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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第三章 唯一つ・・・たった一つ・・・
153/162

026 それが出来れば苦労は無い




で、帰れたかというと・・・


 僕たちはまだダンジョンにいる。

「え~とシャロン。何時つくのぉ~?」

 キスイは見え見えの質問でシャロンを煽るのを止めない。


 帰りに「マップの空白地を埋めよう」と言い出したのはシャロンだった。

 マップを見れば途切れた道が合い向かいになり、繋がっていれば大幅なショートカットが見込めた。


 見た感じ当然繋がっていると僕も思った。

 今いる地点はほぼ天然洞窟にみえる。それもほかの通路と比べ何倍もの広さがある。

 このダンジョンは天然洞窟を加工した物なのは明らかだ。でなければ曲がりくねった長い通路を作る意図がわからない。


 だから、この通路自体は元々の自然洞窟で、他の均一サイズの通路が迷路になっているか、もしくは迷路が崩落して天然洞窟になってしまったように見えた。

 我々は【右手の法則】誘いにしたがって曲がってしまっただけ。


 特に理由が無い場合【右手の法則】に従う。

 これは帰る際に【左手の法則】に切り替えれば最短ではないが、帰れるからだ。

 当然、見落としや一方通行、ダンジョンの変形、例外の適用で崩壊する命綱だが、マップの確認で切り抜ける事もできる。


 だから、その判断に異を唱える者は居なかった。


 結果がこれである。


 道は広くまっすぐ伸びているように見えるものの、岩などの障害物が多く・・・というよりも平坦な土地が無い、渓流の沢沿いのようだ。


「大丈夫でしょうか?」

「いや、まずいな。もぐりこんでる」

「今上ってますが!?」

「この洞窟の芯は潜り込んでる。比較物が無いからわかりづらいが・・・」


 マップを見れば自分たちのシグナルは既存の描画地点にあった。

 どう見ても、見覚えがある場所ではない。太い通路も今は描画されていた。


「上に向かって穴を掘れば帰れるが・・・」

「無理でしょ?」

 まず天井に届かない。上の通路を支えるだけの岩盤を掘れるとは思えない。


「だよなぁ、二人を止めないと」

 マティの言葉に戻る距離を考えるとうんざりした。


 ミノタウロス殺しはおとぎ話と思う、その場面に居合わせただけで人生初の大冒険だ。

 飲み明かして、かたり明かすだろうと思っていたが、今はベットでぐっすり寝たい。


「【ラスボスとこんにちわ】は避けたいよな」

 身震いがした。腰の付け根から名状しがたいものが這い上がる感じだ。


「シャロン、キスイ・・・」




 二人の姿はフッと消えた。

 長い悲鳴を残して・・・




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「シャロンッ!!」

 鎧姿は想像もつかない速さでガシャガシャと駆け上る。

 必死に追いすがると手に制される事に気づいた。


 ???


 疑問を口にする前に岩を登る際に拾ったであろう小石を放った。


 その小石は岩向こうの地面をすり抜け消えたが、カラコロという音が帰る。

「幻影・・・だと・・・」

「はぁッ!?」


 完全に意識の埒外だった。幻影を使った落とし穴は聞いた事があったが、岩を登り切り、その岩の先が幻影。


「キスイッ!生きているかッ!?」

 キスイの名を呼んだのは意外だったが、返事がない。


「松明を落とすッ!」と叫んで予備の松明に火を付けると放った。

 幻影に吸い込まれ、その先が見えず。舌打ち。


 松明を落とすのは下を確認する常套手段だが、消えない幻影はそれすらをもはばむ。

 ただ、音が転がり落ちていることを伝え、一縷の望みをつないだ。


「ロープ・・・。いや、押さえておくから、下を見てくれ」

 と言って松明を渡し手を掴む。嫌も応もないその手を取って慎重に顔面を入れた。

 ちょっと飛び降りる程度の段差が憎い。

「思いっきりぶら下がってもいい!何か見えるか?」

 その声に振り向くとマティの兜飾りが見える。彼は寝そべり、腕力だけでエリクを支えた。

 下からは幻影が機能しないようだ。


 下は穴だが垂直の穴ではない。急こう配で、立つことは難しい。幻影より頭を下げるという縛りがいやらしい。

 僕は勾配に足をつき、思いっきり覗き込む。


「とぐろを巻いて下は見えない!・・・が明かりは辛うじて零れてる!」

 そういって引き上げる合図を送った。

「それなら・・・」

 落下と滑落では話が違う。音で大体の想像は付くが、松明が消えず明かりが零れる距離に期待が持てた。


「わぁっちぁああああッ!火!ヒィイイイッ!!」

「消して消してッ・・・消すなぁッ!!」


 女性陣の姦しい声に赤目の鎧武者は安堵のため息を溢した。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 二人は無事だった。

