057 だいおぷさいと登場!
スレイのパーティには誘われたのだが断った。戦力過剰というのもあるが、あちらは大学生の仲良しサークル。一方こちらは社会人。普通に人生を楽しんでいるリア充。容姿もそれなりだろう。
卑屈な気分になる。そちらは気軽に「OFF会しましょうよ」と声をかけてくれるが・・・
―――距離考えろ!こっちは東北と北海道だ!
その上、アバターとリアルの自分との落差。二人は会うのが怖かった。
常識的に考えてアバターとの容姿の落差を嗤う事はないだろう。
でも怖い。そんな卑屈さが二人を遠ざけた。
そして、擬似恋愛。
セクハラには人一倍厳しい戮丸。大吟醸は戮丸が昔恋人がレイプされた経験でもあるのか?などと言ったが、笑えないのがネットゲーム。当然二人は性犯罪をし放題という考えは無いが・・・
仲良くなりたい。アリューシャやベイネスは無理としてもミシャラダやキスイ・ティナ。親しげに会話する戮丸が憎い。
正直に妬ましい。しかも、勝てる気がしない。ここでは容姿は皆良い。NPCは千差万別だが。容姿の格差がないとなれば・・・人間として否定された気分になる。
これが最大の要因・・・の一部だ。
ホントは全部だが一部だ。
それが俺たちのお約束だ。
いいね。
二人旅は楽しかった。
いい事ばかりではない。初心者狩りに絡まれたり、その初心者狩りが皆一様に【金魚すくい】だったときは二人は大声で笑った。対処法はみっちり仕込まれている。危なかったが二人は負けなかった。そして、大声で笑った。
圧倒的なNPCの量に圧倒されたり、財布をすられたり、絡まれている女性を助けたり【凄く気分が良かったです】、そんなことから恋が始まらないなんて事を学んだり、先輩冒険者にも会って話を聞かせてもらった。レシートはこちらに差し出されたが・・・
このゲームは体力もアバターに設定されているらしい。どんなに仕事で疲れても、飯さえ食えば元気満タン。反射神経もアバター依存で、現実の体よりはるかに軽い。クタクタになるまで遊んでも、実際の睡眠時間さえ気をつけておけば仕事に差し支えは無かった。旨い物をたらふく食い、酒をがぶ飲みしても次ぐ日にまったく影響がない。体重は見る間に減った。死なない程度に栄養補給を心がけただけで、現実体も軽くなっていった。
ゲーム中の間食が全く無くなったというのが一番大きいだろう。
どうも低周波治療器と同じ効果があるらしい。筋肉はゲームプレイ中もアバターにあわせて緊張弛緩を繰り返し、運動効果と血流によるマッサージ効果があるとの見解だ。
このゲームは運動不足解消とダイエットに効果的。って、いうよりも劇的な効果だった。
二人は最近服代が足らないと嘆きあうのが最近の光景だ。顔は笑っているので、深刻ではないらしい。
実際、食事を減らし、間食を一切やめ、長時間毎日ダイエットマシーンを浴びているのだ。このどれかだけでは効果は眉唾物だが――――そりゃ、痩せるよね。
そんな二人に仲間が加わった。待望のNPCだ。短髪のドワーフ〈ダイオプサイト〉。
・・・当然男だ!
二人は何故こうなったと未だに飲むと嘆くが、二人らしい同行者といったところか。
ダイオプサイトはその短髪が示すとおり、シバルリ村縁のドワーフだ。訓練所でよく見かけたし、手合わせもした。ただ、ドワーフは売るほど居るので忘れてはいたが・・・と言うよりも目を離すと増えていた・・・。
そんなダイオプサイトがのっこのっこと街中を歩いていたのである。二人は慌てて呼びとめ話を聞いた。シバルリ村で戮丸はカリスマだ。袂を分かつとは考えずらい。増殖すると言うことは離反者がいないことを意味する。しかもドワーフの誇りである髭を剃っているのだ。十二分に異常事態だ。
話を聞くとこのダイオプサイトはPCドワーフにぼこぼこにされたらしい。敵はPCパーティ。NPCドワーフが敵う相手ではない。そこで、戮丸の噂をききつけ師事を仰いだ。戦い方は今まででは考えられない深いものだった。強くなる手ごたえを十二分に感じたし、不在時でも彼の活躍はダイオプサイトの耳に入った。崩落に混じりゴブリンが降ってくる戦場でたった一人立ち向かい。死者0で、敵を殲滅した勇者。聞くだけなら冗談のような活躍だが、村人は全員がその目撃者なのだ。興奮しながら話す村人にダイオプサイトは気がつけば感染し、髭を剃っていた。
