014 おまわりさんの不在
「まずは朝飯・・・っと」
マティは久々の休暇に、足取りも軽くエンドラストの石段を下りた。
エンドラストは直径250mの窪地である。
5mおきに50cm下る構造で、客席と呼ぶにはいささか広すぎる。住民の多くはここにテーブルを持ち込み、オープンテラスとして活用しているが、いかんせん広い。
基本的には野外ステージなどと同じ構造で、違いは掘って作ってあることと扇型であることが多いそれが完全に円形という所だ。クレーターと同じで中央の盛り上がりの代わりに演武台が置いてある。
50cmの段差は階段というには高すぎて、椅子というには低い。移動を目的とした一段のみの階段が設けてあり、それを通路とすればエンドラストを✖の字に貫いている。
(ここを通れなんて決まりはないけどね)
それ以外にも各水船から注がれる側溝が蜘蛛の巣状に広がり、中央にある直径50m高さ2mの演武台下へと続く。この水を自動的に組み上げて演武台上の池へと注ぐ仕組みは公にはされていない。6連水車を思えば、水車なりポンプなりでくみ上げているのだろう。
実際戦うのは直径35mの円に内接する正方形のリング。つまり対角線距離が35mの戦場だ。小学校のプールより広いから、一騎打ちより団体戦向きなつくりだ。
巨体なムシュやグレゴリオでも問題なく戦えるだろう。
演武台の側面は半地下のフードコートになっており、イベント時にいくつかの店が軒を連ねる。イベントに集中すればいやでもフードコートが目に入る作りで、売り上げ一等地だ。
今は特段そんな予定はないから、もぬけの殻なんだが、通常営業している店舗もある。
店主曰く【いつもの味といつもの場所】というのが重要らしい。
そんなお店をマティも愛用していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
・・・ポテマヨ・・・
・・・ポテマヨ・・・来たれ。ポテマヨ・・・
・・・我汝、ワサビを召喚する・・・
・・・ポテマヨ・・・
「親父さん、なんですか?あれ」
マティは店を覗き込み、耳障りなうめき声の正体を店主に聞いた。
「おや?おまわりさんいらっしゃい。なんでしょうね?でも、ビックベアでしょ?」
粉屋店主ヨドの一言で納得した。
ビックベアはその特色のほかに、お客の奇行でもよく知られる。大声で叫んだり・・・いわゆるグルメ漫画にありがちなリアクション芸を熱演してくれるのだ。
まぁ、こっちの人は面食らうが・・・
「ああ、なるほど。いつものね」
「あいよ」
いつものとはガレット。蕎麦粉で作ったクレープだ。具材は目玉焼きとソーセージというお菓子とは程遠いもので朝食などで一般には食される。包み方も円を四角になるように畳んで皿で提供するものだが、マティは食べやすいクレープ状に作ってもらって、さらに蕎麦掻きを揚げたもの入れてある。
「おっと」
中央の半熟卵を溢さないように破り、醤油を垂らしてかぶりつく。
意外に旨い。ソーセージにもソバの実を練り込んであり、まさしく蕎麦尽くし。冗談半分に作った品を笑いながらも、気に入ってしまった。警邏中につまむのにちょうどいいのだ。
この店は、元来クレープを基本とした粉ものを扱っている。最初のころは適当に包んだだけのお世辞にも良いとは言えないものだったらしいが、今では生クリームが手に入り現実のクレープ屋に近いラインナップとなっている。だが、揚げ魚などを包んだ品も人気は根強く続いている。
店主自身がスイーツという認識が弱く、お客が喜んでくれればなんでもいいというの大きいだろう。
それでも、生クリームを使ったクレープは子供が縦に激震するほど好評で、近々チョコレート輸入の目途が立ったとかでマティは軽い危惧を覚えている。
「マティさん、ポテマヨって・・・」
「多分、ポテトマヨネーズの事だと思う。新商品開発?」
店主は恥ずかしそうにこめかみを掻いたが・・・いかんせん渋面だ。
「まぁ、ポテマヨクレープって・・・どうだろ?」
「ですよね・・・ワサビってのは?」
マティは負けじと渋面で返すと知らない食材へと話題が移る。
「ワサビマヨネーズってのは有るけど・・・・」
ワサビマヨネーズで作ったポテマヨ・・・旨いのか?と問われたら。
不味いだろ!と答える。
実際どんな味になるかよくわかってないが・・・それがオン・ザ・クレープ。
「・・・やめておいた方がいい」
「でしょうねぇ・・・」
しかし疑念はそこじゃない。なんだってあんな騒ぎになっているのか?一過性の物だとしても気になる内容だし、ムシュフシュの巨体が見える。金の箒頭もちらりと見える事からうち案件・・・
「おりを見て聞いてみるよ」
「助かるよ!」
疲れた顔で手をひらひらさせた。この距離だから直接聞けば早いのだが・・・多分、『戮丸の大きなお世話まで』計算の内だろう。蕎麦掻きガレットもあの人の悪乗り発案だから・・・顛末はご想像のとおりだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「今日だけど・・・前に言ってた休暇だから」
と念押しした。こっちの方が本命だ。
「ああ、わかってる。楽しんできて!しっかりね!」
「何かあったら・・・」
「心配性だねぇ。【錆びた九番】の二人がそこにいるし、うちの常連だってこんな日ぐらいは働いてもらわないとね!」
一段上がったところのテーブルをねめつける。村内で冒険者が戦う事は少ない。どんな上級者でも変わらず客。
テーブルの四人のうち二人はクラマスであってもだ。
マティは硬直する。
(クライハントの【ボルゾイ】と【クロウ】のクラマス!!!)
