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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
25/162

050 荒野戦2 剣を拾った

遅れました。スイマセン。



  浮いた一枚の布切れに、ボールのようなものが衝突したらどうなる?

 ボールを包み込むように布切れは動くだろう。

 そして、そのボールと布切れが勢いを殺す前に壁面に衝突したら?

 布は壁に広がり、ボールは吐き出されるように跳ね返る。


 条件により結果は異なるが、理屈はおおむね理解できるだろう。布が濡れていたと仮定すれば、確実性は増すだろう。


 タックルをしたオーガがボール。吹き飛ばされた布切れが戮丸。

 戮丸の四肢は衝突時、オーガを包み込むように絡まった。

 そして、別のオーガに衝突した際に、大の字に広がった。


 ・・・判るだろう?


 ただ、その両手には短剣が握られており、タックルしたオーガが既に絶命していた。

 それだけだ。


 ・・・判るかな?


 戮丸は転げる形で距離を取り、口から空気と血液の混じった内容物を吐き出した。

 衝撃の瞬間に息を吐かずに耐えた。そうやって肋骨を守った。だが、その内圧に肺腑はもちろん複数個所が耐え切れず裂けた。

 逃げ場を失った気体は口腔を通り胃にまで進入し、各部内壁に傷を残した。

 ゆえに、食道から胃まで開いてしまい、内容物が口から毀れた。


 頭が破裂したような衝撃を新鮮な空気でクリアにする。

 そんな事は出来る訳が無い。だが、無いよりマシ程度の効果はあった。


 ―――しくじった。


 彼の芸当は賞賛に値する。だが、彼にとっては致命的なミスだった。

 圧は肋骨をそれたが、肩に集中してしまっている。関節部に不安が残る。ひびが入ったようだ。腕は持ち上がるが、ぎっくり腰のように腕が重い。

 ―――重いというと御幣が有る。腕の重さ分だけの鈍痛が走る。

 走っただけでも腕が落ちそうな不安感と鈍痛。


 オーガはこの戦場では雑魚に当たる。いかに劇的な行動を取ったといっても、片腕と引き換えでは割に合わない。

 走行にも支障が出る。走れば体力はあっという間に失われる。


 普通の人はこの状況で走ろうと言う発想が出てこない。


 この状態では弓は引けない。弩だったのが幸いだが(ボルト)保持部品は壊してしまった。

 この状態ではオーガは何とか・・・飛龍と巨人はほぼお手上げ。この状態でオーガを倒しただけでも賞賛に値する。


 ―――賞賛では意味がない。

 ―――何の慰めにもならない。


 戮丸はコンバットナイフを振り回し・・・なんてことは許されない。


 カードは軒並み消し飛んだ。前述の通り、残ったカードの切れ味を上げなくてはならない。用いるのは集中力。剃刀の様に鋭いが頼りない。

 剃刀の刃で牛一頭を解体するような作業。気持ちや勢いで振り回せばあっという間に砕け散る。


 蛮刀の下をかいくぐる。体を回転させ風車のようにひじにナイフを叩き込む。


 ひじを触ってみて欲しい。ゆるく曲げた瞬間だけ斜め方向に隙間が開くのが判るだろう。そこには筋があり、指で弾くと痺れたような感覚が走る。

 戮丸はそこにナイフを走らせた。いや、突き立て滑り込ませた。


 特定の角度しかない。しかもその瞬間しか開かない隙間。それに対してまっすぐに突き立てたから痛みは無い。ただ、その状態で動かそうとしたら?

