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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第三章 唯一つ・・・たった一つ・・・
145/162

018 人種区別

 ガラン――――と音を立て武器や盾が無造作に積み上げられる。大抵は大の男が抱え上げるような大きな物だ。それだけに耳障りな音が立つ。


「うっわ、ひっでぇ」

 そんな言葉が群衆から零れる。その一つ一つが≪最低金額≫一万の高級品だ。

「ひーふーみー・・・14億円・・・?」

「インフレしてるから、何とも言えないけどそれくらい・・・軍事兵器だね」

「・・・どれも一万ぽっちじゃ買える訳ねーだろ」


 エイドバン(ゲーム内)では食品の値段が極端に安い。食費基準でレートを算出しているからこういった現象が起きる。


「いや、もうちょっと扱い方あるだろ?」

「ばっか、オメー。これから天元突破超ドリルみてーなのに突っ込むんだ。この程度で壊れるんなら今のうちの方がありがてぇよ」

「いや、商品価値下がるだろ?」

「下がらねぇって」

 アトパや炎帝が傷物で値下がりしても買い手が喜ぶだけだ。


「ああ、それいらねぇ。そこの鎧も。あ、それはオレが頼んだ小手だ。置いてって」

 と戮丸は矢継ぎ早に指示を下す。

 性能・値段では圧倒的に不採用品の方が高く、首を傾げながらも持ち帰る。


「やっぱやばいのかあの山・・・」

 ご当地ノッツがエディスに訊いたのは取捨選択に忙しい戮丸に話しかけるのが躊躇われたからだ。

 二の句の告げないエディスに代わって呆れたムシュが答える。


「あそこの三日月斧≪クレッセントアックス≫があるだろ?デカいの。威力もかなりのものなんだが、【テンペスト】が三発撃てる」

「攻撃呪文?」

「――――」

 ファイヤーボールで大騒ぎのノッツにはどんな呪文かは――――想像は付くがどの水準かはわからない。


 ライトニングボルト〈ファイアーボール〈ブリザード〈ファイヤーストーム〈テンペストの順である。


「知っとけよ。30分ぐらい続く吸引力の変わらない竜巻で副次効果でライトニングが2~300本飛び交うんだ。中でな。範囲はちょうどエンドラストがすっぽり」

「何発残って・・・」

「毎日3発」


「なんだそれ!なんだそれ!なんだそれ!!」

「だから、武器屋の棚にあるのがギルティな品だって言ってるだろ!」

「救いは無いのか!」

「あるぞ、ノッツ。ありゃ、武器を中心にテンペストが発動できる。逆に言えば狙った位置に出せるわけじゃない。つまり、発動させれば使用者は死ぬ。アトパでもなければ使いこなせねぇよ」

 エディスが観念したように答えた。

「良く知ってるな」

「実演してもらった。あいつ親切でな。実演して説明してくれるんだ」

 呪文を展開してから即時離脱。アトパの高機動とドワーフのタフネスが可能にした技。

「現実的には魔法使いの【転移】とセット運用が推奨だな。ただ、ダンジョンで使えば崩壊、町で使えば倒壊確定。使いどころが難しい」

 フロウが包みをもって補足する。元よりテンペストを使わなきゃならない状態というのが最終回状態な訳で。

 エイドバン広しと言ってもこんな商品を扱っているのはシバルリだけだ。エディス・フロウは当然のように新入荷した商品はチェックしている。『どれが欲しい』は当然だが、『誰が買っていったか』だけでも金貨が払える情報だ。

 ノッツが知らないという事にフォローを入れれば、値段を聞いた時点で別次元の話だと意識的に避けていたからだ。

 地引網漁船の釣果を、釣り船漁船が無視するのは当然かもしれない。


「そいつは?」

 気になった包みに話を移す。

「こいつは脆くてな。あの斧より百倍くらい物騒な代物」

「悪い。確かにシバルリはホームだけど、武器屋の品ぞろえなんて気にしてねぇから――――」

 ――――精一杯の強がり。

「らしいな。いや、それでこそ【錆びた九番(ラスティ・ナイン)】だ」


 武器?防具?拾ってきなさい。


 確かにそう指示されてはいるが・・・・

 あ、るぇええええええええっ!?

