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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
42/162

067 ラストアタック3 言い訳

普段の倍の文量が有りますので注意。



「進撃を提案する」

「―――正気か!?」


 マティは耳を疑った。引き返す理由は山ほどある。それじゃあべこべだ(・・・・・・・・・)


 ここはマティが進撃を提案してノッツが止めるところだ。


「ノッツ・・・お前・・・攻めたいのか?(・・・・・・・)

攻める?(・・・・)

「・・・ああ・・・そう・・・そうなのかも知れない。ただ、治療魔法は満タン。HPもだ。これで退却指示は出せないよ」


「それももっともな話だけど・・・攻めるってなんだ?」

「それは・・・」

 大吟醸が言いよどむ。


「残機1の不思議なパワーだよマティ」

 それは背水の陣に似ている。そのものなのかも知れない。

 車でコーナーを攻めると近いのか?彼らのようなアクション系ゲーマーにはあるらしい。一歩間違えばヤバイ瞬間で戦う決断が・・・


 たとえば弾幕ゲー。未到達なボス戦開始前。残機1。ボムは0。情報収集に徹する場面だが・・・それはNGらしい。

 情報収集したければ録画して置くべきだ。


 残機1でノーボムの情報などあてにならない。決めボムポイントなど見つけても多分発見時には死んでしまう。・・・ならば攻めるべきだ。ボムが無効なボスは存在する。あまつさえ使えば回復するボスまでいる。確かめようの無い事に意識をさくべきじゃない。


 ありとあらゆる情報・集中・技術・カンを信じてひたすら攻める。

 なんだったら魂だっていい。使えるものは何でも突っ込む。使えないものは全て投げ捨てる。


 そうしていると活路が開く・・・事が多い。

 自分でも信じられない回避テクを見せたり、大体そういう状態を降りてきているなどと表現する。

 大抵はボムを拾ったり、エクステンド(1up)したりして突破出来たりする。


 そんな状態は狙っては出来ない。そんな努力をする位なら、そのレベルの回避技術を身につけるほうが速い。


 だが、ゲーマーの技量というものがあるのであれば、その攻めた回数が多いものが上手い人間だと確信している。


 もし、貴方がネットゲーマーなら敗戦濃厚な戦場で、混戦で『攻めろ』と叫ぶプレイヤーに出会ったことは無いだろうか?

 もちろん、戦術的な意味ではない。弱腰になった瞬間から瓦解する。それを知っているプレイヤーだ。


 ただ、それを知識で知っていて真似ているだけのプレイヤーもいる。大体が戦犯回避の言い訳作りだったりするから注意。


 それは当然だが自殺行為などではない。酷く似ているが生きる為の行為だ。


 マティにも心当たりはあった。荒野戦などその際たるものだ。そうやって死んで集めた情報で活路を見出して・・・

 しかし、今は違う。死ねないのだ。絶対に許されない。


 四人で挑んで四人で死ねば、ベットで起き上がるのは三人。


 冗談や軽口で済ませられるはずが無い。少なくともマティには出来ない。


「ゲームじゃ無いんだ。許される事じゃ無い!」

「ゲームだ。マティ」

「ゲームって・・・ここは限りなくリアルなんだ!ああ、いいさゲームだ。そうさゲームショップの棚に乗っているものと同じさ!それでも耐えられるのか!仲間の死が!・・・もう二度と会えなくなるんだぞ!短い付き合いの俺ですら耐えられないのに、お前らが耐えられのか!?・・・そうじゃ無いだろ!」


「そうだよ!無理だよ!だから限界ぎりぎりまで攻めるんだろ!?安地でぬくぬくじゃ先が無いんだ!」

「先ってなんだよ!そんなにテクが大事か!」

「じゃあ、テメーは冒険なんか出てくんな!資格ねぇよ。お前!」


 ダイオプサイトは熱くなった二人に割って入って止めた。二人の言ってる意味は痛いほど良くわかる。


「まだ、引くかどうか決める頃合じゃ無いじゃろ?大吟醸も、マティも落ち着け声が響くわい」


「大吟醸。そんな熱くなって攻めるも何も無いじゃろ?」

「・・・すまねぇ」

「マティも、気持ちは良くわかった。本当に有り難いが・・・わしゃ戦士なんじゃ、その覚悟は何時でもしているんじゃ・・・すまないのう・・・」


 ダイオプサイトの消え入るような言葉にマティは愕然とした。信じていた何かが足元で音を立てて崩れたような気がして・・・へたり込んだ。


「・・・何時かはわしも死ぬ。マティの言い分なら偶然の一撃で命を落とすのじゃろう。そのとき、二人が・・・いや三人が必死で助けてくれるのもわしゃ知っとる。その上で死ぬのがマティの受け入られるわしの死に様なんじゃろう。・・・ただ・・・わしゃ、やなんじゃよ・・・その死に方だけは・・・勇敢でいたいんじゃ」


 完全に失念していた。結局は自分のエゴでしかない。死の危険は等しくあった。彼らは本当に死が溢れる戦場を渡り歩いてきた戦士。


 最初から違いすぎた。覚悟の量が・・・理屈はわかるがそれでも甘受できない。




 納得などできるものか!



