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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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063 犯罪の匂いとポリスライン



「今日は引こう」


 ノッツの提案にマティは露骨に表情を曇らせた。


「こればっかりはどうしようも無いな。残念だが体制を立て直して・・・」

 大吟醸も同調した。そう決めたらノッツは回復魔法で全員を治した。


 彼らのパーティで致命的に足りないのは盗賊である。魔法使いも居ないが、盗賊ほど致命的ではない。盗賊は慢性的な不足で何処も一緒らしい。有用性は再認識したものも多いが迫害が酷いのだ。プレイヤーは戦力にならないとの迫害は根強いし、NPCはその職業の貴賎で判断する。


 大抵のプレイヤーは折れてしまうのだ。

 しかし、罠解除は代用できない。そこで、罠も解かず普通にあける。ゲームによっては罠が致命的でないものもあるが、アタドンではかなり危険だ。それでも、毒矢などは対応できるし、単純な弓矢は耐えればどうにかなる。

 そこが賭けではあるのだが・・・

 で、箱開け係はマティだった。レジスト値とHPの高さからだ。こればっかりはマティには敵わない。


 当然賭けには負けるのがマティ。


 罠はボールボーガンだった。超弩級の・・・


 四人の差出した盾ごと全員を壁まで吹っ飛ばしたのだ。それでも、直撃のマティの損傷が酷すぎて虎の子の大回復魔法【シリアス】を使う羽目になった。


 不思議なもので一番被害を被った者が残留を希望する傾向がある。マティもご多聞にもれなかった。


 いくらノッツが軽回復魔法の使い手とはいえシリアス消費は重大事だったのだろう。プリーストの撤退命令は無視できないものだが、それ以上に・・・乗っていた。


 反論が喉下まで出たが止めた。うちにはNPCが居る。万が一にも全滅は考えられない。


 一行は帰路に着いた。来た道分を戻るのは地味に効いたが、ここ数日通い詰めで大体道は暗記した。こういう物もPS(プレイヤースキル)として経験値になっていくのだろう。


 彼らはディクセンまで移動しながらダンジョン攻略を進めていた。マティは旅団の規則でディクセン入りは出来ないが――破ったらクラン追放――致し方ない。


 まぁ、ダンジョンで合流すれば何処に居ても関係ないのだが、明日からディクセン入りだ。残留希望にはそういった裏事情があった。


 分配はダンジョン脱出時に出来るが、鑑定結果はバラバラだ。ギルド【凶王の試練場】にマティも所属しているからチャットしながら祝勝会は出来るが・・・


 【探索は宿に帰って宴会するまでが探索です】


 ネット時代はそれでよかったし普通だった。というよりも移動規制という事がなかった。しかし、今は幻体でこうして触れ合える、限りない生の戦場を共にして祝勝会はチャット、ボッチ飯。寂しすぎるだろ?


 以前はそれで・・・その方が気楽で良かったのだが、今は駄目だ。何故だろう?


「明日からはマティ。何処の宿のいるかギルドボードに書いておいて。そこからダンジョンにインしよう」


 ノッツの提案だった。全員がマティの居る宿に跳んでダンジョンにエントリーと言う流れだが・・・ダイオプサイトは跳べない。宿からダンジョンへはNPCも跳べるが、宿から宿と言うわけには行かない。

 じゃあ、ダイオプサイトを置いてPCだけと言う案はダイオプサイトが提案しただけで即時却下された。論外である。


 ―――う!