ここの常連なのは知っている。シバルリ設立以来からこの辺をフラフラしている古株。ダグワッツはクラン戦国時代で、お国柄からマフィアに近い運営形式で【ボルゾイ】と【クロウ】は武田・上杉の間柄と聞く。おとなしいから放っておいたが・・・
・・・まさかそこに自分の休暇がパスされるとは夢にも思いませんでした。
(どうして、ビッグネームにぶち当たるかなっ!)
呪いか!呪いなのか!
【枯山水】に単身交渉に行った時もめちゃくちゃ緊張したのに!戦鬼と化した戮丸に、戦後処理に走るオーメル。軟禁貴族のラインナップ!来てほしくないモテ期が・・・
・・・・お帰りください!!!
「マティさんじゃないですか!」
その言葉は救いだった。残りの二人は知った顔。ニコルとガッシュだった。
「あれ、先生?顔見知り」
オレンジの短髪エルフは恥ずかしそうにこめかみを掻いて『以前交通事故を起こした際に仲裁してもらったんですよ』と答え、ガッシュが頷いた。
「交通事故?」
「あたしがガッシュさんに轢かれまして」
「訳が分からん」
自動車は当然ないし馬車も村内では使用禁止。あっても走る事は無い。騎乗も禁止で交通事故の起こりようもないはずのシバルリで交通事故。
「あ、あれでしょ?あそこのとおりで吹っ飛ばされったって・・・たしか、うちで食べてた時血相変えて・・・」
店主が思い出し、「うん、それ」とマティが頷く。
「ぶつかっただけじゃねぇの?」
「いろいろ調査した結果15ポイントのダメージが発生してました。ニコルさんがエルフで自力で数レベル上げていたから生き残っただけで、樽2・木箱1損壊。クッションになったんでしょうね」
「15ポイントって・・・グレソ二発でもそうそう出ねぇぞ?それをぶちかましで出すかよ・・・」
グレソのダメージは1d10。期待値は5.5。ボーナス+1と仮定して二発で13。グレソはグレートソードの略でツヴァイハンダーなどとも呼ばれる2m近い両手剣。
細かい仕様や拵えで別個体と分類する事もあるが、今分類する必要はないだろう。
「さらに言えばニコル先生は戦えないと公表してソロで活動してまして・・・」
エルフは必要経験値がずば抜けて高い。一レベルの時点で戦士の1.5倍必要でその差は指数関数的に跳ね上がる。その労力が消える可能性があった・・・
「そりゃ怒るわ。7割越えのダメージは思い出したくもねぇ。治りゃいいって問題でもねぇ」
「っていうかどうやってそんなダメージ引き出した?」
「不意打ちにクリティカルが乗って出たものだと実験結果で出ました。再現検証には戮丸さん立ち合いの元、結果は戦技研に提出済みです。『チャージを示唆する』レポートなので興味があればそちらへ」
事務的に話すマティ。二人のクラマスは開いた口が塞がらないといった具合だ。
「そ・・・そりゃ・・・災難でしたねセンセ」
「雪崩に巻き込まれた時以上の経験でしたよ」
「雪崩って・・・センセ?」普通はその経験自体がレアすぎる。
「お恥ずかしながらアタシ。遭難経験があるんで・・・それでもめにもめた所をマティさんが大岡裁き顔負けにビシッと仲を取り持って頂いて今に至ってます」
「やだなぁ」
「いや、やだなじゃなくて、そんな目にあったら絶対許せるもんでもないぞ。悪気が無いんのは分かるが・・・」
常連というだけあって付き合い人となりは分かっているようだ。
「俺なら殺して罰金。それで筋は通るが許せる・・・訳ないな」
クラマスなら信賞必罰は常。気になる内容ではある。
「罰金無し、処罰も無しです。ただ、ペアを提案しただけですよ」
聞けば、ガッシュはゲームの経験は浅い物の戦闘力はずば抜けていて、どちらかと言えば戮丸よりのプレイヤーで、固定パーティを持たず傭兵のようにパーティを渡り歩く。当然、最小パーティのような戦力、戦士一人のみの経験も豊富。
ニコルはソロでも、組めないからソロなだけで・・・
ペアで回せば成功率は高くなるし、高収入も望める。
「・・・オレの方も経験値は天上届いてたから、あとで分配してもらえれば異論はありません。それにペアはいい経験になりますし、初心者部屋を出るまでは付き合う気です」
「なるほどねぇ。でもガッシュも大変だな自業自得とはいえ・・・」
「あんまり、そういう感じは無いんです。戦闘とそれ以外で分担してると思えば、魔法が使えて腕力もある。何より経験豊富で教えられることの方が多いくらいで」
条件を二人のクラマスは吟味する。
「WINWIN?」
「そんな感じですね」
