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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
35/162

060 不運な戦士は報われない。



 ―――努力は報われ救いがあるのか?


 ダイオプサイトが声をかけた。


「これはわし等でもいいのかの?」


 木の板を拾って訊いた。当然、20レベルのキャラクターが10そこそこの連中とパーティを組むのは非常識だ。この疑問は当然のものである。


「いや、いくらなんでもむりっしょ・・・」

 ノッツは常識的な意見で否定する。

 マティのレベル帯のプレイヤーは祭りのあと。居るはずも無い。そのことを彼らは知らない。


 その言葉にマティはガバッと起き、全力で否定する。


「いやいやいや、大歓迎。ゴブリンの相手してくれればいいんだよ」

「そのダンジョン・・・旨いのか?」

 大吟醸は当然の疑問を口にした。


「見つけたばかりのバージンダンジョン!しかも古文書や歴史書から推察した超大当たりダンジョンだぜ。これでハズレだったら馬のクソだ!」

 マティは興奮気味にまくし立てた。ちなみに後半の意味は不明。


 ―――後日全裸正座で問い質したい。


「旨すぎじゃないか・・・?」

 この一言にマティはハッと気がついた。


 うん。旨すぎる。胡散臭いほどに。マティも普段なら見つけた事すら喋らない。最悪どう譲歩しようと情報料はとる。自分で言ってなんだが・・・騙すなら・・・泣けてきた。


「・・・ちょ、あんた・・・」

「・・・聞いてくれるか?酒代は奢るよ・・・」

 飲兵衛の定番台詞に三人は苦い顔をしたが、しょうがないなとテーブルについた。


 三人は手早くメニューを注文し・・・それだって慣れたもので最悪自腹でも痛くないように留めて・・・マティの愚痴交じりの顛末を聞いた。


 マティは喋れば喋るほど噓くさいと自分でも思った。ラッキーとアンラッキーのシャトルループありえない。ダンジョン探索の成功自体がちょっとした事件クラスの幸運だ。仮に有ったとしても、今度はそのシバルリ村の価値が判ってもらえない。

 マティだってオーメルの流出映像を見るまでその価値が判らなかった。


「こんな話信じてもらえないよな・・・」

「いや信じるよ」と大吟醸。

「うそだろ!?言っててなんだがド三流の詐欺の手口だぜ」

「―――そんな事言ってもなぁ」


 三人は顔を見合わせる。


「そのシバルリ村から来たんじゃ。わし等は」


 マティは一秒間にきっかり5回瞬きを繰り返した。

 ナニ・イッテイルノデぃスカ・ドワーフさん


「・・・はは、でもさそこの戦闘訓練って・・・眉唾だよなぁ・・・」

 彼らの言い分を否定したい訳ではない。いや常識がね。世間てそんなにもう俺頭がどっかんどっかんでわちゃらかぷーよ。


 今のマティには現実の厳しさが必要だ。


「・・・そのトロスレソロってのは多分俺のことだ。追加するなら短剣でだ。戮丸以外じゃ俺が初のはず・・・」


 マティの顔面は崩壊した。

 現実は何時だって厳しい。予想外に・・・そっち方向じゃないって?甘えるな。


「嘘だ!今だってこの俺が撲殺されたんだぞ。大体どうやってダメージレースに勝つんだよ!無理だ!」

「おまえさ・・・トロスレソロにダガー一本で成功してそれを嘘にできるのか?」

 不機嫌そうな大吟醸のお言葉。

 確かにそうだ。もしこれが嘘で、やってみろといわれたら自分の首を絞める様な物でしかない。恐ろしく苦労するそれをやったのであれば、冗談でも〈嘘〉にすることは出来ない。言っていい言葉と悪い言葉がある。


「ああ、すまない。そうだよなでも不思議なんだよ。どうやって勝つんだ?」


 全弾命中するまで戦闘の繰り返し、それは天文学的な確立だ。彼のレベル帯の命中率はわかっている。仮にその確立が訪れる確証が有るとするとしよう。それまで体が持つか?結論はモタナイ。

