066 ラストアタック2 アンデットに対しての考察
「それが何か問題があるのか?」
心臓の干物ぐらいは珍しくなかった。マティにはノッツの渋面の真意がわかりかねる。
慣れてしまったと言うことは残念なことだが、驚くわけにも行かない。どう見ても干乾びている。自分達がその悲劇に介入できた余地など無いのだ。
「マティもピンとこないか・・・」
ノッツは落胆して説明を始めた。
これは明らかに儀式の後だ。僕もゴブリンの巣には行った。と言うよりもファーストダンジョンがそれだ。こういうことをする習慣がゴブリンに無かったのは間違いない。
「ふむ。吊るして保存食にするか。ネックレスのようなアクセサリーにするじゃろな。やつらは。確かにこれはゴブリンの仕業ではないな」
ダイオプサイトが経験に照らし合わせて太鼓判を押す。
「トロールは?」のノッツの質問に「ないぞ。奴らは食っちまう」とトロール説も否定された。
「・・・そういうことか?」
マティは顎に手を当ててノッツの言いたいことが判ったようだ。
しかし、残りの二人はまだわからないらしい。
ここで儀式が行えるレベルの知性体は、まず僕達。でもやっていない。ゴブリン・トロールもだ。残るのは・・・
「そりゃ、アンデットだろ?」
当然のように大吟醸は言った。
「そのアンデットを弱い順に言ってくれないか?」
「ゾンビ・スケルトン・グール・レイス・ワイトって所か?」
「じゃあ、その中に仮にも儀式を行いそうなものは?」
ここで、大吟醸も事の重大さに気づいたのか。真っ青な顔で・・・
「ワイトって所でどうだろう?」
「ワイトは別名塚人。あんなでも祭られる側なんだ」
信仰の対象と言うほど大げさなものではないが、祖霊・動き出した即身仏そんな所だ。形態も安定しておらず、ミイラ・骸骨・霊体と様々だが、スケルトンなどとは別物で多少は知性を残しているが狂っていることも多い。
「・・・っておいおいおいおい」
「正解はグール」
グールとは死人喰い主に死体を食す。ゲームではゾンビの亜種的な表現がされているが、ホラー映画などでは人間の擬態をし驚かせる演出がよく見られる。余談だがオーガもそういった扱いを受けることがある。
「じゃあ、グールだ。対策もしてるし安心・・・」
「・・・グールの意味は?」
「死人・・・喰い・・・」
丁度、干乾びて食べごろ。
「多分・・・言ってくれた奴らの上だ」
「おぜうさ――」「スターップ!!!」
「そこは吸血鬼だろう?ボケていいときか、くらいわきまえろ!」
「リッチの可能性もあるな」
とマティ。
「それは無いよ。リッチは高位魔法使いや司祭がアンデットに転生した物だ。大前提で儀式のエキスパートだ。こんなチープじゃ無いよ」
「ドアノブで有ってくれ・・・」
「あれ、なんだかんだでデイライトウォーカーだよ・・・」
天地が逆様になっても敵わない。
「だが、吸血鬼には弱く表現されてる作品もあるぞ。ただ、血しか飲めない病気って」
「このアタンドットでか?ゾンビやスケルトンでもあの厄介さだぞ?」
ゾンビは説明の必要が無いと思うが、その特徴が如実に表現されている。腕力は絶対的に勝ち目が無く、何処を殴っても死なない。回避行動自体をしないのだ。腹を両断しても襲ってくるし、握力のみで骨を砕き皮膚を裂く。潰すしかないのだ。
格闘ゲームでスーパーアーマーと呼ばれる特殊能力を発動された状況を思い出して欲しい。遠距離戦に切り替えるだろう?現に戮丸もゾンビ相手には距離を取った。
口に塩をつめて縫い付ければ死ぬらしいが、その情報自体が罠に思える。
細切れにしてようやく行動を止める。
スケルトンは駐輪場の自転車が起き上がって襲ってくるのを想像すると丁度いいかもしれない。剣などではとても歯が立たない。
ハンマーでもなければ・・・
僧侶の支援を受けて初めて雑魚扱いが出来る。
現にレイスもノッツが居なかったらどうなっていた?