そして復興。その作業は強制ではない。材料を大量においてあり〈お好きにどうぞ〉の縦看板があるだけだった。
シバルリ村は楽園だった。飯は旨いし、皆親切で腕の振るい場は見渡すばかりで、周りは猛者ばかり、エルフのひよっこでも目を見張る剣技を繰り出す。そして、それらを圧倒する戮丸。ドワーフは弱者には従えない。手合わせを何度やっても勝てる気がまったくしない。しかも、戦うたびに戦い方が違う。ドットレーが兜を脱ぐのも頷ける。
「で、なんでその楽園を抜け出したんだ?」
「わしらドワーフはドカーンとやるのが好きなんじゃ」
大吟醸の質問にダイオプサイトは骨付き肉をハムハムと加えながら答えた。
飲み込んで・・・
「ドカーンとやられたらやり返すのが筋じゃ」
「死・ぬ・ぞ!」
「それが天命じゃな」
ダイオプサイトは意にも介さず当然の事の様に答えた。目を丸くしている。「何でそんなことを聞くの?」と不思議そうだ。
「戮丸はなんて!?」
「我々はダイオプサイトの帰還を歓迎するぞと言ってくれた。器がでかい」
「あんのバトル脳ぉおおおおっ!」
「頭痛い」
ダイオプサイトは戦士だ。当然の考えと言えるかもしれないが、彼はNPCだ。死んだらそれまで、しかも敵はパーティでイーブンの条件でもない。それらが前場わかっての発言だろうが、一緒に汗を流した存在が死ぬ事には違いが無い。
「じゃあ、俺たちが加勢するってのはどうだ?」
「わしの問題じゃ加勢は無用じゃ」
頭固い。
「敵は何人?」
「ドワーフ三人じゃ。皆珍妙な名前をしていたから【ぷれいやー】と言う奴らじゃろう」
「相手は不死身だぞ?どうするんっていうんだよ」
「あのダイさん。ドワーフと人間どっちが強いですか?」
「もちろんドワーフじゃ」
「じゃあ、非力な人間が二人加勢についても卑怯じゃ有りませんね?」
「そうなるのう」
「私も魔法は使いません。その条件で勝負を挑みましょう」
ノッツの提案は意趣返しの永久連鎖防止策でもある。自棄になられたらダイオプサイトに万が一にも勝ち目は無い。
「・・・しかしのう」
「条件は対等以下。勝負に乗ってくると思いますよ」
「ダイさんよぉ。シバルリ村訓練所出の俺たちが負けると思うか?」
「それは絶対無い!」
「なら決定!」
「・・・おろ?」
そうして三人は衆人環視の中、意趣返しに成功した。ダイオプサイトは強かった。その防御は巌の如し、言葉の通りハンマーで殴りつけた相手は防御したにもかかわらず、ドカーンと飛んでいった。大吟醸は剣による連撃で相手を固めてから飛び乗り仕込みナイフを突きつけて勝利した。殺しても良かったが、無用な憎しみは生みたくなかった。
ノッツはシールドの競り合いで拮抗していたが、勝てるはずも無い。ただ、二人の劇的な勝利に隙が生まれた。その瞬間、襟首を掴み体落としの要領で地面にねじ込んだ。見事な完勝である。
彼らも例に漏れず【金魚すくい】だったので、確かにダイオプサイト一人でも勝機はあったのかもしれない。それでも相手のプライドの問題だ。意趣返しで、NPCドワーフ一人にやられるのとパーティにやられるのでは話が違いすぎる。
「次はおぬしらの番じゃな」
そう言って助け起こすダイオプサイト。勝った事ももう忘れたかのような口ぶりだった。
戦闘のあとは宴になった。
そこでは、勝利をたたえるより何処で何を習ったに集約した。見物人には冒険者も居て【ギルド】勧誘もあった。
そこで二人は疑問に思った。
「【ギルド】?【クラン】じゃ無くて?」
その当然の疑問は、先輩冒険者は笑って説明した。
この世界には両方とも存在する。無いのはパーティ(システム的な意味で)とフレンド。
言われてみればその通りだ。共に存在しない。パーティを組んでいても目の前に居ないものは行方不明のままだ。その居場所はわからない。遠距離での連絡手段も無い。俗に言うTELやメールも存在しない。
ゲームによってはフレンドの場所にテレポートする機能を持ったゲームもある。しかし、そういうゲームと割り切っていた。
では【ギルド】【クラン】は?
