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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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047 ディクセン首都入り




「何の騒ぎか!」


 深夜の来訪者に門番は慌てた。超の付く大規模キャラバンの来訪である。キャラバン自体の来訪が無いのに、全くの異常事態だ。

 門衛は「朝まで開門はできない」と突っぱねた。妥当な判断だ。

 散々もめた挙句何日かの居留地を作らせて欲しいとの要望に、例外的に許可を出した。


 難民という訳ではない様だ。見知った顔もちらほらある。


 戮丸は手早く天幕の設営を指示し、防衛計画を練っている。こんな場所でも小物のモンスターは出るし、キャラバン内の治安も重要になる。こんな場所で無法を働くものも居ないと思うが、衛兵は当てには出来ない。自分達でするしかないのだ。


 元より、全員のディクセン市入りは無理と踏んでいた。挨拶だけして、無用な混乱を避ける。食糧は村に居たときよりも充実している。選ばなければの但し書きが付くのだが・・・


 シャロンは市内での買い物の予定を纏めた。全員でショッピングタイムを設ける訳にはいかない。シバルリ村に着くのが第一。拙速尊ぶ。必要なものの手配はキャラバンに商人もいたので思いのほか簡単に纏まった。


 防衛計画はサンドクラウン抜きにたてていた。若い衆・・・取り分け狩りに同行した子供たちも熱心に話しを聞いた。

 計画の趣旨は危険の早期発見と対応の迅速さに焦点が当てられた。避難誘導の仕方、バリケードの建て方、アイテムの優先順位。捨てて良いアイテムか?否か?アイテムとは言え元は個人の私物だ。実際に使うかどうかの決断を迫られた時迷う時間は無い。


 食料品などは何をおいても守りたいが、シバルリ村までの距離によって話が違ってくる。シバルリ村では食料品は定価で手に入る。徒歩で三日の距離。馬車なら飛ばせば一日で着く。

 キャラバンという性質上そうは行かないが・・・


 最悪、ここで食糧を吐き出しても考えようによってはいい。値崩れする予定の屑野菜を後生大事に持っているより、相場が崩れる前に売ってしまえという事だ。

 三日分の食糧と予備を残してここで売り払ったほうがいいとの結論に達した。

 で、各自可能であれば所持すること。いざとなったら各分隊ごとでもシバルリを目指す。


 後は所持品の整理だ。シバルリ村は特性上なんでも手に入った。金さえ払えばだが、売れるものは売って、資産は換金し持ち運びし易い形に代えさせた。


 これは困難を極めた。思い入れもあるが相場変動もある。結論は出ない。


「迷う様な物は取っておけ」

 戮丸はここまでの移動が可能だったのだから後回しにすると結論付けた。




 逆に困惑したのは衛兵のほうだ。


「いれろ」と暴動でも起こるのかと思いきや、マテをされた犬のように大人しい。当然警戒はしている。が・・・それが逆に不気味だった。

 銀が入れて欲しいと交渉に来た。冒険者は夜間でも市内に入るのは咎められない。ログアウトできないでは大騒ぎになるからだ。そこにシャロン、戮丸がやってきて銀だけは入れてやって欲しいと頼んできた。

 こうなると、頑なに断るのもアレだ。特例と強く念押しをして市内入りを許可した。


 銀が単身ディクセン入りを持ちかけたのは冒険者に渡りをつける為だ。日が昇ればシャロンはタイムアウトで、一行は足止めを余儀なくされる。

 結局は戮丸、シャロンも市内にログアウトの為、入らないといけないのだが、今すぐという話ではない。


 シャロンがインしたのは19時ログアウトが23時、明日も19時にはインするとして所要時間は20時間で一日9時間として二日とちょっと・・・こちらの二日後の夜中に合流できる。


 交渉する時間は山ほどあるが、生活サイクルを合わせられる人間の確保と、真逆のサイクルにあわせられるものの確保が重要になってくる。戮丸にこれ以上無理を強いるわけにもいかない。


 出来ればここで約一日は休息を取らせないといけない。カロリーメ○トしか齧ってない真相はとてもじゃないが言えない衝撃の事実。更に一回死亡している。


 後日銀曰く「―――自殺中?」


 何としてもそれなりの人員を集めなければならなかった。サンドクラウンで既に現地入りしているのは1小隊。ここではワンパーティ分の人員。しかもその任務の重要性がわかる人間。赤の旅団メンバーでもいい。信頼できる人間でなくては・・・


 戮丸がアトラスパーム無しにどうやって巨人と飛竜を撃退したかは大体想像がつく。スカイ○ム経験者なら大体の予想はつくだろう。神経を極限まで削って地道な作業の繰り返し、しかも装備もレベルも貧弱この上ない。かすったらアウトな無理ゲー展開。逃げ切るほうが遥かに楽な作業。


 休ませなくては・・・尋常なスタミナじゃない。


 折衝の根回しもしておかなくては、これ以上の負担は厳禁だ。理性が崩壊しても危険なのだ。サンドクラウンと戮丸の全面戦争は危険すぎる。利益を損なうどころか壊滅の目まで有る。