「・・・最悪だな」
「ここってネクロマンサーが迷い込む可能性があるような場所?」
第三の可能性だが・・・期待は薄い。
「その可能性はほぼ無い。森の奥地だし、付近に野営の跡は無かった。そうあって欲しいがね」
このダンジョンにゴブリンたちの生活臭さえ感じないところから、それらの可能性は薄かった。
総括すれば、ゴブリン・トロールは我々同様に探索者と言うことだろう。そしてここは、アンデット縁の地。
墓所か聖域か?ともかく、この仕業がバンパイアサーヴァント・・・哀れな被害者・・・によるものだと考えるのが妥当なところ。
「バンパイアの被害者はグールになるんじゃないのか?」とマティ。
「それはそういう作品があるという話で、グール自体も厳密に言えばアンデットではないよ」
「・・・なんでそんな詳しんだよ?」
大吟醸は当然の疑問を口にした。ノッツは自分の服を摘み――
「予習させられたんだ。専門家だからね。自分でも調べたけど『頭のいいアンデットは低レベルに居ないから気を付けろ』ってね」
正確には戮丸もこのアタンドットにおいてのアンデットは把握し切れていない。当然ゲームによって解釈が違う。ゾンビのポジションがスケルトンだったり、グールだったりする。弱点だって当然ちがう。ゾンビの頭が弱点などは一昔前なら考えられない。
実地で調べるしかないのだ。ただ、その傾向があるのでノッツにはそう言い含めておいたのだ。
「で、戮丸はバンパイアの対処法を教えてくれたのか?」
「逃げろ。逃げられればね。こっちが訊きたいよ現物に会った経験が無いんだ」
会いさえしていれば、戮丸は瞬時に対策を講じる。ノッツも対策は訊いていた。にんにく・十字架この辺は民間伝承から来ているから当てに出来ない。究極的には太陽――陽光だが、弱点と言うよりも行動を制限する理由付け、こうでもしなければバンパイアは無敵すぎてあっという間に世界を征服してしまう。
だから、かなりのレベルで当てに出来るが・・・最近はデイライトウォーカーが多いこと多いこと。
他にも招かれないと家に侵入できないとか、流水が渡れないとか白木の杭で胸を刺されれば死ぬとか。吸血鬼とのハーフであるダンピールには敵わないとか。
極端な話で「どうせ鬼だろ!」と炒り豆ぶつけて退治なんてのもある。オニワーソト。
弱点が拡散しすぎて予測が困難なのだ。旅団なら何か情報を持っていないか?系統が判るだけでも・・・
「・・・すまない」
マティは情報が無いことを伝えた。アンデットは旅団内でもその専門部署を設けてあった。
アンデットはレベルの物量よりも相性や弱点などが戦闘に影響する。~~の葉を玄関に飾っておくと良いなどの対策が物を言う。その対策部隊が旅団内にある。そこが調査し、その情報が確かであれば旅団内に流通するといった仕組みだ。
マティにしても、「そういえばバンパイアは聞いたことがないな」といった認識しかない。
「――じゃあ、旅団でも目撃例は無いのか?」
「――たぶん。いないんじゃないか?オプさんはどうだい?見たこと無くても吸血鬼の噂話・・・伝説とか・・・」
「バンパイアなんて居る訳無いじゃろ。この時代にそんな大時代的な・・・」
二人は落胆した。
「あのさ。吸血鬼=バンパイアって良く知ってるな?まぁ、話の流れでわかると思うけどよ。大時代的な・・・って昔話には有るってことだよな?」
大吟醸がボソッといった。ダイオプサイトの顔は真っ青だ。
「で、どんな話なんだ?」
三人の視線に負けてダイオプサイトは喋りだした。その内容の九割は居る訳が無いという意味合いの言葉で、要約すると町の住民を一夜にして消し去ったのがバンパイアという噂が出た程度情報だった。
「町一個・・・どういう経緯かは大体想像付くが・・・そのクラスか・・・」
「ただ、陽光が効く可能性は出てきました」
一夜にして住民の失踪。感染が拡大して朝になって全滅した。
「そうなるとその吸血鬼は何がしたかったんだ?」
最もな疑問を大吟醸は言った。そして二人は考え込んだ。ダイオプサイトは今だ居ない事を主張している。
「確かに、滅びる為に繁殖した?いや、大呪文だったのではないか?呪文が発動して人間・・・動物だけを殺しきる大呪文」
マティが大胆な意見を披露した。しかし、これをいくら話し合っても机上の空論に過ぎない。
結論など出ない。だから戮丸も注意を喚起するに留めるしかなかった。話し合っても堂々巡りだ。それはノッツたちの性分ではない。
「それらを踏まえた上で僕は・・・いや俺は・・・」
ノッツは言いよどむ。その次の言葉を三人は息を呑んで待った。
「進撃を提案する」
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今67執筆中現在6千文字突破・・・次回は100%以上増量予定です。
あちゃー いろんな意味であちゃー