があります。なかなかのものですよ」
「ほう。それなら馳走になろう。異論は無いじゃろ?」
「あ・・・ああ」
現状で逃げ出すのは得策ではないが、ここで交渉の場を持つのは悪いことではない。
予想を遥か斜め上に跳び越えて最悪ってなんだっけ?という状況だが、幸いグレゴリオは極めて友好的で、楽しそうに見える。
問題は爺さんが暴言を連発している点。気にしたふうも無いのが幸いだが、何時逆鱗に触れるか、わかったものではない。
与太話:小説執筆中は他人の小説が読めない。マンガもですね。上手い下手の問題では無く。読んでる最中に自分の小説に代わってしまう。
何とか内容は把握できますが楽しめない。
私だけでしょうか?
脳障害の疑いが出ているだけに心配でなりません。
ちなみに医者に相談すれば笑われる程度の事なので、重篤な状態ではありませんよ(笑)