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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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040 国勢は難しい。

 ◇040 国勢は難しい。





「――どういう意味ですか?」

 スレイはその大雑把な次郎坊の疑問の真意を測りかねて思い切って訊いてみた。


「そのまんまの意味だよ。だから気にするな」

 次郎は手をヒラヒラさせて取り合わない。

「その意味を教えてください!」

 食い下がるスレイ。語彙を荒げ、グラスが倒れる。


「・・・すみません」


 次郎坊は手を挙げ「いやいいんだ」と制す。


 ―――いまだ、焦り気味か・・・焦ってどうこうなるもんでもないのだが・・・


「バーフォート家とバシュマー家で勝ったのはどっちだ?」

「・・・決着はついていません・・・?」


 その通り、決着はついていない。経済封鎖による出世はバシュマー家の先制。それに対してのバーフォート家の再封鎖。譲歩と言う形で首の皮一枚バシュマー家が生き残る。その後、オーベルジュの筆頭領主まで上り詰めた。これで、バシュマー家は勝ったと言ってもいいが・・・。


 エイドヴァンの守護者まで上り詰めたバーフォート家。

 

 信頼はどちらが勝ち得ている?




「穿った見方をすればバーフォート家が、バシュマーをダシに使ったとも取れる」

「それは―――」

「俺もそうは思っていない。バーフォート代々の当主が何を考えたか?は、今となっては知りようが無い。アリューシャが安定を望んでいるのはわかるが・・・それはどういうものかも分からない」

 ―――?

「どういうことですか?」

「バーフォート家が死の商人・・・戦争を好きに誘発できるって言う意味のな・・・になって、他の家が食い合いさせてても、アリューシャ側は安定しているってことだ。まあ、そんな安っぽい手は使わんと思うがな」





 アリューシャ率いるバーフォート家とバシュマー家の確執は一旦おいておいて、現状をその考えに当てはめて考える。


 次郎・戮丸は先の当主であるガレット嬢の亡命騒ぎで全土の支配権を握るエトワール家と、支配下ではあるが色々と不確定なディクセン聖王国、この両方に影響を与える立場を持つ事になる。

 実利は全くない。特にエトワール家には軍隊どころか力が全く無いのはわかっている。これにディクセンが加われば、形式上はエイドヴァン全域の支配者という形になる。

 この時点で、きな臭いと感じる貴族は多いだろう。内情を知れば・・・

 さらにだ、エイドヴァンの守護者とも呼ばれるバーフォート家党首アリューシャも内包している。

 どんな盆暗な貴族と言えど血相を変える事態だ。


 だが、それを理由に攻撃を仕掛けられたらひとたまりも無い。


 現実はそこで制覇→勝利→エンドロールという訳にもいかないのだ。その次のターンは?


 更に初心者部屋との連結。可能性としては不死の冒険者の軍勢をも持てる。

プレイヤーなら、『そんな馬鹿な』というだろうが、むしろ、NPCサイドの貴族連は逆の意味で『そんな馬鹿な』と思うだろう。


 実際はそこまでの考えには至ってないだろう。




 ただ、いまディクセンは緩衝地帯だ。クライハントにダグワッツが攻撃を仕掛ける際に、ディクセンがザルじゃ困る。自分達はフリーで通れるが敵側もフリーじゃ困る。戦略的な意味でだ。むしろ、多少の抵抗があったほうがまだマシだ。


 それに、建前上の意思としては大勢はディクセン擁護だ。その看板は外せない。

 利用価値はまだある。


 ディクセン経由なら、ダグワッツ・クライハントが戦費をタカルのはディクセン。


 それで潰れてしまうほど足腰が弱くなっていてはタカル側も困る。


 そこで五番目のクランの台頭。十番目の勢力の登場が待たれる。


「つまり、有った方が都合がいい?」

「そう。誰かは知らんが・・・踊ってやるべきか・・・信長になった気分だ」


 天子を頂いたからには覇道を歩むべし、何て台詞に踊らされる年じゃない。

 そう炊きつけてこられると弱い。若い衆は好きだからそういうの・・・。別に断れないわけじゃない。


 乗るか、斬って捨てるか。その二択になってしまう。

 それが駄目だと知っていても、多分その選択では斬ってしまう。だからその前に手が打ちたいのだ。


「この際、戮丸さんの方針を打ち出してみては?」

「方針ねぇ・・・」


 のんびりダンジョンにもぐりたい。

 それが俺の第一義だ。

 


 お迎えがくるか、金が尽きるまで、金が尽きたら・・・後はロスタイムのために金を稼ぐ日々。ここでの働きは先に繋がらない。リハビリの名目があるから、ここに居られる。世界の覇権などはどうでもいい。正直今の時点で、盛大に無駄な事をしている。