 確実に被弾するし、多分命が尽きる。マティレベルでどうにか成功の算段が立つ。

 他のモンスターなら蓄積をコツコツ続ければ可能性はあるが、トロールはあっという間に全快してしまう。


「ダメージレースはしてないんだ」

「じゃあ、どうやって?」

「急所があってね。心臓。そこが弱点なんだ」

「・・・わるい。意味がわからない。やつらは頭が半分吹き飛ばされても生きてるぞ?」

「心臓は試してないだろ?言葉が悪かった。システム的なスイッチが仕込まれているんだ。そこを傷つけられたら死ぬっていうスイッチが・・・」

「はい?・・・何を根拠に・・・」

「―――試した」

 大吟醸は盾に仕込まれた折りたたみ短剣を展開してそういった。


 マティは周りを見回し聞いていたものが居ないか確認して「場所を移ろう」と三人を個室へと案内した。





「ばっかやろう!」

 マティの大音声が室内に響いた。

 この情報が確かなら間違いなく大金が動く。酒場でぽろっと言っていい内容じゃない。


「そういうもんか?奴は平気で垂れ流すから・・・そんな価値がある情報?」

「今、20レベル前後の全ての戦士の悩みが消し飛んだぞ!?・・・ってそんな情報が飛び交ってんのかシバルリ!」

「んーっていうか・・・その人に合わせて戮丸が必要な戦闘技術系統を作ってくれる?てきな?」

「何言ってるんですか?お坊様?」


 理解できない。いや、わからない訳ではない。そんな精神と時の部屋くわせふじこ。


「巨人を倒すアクションゲームが有ったろ?あれがちょっと自慢できる程度にやりこんでるんだ。その事を話したら色々教えてくれた」

「あれと同じ事をするテクニックを教えてもらったと?―――システム違うんですが?」

「そそ。だから、心臓の情報なんてのはたいした事無いんだよ。そんなことより解剖学的な情報の方がよっぽど・・・」


「どう言う事だ?」

「人間の肋骨もそうだけど胸の前・・・そう中央のところで板状になってるんだ。トロールはそれが無駄にでかい。多分、普通にやって心臓には当たらないんだ。骨もむちゃくちゃ硬いし貫通できる代物じゃないからね」

「わき腹ならどうだ?」

「それも俺は無理だった。筋肉分厚すぎ。距離的にはロングソードで届くとは思うんだが・・・根元までぶっさすのはちょっと・・・それに脇だぞ?届く前にこっちがミンチだ」

「じゃあ、どうやって?」


「有料?俺的には百倍こっちの方が重要な情報なんだ」


 確かに、その情報の価値はとても高いが、それをドワーフが止めた。


「貰った情報で小遣い稼ぎは関心せんのぅ。それに知ったところで出来る芸当でもなかろ?」


「判ったって・・・トロールの鎖骨って人間に比べて下がってるんだ。重いものを持つかららしいいが・・・その内側。そこには腱が走ってるがそこを抜けちまえば、骨も筋肉も無い。心臓まで一直線だ」

「そんな情報を何処から?」

「調べたんだよ。二人で・・・戮丸は骨でも何でも貫通できるスキル持ってるからいいけど、俺はホント苦労したよ。解剖もしたんだぜ。でも、戦いながら開きにしてもなんもわかんなくてよ」

「まって・・・そんなスキル聞いたことが無いんだが・・・」

PSプレイヤースキル

「ホント待ってうっそ、プレイヤースキル!?つまりリアルに出来る人間ってこと?戦いながら開きって・・・どんな達人だよ?」

「たぶん、マンガに出てくる達人と互角に戦えるレベルの達人じゃね?オーメルが「俺のリアルに認識している最強の人類」って言ってたぞ?」


「じゃあさ。「僕はシューティングゲームが好きなんだけど?」「じゃあ、こんな戦い方はどうかな?」ってマンツーマンで教えてくれるって言うじゃ・・・」

『まんまそれ』

 三人の言葉はハモった。


「おれはFPSとスポーツ観戦。特にボクシングがすきなんだけどって言ったら・・・前線ヒーラーを薦められたよ」

「その心は?」

「傷口の前線スナイプ。ちゃんと指定してやら無いと、回復魔法って傷の深度に効果が左右されるんだ。より重傷に吸われる。軽い回復魔法なんて数センチの傷を治すのがやっとなんだ。知ってるだろ。気休めにしかならない」

