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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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045 戮丸の睡眠と銀の夢


 その晩、小火(ぼや)があった。

その小火のあった家は、事象慈善家の家だったらしい。原因は不審者による物という事で、慈善家は家族ともどもケイネシアに移住を決め立ち去った後らしい。

 嫌なニュースに宿の人間の顔は暗い。

 戮丸は眉をしかめてその一件を忘却のかなたに流した。



 朝食を済ませゆっくりしている。

 それは希望であった現実ではない。現実は厳しい、食卓は戦場だった。


 シャロンに丸投げしていたツケが出た。


 寝不足の戮丸は大きな欠伸をする。

 子供たちが真似る。

 如何いかにしたものか?

 ―――シャロンが復帰するのは明日の夕方。


 ここでの一日は約8時間。一日がこちらの三日に当たる―――のか?というのは少しずつずれているからだ。9時間かもしれない。

 『生活サイクルで夜サイドにしかインできない』というのを防ぐためだろう。一日のプレイ時間が八時間オーバーというのは常識人にとっては異常だ。


 おかげで寝不足だ。9時間ということは夜は4時間半。リアルで12時間寝ないから、8時間睡眠とすると、子供らは約3時間で起床する。徹夜明けの戮丸にこれはキツイ。

 多分シャロンはまだ寝てる。


「―――死ぬかも知れんな」


 戮丸はピクニックを提案した。この年代の子供に、丸一日部屋で大人しくしておけは無理な注文だ。

 下手に街中より、外に出て遊ばせたほうが・・・


 子供達は喜んだ。

 近くの丘に行こう。

 風が気持ちよさそうだ。

 昼寝にはもってこい。

 朝のニュースは物騒この上ないが、対処できるコンディションではない。

 リアルボディの心臓は早鐘をうっているだろう。

 夜勤のあとは何時いつも心臓が苦しい。


 戮丸は芝生の丘にごろんと横になる。異常を感じる。異常の原因はわかっている。それでも俺は眠るんだ!もたない!


 それでも薄目で回りを確認する。以上の原因は子供たちの期待に満ちた視線・・・


 脚を蟹バサミの要領で刈る。子供が戮丸に取り込まれる。次々と子供達は取り込まれる。脚を巧みに使い≪飛行機≫をする。子供達はご満悦だ。じゃれ合っている。睡眠は遠い向こう記憶のかなたジョキャニーナ。

 ―――イカン頭がおかしい!


 彼は動き続けた、眠りに落ちるまで・・・







「戮丸!おきて!戮丸!」


 ただ事ではない子供の声に戮丸は跳ね起きた。


「どうした!」

「よかったぁ・・・死んじゃったのかと思ったよ」


 日はとっぷりと暮れている。いくら起こしても起きなくてあの騒ぎだったらしい。

 完全に熟睡していた。物語の主人公のように、殺気で目が覚めるとは行かないな・・・そんな事を考えながら点呼。全員居る。行幸だ。そこで始めて大きく息を吐いた。

 病気の身になって睡眠時間は倍増した疲れが溜まったときは本当に24時間寝たりもする、今回は二時間くらいだろう。夜が寝られていれば辛うじて最低睡眠時間が確保できたというところだ。


「じゃあ、晩飯にすっか」


 子供らは歓声をあげ宿に駆け出した。


 宿に入る。夜は酒場定番だ。食事を店主に頼み。椅子につく。

 子供らは椅子を運び、皿を運び、手の開いたものはキチンと座っている。


「・・・どうしたんだ?」


 戮丸は良い子過ぎるので気味悪がるが、疲れているのを察した子供たちがお手伝いはきちんとしようとの結論に達したのだ。そりゃ、保護者が真昼間に爆睡して夕方になっても起きないのは肝を冷やしたのだろう。

 このことは戮丸には内緒だ。


「いただきまあーす」


 子供たちの行儀のよい大合唱が響いた。・・・酒場にだ。


「おままごとなら、よそでやってくれ」


 そんな酔っ払いたちの野次が飛ぶが、声は笑っていた。

 戮丸はぺこぺこと頭を下げた。





「出張パパさんですか?」


 食事を終え、部屋に帰る際に声をかけられた。(しろがね)だ。

 子供達はこの狩人のような男を(いぶか)しんだが、「大丈夫」の言葉に安心して宿の階段を駆け登って行く。


「状況は・・・分かっているようだな」

「・・・ええ」


 戮丸の推察どおり、事前調査は済んでいるらしい。このタイミングもすべて予定通りか?


