064 猟友会と取り巻く環境
「外部増筋も無い猟友会なんてのは笑い話だ」
「ガイブ・・・雑巾?」
「外部増加筋力!・・・俺だって欲しいんだ。持ってないと猟友会にも入れ無い!」
「そんなに入りたいものかの?」
「入りたくないけど、入らないとどうしょうも無いとこまできてんだよ・・・あんたらにゃわからんだろうけど」
マティは苦悩を吐露する。
まず、増筋を手に入れる。そこで、猟友会の入会を許可される。その後は地獄のハンティング。出費ばかりで収入が当てに出来ないから魔法使いは当てに出来ないし、彼らは美学を持っている。魔法など言語道断。
売れば買い手はつくだろうが最低条件は増筋持ち、更に猟友会の戦力低下の懸念からもっぱら売りに出せるのは棍棒程度で、剣等はギルド内マーケットに出物が出るかどうかと言ったところだ。
しかも、オーガ・トロールの基本装備は棍棒。まず、ちゃんとした武器に当たるまでが難関・・・
ダンジョンで狩ってもいいのだが、オープンフィールドは群れを作っている。その群れに喧嘩を売るのが猟友会。
そこで好みの武器を拾えたら、延々と強化。この時点でやめてもいいのだが・・・その頃には美学が芽生える。厄介なものだ。
レア武器の出現シーンは胸をうつ物がある。その瞬間を夢見て、そして自分にもその瞬間が訪れると信じて、地獄の帰還兵は今日も戦う。
「そんな組織にマンハントしてる猟友会があるよっていいえば・・・」
「殺されんな」
「戦力確保は出来ていると言う事ですか・・・」
ダイオプサイトはハムハムと骨付き肉を食っている。よい子だ。
協力の件は二つ返事でOKした。
猟友会と言うのが気になったのでその辺の話をしていた。
マティの用件は【ディクセン猟友会の内偵】と言うものだった。ディクセン領内で集落が次々に廃墟になっている。それに伴い人肉商売の増加。電脳売春でリアルの暴力団が動いている。当然、リアルマネートレードも・・・
今は顧客層はアタンドットユーザーを対象にした小規模な実験段階だが、電脳と言う事もあり内容は酸鼻極まるものだそうだ。
問題は、ディクセンは所轄外で、法の適用がディクセンのそれになるうえ、あちらのポリスラインは張子の虎だ。プライドばかり高く、実行力を持たない。あちらが正常なポリスラインを持つのは望み薄で、ディクセン貴族は外国貴族に鼻薬を嗅がされている。
ただ、【ディクセン猟友会】がケイネシア側に存在するとなれば話が変わる。
「RMTね。・・・確かにおいしい。反吐が出そうだ」
大吟醸の呟きにノッツは深い理解を示した。確かにゲームをやってお金が稼げるのはゲーマーにとって嬉しい。
ただ、納得は出来ない。コレが、絶技を披露してワールドツアーを制覇した賞金などなら普通に素晴らしい。ショービジネスとして消費者としても楽しめる。
「もちろん、普通の猟友会の可能性もある。内需安定型の・・・」
「そう?」
「可能性の話だがね。特殊レシピ・・・そうだな筋力強化ポーションの材料が大量に必要だ・・・とか」
「特需が発生している・・・と・・・それはゲーム内通貨的に美味しいね」
ゲーム内通貨が余る傾向にあるといっても、多いに越した事がない。極端な額が必要になるが領地や爵位も購入が可能だ。そこに手が届けば話が違ってくる。
「じゃ、クエストの金は何処から?」
「とりあえず、ポリスライン名義でポケットマネーで俺が出資する」
「いいのか?」
「ああ、その内容なら上申して必要経費に捻じ込めるだろう。そうだな・・・戦士と僧侶がレベルアップするくらいは出そう」
「マジか!」
「ことは、デリケートな問題だ。オプさんには悪いが・・・ドワーフがレベルアップする金額はちょっと出せない」
「かまわんぞい。それにわし等はお金でレベルアップしないからの?」
―――!!