「ふむ」

「でも、数センチでも致命的な場所ってあるんだ。瞼とか、手首とか、大吟醸なら指も重要だね。そこを確実に治せると戦力になると思うんだ」


 確かに回復魔法を貰っても、本当に治って欲しい場所が意外に治らない。瞼や額などは最たるもんだ。そんなカラクリがあることすらマティは知らなかった。その理屈であれば、額の血を止めるには最大出力の回復魔法をかけて貰わなければならない。


「それに、そのレベルの魔法ならマシンガン並みに弾数あるから大体事足りるんだよね」

「おかげで、俺たちは痛いのを慢性的に我慢しなきゃならんけどな」

「泣き事を言うでない」


 事も無げに話す三人。

 しかし、その情報の費用対効果は計り知れない。HPを最大限に使いこなせる。


「シバルリの人間って・・・みんなそんなんなのか?」

「いや、どちらかと言えば俺たちは変り種だね」

「全員が大吟醸みたいな戦い方をしたらあっという間に壊滅じゃしの」

「ザ○キ見たいなもんだし、効果が出ないと全くの無駄。準備に時間がかかる上に、攻撃を喰らって気持ちよくのびられたら・・・ま、叩き起こすけど」とノッツ。

「ふたりにゃ本当に世話になってる。肩なんて吹っ飛んでもかまわねぇ。人差し指が明後日向いたときの絶望感とそいつが戦いながら治ってる感動は・・・ねぇよ」


 (・・・なん・・・だと・・・)


 完全に次元が違う。同じ戦士のマティにはわかる。同じ状態に陥ったら回復を叫んだだろう。と言うよりもその時点で敗走が目に見えている。悪循環が始まるのだ。何処を直してほしいかその時点で食い違い口論を始めるだろうし、それが判るから退却指示をだす。

 その時点で上級者だと思っていた。この理屈に納得して足並みを合わしてくれるのが、連係プレイだと思っていた。


 戦う姿が眼に浮かぶ。しかも、乱戦中の戦士の人差し指にスナイプってどんなレベル・・・レベルでどうにかできるテクニックじゃない。センスだ。


「地球守って赤いお手玉してました」


 マティは瞬間的に理解した。こいつら人類卒業検定受験者だ。


 動画のタグに時々見かける【人類卒業】。人間業とは思えない妙技を披露した動画につく。巨人も地球守っても、どちらも題材によく使われるゲーム。クリア自体は難しくは無いが、そのゲームで必要なテクニック・・・大事な螺子(ファクター)を引っこ抜いて戦うと・・・天井知らずのテクニックとアイデアを要求される。そしてそれを乗り越えると人類卒業がタグに輝く。努力の方向音痴が一緒に点灯するが・・・


 卒業者は本当に稀だ。しかし、同じ事をやろうと挑戦できるレベルの人間は意外に多い。所謂【廃人】。このアタドンはそんな廃人が頭を抱え、飲んだくれる。

 要求されるスキルが違いすぎる。

 逆に、そういった【廃スキル】を持たなくともそれなりに成果は出せる。そこがマティの気に入っている所でもある。


 もちろん、簡単なゲームは多い。でも、違うんだ。それじゃあ満足できない。

 極論を言えば、俺にだけ簡単な高難易度ゲームがやりたい。


 これは極論で、当然口に出すのは抵抗がある。【廃課金】ゲームが流行るわけだ。

 簡単を金で買う。それは一般認識になってしまった。


 投入金額を埋め合わせるように人を嗤い。そして、金銭を投下した事実を別の人が嗤う。嗤いの耐えないゲーム業界。

 そんな世界に嫌気がさして流れ着いたのがこのアタンドット。


 ここの住人は多かれ少なかれその思想は持っている。だから、このゲームでは秘密が愛されている。プレイ中にwikiが閲覧できないのが大きい。


 誰かが言った。


「秘密を守れ」


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