 オーガの体格ならナイフのほうがひしゃげそうだが、ご存知マジックアイテムは壊れない。

 戮丸のジャグリング張りの換装技術が可能にする攻撃。

 悲鳴を上げる肩は腕を口に咥えて・・・よくやるよ。


 オーガは悲鳴を上げて蛮刀を取り落とす。戮丸は関節を破壊したのを確認するとナイフを収めた。

 若干のためらいはあった。そのままにすれば、そのオーガは封殺できる。

 その選択肢は選ばなかった。ここまでくると動物的な感である。


 そして、奇跡は起こった。


 オーガの落とした蛮刀が見る間に小さくなる。


「まさか!―――嘘だろっ!?」


 戮丸は重量級兵装は持っていない。技術に全幅の自信があるのは確かだが、アトラスパームと相性が悪すぎるのだ。重量無効の特性は当然武器にも及ぶ。アトラスパームを使用していると硬い発泡スチロールのような状態になる。当然威力は激減する。投擲すれば状況は異なるが・・・使い捨てに出来るような代物じゃないし、その重さから投げた武器の自壊は免れない。それなら敵そのものを投げたほうがいい。

 今回はアトラスパームは無しだ。〈数打ち〉なら都合できたが、実重量が健在つまり重い。戮丸は機動性を選んだ。


 この状況で長物はありがたい。喉から手が出るほどだ・・・


 光を放つそれを構わず掴み距離を取る。結果は・・・


『?オーガソード』



「・・・両手持ち♪」


 全身痛いのに頭痛がするのは何故であろう?


 ――多分気のせいだ。


「ざっけんなっ!縮むのならせめて片手で触れる大きさまで縮んでくれ!」

 戮丸は咥えた腕にオーガソードを握らせた。完全に健康な腕は開けておきたい。幸い、持って持てない重量ではなかった。

 更にゲームの特性。体の部位は切り離しても機能する。シャロンの眼球は毀れても映像を脳に送っていた。今の戮丸の腕もオーガソードをしっかり握っている。

 ただ、その実感は返ってこない。この辺はリアルだ。重篤じゅうとくな打撃を受けた時、患部に感覚は無いがちゃんと動いている。そんな感じだ。

 交通事故や、腕が折れた時を思い出す。


 口に怪我をした左腕を咥えていたが、どうやらこれは失策らしい。肘が浮いてしまう。移動のたびにブルンブルンとゆれて、やはり痛い。

 オーガソードを肩に担いで腕を絡ませた。

 ずいぶん楽になった。ひびが入ったのは腕側の肩の骨なのだろう。肩に担いだ事により荷重は鎖骨や肩甲骨にかかる。常に下方にかかっていた荷重は上下に分散した。このまま治った時の後遺症を考えるとゾッとしたが、魔法が健在。今は考えないことにした。


 しかし、長さ1.5mの長物を担いでは体術、蹴り技はほぼ全滅。転げまわっての回避も出来なくなった。

 利点と言えば走れるようになった点か・・・担いだオーガソードに腕を乗せている。休ませられる。


 戮丸は周囲を見回した。攻撃が止んだ。見回す余裕が出来たのだ。


 状況は予定通りに最悪だった。


 すべての巨人は敵意をこちらに向けている。あの一射は効果上げていたのだろう。空には飛竜。オーガは巻き込まれない距離でリングを作って見物。リアルでは良くある光景。MMOではほぼ発生しない状況。

 苦労して敵意を集めた。それはヘイトではなかった。その違いが如実に出た。


 ―――詰んだ。


 その言葉が脳裏を過ぎった。


 いつもどおりに・・・

 この状況には慣れている。TRPGと現実ではヘイトなど存在しない。これで伏兵が一小隊潜んでいれば、戮丸は大活躍と言う事になる。

 戮丸に回復が跳ぶだろうし、リングのオーガにはライトニング・ファイヤーボールで一掃できる。

 対軍団戦の常套手段。ただ、今回は伏兵はいない。ゲームでもリアルでも戦場は選べない。


 そういう主義の戮丸には良くも悪くもなれた戦場。なれた感覚であった。


「南無参!」


 戮丸はとっておきのクスリビン投げ込んだ。


 オーガの群れに向かって・・・



リアルの仕事で戦力外通告を受けました。

予定通りです。いつもどおりです。


また研修からやり直し、また間隔は空くと思います。

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