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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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041 美味しい牧場と学生の食事風景




「レポートは終わったのか?」

「ああ、これで残り一つだ」


 B定食を置き、カレーを口に運ぶ妙義に目黒は話しかけた。


 吹き抜けの高い天井とめ殺しの大きな連窓(れんそう)。そのおかげか、開放感溢れる明るい空間で、外に目をやれば緑が目に優しい。窓は縦に長いと外光を取り込みやすくなり、開放が得られる。

 目を引いたカタログ通りの≪おしゃれな食堂≫も通えばアルマイトの剥落はくらくやリノリウムの擦り切れ、端的に言えば床やサッシが白っぽくなっている。――そんなものに目が行く。

 慣れと言うものは恐ろしい。


 当然、掃除は行き届いているので、パッと見、気にならない。

 掃除しても取れない劣化、そんなところに目が行ってしまう。


 カレーを食べているのが妙義――オックス。で、もう一人の――目黒がスレイバインだ。二人がそろったのを見て東雲しののめがやってくる。彼がオーベル・ウォルフを名乗っている。


 ―――ちなみにうどんだ。


 うどんフェスをやっているらしい。


 アタンドットは定額制のMMO。出費はそれほどかさまない。初期投資額がけた外れなだけで・・・

 そんな事の爪痕つめあとが、食事事情に如実に現れている。


 元々は目黒(スレイ)の発案でサークル内で浮いた人間を集めて、ゲームを始めた。サークル自体は《お祭り》サークル・・・各地のお祭りを研究する建前の―――いわゆる遊びのサークル。


 入ったはいいものの、各人自分の予定があったり、コンパを好まなかったり、命題のお祭りの方に真剣に興味があったり・・・いく当ても無いが在籍していた者が不思議とコミュニティを形成した。

 目黒(スレイ)発案のTRPGが妙にはまり、その廉価さも手伝って長続きしている。

 性格が似たようなものが集まった、というのも大きい。


 妙義(オックス)は一番の新参である。楽しそうなものに引き寄せられる習性。と当人が言っている。


 最初はサークルの目ぼしい女を食ったから、食い残し回収に来たのかと疑われたが、妙義(オックス)はそれを上回る馬鹿だった。飽きるとドライブやバーベキューを提案する妙義。そのサイクルが心地よかった。

 当の本人も、心底ゲームが好きらしく。自分が提案したドライブやバーベキューに、真っ先に飽きるのが妙義だ。


 やっていたゲームも初版の物で、現行は改訂第二版が主流、彼らは初版の方をやっていた。

 現行版をやった方がいいのではとの案もあったが、システム自体が大幅に変わっているし、初版のほうもサプリメントは充実していた。

 ただ、本腰は入れない。ちょっとした時間つぶしというスタンスなので丁度良かった。


 本屋にふらっと寄って、関連書籍を発掘してくる。そんな行為が楽しかった。

 ネットを使えばすぐコンプリート出来てしまうが、それでは面白みに欠ける。その理屈が彼らの共通認識であり、参入者を減らす要因でもあった。

 TRPGに魅かれて様子を覗きに来た人間も居ることはいた。だが、彼らが本腰を入れてない事に気付くと自分の知識をひけらかすだけひけらかし、不思議と納得して去っていった。

 そういう人間は基本的に総じて濃い。彼らがショッピングに一定のルール設けて楽しんでいるのに『ネットで全巻揃ったぞ!』と自慢していく。価値感が違う。


 発掘元は主に古本屋。トレジャーの売買価格の安さも評価の一因になっている。


 先駆者、戮丸の意見も貴重な情報源だ。


 目下、興味はアタンドットだが、そのスタイルは変わっていない。


 目黒(スレイ)が一冊の古ぼけた本を放り出した。


「なんだこの《~~よくわかる本》ってのは?」

「アタンドットの元になったゲームの入門書だ」

「マジか?」と妙義(オックス)

「読んだの?」は東雲(オーベル)

「一通り読んだ。戮丸さんが看破したのも頷ける内容だ。面白かったよ」


 初心者向けに作られた本なので、もう、その段階は過ぎ去ってしまったが共感は得られた。


「あとは《~~千夜一夜》と《コレクション》系を読むといいと言っていた」

「ほう」

「いいってどういう事?」

「トラップをまとめた書籍も出ているらしい。看破するのに一役買うと言っていた」

「ミミック部屋みたいのか?」


 ミミック部屋とは、彼らが経験した複合トラップ。ミミック発動後、部屋に閉じ込められ、吊天井が降りてきた。まともに引っかかっていたら、パーティは壊滅。それを戮丸は未然に看破したのだ。

 スキル頼りでは生き抜けないアタンドット。ダンジョン構成にも《人格》が見えると言っていた。


 経験が書物で買えるなら安い。一緒に行った時は次郎坊というサブキャラだったが、スキルが発動したそぶりは無い。経験だけでトラップと財宝のありかを看破して見せた。


「この表紙ね。覚えた」


 東雲(オーベル)はサポートボードで表紙をチェックしたらしい。彼の操るキャラクターはウォルフもいる。盗賊(シーフ)だ気にならない訳が無い。


「他にあるのか?」

「後は、アイテムでまとめた本。カースアイテムも載っているそうだ」


「あった――表紙、凄いことになってるな・・・」

「美品は諦めろとの事だ。100円前後で手に入るらしい」


 ここで妙義(オックス)が言ったのはイラストのことである。そのイラストの主人公はこれでもかといわんばかりに罠に引っかかっていたり、武器をかついでいたりしたのだ。




 それから、シバルリ村の現状の説明へと話はシフトしていった。




 ◆ 始まりは被災地で・・・




「・・・なんだ・・・これ・・・」


 戮丸がインしたのは廃墟だった。火事の焼け跡といった表現の方が正しいか、足元に魔方陣が光る。壁は無く。床もまばらにしか残っていない。確かに昨日の時点では貧相ながらも宿屋だった筈だ。


 表通りに出てみる。出るまでも無く分かっていた事だが、ほぼ壊滅。被災地を歩けばこんなものだろうか?