 マティを除く三人が突然耳を押さえ苦しみだす。


「どうした!?」

「お誘いは嬉しいが、今ダンジョンじゃ・・・無理じゃ!」


 そう、ダイオプサイトは虚空に叫んだ。

 どうやら、ギルドチャット中らしい。


 通信は終ったようだ。三人は渋面を作っている。


「どうしたんだ?」


 ギルドチャットが終了したのはわかったが三人はダイオプサイト以外発言してはいない。不思議に思うのもしょうがない。


「どうもこうもねぇよ。いっきなり耳元でがなって、オプさんが断ったら『参加しない人は喋らなくていいです』だぜ?ふざけんな!」

「ああ・・・ひどいね・・・これはハズレだ」


 いきなりのギルドチャット、それだけでも失礼なうえ、喋るなはない。システムの性質上発言は全て拾ってしまう。コレが戦闘中だったらと思うとゾッとしない。どうやら管理者はシャウトモードで発言したらしい。聴き逃しが無いようにとの配慮のつもりだろうが・・・失礼な行為だ。


「何処のギルドだ?何でそんなギルドに?」

「『ディクセン猟友会』美味しい話があるって半ば無理やり」

「本当に―――猟友会・・・そういう名前なんだな?」

「ああ、キャラシーにそう表示されてる」


 マティ何か思い当たる節があるらしい。暫し考え込んで・・・


「詳しいことは宿に戻って訊こう。脱退はもう少し待ってくれ」

「ああ、いいけど・・・」

「じゃあ、宿に急ごう。今のを戦闘中に喰らったらヤバイ」


 四人は急ぎ足でダンジョンを後にした。





「まず、猟友会と言うのがおかしい――」

 酒場の個室でマティは説明を始めた。


 このアタンドットで最も無縁なものが猟友会をはじめとした狩りに関してのギルドだ。いくら戦っても経験値にならないのだから、狩りの価値はガクンと下がる。

 ドロップ品はほぼ奇跡に近い確立で、概ね通常の狩りの様にバラして肉や骨、毛皮を収穫する。

 その行動に意味が無いとは言わないが、果てしなくしょっぱい行為だ。


 当然そういう猟友会も存在するが、素材の安定供給などは冒険者の仕事ではない。ギルドを構えるようなものではない。NPCで構成されたものが殆どだ。


 それでも、冒険者による猟友会が結成される事がある。その場合、壁にぶち当たるまでレベルが上がった熟練者の集いだ。


「判らないな」

「狙いは、イモータル系の武器だよ」

「奇跡に等しい確立狙いか?」

「それも在る」


 巨人やトロール、オーガ達は武器を持っている。当然サイズはその体に合わせたものだ。

 この系列をイモータル系と呼ぶ。


 人間には振るえない。重すぎるからだ。レベルが上がっても人間の筋力は限界があるし、そもそもレベルによってステータスの増減は起こらない。


「使えんのでは意味が無いの」

「それは常識ではだよ。オプさん」


 このゲームでは筋力増強アイテムは当然ある。篭手やベルトのようなもの。コレは人間の限界を超えた筋力を与えてくれる。

 その名も、オーガ・ストレングスポーションやジャイアントストレングスガントレット。こんな名前で、限界値どまりなんていうのは詐欺だ。


 これらのアイテムは単純にダメージ増強アイテムなんだが・・・


「それを使えば、イモータル系が装備できる・・・と?」

「そう」

「そんなもんは作ればいいんじゃ無いのかの?・・・ああ、武器のほうな、ただでかいだけだろ?」

「物理限界があってね。作ったものはそこに引っかかるんだよ。すぐ壊れる。巨人サイズの武器は自重で曲がってしまうんだ」

「ふむん。そうじゃの・・・」


 しかし、実在しているし、モンスターはそれを使っている。壊れる様子も無い。システムで守られているのだ。


「で、猟友会って言うのは・・・」

「そう、ハイエンドプレイヤーの群れなんだよ」

「そうは見えなかったぞ」


 勧誘した人間の底の浅さから、そこまでの熟練プレイヤーには見えないし、『美味しい話』から・・・安定供給を考える人間には見えなかった。


「・・・マンハント?」