 ◆ 信じ切れない



 マティは壁を背にへたり込み、膝の間に頭をうなだれている。


 ――言い過ぎたか。


 マティの気持ちは良くわかるが引いて勝てる戦場じゃ無い。まだ、その入り口にも立ってないが、ノッツはその先を予測して言っている。

 ノッツの判断には信用を置いている。激戦が待っているのだろう。最悪思いつく限りの――攻略ルート切り開きながらの戦闘になる。


 しかもワンプレイのみの・・・


 どちらにしろ俺のスタイルは、飛び込まなければ始まらない。やる事は・・・いや、思いつく限りやってみないと・・・


 しかし、解せないのはノッツだ。言いたい事はわかる。窮地に立てばストック呪文も一瞬で消えるだろう。だからここで・・・


「・・・なんで今なんだ?」

「何が?」

「進退だよ。今決める理由は・・・何となくわかるが・・・理由・・・そう理由だ!何でこのダンジョンに拘るんだ?」


 もったいないがここで放置したっていい。攻略する必要性自体が希薄なんだ。誰が死ぬと言うわけでもない。何でそんなに拘るのか?普通に進んで・・・無理だと思ったら即時撤退。それでよかった。それならこんなにもめない。ノッツは信頼を得ている。


「それは俺も訊きたい」

「わしもじゃ、今までこんな事は無かった。引くなら退却の一言でわし等は従った。何で今回はこんな回りくどい・・・おかしいぞい」


「単純に進みたいだけなんだよ。・・・カンかな?」

「それじゃ説明になってない。納得させてくれ。こんな状態じゃここで撤退した方がいい。連携なんてバラバラだ。一応指揮官は俺なんだろ?」


 確かに、マティの言うとおり、ここで撤退も悪い考えには思えない。少なくともこの言葉には、大吟醸もダイオプサイトも納得した。


「敵も来ないようだし、腹ごしらえしながら話そうか」



 ◆ 劣等感コンプレックス



 車座で薪を囲って座る。

 部屋は来た方向と右に道がある四角い部屋だった。道といったが右手に扉が有るだけで、うち開きの扉の向こうはわからない。ナイフで閂をかけて簡単に開かないようにした。

 戮丸がミミック部屋で見せた手法の応用である。

 干し肉やパンを火で炙りながらスープを啜る。


 酷く味気ないが、こういった休憩が無駄ではない事は知っていた。


「俺と大吟醸はシバルリで二軍なんだ・・・」

「はい?」


 ノッツの告白はマティには意外だった。二人ともどのクランでも一線で戦える・・・というのは言い過ぎとしても確実に貴重な戦力だ。


「そんなの決めてるとは聞いてないぞい?」

「ああ、確かに俺らは二軍だな」

「お前らより腕利きがいるのか?」

「・・・腕利き・・・って表現はちょっと違うな。腕は確かなんだがゲーム経験が浅くてさ。戮丸を慕ってるのさ。俺らと違って」

「・・・嘘だろ?慕ってないのか?」

「嘘じゃ無い。俺なんか最初はもろ敵対してたし・・・ノッツなんて脅迫までしたんだぜ」


 確かにそんな事を言っていた。それでも・・・


「流されたんだ。自然とな・・・」

「そう、オマケなんだよ。俺たち、今はシバルリも大変だから協力してるけど落ち着いたら、他に流れようかって話になってる」

「初耳じゃ」


「ああ、今はクランをあいつが作ったら入れてもらおうかと思ってる。なぁノッツ。所属だけして旅するって所か?」

「その辺が妥当じゃ無いかな?――シバルリは出るな」

「何故?」


「敵うわけねぇじゃん。なまじゲーム経験が多いからさ。上手い奴の近くには居たくないんだ」

「嘘だけどね」


 大吟醸の弱音をノッツが否定した。あっさりと。


「そう、嘘。何でもかんでも正解知っている奴のそばに居たくないのさ」


 大吟醸は言いなおした。――見透かされている。これは、わかる気がする。


「まぁ、それも嘘なんだけどね」

「・・・おいノッツ」


 大吟醸はノッツの襟首を掴んだ。構わずノッツは言葉を続けた。


「シバルリ開放の件は知ってるかい?オプさん辺りは耳たこだろう?」