 戮丸は血痕を見つけたが、それは暫くすると消えた。

 モンスターと同じく、ある一定時間死体が残る――この法則か?


 ディクセン入りしたのは3日前だ。予想以上の困窮に面食らった。そこに住む人々は余所余所しく遠巻きに戮丸を見るばかりで・・・瘦せこけた子ばかりが目に映った。食料を融通してもらおうとしたが、渋面を作って断られた。規定の3倍まで金額を出すといったが、金の問題ではないらしい。


 当然金も無いが、物資はもっと無い。キャラバンが通らないのだ。クライハントとを結ぶ街道の上ですらだ。

 そこで、戮丸は狩に出た。当然、獲物はいなかったが、凶暴種というものは別だ。

 当然交渉のうえで意味を成すのは食えるモンスター。そうでなくても田畑を荒らすモンスターを重点的に狩れば、売買に応じてくれた。


 ディクセンでの生活の仕方が分かってきた。だから、凶暴種・・・牛を見かけていた。運がいい・・・を狩って、シャロンを待つ予定だったのだ。


 戮丸の胸には寂寞とした思いが訪れる。昨日の夜にたどり着いた集落。思い入れは無い。不愉快な思いもした。だが、それは生きて行くのに一生懸命だからで・・・





「・・・なに?」


 シャロンだ。悲鳴を上げる云々より現状が飲み込めない。

 戮丸は大きく息を吐いた。


「行こう。襲撃を受けたようだ。一気に進んでしまおう」

「・・・なんで?なんでなの?」

「そういう世界だ仕方が無い」

「子供達は?・・・昨日あんなに・・・ご飯頬張って・・・」


 狩りの獲物を分けた。牛一頭はさすがに食い切れない。俺達も慣れていた。数頭狩って来た。それを捌き、集落の者に振舞った。いぶかしむ者もいたが、食いきれない量なのは一目瞭然だし、少し野菜を分けて貰いたいだけだ。と言った言葉を信じてくれた。


 大人たちは、燻製にしよう、腸詰にしようと、天から降って沸いた収穫に沸いた。村の人間総出の作業。お祭りだ。干乾びた野菜や雑草が出てきた。彼らも食糧庫を開いた。この干乾びた野菜が、彼らの虎の子なのだろう。


 害獣を狩って・・・

 水路を治して・・・

 柵を治して、物見櫓も必要か?・・・

 腸詰を分けてもらって、もう少し野菜も分けてもらおう・・・

 そうして、手を振ってこの地を離れよう。


 それはもう何処にも無い物語で。




 ◆ 下衆のモツ煮




「ねえ戮丸・・・何を考えているの?」

 背中から抱きついてくるシャロンが問いかけてきた。目が真っ赤だ。


「奴らのシステムだ」

「聞かせて」


 まず、村を襲った。それは何故?

 ダンジョンに一潜りしたほうが収入になる。経験値にもなる。村を襲っても金ぐらいしか手に入らない。それこそが目的ならば判らないでもない。このディクセンでは物価は跳ね上がっている。蓄えはそれなりにあったはずだ。


「じゃあ、戮丸はモンスターが襲ったと思ってるの?」

「いや、両方だろう。金品も洗いざらい無くなっていた」

「両方?」


 まずプレイヤーがトレインしてモンスターを引き寄せる。トレインと言うのはモンスターがプレイヤーを襲う習性を利用して・・・と言うよりも状況だ。プレイヤーが逃げ出すとモンスターは追ってくる。追ってるモンスターを他のモンスターが見るとそれに合流してしまう。


 追っかけるモンスターが雪だるま式に増える状況をトレインと言う。

 余談だが町にプレイヤーが逃げ込んで、その入り口がモンスターハウス状態になる弊害も出て、MMOじゃ嫌われる行為だ。


 このゲームでは、そのモンスターが集落を壊滅させてしまう事もあるようだ。


「じゃあ、逃げ込んだプレイヤーがいるって事?」

「意図的にな」

「何でそんなことをするの?」

「牧場だろう」


 牧場と言うのは、擬似的に狩場を作る行為で、普通のMMOなら、敵を集めて一気に殲滅で経験値稼ぎが出来る。リスキーな手法ではあるが効果的だ。

 これまた余談であるが、トレインや牧場は悪い行為ではない。大前提で、片付けられればと言うものがつく。


「でも、アタンドットでは通用しないんじゃ・・・」

「そう、意味の無い行為だ。纏めて倒すのが牧場じゃない。太らせて倒すのが牧場なんだ」

「まさか・・・」

「そう、モンスターが壊滅させた集落の資産は、モンスターのものになる。つまり経験値が発生するって事だ」

「信じられない。みんな生きて・・・一生懸命・・・」

「これはゲームだ。分かるな。」

「でも」

「実に効率的な方法だよ。非武装の人間を殺しつくす程度のモンスターをトレインして掃除する。安全に経験値が得られる。食糧が高騰して金だけは大量にある。それも作られた状況か?笑いが止まらんな」


 ・・・戮丸・・・


「とても、勉強になったよ・・・」




やっと話が動き出しました。

三谷朋世を聞きながら・・・

改定妙技→妙義

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