 ノッツがぼそりと呟いた。


「穏やかじゃねぇな!?」

 マティは知らないが、大吟醸はこの手の話に苦手意識がある。


「残念ながらその可能性が高い。隠していたわけじゃ無いが俺は【ポリスライン】にも所属している。そこからの情報では・・・」

「・・・協力を約束してくれないと情報開示は出来ない・・・と」

「・・・そうなる。飲み込みが早くて助かるよ」


 ケイネシアでもクランは【赤の旅団】だけではない。当然多数のクランが存在しているし、敵対クランもある。

 ポリスライン自体が【赤の旅団】と敵対クランの抗争の果てに生まれたものだ。

 ポリスラインは騎士システムの乱用や悪用を監視するシステム。


 騎士システムは貴族の持つ賞金首を認定を代行するシステム。

 賞金はかけられた時点で借金となり、その賞金は首を取ったものの褒賞になるうえ、経験値としてカウントされる。


 理想は悪人に賞金をかけて使うのが本来の使い道だと思う。ただ、そこに基準や規則は無い。極端な話、気に入らないから賞金かけてPKしても問題は発生しない。騎士同士で賞金の掛け合いならまだいい。無辜の住人に賞金をかけたら・・・救いなど無い。


 そこで、オーメルは協議のうえ法を制定し、それに照らし合わせて不当な賞金は無効にする。もしくは、連名による賞金をかけ返すと言うものが、【ポリスライン】の原理だ。

 その過程で、調査がどうしても必要になる。法の守護者的な側面はあくまで、副次的な効果の産物に過ぎない。

 当然資本と軍事力は必須であるが、浸透したのは別の訳がある。

 犯罪者側もこのシステムが利用できるのだ。

 だから、敵対クランや貴族。他の大手クランなどに浸透した。


 法も協議のうえとの文言の通り、ケイネシアはケイネシアの法があり、ダグワッツにはダグワッツの法がある。参加しないと法に関与できないが、その法に遵守している限り・・・逆に法に反した正義を弾圧する事が可能になる。


 そして、【ポリスライン】は美味しい。


「・・・おいしい?」


 賞金首は経験値が自然発生する。町から町を渡り歩いて賞金狩りをするプレイヤーも居る。賞金首はバットステータスで、公布される事は無い。賞金首状態のプレイヤーが居るだけだ。

 見た目は変わらないが、システム的にはエネミー(敵)警戒スキルや魔法に引っかかるし、何よりキャラシー越しに見れば一目瞭然。

 殺せば、賞金首が持っている物から賞金額分、現金→物品の順でドロップする。足りなければ口座から、それでも足りなければ借金だ。


 アイテム欲しさに賞金首の乱発は当然起こった。

 その解除条件をクエストで強引に入手したのがオーメル・タラントだ。

 賞金首は呪いの様なもので、不当と判断され解除された場合、かけた本人に跳ね返る。当然、不当な賞金をかけたという罪も重なって・・・


 賞金はかけられた人間の死亡で清算される。

 だから、それまでに証拠を集めなければいけないし、不当だと確信があれば、ポリスラインに護衛を頼んでもいい。


「なんか・・・楽しそうだな・・・」


 そう、犯罪を暴き、犯罪者を倒せば経験値が手に入る。その逆でもやる価値はある。その金額は賞金首の罰金から捻出される。もちろん、法の解釈でも判定が覆る事がある。


 主にアドベンチャーゲームのような展開をRPGで楽しめる。少年漫画のスイーパーを気取るもの、誤認逮捕は認めないと人情派刑事のように振舞うもの。どんな犯罪も真っ白に見せかける悪徳弁護士のようなもの・・・これらは【ポリスライン】に必ずしも属していないが、必ず関係を持つ。

 ポリスラインの情報が最速だからだ。


 (なんか・・・【始まった】な・・・)


 良識的には良くない事なのだろうが、この新展開にノッツと大吟醸は胸を躍らせていたのであった。



毎週月・水・金更新を目指しています。

 現状で金曜入稿分まで出来ています。

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