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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第三章 唯一つ・・・たった一つ・・・
155/162

028 失墜するちょっとの信憑性




 突然現れたゴブリンの勇者に、シャロンはゴブリン語で問いただす。

 しかし、その内容はギィギィと耳障りなだけで意味が解らない。


「何がどうなってるんだ?ノッツ」

「無茶ゆうなっ!」

 シャロンのゴブリン語自体が難解なうえ、仮設勇者の声はノッツには届かない。

 これで、近場にいるマティに説明を求められても困る。


 ————誰?・・・・何を言ってるの?


「シャロンちゃん復唱入れてぇ・・・」

 ・・・ノッツ、小さい声での懇願。




「まずい、出ようか?」

「説明が先」

 見かねたキスイが指示を求めるが、マティが留める。


「背後から切りかかって一体負傷。包囲は広がって2・2に分かれた。飛び出したのを囲む形だ」

「一番後背の敵から狙撃できないか?」

「無理」


 まさか、命乞いが部分成功するとは思わなかった。

「ここで飛び込めば敵を連携させかねない。シャロンは味方ゴブリンに状況を見て回復、勝ち目は?」

「4・1だから分が悪い。不意打ちも深手を負わせてない」

「なら、シャロンの保護を優先で、潜伏続行」

「了解」

「エリク。降りれるか?」

「いける」

 ここでマティは降下タイミングをずらすことを思いつく。

 エリクは穴の内部を見ている、意図して滑り降りれば被害は軽減できる。落下後のフォローはキスイに任せて・・・

 マティはエリクの腕を掴み掴ませ、先と同じようにぶら下げた。

 エリクの視線は幻影を下回り穴が出現する。体をよじり滑降体制を作ると「降りるタイミングは任せる」とエリクの腕を離した。

 零れる光は依然見える。幸運な事に身を潜めたキスイが見えた。


 視線がぶつかるとキスイは小さくうなずいた。




『絶対に・・・る・・・きたい・・・有るんだ・・・何を?』

 復唱を聞き入れてくれたのだろう。シャロンの言葉は意味を紡ぐ、最後の一節は妙にはっきりしていたから、返事だろう。

 【絶対】?これだけはハッキリ聞こえた。なら意思は固い。この状況で【絶対】と口にするケースは?

 浮かび上がるケースは都合の良い物ばかり。

 ・・・希望的観測が邪魔だが・・・


「マティ・・・イケる」

 司令塔のGOサインは出た。


「救助対象は【ゴブリン】だ。プレイヤーは死ぬだけの価値がある」

 久々のノッツの言葉にマティは知らずに舌なめずりをしていた。


「まっにっあっえぇええええ」

 約束された遅刻者は限界に挑んでいた。


 マティのかいなは離されていた。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 愛剣アロンダイトを抜き放ち、淵に立ち両手を広げ目を閉じる。

 エリクは無事参戦できたようだ。


「炎を使う。総員衝撃に備えろ」

 マティの言葉に、驚きを見せるが異論は無いのか言葉を飲みこむ。


 ゆっくりと倒れ込むように落ちた。

 幻影の地面を超える瞬間アーメットの隙間に赤い光が宿る。




 超速の岸壁が迫るが、切り伏せる。

「遅いッ」

 落下速度ごときが大吟醸や戮丸の速さに及ぶわけもない。

 切り伏せズレた体は岸壁を蹴り削り、落下速度を殺す。


 それでも赤い目は零れる明かりだけを見つめていた。


 戦うゴブリンが視界に入った。




 下賜された盾の軛を放つ祝詞を叫ぶ。

 爆炎の奔流がマティの体を押し戻す。

「こ、これほどかッ!」

 炎は洞穴すべてを押し流す奔流となり、それでも飽き足らず、盾を巻き込みマティの体を焼く。

 毛穴という毛穴のすべてが開き、全身から汗が噴き出し、四肢を焼く中・・・


 マティは快哉の嘲笑を上げていた。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「死んだ~。死んだよ~」

