061 知らなかった自分の才能
それはマティが望んでいた世界。廃人はただの上手い人に成り下がり、自分の努力の結晶が嗤われることが無い。現実によく似た世界。皮肉なほどに・・・
そして今、廃人が起動を始めた。足がかりを手に入れたのだ。
――危険だ!
勝てる訳が無い。こんな人生をゲームに極振りした奴らに、普通に働いて、友達もいて、何一つ捨ててこなかった俺が勝てる訳がないんだ!
――――自慢乙!
・・・ともかく奴らは危険だ。排除しなければ。
ゲームと言うのは必ず救われてなくてはならない物なんだ。主に俺が!
―――――最低である。
しかしそれは、一面の真理だ。その真理の成れの果てが今のゲーム業界で・・・
「で、ワシ等は事足りるのかの?」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。ダンジョン攻略のメンツに入れるかって事」
パーティ募集の件である。たぶん、この面子は従来のパーティに匹敵する力を秘めている。申し分無い。しかし・・・まてよ。何かしらアクションが出来ないか?
マティの脳裏に暗い思考が走る。
「ああ、大丈夫だ問題ない」
「問題ありまくりな台詞だな」と大吟醸。
「じゃあ、道すがらやって来たゲームを教えてよ。得意なのとか」
「ほへ?」
「・・・俺たちだって、カウンセリングぐらいできるぜ?」
「そちらのドワーフも?」
「戦闘技術じゃオプさんがトップだ」
「ああ、言い忘れていたけどオプさんNPCだから、ゲームはわかんないよ。致命傷は最優先でオプさんに回すけどいいよね」
「・・・ああ。当然だな」
ダイオプサイトは殺せると言うことか・・・
「で、ゲームは?」
「普通に手広く」
「普通ってなんね?」と大吟醸。
彼らのレベルだと、普通が存在しない。幅が広すぎて自分の普通は他人に適用されないのを知っているのだ。
「流行のゲームは一通り」
「弾幕とかFPSは」
「やってる。弾幕はノーマルをクリアする程度。FPSも」
「そこそこの腕じゃねーか、クリアは出来ない奴多いぞ?」
「そこは何とか」
「RPGは?」
「大作は一通りで、クリアは各一回。やりこみはやってない。昔のゲームもやってない」
「普通だな」「そだね」「アクションは?」
「巨人?それもノーマル一回だけで、もうやりたくない。箱で出てたアラビアのアレは面白かった」
「わっかんねー」
「大吟醸でもわかんないの?」
「いや、タイトルはわかるよ。でもあのゲームって巨人より難しいぞ?」
「嘘だろ?ああ、でもリズムゲーは得意かな」
「踊る奴?」
「その踊る奴で【哲学】クリアしたって言ったらどのくらいの腕かな?」
「あそこも修羅の国だから・・・俺は無理」
「僕も」
「良くわかるね」
イニシャルトーク全開で会話が成立した時点で軽く驚きを禁じえない。さすが廃人。
「まあ嗜みって所かな?」
「TRPGは?」「ああ、それ重要!」
「それもちょろっとやった。初心者向けのを・・・」
『マジか?』
二人の驚愕にむしろマティの方が驚いた。
二人は経験がゼロらしい。
「・・・で判定は?」
「普通・・・?」
「っていっても間口が恐ろしく広いね。全部やってるってのはちょっと居ないよ。何かしら苦手なジャンルはあるもんだよ」
「しかも、やったゲームはほぼ、ノーマルクリア。イージーじゃないってのはちょっと凄いな」
「そだね。廃スペック普通の人って感じで」
「おれ動画見てるからその表現はちょっと・・・」
『・・・どんな化け物だ』
「まぁ、リズムゲーが強いってのは武器だね。後は戮丸がどう料理するか?それ次第だね」
「あいつは格闘技のほうが遥かに上手いんだ。そっちはオプさんの方が詳しいな」
「何か、印象に残ったゲームって無い?熱くなったとか?」
「ロボットゲーの荒野戦てわかる?あれは熱かったなぁ。敵が津波のように襲ってきて、味方は全員ぼんくらで」
「ああ、あれね。レーダー見て頭が吹っ飛んだよ」
「そうそう、必死で仲間助けて何回やっても脱落者が出る。意地になって助けきったよ」
『―――マテ』
「助けきったの?」
「ああ」
「動画見ないで?」
「ああ、やっぱり同じような人いるんだなぁって思ったよ。俺なんか何時もどおりノーマルで・・・」
二人は目配せして頷きあう。
「え?なに?」
「戮丸が言ってたよどんな条件であれ、アレを突破できる人間なら人間預けられるって」
「・・・でもあれって簡単だよ?見掛け倒しなだけで」
「俺らは諦めた。当の戮丸も動画を参考にクリアしたって言ってた」
「動画が出回る頃にはゲームを手放してたしね」
「・・・やれば誰だって出来るレベルなんだけど」
「戮丸はテクニックじゃないって言ってた。プレッシャーは異常なのは判るだろ?通信は悲鳴だらけで、レーダーは見るのも嫌になる。助けている手応えなんて有りはしない。終わったときはパタッと敵が消えている。その瞬間まで攻勢は変わらず続く」
「その状況で、普通のことを繰り返す。それができる人格が必要なんじゃない。パタッと止むその瞬間を体感した経験が必要なんだって」
背部バーニアは青いプラズマ炎をあげ荒野を疾駆する。その手には擱座した僚機。ゲームの設定で鷲掴みでぶら提げて・・・
呆然としながら、荒野を走った。
戦闘が終った。終わりは本当にあっけなかった。道中、擱座した僚機が目に入る。
開いた手にクリスタルのようなものを生成し、その機体にばら撒く。
戦闘が終ってその必要も無いのだが、応急処置と言う設定だったので一応やっておいた。
感動・興奮そんな物は有りはしない。
残った大量の事後処理と、これから彼らは最終決戦に赴く、こんな様で戦力になるのか?