この質問には言葉通りだと答えられた。【ギルド】は組合【クラン】は氏族という意味で、クランはPC間の国家に相当する。当然、一個しか所属できない。【クラン】はそのマスターが定めた法に則って機能する。その中に連絡機能も入っている。階級を設定してあればそれらが適用されるし、情報や法も通知される。オープンに設定されていれば会話は同一クラン内で筒抜けになる。
もちろん、巨大クランともなれば煩くてしょうがない。そこで、階級や支部を儲け連絡網を整備できる。
クラン内褒賞もあり、当然普段はマスター側の自腹になるが、クエストに付属している場合もある。レイドバトルなどのになるとクラン員全員に渡る褒賞なども用意されている。
赤の旅団は巨大になりすぎてクラン員の募集を打ち切っている。では閉塞するのではないか?と思うが、クラン丸ごと吸収する形で成長を続けている。実に合理的だ。小規模クラン内で安定を保てない連中は要らないのだ。
対照的なのはサンドクラウン。入るのは簡単だが・・・階級を上げるのが死ぬほど厳しい。自由を標榜するクランなだけはある。
そして今度は【ギルド】は組合でクランの廉価版のような機能である。簡便化した機能だが直ぐに作れるし、複数所属することも可能。クランの垣根を越えた単位だ。まぁ、旅をしているならギルドを作って他所で言うパーティを組むのが無難。オープンにしておけば全員の会話が聞けるし、クローズにしていてもマスターと直通会話が出来る。
それが複雑に組み合った複合ギルドの代表格がポリスラインだ。こちらもギルド単位褒賞が存在することが多い。ただ、払う側は実費が発生してしまうので巨大ギルドだと断られる。パーティで補欠メンバーにも褒賞が入るのはありがたい。
猟友会や商工会など無数に存在する。状況はキャラクタースクロール別名キャラシーに表示される。ギルド内メールもここで受信する。
「で、俺たちを入れたいギルドっていうのは?」
「猟友会。稼ぎになる話があれば流れてくるし、腕利きが居るに越したことは無い。クランでもいいぜ弱小だけどな」
「でもさ、移動はどうすんの?」
彼らは旅の途中、漠然と目的地はシバルリ村となる。道中は結構な時間がかかる予定だ。「あそぼうぜ」と声をかけられても距離がネックになる。
「宿にはテレポートゲートが設置されてる。ダンジョン行きとは別のアレだ。一度行った宿には跳べる仕組みだ」
「それじゃ、行商人は居ないんじゃ・・・」
「ああ、そこは教えなきゃな。跳べるのはあくまで冒険者のみだ。当然、行商や配達は楽な仕事だがあくまでトレードの扱いになるんだ」
「経験値にならない・・・と?」
「そう、だからいくら金を積まれても受けるなよ。護衛になればクエストだ。経験点が発生する。居るんだよ馬鹿が。片っ端から受けて経験点を無駄にする馬鹿が」
そう吐き捨てるようにその男は言った。
状況にもよるだろう?と三人は思ったが声には出さなかった。
「このゲームをやるなら覚えておいた方がいい。このゲームは秘密を楽しむゲームだ。情報は他のゲームの何倍も価値がある。あのドワーフどもは経験値システムにも気付いてねぇ雑魚だ。ああやって干乾びていくんだぜ。負け組みだ」
「教えてやら無いのか?」
「なんで?おれが?雑魚には消えてもらうのが一番だ。しらねぇよ」
三人は眉間を寄せた。
「あんたらは違うぜぇ。腐ってねぇ、いきがいい。だから、秘密の意味・・・わかるだろう?」
暗に猟友会加入を勧めていた。
断る理由が無いので入った。ダイオプサイトは渋ったが・・・二人に習った。
「性根が曲がっておったな」
男が去ってダイオプサイトの第一声がそれだった。
「ネットゲーマーはあんなもんだよ」
「そそ、基本ビックマウスなんだ」
昨日の自分がそこに居た。
それゆえに悪くは言えなかった。考え方は人それぞれだ。
ダイオプサイトは席を立って三人組のドワーフに何か話して戻ってきた。
「何を話してきたんだ?」
「村の場所を教えてきた。後は奴ら次第だ。何かあっても、親びんが決めてくれる」
そう言って、ダイオプサイトは残りの食事に喰らいついた。良くも悪くも村の男だ。
あの情報が正しければクランは戮丸が作ったものに所属するのも悪くは無いと思った。
あの男がクランを作ればの話だが・・・
三人はギルドを作る事にした。リーダーは大吟醸。回線はオープン。インしたら直ぐに連絡がつくようにだ。問題は名前・・・
悩んだ結果、こうなった。
【凶王の試練場】
某有名ゲームのサブタイトルを少しもじった。訓練場仲間で組んだギルドだ。特に名前は何でもいいし・・・これしか思いつかなかった。どっかの誰かの印象が強すぎる。
登録すると【凶王の試練場(69)】と表示された。つまり、68組同名ギルドがあるのだ。
キャラシーのその欄の脇に情報が書き込める。そこに自分達の当分の予定をゲーム内時間で記入していく。日時計算はオートなのがありがたい。その内容はダイオプサイトのキャラシーにも反映されたのが何か嬉しかった。
大吟醸達は今日参加した猟友会の情報を確認したが、有益な情報は載っておらず以上の文面が表示されていた。
【ディクセン猟友会】
気軽なハンティングを楽しみましょう。
漢字はちゃんと間違ってるな。よしよし。