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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第三章 唯一つ・・・たった一つ・・・
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022 サンの谷間 




「こりゃ、なまくらじゃぞい」

 ダイオプサイトの見立てに乾いた笑いしか出てこない。

「おっつー」大吟醸とノッツが両サイドから肩を叩く。

「魔法もかかってないがなまくらは言い過ぎだな。彫金は安物で性能は普通」

 ガルドの鑑定結果も同様で、【凶王の試練場(ワンス)】メンバーはここぞとばかりにマティを慰める。


「これが冒険」

「人生厳しいものです」

「なんといっていいか」

 緊張から解き放たれたアクアたちは思い思いの感想を述べる。


 実際いい見世物だろう。冒険はこんな感じだ。期待もあれば裏切られることもある。

 切り替えていこう。実際四段落ちの罠を抱えて運んで振ってで、罠が起動しなかったのは幸運だ。

 キスイは本当に良い仕事をしてくれた。チェスト自体はオーソンに見せた所「鬼畜の所業だ」と喜んで持って帰った。

 商品化する気だろう。一番いい金になった。

 皮袋に詰まった液体は揮発性の麻痺毒で使い方次第では武器になるらしいが、袋自体の劣化が激しく、詰め替えにも危険が伴うので危険物置き場に直行。

「概念切断は無かったが四段落ち罠は秀逸だな。」

 まず、第一の罠は小手で防げる。見せ罠だ。で空。上げ底にはすぐに気が付く。そこで底をぶち破れば麻痺毒で、ちゃんと開けてもブレードは皮袋も切り裂くので麻痺毒。だが、麻痺毒だ。いずれは回復する。罠自体は警戒しても最後の呪いに気づかないと・・・


「なんとしても呪いを掛けたかった。そんな作者の腐った執念が感じられるな」

「ガルドさんも気付かなかったか・・・」

「呪いというか魔術がほとんどなくてね。執念とか悪意には鼻が利くつもりだったが失念していた」

「無いんだ」と大吟醸が食いつく。

「いや、ある事はあるが・・・お前らの世界の方が近いな「あなたの知らない世界」てきな」

「あー、ホラーぽいのか・・・バステ丸出しの呪いには無関心だったか」

「いやぁ、油断した油断した。マティ様々だな」

 珍しくガルドが大仰に笑った。

 マティからすれば「毒を喰らわば皿まで毒」の境地で対応したに過ぎない。ガルドの介入が無ければ製作者の想定通りに痴態を演じていただろう。


「・・・楽しそうね」

 ジト目のシャロン。


「のど元過ぎればなんとやらでね。こういうのが一番楽しい」

 無神経代表の大吟醸が地雷を踏みぬいた。


「へぇー。大吟醸【さん】は人の不幸が楽しいんだ。へぇー」

「そうそう、一番笑える」


「で、これは誰の獲物になるんだ?」

 ガルドは何気なく短剣をプラプラさせた。

「呪いの内容が気になりましたけど、解呪したのは失敗でしたか・・・装備の関係で私がもらっても?」

「・・・どーぞ」


「それ」どうするのとしぐさでアクアが聞いてきた。

「売っても大した金額にはならないでしょう。飲み代に?」

「いや、ダンジョンの位置がわかって無いのがアレですが、模様が宝の地図になってたりとか有るんですよ」

「ダンジョンの位置って重要なんですか?」

「土着の信仰や昔話と照らし合わせればストーリーが浮き彫りになってきますし、有名の戯曲のって・・・例えばどこどこのお姫様が暗殺されたなんて話が合ったとします」

「物騒な話だな」

「でも、結構多いよな。シンデレラは毒殺だし」

 大吟醸の突っ込みにノッツが絡む。


「その話がとっても有名で、その凶器がこの短剣って事になれば?」

「それでストーリーが・・・」

「どういう事だ?」

 ニコルは理解しガッシュが説明を求める。


「この場合、暗殺なら大金が動いているでしょう。お家断絶ならその家の財宝はどこに?って」

「なるほど」


「夢のあるお話ね」

「まあ。手に入れた所を考えれば気にしすぎの範疇は出ないんですがね。多いんですよ。そういう切っ掛けのシナリオが」


「へぇー。そういえばグレゴリオとあったあのダンジョンも・・・」

「はい、探り当てました」


「飲んだくれとったの」

「そりゃそうでしょ、最初は噂話と吟遊詩人の歌に共通点があるかもって所から探り当てたんだ。少しずつ肉付きが出来てきて、ダンジョンの位置特定まですんだ所で、「俺たち忙しいから行けねぇ」ですよ。「偵察してきて」ってどうしろと?」


「それは酷いな」

「それでどうなったの?」

「その時に大吟醸たちと出会ったの・・・そこから先は長くなるから」

 興味を持ったアクアに告げる。

「なんか面白そうですね」

「だから、こういうのは捨てず取っておくんだけど・・・期待はしてない」


「楽しそうね。マティは」

 ん?