そんな不安と暗鬱な未来。ゲームだからハッピーエンドが待っているだろうと漠然とわかっているのだが・・・
それも嘘だ。ただ脳の芯が痺れている。
そんな中画面の中では分身が安全エリアに僚機を放り投げ、次の荷物を運ぶために踵を返す。
青い光を残して荒野を疾駆する。
ただそれだけの作業が今でも印象に残る。
画面に映る機体がどうしようもなく逞しく格好良かったからだろう。
それが必要?
判る気がする。それはとても大それたことに思えた。自分はただ、意地に・・・意固地になっただけだ。感情移入するほど幼くは無い。ただ、悲鳴が演技だとわかっていても、そのストレスに屈した。それだけだ。ゲームの中の主人公のような義憤も・・・何も無かった。
ただ、ゲームをやっていただけだ。『面白かったな』と思っただけだ。
自分はどうしようもなく偽者で・・・
別に、マンガとかで流行の言葉じゃない。そんな事で人の命が預かれるか?と訊かれたら間違いなくNOと答える。ただ、なんとなく理解できる自分も居る。しかし、理解できた水準とリアルな自分との絶対的な差がある。『どんな形であれクリアできれば』その中のまさかの例外に自分は違いない。だからどうしようもない偽者なんだ。
「なるほど、さすが親ビン」
オプさんと呼ばれたドワーフはしきりに感心する。
「・・・判ってないだろ?」
「何をいう・・・不可能に挑む男気・・・」
「・・・わかってねぇ」
「うん。判らない教えてくれんかの?」
正直で大変よろしい。
「どんな形でも戦場帰りって新兵とは違うだろ?仮に鍋を運んだだけでもだ」
「うむ。判る気がする!」
「正直で大変よろしい。経験者なら話を聞いて出来る事と出来ない事がわかる。その指示もできるし、判断も出来る。使えるって訳だ」
「うむ」
「それと同じだと思ってるんだろ。戦場指揮官として一回分の経験値に足るって、上手く出来るなんて思ってねぇよ。たぶん、その辺は戮丸はシビアだ。上手くいえないけどプレッシャーにつぶれない判断基準じゃなぇかな?そりゃマティみたいに、攻略法を自分でくみ上げて実行できるってのは理想だけどよ。そこは判断基準にしてないと思うぜ」
「僕もそう思う。かなり無茶な事言ってくるけど・・・実際かなりハードルは低く設定してあるからね。多分高望みはしないんだよ」
「―――そうなのか?」
「そうだよ。僕の前線スナイプだって、最初は治して欲しい部分を突き出してもらって、そこに僕がタッチして治していたんだ。そんな事だって十二分に効率はいいんだ。戦士勢に好評だったしね。そこから、発展して行ったんだ。いきなり今と同じ事やれっていわれても・・・ムリゲー」
「俺だってそうだよ。最初は跳び付くだけ。割に合わない捨て身だぜ。トロウルに飛びついて何が出来るんだ?基本的に行動阻害にしかなってないし、それ以上は狙ってなかった。暴れ牛に飛び乗るようなもんだ。超びびったよ。それで、跳び付けるようになって、今度はフレンドリィファイヤーが・・・一緒に殴られるんだぜ?そこで、どうやったら効果的に押さえ込めるかになって、殺したほうが速いんジャマイカ?ってなって・・・」
じゃあ、どの条件でトロールは死ぬのか?戮丸が無痛死を実際にやってて、行けるんじゃないか?ってことになって、今度は骨格が・・・二人で交互に飛びついて研究して、偶々戮丸がそういう暗殺術をマンガで見たことあるってんで、やってみようってなって、で成功。そこまで行けば欲が出る。それまでは盾役や踏み代役、治療役が居たんだ。そこをソロでやらせてくれって頼んで・・・
「成功したと」
「そう。失敗回数の方が多いな。遥かに。百じゃ効かない。成功はまだ3回しかない。ただ、安定できれば戦術はガラッと変わる。ソロでトロールスレイヤー目指すぜって、とっくに取ってるけどな。それは仲間のおかげだ。これからだ、俺のポジションに価値が出るのは」
楽しそうで何よりだ。
本当に楽しそうだ。