「で、何の用だ?」

「人手が必要な頃じゃないかな?と、思いまして」

「喉から手が出るほど欲しいな」

「でしょう?」


 正直銀を弄って遊ぶ気力も無い。


「ただ、このタイミングにどストライクを決められる人間の手は・・・お高いんでしょう?」

「いえいえ、見返り0の純然な善意ですよ。ええ、全くの」


 こいつ、からかってやがる。深い意味はないだろう。交渉のカードが欲しいのだ。それも究極の選択とかではなく。ちょっとしたお願いを頼むカードを・・・

 前回は結果的にカードを伏せた状態で交渉のテーブルに引きずり込んだ。ルールがオープンカードの掛け合いの場で、強制的にとは言え伏せ札を残していた。つまり、ささやかな陰謀は見抜かれていた。


 もちろん、罰金を払う筋はない。ただ、戮丸に交渉拒絶のカードを渡してしまった事になる。

 それがサンドクラウンにとって、どれだけ損失になるかは分からない。折衝担当の銀にとって致命的なミスになってるのは確かだ。


 戮丸にとってもイーブンのテーブルは望む所だ。ここで、軽く場を均して―――ただ、今の状況は最悪に近い。子供たちの安全というカードを切ってきたら、こちらはそれをサクリファイスして、サンドクラウンと言う物を根絶やしにするカードを切ってしまう。

 つまり、簡単な子守を頼んでも、不測の事態が起こったらそれだけでサンドクラウンにとって多大な損害の遠因となる。その事を銀は承知の上だろう。その損害を危惧し完璧を目指すなら大掛かりな事になる。それは避けたい。


 普通に挨拶を繰り返し、イーブンのテーブルに着けばいい。

 ―――いささか銀は性急に過ぎる。そうでないからこそ、ディクセン担当者なのだろうが・・・時間が無いのか?


 ―――乗ってやる事にするか?。


「じゃあ、村までの護衛。ログアウト時間を稼いでもらえると・・・って、時間的に無理か・・・」

 今はリアルで朝方の時間のはず、銀が何時インしたのかも分からないがほぼ終盤だろう。仕事は無いと考え・・・無理だな。


 子供たちを渡して護送させるのも手だが、そこまでは信頼していない。途中ドラゴンに襲われ全滅したとしても、責任は銀になる。責めることは出来るだろうが、失ったものは戻らない。頼むには荷が重過ぎる。子供たちだって不安なはずだ。戮丸は妥協点を見つけ出すには未熟すぎた。この世界が分からない。知らない事だらけだ。


「ありがとう。だが遠慮しとくよ、お休み」


 そう言って戮丸はその場を後にした。



 ◆ 夢の朝ごはんと現実の朝ごはん



 日の光が差し込むのが分かる。夜の短さに辟易しながらまぶたを開く。子供たちと目が合う。


 何がそんなに楽しいのか?ニッと笑い走り出した。朝食に向かったのだろう。母親が居れば、ねぼすけな父親の起床を伝えに言ったのだろうな。自分もそうだったから何となく分かる。いや、自分が子供の頃は飛び乗った。あの子達は俺の百倍いい子だ。


 ――――親父が死ぬときに・・・何を思ったのかな?孤独死だったはず。それに罪悪感は無い。俺もそうなる。


 ぼりぼりと頭をかいた。この世界で泊まったのは正式にはこれが最初か?昨日は頭も朦朧としていて正直何がなにやら?そんな感じだ。

 

 子供たちが手洗い水を運んできた。この子達の仕事だったのかな?

