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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
23/162

048 越権の間




 そこは会議場と言う感じの部屋だった。高校受験の面接を思い出す。

 てっきり謁見の間に通されると思っていた戮丸は渋面を作る。


(――誰が女王様なんだ?)


 その感想は正しい。本来なら上座に着く、しかし、この場では上座がわからず、順当に考えれば戮丸の対面――中央に座るのが女王だろう。女王は貴族連の中では伯爵夫人扱いだとは聞いていたが、ここはディクセン本国だ。まさか、自領内でも伯爵夫人扱いという事はないだろう。


 対面に座るのはブラウンの髪を纏め上げた女性。流行らない宿の未亡人と言った風体で、とてもじゃないが女王には見えない。

 その目には見るからに疲労の色が伺え、後れ毛も手伝って――しかし、度が過ぎている。年の頃は三十中盤といったところで、美人といえば言える。もしかしたらもっと若いのかもしれない。

 そう思うほど・・・逆に四十、五十といわれても不思議じゃないほど気勢がそがれている。

 倒産寸前の旅館の若女将といった感じだ。


 それに対して右手に座る女性は豪奢の一言。短い金髪に挑発的な目鼻立ち、派手な美人だ。飾りとしては女王にふさわしいが、若い・・・薄っぺらくみえる。

 それを補うように大きな鎧。サイズが合ってないのか鎧の上に美女の顔がちょこんと乗っている。

 鎧は金と白金の装飾(エングレービング)が施されており、白い地金とあいまって美しい。

 皮肉な事に見事であればあるほどに滑稽だ。


 絵に描いた若き女王といえば言えるが、実際に一国を統べる風格は無い。


 多分主導権を握っているのは金髪の彼女だろうが・・・経験的な厚みでは中央の女性。それに先に教わったヘルガとの名前・・・中央の女性にはイメージが合わない。何もかもがあべこべな上、領主に対しての敬意が見えない。

 戮丸が困惑したのも無理からぬことだ。


 中央の女性が立ち上がり宣言するように言った。


「私がヘルガ・ディクセンこの土地の領主です」


 ――酷い虐めを見た。

 当主――――しかも国王自ら名乗るとは・・・ここでの礼儀作法がどうなのか知らないが、そういうのもありなのだろう。だが、他の貴族はふんぞり返って座っているのが合点がいかない。


「それでですね。こちらがリーゼ男爵令嬢様」


《様!?》


 通常であれば、腰巾着がえらそうに司会進行役を行う。先のリーゼが言うべき台詞を領主自ら言っている。上流階級の女性は普通に《様》を付ける。しかしこの場合は異常すぎる。


「して下民、外の騒動は何だ?」


 リーゼが言う・・・何様だ?


「避難民ですね」とこれは銀。

「このディクセン市では受け入れはできないぞ」

「必要ない。シバルリ村で預かる。その挨拶に寄ったそれだけだ」


 戮丸は冷たく言い放った。リーゼと会話しても何ともならない。意味が無いのだ。


「シバルリ村と言うのは何ですか?」

「はい女王様。地下村落がこの度、落盤によって地表に露出しました。その結果、位置はディクセン領との事で挨拶に参上した次第です」

「村の住人の暮らしぶりはどうなっているのですか?」

「基本的に酷いものです。が、カラクリがありまして、飢える事は無いでしょう。外貨のあてもありますし」

「防衛面では?」

「このディクセン市より安全かと」


「そんな馬鹿な!」とリーゼ。


 仮にも首都だ。安全面で劣っているなどあってはならない(・・・・・・・・)


「問題無いですね。私はドワーフですし、同胞も多数居ます。遠からずドワーフ様式の砦が完成しますよ。兵隊は冒険者が湯水のように現れます。ご存知のとおり不死の存在」

「その兵を生かす糧食は?」

「冒険者は最初地下で暮らします。その間、食糧は宿から提供されます。もちろんお金は必要ですが、尽きることはありません。そのお金はダンジョンから供給できます。その地下の宿とシバルリ村は連結しているのです」


「その食糧を融通して頂く訳にはいかないでしょうか?」


 女王は話がわかるようだ。現状を見れば何とかしようと思う。このゲームが資産収集ゲームであれば話も変わるが、むしろ現金は持て余す。以下に有意義に使うかの点に集約するわけだ。道理を通しさえすれば財布の紐を開くのはやぶさかではない。