「うむ。胸のすく話じゃわい。ゴブリンたちを戮丸がちぎっては投げちぎっては投げ・・・」


 マティは当然知らなかったので、オプさんの話に聞き入った。さすがに崩落のくだりは驚きを隠せなかった。

 信じられないと見回すと二人は肩を竦めた。その現場は二人とも見ていないが村人全員が証人だ。否定のしようが無い。


「俺たちは見ていないんだ。ソロイベントだったしね。俺たちが見たのは英雄譚の舞台裏だけなんだ」

「舞台裏?」

「そりゃ、凄かったよ。ソロでダンジョンこなして資金集めて、レベル上げて、今度はレベルが上がりすぎたって死にに行って、そのうち他の奴の面倒見初めて・・・経験値は要らない。金をくれって」

「・・・正気の沙汰じゃ無い」


「その何倍も上を行ってたよ。ソロで攻略したダンジョンのマップを売り出したりな。お宝全スルーでそれならレベルは上がらない。ないす・あーいであって、アホだよ」


「ガルドに頼んでバリケード素材買って、溶岩ダンジョンで鍛冶場作って組み上げて持ち込んで、情報足りないってダンジョン突っ込んでさ。古文書大量に・・・あの時も魔法使い大歓喜だったっけ?レベル上がっちまうから拾ってきてくれ。そこに置いたからって」

「そうそう、誰が貰うでもめて、痺れ切らした戮丸がダンジョンに全員ぶち込んで・・・どうなったと思う?」


 マティは肩を竦めてわからないと表現した。


「持ちきれねぇから手伝って・・・て、初心者部屋の魔法使いとエルフ全員だぜ?ありえないだろ?」

「幾らになるんだ?総額」

「あの時は金とって無かったな・・・山のような本を『読んで』って・・・」


 呆れた・・・なんだその行動力・・・


「オフラインでも調べ物しまくってたらしい。主に鍛冶の仕方」

「ソロシナリオだろ?インしていない間はダンジョンの時が止まるらしいのよ。それ利用して・・・まぁ容赦なかったね」

「思いついたら手当たり次第。その副産物が俺らかな?」


「副産物?」

「もちろん戮丸だってダンジョンソロ攻略はかなりの無理だ。最終的にはサブキャラの次郎坊が偵察。それを元に攻略メンバー決めて・・・だから、盆暗じゃいられないのさ。レベルはガンガン上がるし装備もそろう。ダンジョン攻略は計算しつくしてくれるし、それに不満なら、マップだけポーンと投げて『やる』って」


「だから、敵対してたなんて流れてしまったよ」

「そう、もっとも戮丸の味方してたのはワンパーティ分の人間で他全員が敵だったんだ。そんな中でマップやアイテムが飛び交う。情報や研鑽は日常だ。戮丸のギアに全員が巻き込まれた感じだったぜ」


「それが戮丸には必要だった。戮丸が初心者部屋をフル回転させて――その結果が英雄譚だったんだ」


 誰もが協力?と呼べるのかどうかもわからない。それ位戮丸が提示した条件は買い手有利な話だった。嫌悪感を持ってる奴も居たが時流に乗り遅れまいとその流れに参加した。圧倒的にプラスだったからだ。だから、戮丸の評価は日を追うごとに代わっていった。


『ありゃ、香具師やしだ。精々便利に使わせてもらうぜ』


 最悪でもこの評価だ。

 香具師は弾幕などのシューティングゲームの達人に送られる蔑称・・だ。そのジャンルは氷の時代が長く、その鍛錬にはストイックな姿勢が求められる。その上、派手さにかける。

 その腕前と努力の無駄遣いを意味する言葉だ。


 戮丸が完全制覇に拘る理由がわからなかった。そりゃ人道的な意味もあったろう。だがNPCの認識がゲームのそれである以上、ノッツたちには理解の範囲外だった。


 戮丸のくたばりっぷりは良く覚えている。フル回転だったからな。初心者部屋に居る以上ダンジョンの時間は進まない。半月をかけてじっくり攻略していった。


 ああしたい。こうしたい。ああでもない。こうでもない。そう考え、自分でハードルをガンガン上げ、それを容赦しない方法でクリアした。その結果がシバルリ村だ。最後は旅団を使って世界も操った。