 嫁を見つけて将来のこと?この体で?逆の立場で考えてもありえない。夢も希望も無い。こんな体で普通の人並みに稼ぐ?ここで世界の覇権を取った方がよほどイージーだ。


「ダンジョンもぐりてぇーな」

「だからそういう事ではなくて・・・」


 ふと、正気に戻る。


「取り敢えずは、今の情報を卒業組みにそれとなく流してくれ、他はカードが出てない。そんな気がする。敵のアクションに気をつけて、情報操作くらいはしてくるはずだ」

「・・・分かりました」


「俺は外回り組みが、全員霧散して帰ってこなくてもいいと思ってるよ」


 そう言って次郎坊は部屋を後にした。

 スレイはその言葉に寂寞とした何かを感じずにはいられなかった。




 ◆ さっそくアクション



「独りかい?」

 

 そうスレイを呼び止めたのはしろがねだった。


「ええ、大学の論文の合間の息抜きですので」


 場所は官邸。事実上の役職も決まっていない。戮丸の帰還が待たれる。その間残留し、リアルの私事や、後進の指導など雑務を片付けようと仲間内で決まった。不在の間は次郎坊を使って戮丸が指示をくれる。

 今日のような形でだ。

 銀はサンドクラウンの重役だ。狩人のような格好をしているが・・・警戒対象、警戒レベルは低い。基本は友好姿勢。


 ――――情報を引き出せないか?


「あの、戮丸さんがサンドクラウン入りするって言う話は・・・」

「まだ言ってんのか!?」

「どうお考えかと?」


 銀は思案した。


「お前さん達にとっても、連れていかれちゃ困るだろう?」

「戮丸さんがリーダーって事自体が成り行きで・・・」


 事情をかいつまんで話した。


「なるほど。そんな事があった訳か…憧憬で羽を毟るのは感心しないな」

「?」

「自立しろってこと。戮丸は何処のクランでも即戦力だよ。赤の旅団とのパイプ。それだけでも価値が有る。オマケに過ぎないなら尚の事」

「・・・はぁ」


 銀としては正直欲しい。【赤の旅団】関係を全部任せてもいいレベルだ。ポリスラインの件も含めれば、クランの負荷は大幅に解消できる。

 しかし、今抱えている案件も重要。

 匙加減では、何処で全面戦争が起きても不思議では無い。


 そんな事の責任者に成りたがるのは、夢想家ぐらいだ。

 更に戦力。自給自足できるプレイヤーがいるか?

 ・・・個人戦力ではなく兵站をだ。


 そんな理由で、サンドクラウンに収まりきらない。獅子身中の虫というには獣だ。大きすぎて受け付けない。


 それに、戮丸は認識違いをしている。


「認識違い?」

「人間はそこまで生活圏を広げてない」


 戮丸の想像はあくまで、貴族たちの認識レベルでの計算だ。実際は、モンスターに襲われ消えていく集落もあるし、シバルリ村のような隠れ里も点在する。単純に移動をとっても、無事に上手くいくのは経験の裏づけ有ってのこと。右から左へとは行かないのだ。

 そしてディクセンでは、確かに大規模クラン相当の戦力が必要なのだ。民衆を守る点でも・・・


「なぜ、ディクセンはそんなに戦力が枯渇しているんですか?」


 それは歴史的な流れでも分かると思うが、別の国という建前が邪魔をしている。冒険者は初心者部屋脱出後、一定の規模以上の集落に転送される。その集落はディクセンには一個しかない。殆どのプレイヤーが他の組織の世話になる。それは貴族を含む。貴族と付き合いの無いクランは無い。


 それにディクセンに転送されたプレイヤーにとっても悪夢だ。サポート体制が確立していない。すぐに他勢力へと向かうだろうし、実際そう薦める。残留は正気を疑うレベルだ。


 では、ある程度実力をつけた冒険者ならどうだろう?


「露骨に妨害を受けることも有る。納税者を渡すのが気に入らないんだろうね」


 そして、そうなると救援要請も遅れる。貴族を介するからだ。当然握りつぶされる事もある。


「―――そんな」


 もちろん、貴族連にも考えあっての事だろう。時にメンツなどという、どうでもいい場合も多分にあるが・・・

 かと言って個別の戦力を持つことも望まない。一方的な交渉が出来なくなるからだ。


「それで、ディクセンには戦力を蓄える土壌が無く、有事には貴族を通しての依頼。中間料が発生すると」

「その上、ディクセンに倒れられると困る。そんな依頼が来る」

「それで、銀さん・・・ですか」


 クラン名を隠し、その上で戦力になる人材の投入。


「何処のクランもやってる。正体を現したら各クランのドリームチームが並んでるのが現状だよ」

「そのドリームチームでも苦戦している」

「正体出して貴族とガチガチにやり合えば、話も違うんだろうがな。皆それなりに事情を抱えているんだ」

「そこで戮丸・・・ですか」

 銀としても、無理難題を押し付ける気は無い。看板が必要なのだ。ただ、そのドリームチームの圧力に負けるようなやわな看板では困る。


「そ、楽隠居させるにはもったいない人材だ」


「そう、事が運びますかね?」

「分からない。だから、小まめに顔を出してる。―――報酬も発生する」

「するんですか?」

「そう、話の分かる上司でね。それがうち、砂の冠(サンドクラウン)なんだ」


 そう言って銀は官邸を後にした。




・・・きつい


20160206 編集加筆。特に説明文を判りやすく書き直しました。

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