 幼女hshsなんて人間が冗談を犯したら・・・


 あと2小隊は欲しい。何としても・・・





「や!」

 ―――オーメルが茶を飲んでいた。


 銀は全身の力が抜け膝を着いた。


「す・少し待っててくださいね」

 そう言ってログアウトゲートを出た。


 そして、リアルで回線をクランマスターに繋いだ。幸いログアウトしていたのですぐに繋がった。


「ディクセンに来い、最精鋭つれて今直ぐにだ」

「―――いやあ。お前がやってくれていることが重要な案件なのはわかるよ、わかるけど・・・お前が居る意味がなくね」

「赤の旅団が本気すぎて噴くレベルなんだ。オーメル投入しやがった」


「本気すぎてって・・・マジか?おまっ!マジデカ!?」

「ああ、遣り切ってもいいんだぜ俺は!メンツの問題で釣りあわねーだろ!確実にその件で突いて来る!間違いない!そういう人種だ!」

「うっわwww会いてぇwww・・・って無理だわ。今は離れられねぇ。何とかこなしてくんない?」

「マジかよ・・・」


「今、お坊ちゃんの縁談話とかで泣き付かれてるんだわ」

「どてっぱらに風穴開くけどおk?」

「・・・何とか上手くやってくれませんか。何か必要な物があれば送ります。被害を最小限に抑えてください。お願いします」

「必要っつってもな・・・」


 増援の人選は細心の注意を払ってあらかじめ決めておいた。変な物を貢物に差し出しても・・・間違いなく逆効果だ。特に必要なものは・・・


「今の時点ではないな。こっちじゃトレイン牧場が蔓延してるんだ。おかげで、戮丸一行は今じゃちょっとしたキャラバンだ。被災地の住民を一人で抱え込んでいるようなもんだ」


 その頃、砂の冠(サンドクラウン)首相はゴルフでチップインバーディ。胃が大破する。




「そこまで警戒が必要ですか?」

 自由を掲げるサンドクラウンには仕事に口出す真似は避けたかった。それがサンドクラウンの流儀だ。


「―――俺サンドクラウン辞めるわ」

「まてまてまて、待って下さい!」

「今日戮丸がユニークアイテム無しで巨人3体と飛竜2匹片付けた。確かレベルは15いってない筈・・・オーメルはいいんだ首輪が付いてるからな。オーメルと同格の人間が野放しで情報やら恨み言やらガンガン吸収してるんだ。辞めたくなるだろう?クライハントでゲリラ戦仕掛け始めたら・・・断言していい。もたない」

「まじですか?」


「孤児を十人近く引き取り、寝ずの警護。その状態でモンスター散らすために限界バトルを飛車角落ちでクリアして帰還時間が足りないからその為だけに一回死んで・・・ああ、訂正、サンドクラウン俺が潰すわ」


 状態を列挙して気付いた。冗談が通じる状態じゃない。


「ちょ、おまっ!」

「そんな人でなしのクランマスターに仕えてたなんて虫唾が走る。俺のほうから願い下げだ」

「わかった。うちの清掃部隊動かして根こそぎ刈らせる。だから、物騒なことを言うの辞めてくれ」

「そういう人間とこれからガチでやりあうので、冗談は覚悟を決めてから言ってくれ。介錯はしてやる!ぜひとも!」


 通話越しに大きなため息が聞こえた。少しは肝を冷やしたようだ。


「じゃあ、オーメルによろしく言っといて。それとこの埋め合わせはいづれ必ずするとも」

「―――“下さい”は?」

「お願いします!頑張ってください」


 これはクラン代表として正式に赤の旅団に借りを作ったということ。どんな要求をされるかわからないが、先払いで銀はかなり動きやすくなった。


「わかった。これからオーメルと一戦やらかすから切るぞ」

「何とかそっちは乗り切ってくれ、ほんと頼む」


 そう言って通話は切れた。一息つきたいのは山々だが銀は気を取り直してログインした。


「〈金剛〉はなんと?」

 先制ジャブ。みぬかれてーら・・・


 ―――そのジャブ凄く痛いです。

「この埋め合わせは後日必ずと・・・それとよろしくだそうです」

「―――ほう」

「オーメルは何で・・・」

「戮丸への義勇軍――と言うのが建前だよ」

「ほう」

「後ろ盾が無さ過ぎる。それにそろそろ奴も限界だし、あいつは疲れると力技に走るから・・・危ない」

「どう危ないのですか?」

「いや、あいつを支えているのはプレイヤーのスキルだ。格闘団体からスカウトが来る様な出鱈目な肉体のね」

「そうですね。今日拝見しましたが動きに淀みが無かった」

「そう、普通の人間なら敵わない。でも、そんなものが反映されるゲームなんて無いんだ」

「確かに・・・?」


「私は、ここでなくても一定の信頼をアイツに抱くよ」

 つまり、前衛職としての信頼は最大のメリットを抜いて判断されている。

 戮丸の最大の特徴は、リアルでの格闘趣味から起因したものであってゲームとは無関係。


「アイツのあだ名聞きたいかな?」

「出来れば聞きたくないような気がしますが・・・」

爆弾魔ボマーだよ。火薬を持たせるのは非常に危険だ。人の警戒心の裏を付くのが絶妙に上手い」


 ・・・聞きたくなかった・・・


「ああそれと奴は本気で怒ると静かになるから、覚えておいたほうがいい」


 ああ、昼間やばかったのか・・・


「朝まで門が開きませんが外に居ます。――どうしますか?」

「いや、のんびりして貰おう。休み取って来たから時間は山ほど有る。朝になったらアイツを寝かせて・・・」


 外では日が昇った。門がゆっくりと開く。キャラバンの数名は買出しに、プレイヤーであるシャロンは宿へと歩を進める。戮丸は王城へと向かう。




 これから行われる会合が中原たるディクセンの命運を左右する。

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