「そこで、いく当ての無い難民です。シバルリ村は人手が欲しい。開拓、開墾、通商、必要なことは山ほどあります。それと、冒険者の巣との連結はどの勢力の支配下に入るのも嫌います。そこで、友好的な関係を築きたいのです」


「集落を建てたいなら村をディクセンに帰順しなさい」


 と、リーゼは言った。貴族達はリーゼの意見に頷く


 わかってない。どの勢力下に入るのも嫌う。それはディクセンも例外ではない。好き嫌いの問題でもない。


「一個の勢力の支配下に入ると言うことは、エイドヴァンのすべてに宣戦布告するのと同義ですよ?覚悟はよいか!」


 やはりわかってなかった様だ。リーゼは周囲に同意を求め視線を泳がせる。


「オーメル様。法の守護者の貴女様ならこの無法を見逃さないはず!」

 このディクセンが健全な国家であれば通る道理だ。だが実情は国民を持て余し難民としている。そこに金を持っているなら国民になりなさい。

「どっちが無法だ!」

「残念ですが、ご期待に応えられません。もしディクセンの支配下に入るのであれば、そちらの方が見逃せない。我が赤の旅団が意の一番で攻め落としにかかります」


「支配下に起きたいのであれば、この戮丸に騎士位と私兵を預けることをお勧めしますよ」

 銀の意見。貴族達から反感の声が上がる。


「その本意をお聞かせ頂けますか?」


 そう言って場を治めたのはヘルガであった。いきなり現れた一介の冒険者が騎士位階を下さいと言っているのだ。ここは貴族連の反応のほうが普通である。


「これはディクセン側への入れ知恵と思ってください」


 銀はそう前置きをして始めた。戮丸にそれなりの地位と兵力を預ける。そうなれば当然、納税も発生するし、防衛の義務も生じる。そうなれば戮丸もさすがに支払う。私兵を持たせるのはシバルリにディクセンの出島を作る事。その庇護域が拡大するにつれその範囲内の住民を国民とし納税の義務を与える。というのが銀の案だ。その際に、冒険者は庇護対象に無いものとすれば、各方面に言い訳が立つ。


「戮丸に発言権を与えると言うのか!」


 それでも当然のように貴族は反発する。


「ですが、ご覧になったでしょう?あのキャラバン。戮丸の単純な善意と戦闘能力に集まってきたものです。この国の住民ですら、ディクセンの庇護の下にあるより、戮丸の庇護の下を選んだのです」


 これからも勢力は拡大の一途をたどるでしょう。それに戦力は黙っていてもそろう。既に、慕うものは多い。遠からず4大クランに匹敵す勢力になるでしょう。ここで、新参者と侮って敵対するのはあまりに愚作。各国が持っている巨大クランをディクセンも持つべきではないでしょうか?


「しかし、戮丸でなくても・・・」

「では、どういった人物が適任ですか?」


「当然、ディクセン側の人間が統治を・・・」

 オーメルと銀は鼻で笑った。当然だ。冒険者がNPCに従う訳が無い。異論を挟んだのは意外なことに戮丸だった。


「俺が纏めて、女王に忠誠を誓えばいいんじゃね?」

 このど馬鹿様・・・銀は呆れた。それをやってくれと今頼んでいるのだ。オーメルは肩を竦めて「こう言う奴だ」と諦めを促す。


「・・・私にはあなたに報いてやれるものが何一つありませんよ?」

 女王は問うた。貴族の考えでは地位を与える事こそが報いのはず、しかし、女王にはそれが戮丸にとって全く益にならないとわかっていたのだ。



「いやね、うちの人間達もこの国に不満は山ほどあるよ。でもさ、不思議なんだけど俺が女王に忠誠を誓ったって言えば多分喜ぶよ。両親を無くした子供たち、不安から逃げ出した大人達。全員だ。不満は山ほど抱えてても国の御旗が汚れてるのは嫌なもんだ」

「私は何をすれば・・・?」

「これから奴らは必死で生きる。その邪魔はしないでくれ。出来ればその成果を喜んでくれると嬉しい」

「この国に忠誠を?」

「いや、アンタにだ。その疲れた目元は何の為?小生意気なクソ餓鬼の紹介を買って出たのは何の為?俺みたいな風来坊に商談を持ち掛けたのは何の為?・・・そういう奴になら死んでやっても俺はかまわないと思っている――――直ぐ復活するしな。そんなに高くないんだ」