 キスイが不満を溢す。バイザーを上げ頭を掻くマティをジト目でねめあげる。

「きいてても・・・すごいわね」

「ここまでとは・・・」

 シャロンはへたり込み、エリクは刃先がつぶれるのも構わず剣を杖に体を支えていた。


「いやホントにね。なんて物を渡すのかクラマスは・・・」

「すっごい嬉しそうだぞマティッ!」

「そんな事は無いよ」

「嘘だッ!」


 シャロン護衛の褒章に渡された盾は、とんでもない性能を発揮した。

 最初は大吟醸に対抗して目くらましができるものが欲しい。という希望から始まった。


 大吟醸は可燃性粉末をバラまき盾に設置した火打石で引火する技を使っていた。

 見た目は炎に包まれるが、圧倒的に火力不足、燃焼カロリーが足らない。

 一瞬の目くらましにしか使えない。が、呪文詠唱を潰すことに成功していた。

 それに、多くの関心を集めた。同じ事をしようとしたが、タイミングが難しく無理だった。

 粉末が可燃域に広がった瞬間に火を付ける。ここまでは何とか出来た。

が、呪文詠唱を始めた相手を巻き込む位置で戦いながら、初見しか通用しない・・・


 こうなるとそれをやった大吟醸を褒めるしかない。

 無理して覚える事ではないし、その距離に飛び込めれば切った方が早い。

 ただ、初見であっさり成功した大吟醸に限り、バリエーションが期待できる。

 油袋でも投げつけられたら、もう逃げるしか手がなくなる。


 マティがこれに匹敵するものを欲しがったのは無理もない事だろう。


 それで渡されたものが先のアレである。


 一日3回爆炎を巻き起こす・・・


 ・・・・幻影を出せる盾。


「アレが幻影かよッ!」

「ほんと凄いよね」

「他人事かッ!」


 事前説明を受けていたキスイでさえこれである。

 ゴブリンたちは夏の終わりのセミのよう。


『幻影だからどこでも使えるし、呪文妨害も出来る。オヌヌメ。ただ、ちょっと威力が強いから気を付けてね』

 仲間に事前説明は絶対必要。


「どう考えてもメイン火力・・・」

 疲れたように焼かれた腕をこすってエリクは言った。

「だよねぇ♪」

「助けてくれてありがとう、って言いづらいのは私の呪いかしら」

「大変だねぇ♪」


 マティは大吟醸を確殺できる手ごたえに喜びを隠すセービングスローに失敗。

「大吟醸には内緒にしてね♪」

 ————ヤル気だ。このおまわりさん。




「おつかれ」

 上から、声がかかる。ノッツと大吟醸だ。チャットで、すでに難局は終了したと悟ったのだろう。

 ロープを設置し、二人は危なげなく降りてきた。


「お前、この惨状を巻き起こすブツをダマで俺にぶっ放すつもりか?」

 幻影は消えていたがセミの死骸のようなゴブリンに息も絶え絶えな三人。

「おかしなことは何もないが?」

「いいけどよぉ」

(いいんだ)


「遠慮しなくていいんだな?」

「誰が誰に遠慮だ?」

 敵意をむき出しにする二人。


「えーとバカは・・・・宴の楽しみにとっておいて、そんな事より・・・」

「そんな事って・・・」

 エリクはいまだはっきりしない意識と明確な頭痛に困惑の声を溢した。

「あれぇ、見たくない?この馬鹿二人のガチバトル。結構人気コンテンツだよ。死ぬまでやるし、よその相手にはなんだかんだで遠慮するし・・・僕は大歓迎だ」


 一緒に戦ってわかった。マティの底がまだ見えていない。ミノタウロスを歯牙にもかけず一蹴した大吟醸。

 興味がないどころか怖いもの見たさで見てみたい。


「マティ・・・」

「キスイ?」

「負けるなよ!いや、バツとして勝ってこい!賭けるからッ」

「リア充爆殺、生きるに能わず!」

「ハイ人爆滅委員会の業務を執行しよう」

「だぁから!それどころじゃないって、二人ともステイッ!」

 『あ、やるのはエンドラストな。スタンバっとくから』と乗り気の反面を見せシャロンに向き直った。


「僕から言っていい?」

「私に言わせて」




「そのゴブリン・・・いや、彼はオリジンよ」

 視線の先には哀れな姿勢で気を失うゴブリンがいた。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「だろうとは思ったよ」

 マティは予測がついていたのか驚きを見せない。大吟醸もだ。

「オリジン?」

 わからないエリクは溢した。


「ああ、そうだねぇ。中身が人間のモンスターって事で僕らには結構重要なんだけど・・・城が立つくらいの賞金がかかってるって事だけ覚えておけばいいよ。ただし、生きているのが絶対条件」