 無事というには語弊があるが、すでに治療は済んでいる。

 キスイの周りは道であり、奥に続いているという事だ。敵の気配は無い。


「脆くなってて上るのは無理そう!」

 別行動という案も出たが、今回は見送り。

 拠点には20mのロープがありアレがあれば上り下りも出来るだろう。


「横着して置いて来るんじゃなかったよ」

「どうします?」

 二人で取りに戻るのは流石に心配だ。かといってどちらかが取りに行くのは危険。


「大丈夫。大吟醸に頼んだ。マップで位置も分かるしね」

 ギルドチャットをオンにしているので、この言葉は全員に伝わる。

「叫んで会話しなくていいのはありがたいよ」

「キスイ。悪乗りしすぎ。ハシャグのは解るが・・・」

「意地になってごめんなさい」

「シャロンは悪くないって」

「でも・・・【帰り道は来た道】って言われてたのに」

「あ、やっぱり?」

「マティそれ」

「トラブル一回分ぐらいの余裕はあると思って見逃しました。ごめんなさい」

「それって繋がってないと思ってた?」

「ジンクス的にね。【奥の院】【奥の院】って騒いでたのは、大抵このパターンだからさ」

「納得」

 【奥の院】と口にする度にげっそりとした表情を思い出し、こういう事かと納得した。


「で、このピンチをどう切り抜けるんだ」

「ピンチと言う程でもないさ。パーティを分けるのは論外。今僕らは帰路の途中だから、大吟醸を待つしかないってだけ」

「どう見てもピンチじゃないですかッ!」

「そんな事ないよ。こちらが飛び込んで合流することが出来る。何も損なってはいないさ」

「そういう考え方もあるのね」

 落ち着きを取り戻したシャロンの声が聞こえる。

「だな。大吟醸?」


「了解。向かってる。超特急でお届けするよ」

「でもお酒をシコタマ飲んじゃってるから」

 「バカッ」と叱責の言葉が聞こえる。

「どういう事だ?」

「いや、オプ爺には内緒だぞ?【無限のビア樽】でソロキャンごっこしてたんだ」

「キンッキンッに冷えてやがる!」

「いや、美味かった」


「そんなデカ物どこに?」

「いや、物自体はジョッキサイズの小さなものなんだ。持ち運び可能なビアサーバー」

「ビアなのか?エールじゃなくて?」

「普通に生中」

「そんなのいつ見つけた?」

「ソロの時だよ」

 いかに仲間と言え、ソロで見つけた物の所有権を主張する気は無い。

ただ、シバルリはドワーフの街だ。そんなものを飲ませたら、道理など消し飛ぶ。

 ダイオプサイトは沈黙を保てないだろう。


「飲酒冒険は・・・」

「ビール程度じゃ酔わないって」

「一度言ってみたかった」

 アバターは西洋人しかも中世の人間を標準にステータスが決まっている。平均値でまず酔わない。さらに、冒険者は高めであるのでガッパガッパ飲める。RPGの鉄則で耐久CONは高い物を当てておく。Hpに直結するからだ。

 その恩恵の副次効果がこんな形で表れていた。


「ナマチュウってなんだ?」

「お酒。おいしいのよ」

「ただのエールなんだけどね。ここじゃあ、冷やすのが難しいから」

 マティが補足する。冷却魔法は無い。ブリザードはあるが宿屋が吹き飛ぶ。

 流水か氷室かの世界で、キンキンに冷やすのは難しい。

 その要望はシバルリでも出ていたが、改善点で止まっていた。


「助けてもらってなんだがご相伴に預かれるんだろうな」

「いい子で待ってたらな。さって・・・ミノさんのお出ましだ。ノッツ行くぞ」

「りょうかーい」

「・・・しゅうりょう」




 ————早ッ




「————マティさん・・・」

「あいつの通常運転だ」

「ミノってあの牛頭だよなぁ」

「つよかったんだぁ」

「キスイはわかるがシャロン?」


「俺の評価、低すぎッ!」

「その通りだ!」

「アハハハハハ」




 マティらもただ待つわけでもなかった。

 岩場である。ロープを取り付けるアンカーの設置を行っていた。

 それこそテント設営とは訳が違う。大人数の荷重に耐えるものだ。

 拠点設営の流れで道具を持っていたのは幸いした。

 ロープを持っていなかったのは20mのロープは非常に嵩張ったからだ。ザイルほどの細さと強度の両立と言う訳にはいかない。

 何メートル必要になるかわからないので切るのは躊躇われ、ハンマーとアンカーは足場になるという観点から持っていた。

 ちなみに、アンカーを足場に降りるのはキスイが言ったように脆くなっているので無理だろう。

「エリクそっちはどうだ?」

 上の岩自体は頑強で打ち込みさえできれば、耐荷重量は信頼できる。上ってきたから解るが、全員で押してもこの岩は動かないだろう。それでも複数打ち込んだ。今後、この道を往復することも見越してだ。

「この道が正解でしょうか?」

 マティはわからないと答えた。「いや、しかし」と思案する様は心当たりが有るのだろう。

 しばらくすると、腰に佩いた三本目の短剣を抜き放ちそっと幻影に押し当てる。

 反応は無く。短剣はあっさり幻影を通り抜けた。

「ダメか・・・」

 その行為に訊くと罠の顛末を教えてくれて納得できた。

「そうなると・・・後回しですね」

「そうだな。ここのダンジョンを作った人間は性根が腐ってるからな」


 罠が巧いといえばそうだが、通常でもぴょんと飛び降りる地面が幻影とか、床の起伏が見せ罠でワイヤーとか、三段罠の締めに呪いとか、巧妙に冒険者の心のすきをついてくる。

 どれも、首の皮一枚で事なきを得ているが、すべて引っかかっている。

 前例から推測すればこの先にはいきたくない。

「進みたく無い・・・」

「今はね。同感だ」

 僕の言葉にマティも同調した。

「ま、今は帰るべきだな」

「滑車を持ってきて、退路確保した方が良いかもね。【浮遊】を工面できればそれに越した事はないけど」

 大吟醸とノッツも同意らしい。ノッツの意見は撤退も見越してだ。その発想は無かった。

 確かに逃げる時ここで足止めになる。順番に上るにしろ、工夫はして損は無い。


 しかし、そうはいかないのが冒険だ。

 キスイが小声で言った。


 「お客さんだよ」と————


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