「本当に嫌いじゃないんだ。捜査みたいで」

「捜査というより、考古学ですね。私も好きですよ」

「でしょう?冒険といえば考古学者。考古学者といえば」


「イン●ィー・ジョー●ズ」

「ス●リガン」

「マスター・●ートン」

「トゥー●・●イダース」


「冒険アドベンチャーっていえばあっちなんですよねぇ。さらに、ここはモンスターも魔法も金塊も伝説も全部あり、時には悪役だって出てくる。その辺がたまらないんですよ」

 男の子理論さく裂。マティもまた永遠の男の子であった。


「あたしは宝石がいい」

「宝石の伝承かぁ・・・メジャーなのは・・・って」

 ダイオプサイトとオーソンに目が行く。

「盲点でした。ドワーフの伝承とかって・・・」

「宝石?そんなもんには興味はないぞ。鉱石の方がよっぽど役に立つわ。【五石】ってのが伝承には残っとる」

「おやびんは【五石】の内4つまで持っとるぞ。知らんのか?」

「ほんとかッ、無いのはどれだ!あと一つくらいなら掘ってくる!」

「アダマンタイト・ヒヒイロガネ・・・多分、ミスリルじゃな」

「そいつは見つけやすい。ドットレーでも見つけられた・・・」

 ドワーフ二人は硬直する。


 戮丸の持つ、【熊手酸漿】はドットレー作のミスリル【削り出し】の一品。


「戴冠じゃああああああッ!【ドワーフ王】の戴冠じゃぁあっ!」

 ドワーフたちは行ってしまった。


「なに?」

「さぁ?」


「さっきの話って【ドラゴンボール】的な?」

「【ドワーフ王】って・・・話的に読めた気がするけど・・・」

「興味持つと思うか?」

「アレが・・・?」

「・・・ないな」


 うっすらと話が読めた面々の言葉をガルドが締めた。


「ぶっちゃけ宝石ってあんま意味ないよな。ゴロゴロ出るし換金アイテム以外の何物でもない」

「大吟醸【さん】?」

「実際山ほどあってもケバいし、有難味ねーっての」


「大吟醸少し黙れ」

「アッはい」

 マティの珍しい命令口調に素直に従う大吟醸。


「あー、シャロン。大吟醸【さん】にはわからないから」

「そうね。大吟醸【さん】にはわからないのね」


「あーノッツ。おれ。なんか変なこと言ったか?」

 軽く笑って「ごめん僕には分からないんだ。大吟醸【さん】」と線をひいた。


「そろそろ行かないと時間が無くなるんじゃないか?」

 とガルドが促す。完全にあと一回のチャレンジしかできない。


「そろそろ行こうか?」

「そうね。ソレ持ってくの?」

「そうだなぁ。持っていけないものでは無いし・・・」

 そんな二人にガルドは言った。

「あーその剣。【非破壊属性】だから・・・」

「持ってきます」

「え、なんで?」


「僕らはなんで呼ばれたの?」

「荷物持ち・・・を大吟醸【さん】にお願いしようかと」

 ————今作ったね

「頼りになるわ。大吟醸【さん】」

「ちょ、ちょっと多すぎない?」

「大吟醸【さん】は流石だなぁ・・・いいから黙ってキリキリ運べ」

「アッ、ハイ」

 見かねたニコルが手伝いを買って出たがダンジョンに入れない以上どうしようもないと丁寧に断られた。

 アクアたちはミルザに実況してもらいながらマップで状況を確認するお留守番だ。




「いいなぁ」

「行きたいのか?」

 ガルドがキスイに問う。

「いいの?」

「それはお前しだいだろ。『マティに任せる』といっている」


 キスイは胸を躍らせて走り出した。

「マティ。あたしも入れて!」


 見送りつつあるミルザが盛大に噴出した。


 ————言い方は大事だ。


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