 蛇口をひねるという訳にはいかない。一匹小魚が混じっていたのはご愛嬌。


「あとで逃がしてやろうな」の言葉に力いっぱい返事をした子供たち。

 小魚を掬ってしまわないように、注意しながら顔を洗う。


 そして口をすすいだ。戻すのもあれだと思って飲み込んだ。冷たく旨い。寝起きの水ほどご馳走は無いな。


 ―――順序は当然オカシイ。

 衛生面でも、しかし、ここでは浄水場など存在しない。生水を飲んでも腹を下したという話も聞かない。潔癖になってもしょうがないのでよしとした。


「顔洗った水飲んじゃった~」と子供達はケタケタ笑う。ここでも流石に非常識だったらしい。


 ―――でも気にしない。

 父親なんてのは多かれ少なかれ間抜けなもんだ。

 そして、何かおかしいか?と表情を向ける。子供達はニッカと笑って騒ぎ出す。


 その後ろで少女達がモジモジしている。

 ―――着替えたいのか?こんな年でも女は女なのだ。

 ―――少し思い出した。


 男の子を一人拾う。肩に乗せると、堰を切ったように(たか)って来た。それらを摘み部屋を後にする。大きな男の子は遠慮している。あとで相撲でも取ってやるか…

 むさくるしい男共は退場の時間だ。


「今日は狩りに行くぞ。ご飯を済ませろ。俺は用を足してくる」


 子供らは慌ててテーブルに着く。俺はログアウトゲート向かった。




 ―――ログアウト完了


 店の店主には脅しを込めて「孤児だと思うな俺の所有物だ」と多めに金を握らせた。悪党の手管だが、孤児の責任者というよりも、所有物と言ったほうが効果的なのは皮肉なことだ。


 プラグを抜いて立ち上がると、立ち眩みがした。体の不調かと思ったが、主食がクッキーブロックと薬だ。無理も無い。あまりを腹に入れ、トイレで用たし、蛇口の水。やはり旨いとは思わない。薬を定量流し込み。顔を拭いて、ベットに腰をかける。

 

 思い出したようにタバコを引っ張り出す。残りは少ない。遼平に差し入れさせるか…


 大きく吸い込む。頭がくらくらする。寝起きの頭をまとめる。睡眠時間はぶつ切りでもそれなり取れた。充足感が体に満ちる。


 これで移動計画は難易度を増した。交代で進むことも出来ないし・・・購入した馬車に期待だな。


 タバコをもみ消し、プラグを挿し、ベットに横になる。ゲームにインするシークエンスをへて復帰する。




 ―――ログイン完了


 出迎えたのは「おーそーいー」の言葉かと思ったが、そんなことは無かった。時間経過はリアルもこっちも一緒で、一日のサイクルが違うだけだ。


 食卓には料理が用意されていて、皆席についている。一人多い。


「おまっ!大丈夫か?」銀だ。

「ご相伴に預かろうと思いまして」

「って、仕事は!?」

「今から出ても重役出勤過ぎるでしょう?それにディクセンで私の紹介が必要でしょうし」

「ごーはーんー」

「ああ、食いながら始めよう」


 いただきまーす。の大合唱。今は茶化す酔っ払いはいない。


「今日は一日付いて廻る気か?」モグモグ。飯が旨い。いい事だ。

「ええ、よろしければご一緒させてください」

「今日は狩りに行くんだよー」と子供。男の子なだけに狩りは嬉しいらしい。

「子供連れで?」

「昨日牛の凶暴種を見かけてたんでそれを仕留めに、子供らの面倒を頼めると助かる」

「大丈夫ですか?」

「シャロンが居たときもやっていた。獲物を選べば、見物人に怪我はさせないが・・・」

「保険ですね。お受けします」




遅れました。スイマセン。

日常パートは苦手…執筆全般が苦手です。

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