 危害を加えてもいけない。と付け加えた。


「城!?」

「パーティ単位でね。出城くらいなら立つだろ?今のレートなら」


「運営の悪事を暴露できるのね」

「悪事ならいいんだけど・・・仮説通りなら、彼らの為に戦える戦力はウチしかない」

「実質戮丸一人だろ?」

「気持ちは応援したいよ。どうすんだろね?」

「だが、今後の問題を止める決定的な証拠になる。食い止めない訳にはいかないだろ」

「法には抵触してないしな。圧力をかけるには・・・」

「うちの大将は荒事専門だし、誘拐とかしなきゃいいけど」

「そこが心配なのよね」

「でもさぁこの件に限っては統一意思を作れないか?」

「無理だろ?仮説通りなら何も問題ないって判断されるだろう」

「いや、それは無茶苦茶だろ?」

「運営側が何かしら制限を持ち込めば・・・ゲーム環境と天秤にかければ道理は軽すぎる」

「クオリティを意図的に落としてきたらまずアウトだよな」


「何の話をしているんだ?」

「さぁ」

 【錆びた九番(ラスティ・ナイン)】4人の会話についていけないキスイとエリクは途方に暮れた。


「ごめんなさい。わかんないよね」

 シャロンはしばらく考えてから話をつづけた。

「私たちは大きな問題を抱えているの。彼、そこのゴブリンだけど、を無事保護できたことは大きな一歩なのよ」

「そうだね」とノッツが同意する。

 それこそ、城が立つほどの大金を支払う価値があるほどの。


「そんなに大きな問題なら説明してもらいたいと思うのは贅沢だろうか?」

 エリクの提案は当然で妥当だ。

「説明自体は問題ないんだが理解するのが大変なんだ」

 現地人からすれば、プレイヤーは死ねば復活し、別の世界から来たと思い込んでいる変人というのがこの世界の認識だ。

 大体、ゲーム自体の概念がない。そう考えると、先んじて【ミティ】というアクションシューティングを導入した戮丸の先見性は恐ろしい。

 ただ、確信して言える。ただの偶然だと・・・


「言い方が悪かった。君らプレイヤーがそこまで問題視する事が、我々にどう影響を及ぼすのか知りたいのだが」

 エリクの口調は貴族嫡子のそれに戻っていた。

「無いね」

 大吟醸が答えた。

「本当に?」

「ああ、この世界の一部モンスターは別の世界から連れてこられた人間なんだ」

 ここで重要なのが別の世界のモンスターじゃなくて、別の世界の人間がモンスターにされた。という事。

「平たく言えば、エリクの知っているお話があるよな。ある日突然その物語の化け物になった」

「そうなったからってあんな非道な事をするのか?」

「その辺にからくりがあってね。結論を言えばしてしまうんだ」

「荒唐無稽な話だな。その話を信じているのか?」

「俺だって信じたくはないが、記憶を全部は無くしてなくてね。モンスター自身に聞いたんだ」

「それ信じる方がどうかしているぞ」

「話すモンスター全部が口をそろえて言ってなければ・・・ね」

「だったら、詳しく聞けばはっきりする」

「その為に、記憶をなくしてないモンスター【オリジン】が重要で彼がソレなんだ」

「・・・なるほど」


「ここで逆に質問だ。オレたちが事情を聴くためにモンスターを保護した。それのどこに問題がある?」

「・・・ああ、確かに無いな」


「彼ら【オリジン】の確保はちょっとした事件なんだ。今は純粋に手柄・・・賞金を喜べばいいと思うよ」

「・・・ああ」

 【錆びた九番(ラスティ・ナイン)】の血相にあてられ立場を忘れた発言になっていた事に気づく。

「僕も理解したいので、無理でも色々教えてください」

 言葉にした後、とっさの失言に戸惑う。

「ああ、理解したい奴に向ける剣は【錆びた九番(ラスティ・ナイン)】にはないよ」

 大吟醸がどうとらえたのかはわからないが、エリクは差し出された手を握って立ち上がった。


「・・・もういいかな?」

「あ、わりっ」

「さしあたっての小さな問題と大問題がある。まず小さな問題からゴブリンどうする?」

「あっ、ああいった手前・・・傷つけたくはないな」

「了解」

 ノッツは通路の暗がりに、落ちていた武器を放り投げ、ぺちぺちと頬を叩いて起こして回った。そして、ゴブリンは逃げていった。

 殴り掛かられはしたが造作もなく受け止めた。その後ろに大吟醸とマティが立っていれば逃げ出すのは当然だろう。


「さて、次の大問題・・・ゴブリンどうする?」

「そりゃ、つれてかえ・・・る」

「ここ、どこよ?」

「あ・・・」


「ま、まず拠点に連れて行ったら・・・」

「それしかないね」

 ゲートは来た人間を戻すことはできる。

 ただ、ダンジョンの生き物を連れて行くことが出来るかはわからない。

 今までの経緯から推測すれば答えは出来ないだ。

 自力でシバルリに来てくれというのも無理だ。


 ・・・拠点を作っていてよかった。


失墜する【ちょっと】の信憑性

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