「はい?」
「わしら、NPCのレベルは鍛錬の度合いをレベルで表示されているだけなんじゃ。じゃから、親ビンに鍛えてもらうとレベルが上がる。まぁ、うちはそれでもレベル以上の働きが出来るがね。親びんはスキル制といっておった」
「んだ?その情報?」
「ちと待ってろ。思考や戦闘ろじっくをレベル換算するぞい」
ダイオプサイトのレベル表示が13から25に変わった。
「これって、25レベル相当の働きが出来るってこと?」
「うむ。ガンガン上がって楽しいぞい」
「そりゃ。ドワーフが増殖するわけだ。うらやましい」
彼らはAIだが、成長ロジックまでプレイヤーと違うとは思わなかった。
「何言っておる。おぬしらも同じ訓練受けたじゃろ?」
「でもよー」
「じゃあ、俺ら25レベル相当の働きが出来てるってこと?」とノッツ。
「それに関しては俺が保障する。魔法使いの不在をさっぴいて・・・いや・・・引かなくても進行速度は君らと一緒の方が速い。人数が少ないのがプラスに出たのだろうが・・・」
マティは正当に評価した。魔法が使えない・シーフが居ないのは欠点だが、それを補って余りあるプレイングだ。勝てない相手からは迷わず逃げる。そして、勝てる方法や地形を利用する。
たとえば、崖のそばならノッツはキル数が跳ね上がる。ぽいぽい崖に放り込むからだ。そしてそれを恐れて崖から離れた位置に固まればダイオプサイトのハンマーの餌食になる。
もちろんノッツも落下の危険はあるが、普段から敵を投げているせいか、足腰はしっかりしている。危なげな部分は無かった。
余剰戦力でマティと大吟醸が控えているのだ。戦闘能力はいやおう無しに跳ね上がる。
そのスムーズなスイッチングもマティには堪らない。
このパーティのMVPは間違いなくノッツだろう。ソロでトロールが取れる大吟醸や複数キルが取れるダイオプサイトが霞む。
「ノッツの活躍は凄いよ。正直ここまで動ける僧侶は・・・」
そこで頭を過ぎったのは意外な人物だった。
「・・・オーメル・・・」
「はい!?」
「奴は戦士じゃろ!」
「・・・いや、オーメルは神聖騎士だ。だから神聖魔法が使える・・・まて・・・オーメルはスナイプヒールなんて出来ないぞ?」
「ま・て・よ!なんだよそのパラディンって」
「上級職があるのか!?」
「上級職はあるんだ」
マティは観念したように口を開いた。
条件は開示されていない。どうやら、プレイの功績を加味して与えられるようだ。上級職は本当に多岐に渡る。
それも上級職があってそれになるのではなく、その人のプレイングを一言で表現した職業に代わっているというふうらしい。
「じゃあ、このままノッツが育てば・・・」
「パラディン・・・それに準ずる職業に代わるだろうな」
「キターーーーーーーーーーーーーー!」
ノッツは絶叫した。ユニークジョブの存在と何より自分のスタイルに更なる上が存在する事。これに興奮しないプレイヤーは居ない。
「kwsk!」
「神聖魔法ではないんだ正確には、神聖騎士魔法で当然呪文の習得や種類に違いが出る。低レベル魔法が被っているものが多いそうだが、より戦闘に特化した魔法が多い。代表的な魔法はフォース・・・」
「kwsk!」
「その名の通り、力をぶつける魔法でダメージは発生しない。ただ、相手が吹っ飛ぶ。押す力だな」
「キーーーーターーーーーーー!」
確かに、ノッツのスタイルはオーメルに似ている。オーメルは戦闘主軸であるが、ノッツのスナイプヒールと投げ。違うが遜色はない。その立ち位置が非常に似ている。
「転職条件は!?・・・ああ、判らないんだったよな。オーメルは何時転職に成功したんだ?」
「ポリスライン敷設の頃かな」
「・・・ムリポ」
吐血風味でノッツは言った。
「ただ、転職者は結構いるんだ。大手クランなら10人以上居るだろう。旅団でも知ってるだけで、それくらい居るし・・・だから、条件がわからないんだ」
「そうなのか?」
「興味あるのか大吟醸?」
「そりゃ、あるだろ当然。俺の場合はどんな名前が付くか?どんな能力が付くか?」
順当に行けばスワッシュバックラーだろう。ただ、大吟醸を軽戦士と言うには抵抗がある。
「モンスターハン・・・」「それ以上はいけない」
ただ、アイテムに握力ゲージが出るアイテムがあった。誰が使うんだ?と話題になったが・・・
「意味在るのか?それ」
「ゲージが残っている間は疲れないし離れないらしい」
「・・・欲しい・・・かな」
「意外だな?」
「いや、それも醍醐味って所だから、魔法かなんかで絶対外れないって言うのも興醒めなんだ」
「ところで僧侶はみんなノッツのスタイルなのか?」
シバルリのという意味である。