「それが、今回の件とどういう関係が有るんだ?」


「だからさ。俺たちは戮丸と同じ事がしたいんだ」

「・・・お、おい?」

「もちろん、当然出来ない。だから逃げ出したい。出来ないどころか何をすればいいかも――わからないからな。本当はそんな所だろう大吟醸?」


「・・・そうなの・・・かな?・・・ただ、おれは・・・そう同じ目線に立ちたいんだ」

「・・・だから、同じ事をすればいいんじゃね?」


「だから、それは無理だろう?何をする気だ」

「・・・もしかして今の状態をシバルリ開放に見立てているのか?」とマティは呟いた。

「全然違うだろ?」


「戮丸が今の状態を予見して行動していた訳じゃ無い事は、俺たちが一番よく知っている。今の村は偶然の結果でしかない。ただ――」


 一切の妥協はしなかった。


「同じシチュエーションはまず訪れない。――もし訪れてもそれは戮丸のコピーでしかない。それじゃあ駄目なんだ。そんなことじゃ自分すら騙せない。納得なんて絶対しない!」


 ノッツは苦々しく吐いた。ゲーマーには踏破者のコピーはそれほど難しい事ではない。一人クリアすればその後を続くものが必ず出る。もちろん簡単ではないが、踏破者が居るという事はそれだけプレイヤーにとって助けになる。


 ノッツが言っているのは本質が違う。


「そりゃそうだ。――同じ事なんて出来やしない。だから俺達はいじけているんだ」

「本当にそうか?」

「何?」

「俺達は思ったはずだ。出来やしないと。頭を抱える戮丸を見て――大金を投入する姿に『何でそんな無駄なことを?』―――言った筈だ」


 その答えは――


 ――ただやってみたいんだ。


 俺達の言葉の意味など当然判っている口振りだった。


 照れたような。


 悪戯が見つかった子供のように。


 バツの悪そうな顔で――そう言った。


「先のことなんて考えていない。人道や人命も戮丸にとっては言い訳だったんじゃないか?」


 ――――大吟醸は何かを言いかけてやめた。

 戮丸の人道主義は知っている。それに対する冒涜

 ――――しかし、ノッツは自分と同じくらい、いや、それ以上に戮丸の狂気に触れている。


 薪が爆ぜる。鋭角な音が場を貫く。それでも一同は微動だにしなかった。

 言い訳・・・誰に?・・・


 口火を切ったのはノッツだった。


「僕も今回はやってみたい。・・・考えれば考えるほど、頭がおかしいと思うよ。でもさ・・・出来ないか?本当に?これがソロなら・・・」


 咳を払って言い直した。


「ソロなら逃げるよね。でもコンシューマーなら僕は進んだ」

「それはデメリットが違いすぎるからで・・・」

「違うだろ?四人を一人でコントロールできるコンシューマー以下の連携しか持っていないからだろ?デメリットはむしろプラスだ。それで僕らのケツに火がつく。ここから先は何時まで続くかわからないダンジョンで、呪文の抱え落ちも許せず節約して、ありとあらゆるズルを駆使して・・・出し惜しみは無しだ。」


「出し惜しみって・・・」

「僕はある。反転魔法だ。【明かり】は【闇】に【回復】は【傷】にできる」

「それぐらいは知ってる」


 僧侶の魔法は反転できるのは有名な話だ。だが、ダメージソースとしては魔法使いの呪文には敵わない。減っていく一方のHPを増やせる、その効果の分だけ威力が弱い・・・設定上は禁呪とされている邪法。


「僕が使ってもか?」


 マティは息を呑んだ。

 物騒すぎる・・・回復の恩恵は散々受けてきた。それの逆をやられるとなると・・・絶対に敵に回したくない。スーパーアシスタントだ。


「大吟醸の心臓突きはその威力は知ってのとおり、バンパイアの有名な弱点の一つは心臓だ。オプさんも俺達に秘密の技の一つや二つあるはずだ。戮丸と何か話し合ってるのを聞いた事がある」

「やれっていえばヤルよ。それだけが商売道具だ」

「確かにある・・・いえなくてすまんのぅ」


「そして、マティ―――君もだ・・・旅団は戮丸も認めている。戦い方は見させてもらった。だが、底力までは見せてもらっていない。違うかい?」


「隠していたわけじゃ無いんだが・・・」


 そう言って、背嚢から一振りの小剣と小瓶を幾つか取り出した。


「これは?」

「聖別された小剣と聖水だ。寺院で購入できる。聖別してもらう事も可能だ。【祝福】相当の威力があるし、聖水は武器にふり掛ければ【祝福】。アンデットにかければダメージを与える。旅団の標準装備だ」