「私は反対です!こんな奴が私と同格になるなんて!我慢できない」

「だから、てめぇはクソ餓鬼なんだ。誰が主だ!?」


 ここで風来坊に指揮権を与える行為に反対するのは当然のことだ。反乱・裏切り・内通理由を挙げれば暇が無い。だが、彼女の意見はあくまで位階・序列に重きを置いている。


「俺も聞きたい。治安指揮を任せたいと言うのは判らないでもないが、騎士位階は必ずしも必要ではないだろう?過大評価ではないか?」

 戮丸はそういった地位を嫌う。気に入らないなら平民のままでいい。実力で捻じ伏せる。そういう気風の男だ。執着するオーメルと銀の思考を疑う。過大評価というのは貴族の手前若干の遠慮だ。



 それに応えたのはオーメルだった。


「たとえば今回のケース。プレイヤーの不死性と経験値システムに問題がある。他のケースでも大体其処がネックだ。おかげで、法の拘束力が弱い」


 オーメルの発言に戮丸は頷いた。

 そこで、賞金首と言う制度がある。賞金首と認定されたら、対象はエネミーという認識になり、所持品は金を含みドロップアイテムになる。


 ―――つまり、カテゴリーがモンスターになるんだな?


 オーメルは大きく頷いた。それに、銀行を活用しても設定された罰金は自動引き落としになる。


 無条件に設定できるのは爵位持ちの貴族以上の存在。それも無制限に使えるわけではない。基本的に法がガイドラインになっている。気軽に賞金首を選定すれば他の貴族から賞金首の認定には十分すぎる理由になる。賞金首は基本的に自分と位階が同じか低い対象にしかかけられない。

 しかし、例外があって位階が士族相当の人間は、法に照らし合わせた上で現行犯に限って賞金首の認定が可能になる。証拠品の有無で認定期間は左右するがな。


 ―――まてよ。それじゃトレイン牧場は・・・騎士団の巡回で防げるじゃないか?


 そう、犯罪者を対象に狩ればいい。やってる事はトレイン牧場と変わらない。善悪が反転してるだけで、レベリングの足しになる。ディクセンでも、巡回したいが残念ながら行動圏外だ。


 ――――では、ディクセンの騎士は?


「私とリーゼ嬢だけだ」


 戮丸は呆れた。騎士が増えない理由は大体想像がつく。オーメルはポリスラインの首魁だ。すべての地方で騎士位を取得しているのだろう。かといってオーメル一人にディクセンの大掃除は無理な話。

 それでも聞いた。


「巡回は?」

「年に4度一団を編成して当たってます。オーメル様のお手を煩わせる事ではありません」


 目の前が真っ暗になった。

 大軍を編成して予定を発表してては犯罪者は隠れてしまう。えらそうに行列を周回させて満足していたのであろう。まったく効果が無い。


 ポリスラインはガイドラインだ。騎士・・・士族による巡回を奨励している。再発防止に、拘束の手法や騎士権の悪用にたいした対処法を薦めている。それゆえに、エイドヴァン全土に浸透した。

 それでも有事の時の最終手段に赤の旅団を持つオーメルが首魁を務めている。確かに、この方法ならポリスラインが暴走することはない。もちろん、オーメルが企みごと謀れば話は別だが、そこは信頼と実績だろう。


 この場合、リーゼを処断できない。悪行どころか仕事自体をしていない。このお嬢さんは騎士位という煌びやかな勲章を眺めて満足しているのだ。独占か?


 はなからNPCが付く役職じゃない。それこそ多数の騎士を内包しているのであれば話は別だが、現行犯と言う特色上現場上がりのプレイヤーじゃなければ話にならない。だが、それをこのお嬢さんに言わせれば「品位が足らない」


「それでこの惨状か?」

「惨状?このディクセンほど平和で安寧に満ちている場所はありませんよ」



 ――――切れた。


 難民が眼に入らないのか?両親を失った迷い子は?流通は?物資の高騰は?

 それと引き換えの中庭の平穏。ふざけるな。言っても理解できないだろう。


 戮丸は席を立った。リーザに歩み寄る。


「最終勧告だ。考えを改める気は?俺が預かる子供たちは全員親を失った」

「まぁ、おかわいそうに」


 リーゼは本気で言っていた。その原因が自分だとは考えが及ばないらしい。


 削除するしかない。

 理解は求めない。

 そんな余裕は何処にも無い。

 怒ってやる必要も無い。

 逃げられたら厄介だ。



 刹那。視界はグラリと傾いだ。そして横合いに衝撃を受ける。



 ―――戮丸の首が落ちた。




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