 苦しい見栄の一打がすんなり通った違和感がパナイ。


 ――――ので、話題を戻した。


「コレは【タブレット】モーゼの十戒とかのアレ。エメラルドタブレットとかでわかればいいんだが?」

「モノリスみたいなアレ?」

「ああ、そうそう。スクロールは一人が覚えれば消えるが、【碑文モノリス】は消えないって特性がある」

「それの持ち運び版――――って魔法撃ち放題かよッ!」

 魔法は特性として覚えるほかに【消費】する事によって行使が可能。消費に対しても同様。

 だから、低レベル冒険者が【解読(リードランゲージ)】呪文を持っていくのは意味がある。運よく攻撃呪文なら固定砲台になれるメリットがあるのだ。


 ――――が、鬼ヅモで勝つ確信があるほどの豪運の持ち主でなければオススメはしない。


「その程度なら良いんだけどな。十戒よろしく複数の呪文が書いてあるうえに大抵カスタムのレアスペル。おかげで俺は見ただけでアウトだ。覚えちまうからな」


 腰に来た。強烈に腰に来た。これが卒倒する感覚だろう。

「大手クランなら持ってる・・・ものなのか?」

「持ってるだろうが言うバカは居ねぇ。学院がなりふり構わず奪いに来るだろうな。そうだ。学院には多分ある。厳重に封印してな」

 聞いた瞬間ブラックリストに載るぞ。と付け加えて。


「めくっちまえ」

 フロウの耳元にエディスが囁く。

 魔法使いが一生かけても集めきれない魔法が布一枚挟んでそこにある。その誘惑を考えれば葛藤があってしかるべきなのだが・・・


「あの山が取り立てに来るのがわかっててか?お前のとこの魔法使いにやらせろ。学院にチクって誘拐しに行くから」

「(・д・)チッ」


 冗談めかして言ってはいるが、奴らはマジだった。

「あー、スレイ君?御開帳?」「君のいいとこ見てみたい♪」

「やめてくださいよ!!!それでなくても『いる?』って聞かれてるんですから!!!」


 ・・・・・


「あースレイ君。【クロウ】は前途有望な魔術師・・・君を待っている!」

「【ボルゾイ】もよろしく」

「核爆弾になれって言われて『ハイそうですか』っていうと思います?」

「(・д・)チッ(・д・)チッ」


「言うまでもない事だが、ここじゃこんなんだがダグワッツのこいつらはフツーにヤバいからな」

「想像できます」

「その三・四倍は覚悟しとけ。多分それでも足りない」

 戸惑うスレイにムシュフシュが的確なアドバイスを放った。


「でも、戮丸使えないんじゃ・・・・」

「あのショルダーアーマー【唱える者(キャスター)】」

 ノッツの素朴な疑問に明確な答え。


 ――――絶句。


「じゃあ、どんな魔法が入っているか分からないんじゃないですか」

「その辺があいつの【親切(●●)】で、鑑定して詳細な目録作ってくれてるんだ。公開してるぞ。信じられないことに(●●●●●●●●●)

 ――――神は死んだ。

「んで、タブレットには一個か二個表に出ちゃいけない魔法が書いてあると」

「裏でもダメだろ?」

「本気でお前がそう思っていると――――信じると思うか?」


「はい、そこ戦争しない」

 その言葉とともに【持ち主】が『ありがとさん』と包みを取り上げた。

「こいつはまだマイルドな方だぞ?」

「ね・ご・と。こんな物騒な・・・・マイルドじゃないのがあるのか?」

 エディスは常識的見地からの発言を途中で止め、右斜め四十五度の直感を問いただす。こいつでも怖くて使えないレベルのアイテムは確実に持っている。もしその目録の中にタブレットがあれば――――


「一般論」

「どこの一般だ!」

「いや。エメラルド・イン・タブレットとか無明細支所とか根暗の未完に比べればねぇ」


 一部表現を変えてお送りしています。

 作者だって死にたくないんだよ。


「おい、戮丸。オレもこいつとは長い付き合いだが・・・」

 涼しい顔がトレードマークのフロウがいちびる様は。エディスには気の毒に映ったが・・・すごくすっきりした。

「比較対象がおかしい・・・」

「多分あるよ。ここだもん。もし無くても必死で探してれば、心優しい運営が作ってくれて世紀末かみんぐすーん」


 ――――核は・・・・あった。




「ア――――。とっとと倒してこい『アタドン最強プレイヤー』」

「えっ、俺でイイの?」

「いいって、誰もお前と同じことはしたくない。とっとと世界を救ってこい」

「最強だからって扱い酷くない」

「酷くないな」

「そっかー。 じゃ、行ってくる」


 『大帝』と呟くと一瞬白い雄獅子が現れ、戮丸と共に虚空に消えた。




 ・・・・(´・ω・`)

「あー、彼はZ戦士みたいなものだから・・・」

「俺らは人畜無害な【一般ピープル(パンピー)】」

「騙されてはいけない!この二人は戮丸側だ」

「風評被害酷くない?」「実に心外だ」

「マフィアがいいよる」

「お前にだけは言われたくない!」

「俺は・・・その・・・雑魚キャラだから、ムキムキマッチョはすぐに死ぬだろ?」


「アクアさんこっちこっち」

「えー。この線が境界線ですからね」

 ノッツはアクアの手を引っ張り、スレイが手を振り線をイメージする。

 アタンドットはジャンル分けすればスカ〇リムやFPS、ダクソのような、ニ対一なら逃げて当然な難易度のゲームだ。クラマス二人に猟友会のムシュフシュ。規格外プレイヤーであることは間違いない。


「嘘をつくな。なんでお前がそっち側なんだ」

 イケシャーシャーと、ムシュが糾弾する。

「腕がいいのは知ってたが・・・?」

「この間、ワンスにボコられた。二回程な」

 3mを超す巨躯を見上げる。トロールのルーン王グレゴリオとも勇戦したとグレゴリオ本人からもきいた。

「こっちはパーティだったし四対一!努力の範疇ですよ!」


「努力の範疇でどうにかなるの?」

 ニコルとガッシュが静かに首を振った。


 トンッ


「スレイッ!!」

「すまない」

 線の向こうに突き落とした友人は味わい深い表情をしていた。



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