「もっと早く出せよ!」

「扱いが面倒なんだ。粗雑に扱えば効果をなくすし、とっさに取り出せるものじゃ無い。他のゲームみたいにショートカットに登録なんて出来ないんだ。・・・言い出すタイミングが無かったんだ」


「戮丸が言ったとおりだな。全ての状況を最小の装備で対応できるようにしてある。・・・義務化しているのか。大吟醸は試作技が有るんだろ?・・・成功してないだけで・・・オプさん盾に聖水を入れられるポケット作れるよね。大吟醸の以外・・・大吟醸はベルトにでも仕込め」


 ノッツは続ける。


「いいか。奴の入ったダンジョンは特殊ダンジョンだった。INしている間だけ時計が動く。このダンジョンもそうじゃ無いのか?トロールたちがバンパイアの元に着いてしまえば、後の祭りじゃ無いのか?それなら、リスポン地点がおかしいのが説明がつく」


 時間が経っていないから沸いていないだけ・・・


「だから俺はやってみたい・・・こんなチャンスはまず来ない!甘い匂いがぷんぷんして来る。お宝なんて要らない!クリアできれば俺はシバルリで・・・」


 大吟醸はノッツの真意が見えてきた。


 逃げたくないのだ。

 何に?劣等感に。

 ほしいものは経験。戮丸の目を見て話し合えるだけの。

 大吟醸だってそうだ。いや、それ以上に深刻だ。大吟醸の戦い方は、低レベルで高レベルの敵を倒す方法。次第に廃れる。現にマティレベルになれば普通に倒せる。飛んで跳ねて、敵にしがみ付く必要が無くなる。そのレベルに達した時、大吟醸はただの曲芸師でしかない。


 更に上のレベルの敵が居るだろう。だが、オーメルレベルになった時、自分の戦法が役に立つ保証は無い。

 ただ、のっぱらで巨大な産廃技術を抱え、人を妬みながら消えていくのか?


 ―――それは嫌だ。


 元々、使えないと思っていた技術に光を与えたのは戮丸だ。それを・・・与えられた光は嫌だと逃げ出そうとしている。

 呆れたいじけっぷりだ。


 ―――同じ事がしたい。


 本心に気づいた時、胸を抉られる様な渇望。


 ―――言い訳。


 ダイオプサイトの死は言い訳に使える。その言い訳ならケツに火がつく。死に物狂いになれる。足りなかったら人道主義でも何でもいい。そこの死体だっていい。

 俺の中の一番奥のガラスケースに飾っている。安心を与えてくれた宝刀。未使用という名の頑丈な鍵で括られた扉が開ける。

 開かなければ―――


 ―――かち割ってでも引きずり出す!


 それで勝てるか?―――それでも勝てないのか?


 震えが止まらない。

 何時から震えていたのか?


 全てはわからない。出来ないといえば、今までの経験が―――手ごたえが否と答える。


 罪を犯すための言い訳という名の鍵。


 形あるものならその重さに耐えかねて取り落とし、『出来ない』と叫べばいいが―――形は無いのだ。残酷なほどに重さが無い。


「乗った!」


 ダイオプサイトの声が響いた。

 大吟醸にはわからない。何で彼が乗ったななどと言うのだ?


 ―――それでは鍵が開いてしまうじゃ無いか?


「それが武者震いというものじゃ!若いの」


 かんらと笑う。そのダイオプサイトの手も震えていた。


「―――おれもやりたい」


 確かにラストチャンスなのだろう。こんなにも世界は優しいのだ。




「賛成三名。理解は出来ただろう?最低条件は自分の中身全部叩き売りにすること。それでやっと賭けになる。改めて、僧侶として進撃を提案する。ご決断を・・・リーダー?」


 マティの顔は目まぐるしく色を変える。


「うらむぜぇノッツゥ!」


 地獄の怨嗟のようなマティのうねり声が響いた。


「決断は?」

「進撃だ!リーダーなんて金輪際絶対やらん」



「奇遇だね。僕もそう思ったよ」


 そう言ってノッツはにやりと笑った。




 部屋を後にする際、心臓の埋葬を頼まれた。

 穴など掘れるはずも無く、略式の祝詞を挙げるだけに留めた。





 ―――心臓はサラリと崩れた。




10/29また来週。原稿は白紙。

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