「違うよ。そっちは茨の道だね。実際の医学書を併用したり、薬草に回復効果を付与したり・・・本当の医者並みの知識や範囲魔法の研究してるんだ」
「実現するとも思えないが・・・」
「スナイプヒールは戦闘特化でしょ?タッチヒールは神経や血管の修復で効果が出てるよ。まぁ、【シリアス】一発でかたがつくんだけど」
「まじで医者なのな・・・」
「そっちはお手上げだよ」
確かにノッツが勉学が得意なふうには見えなかった。
ディクセン猟友会の召集は集落【ドナ】に現地集合。集落と言うのはディクセン本国に見捨てられ難民と化した住人のコロニーだ。
ドナはちょっとした町で、その規模まで放置状態と言う事実にノッツたちはうんざりした。
余談では有るが戮丸のシバルリ開放は徒労に終った事を意味する。
位置的にはディクセン市の南方に位置しシバルリへは、大きく東に迂回する事になる。
そこで、ケイネシア領内で東のクライハント緩衝地帯に移動し、そこからドナを目指す事になった。
この世界の国土は地図に線を引くようなものではなく、泡のように集落が点在する。緩衝地帯は、その属する国が入り混じっているし、ころころ変わるのだ。
地図上では緩衝地帯はディクセンから見て東西南北にある。もちろん都市間を結ぶ街道は斜め十時に走っているが、難民の流出などで非正規の街道のようなものがある。これは整備されたものではなく、人の足で踏み固められた裏道と言った所か。
つまりディクセン市を基準に考えて西にシバルリ村がある。ノッツたちの居る場所がケイネシア街道沿いの【ファース】の町。つまり南西だ。本来なら北北東に進路を取ってシバルリを目指す予定だった。
「決行日時は?」
「金曜深夜。時間は・・・」
今日が水曜だから、距離的に間に合うとマティは言った。
今日は解散して、明日、緩衝地帯ケイネシア領の【レドル】の町に行こうレドルまでは馬車が出ているが、テレポート屋を使えば時間短縮になる。金は掛かるが、レドルでダンジョンに挑戦できる。
「シバルリにもそれで行けんじゃね?」
「原理的にはそうだけど、テレポート屋と言ってもただのプレイヤーだから・・・そのプレイヤーがシバルリに行った事が無いと無理だ。あと、同一領内でない場合は裏のテレポート屋になる」
「まてよ。戦争はどうなるんだ?」と大吟醸は疑問を投げかけた。
「貴族が封鎖するね。本来の領地ならそういったコントロールが出来るんだ」
ディクセンの内情がこんな所からもよくわかった。密輸、進軍やり放題である。
「連絡は?」
当然テレポート屋に連絡を取らなければならないが、見かけなかった。それは宿なら店主が連絡を取ってくれるらしい。その町ごとに小規模なテレポート屋ギルドがあり、魔法使いは所属している。
店主もそれに所属していて、タクシー感覚で呼べるらしい。魔法使いはバイト感覚で小遣い稼ぎが出来る。
「そんな物があったのか、シャロンと戮丸の旅は無駄になるな」
「いや、よほどの事情がない限り旅はした方がいい。何処がいいとは言わないけど無駄にはならない」
ノッツの言葉にマティは答えた。
「いや、護衛で旅をしている仲間が居るんだよ。その護衛がシバルリの代表だから、支援要請が・・・」
「どうした?」
「そのテレポート屋ってオーメルが知らないって事ある?」
「あるわけ無いだろう?常識だぜ?」
「うちの代表は訳ありのプレイヤーを護衛して旅を・・・シバルリを留守にしているんだ。シバルリ支援のクエストもその辺の兼ね合いもあっての事だ」
ノッツはシバルリでおきた事件のあらましをマティに掻い摘んで説明した。
事情を理解したマティはそっと頭を抱えた。
理不尽すぎる。オーメルのアクロバット交渉術は知っている。エトワール・ガレット嬢の件は旅団内でも電光石火の荒業だった。
まず準備は何時からしていた?そんな疑問が飛び出す。シバルリなんて都合の良いものが急に出現するなど、誰も予想していなかった。それを全て知っているかのようにこなした男がたった一言の情報封鎖で軍を動かしている。
――何かある。
「お前のとこの頭は何を考えているんだ?」
「俺ごときがわかるわけねぇだろ!?」
「旅団はどんな問題を抱えているの?」
ノッツの問いに、マティは堰を切ったように答える。後見人オーランドとの不仲。エトワール家没落後の処理と調整。各勢力との会合パワーバランス。反抗勢力自由通商同盟との抗争。ディクセン問題。にシバルリ問題。更に良家婦女子とのゴシップに至ってはそれこそ星の数。
答えの出るはずもない推察でその日は深けて行った。
毎週 月・水・金 更新を目指しています。
10/19現在で投稿分は終了です。
後は祈るのみ。