「本当に名奉行だった訳だ」
「さすが【おまわりさん】」
「やめてくださいよ。冷静に考えて、普通に処理したらあの人がなんて言うか・・・」
怒りはしないだろうが、評価もされないだろう。・・・間違いなくガッカリはされる。
「戮丸か・・・ま、分らんでもない」
「それに戦士だったら一人歩きは考えますよ。何しろうちには大吟醸が居ますしね」
「普通だったらあれで異常レベルなんだがな。わからんでもない」
同じ環境で猛追する大吟醸。死んで覚えるの精神でソロエントリーを繰り返すが、成功率が低く通算結果はマイナス。だが、足踏みしてると考えるほどマティはバカじゃない。
何しろ【次郎坊】と張り合ってるのだ。
「いうほど強いかねぇ?負けっぱなしでしょあの人」
話を聞いてた店主が首を傾げる。戮丸やナハト、カリフには負け続け、ムシュやグレゴリオにも負けているが、毎度死闘を演じている。そこにマティはイーブン。この時点で強いのは分かる。
だが、それ以下の巴に負け越し、ガウェインに負け越し、オックスとも・・・
・・・死闘を演じている。ヤメテほしい。
唯一の救いはディクセンの女騎士リーゼを下していることだ。美女なだけに知らない人のブーイングは凄かったが・・・
マティ自身が手合わせして巴ちゃんは確かに強いが、強烈に敵を倒す意思が無く、負けることはない。ガウェインは戮丸に突っかかった騎士見習いだが巴とは逆でやはり負ける気はしない。オックスに至っては・・・この人遠距離型だよ?
「戮丸がずっこけるのも分かるわ。どうなってるんだあいつ?」
「俺に聞かれても・・・当人はいたって本気なんで参ってるのはこっちなんですよ」
一番困っているのはマティだ。ガウェインには良く詰め寄られるし、巴ちゃんはあからさまに落胆の色を隠せない。大吟醸は違いが全く分かってないときている。
「大吟醸さんはめちゃくちゃ強いですよ」
思わぬフォローがガッシュから入る。
「いやそりゃわかってるって、アクセル持ちのマティと互角に戦える時点でおかしい」
「そうじゃなくて、あの人の踏み込み位置が神がかってるんですよ」
「え、どういう事?」
「プロボクサーでも空手でもあんな踏み込みを続けられる人いませんよ。もちろん、マティさんクラスと戦っているときの大吟醸さんですが・・・」
「ちょ、ちょっとまって・・・オレらそんなに格闘技経験ないから、どうなってるんだ【おまわり】さん?」
「そんな、振られても科目でこなしている程度で・・・そりゃ、懐に飛び込まれて凄いとは・・・」
そりゃ職業柄経験はあるが・・・
ガッシュは少し思案する。自分が感じている感覚を言葉にする方法を探しているのだろう。
そして口を開いた。
「いいですか、あの人戦闘中に相当ハイジャンプしますよね」
「飛びついてなんぼの戦い方だからな・・・」
「多分あの人は自分の高跳び限界値近く毎回飛んでます。多分変わらないでしょう。じゃあ、自分が同じくらい飛ぶとしたらどうします?」
「無理だろ?あれはあいつのお家芸・・・」
「いや、そうじゃない。・・・わかった・・・助走?」
【クロウ】のクラマス、フロウが呟いた。
「どういう事だい?」と店主が問う。
「ああ、なんて言っていいか?高く飛びたいとき助走つけるよな」
「まぁそりゃね。しゃがむときの方が多いかな?」
「今回は助走で想像して・・・足がもつれて飛べないってことあるよな」
「飛ぶまでもなくやり直すってアレ?」
と聞くと「そうそうそんな感じ」とフロウが返す。
「助走と言っても体に勢いつけるだけだから一歩二歩の時もある。だが、その助走に失敗すれば飛ばずに止める。無理に飛んでも結果は見えてるから・・・」
「そうはいっても、バレーやバスケだって条件同じだろ?」
「ネットやゴールが動かなければ・・・だろ?」
トロールやオーガは当然動き、さらに攻撃してくる。攻撃を回避しながらの戦闘中に助走マージンは取れない。取れても十中八九足がもつれる。だが、大吟醸はこれを自然にこなしている。
「ところでマティさん、大吟醸さんが飛ぶのを止めた所を見た事ありますか?」
「・・・そういえば・・・ないな」
「だから、私の予想では大吟醸さんは足がもつれた経験が無いんじゃないかと思っています。あの人の回避行動は助走を兼ねていて、そのエネルギーを跳躍に転換出来ている」
「んな、バカな?」
「そうとしか思えないくらい足運びが完璧で柔軟なんですよ」
「うっそだろ・・・」
「確かに、バスケやバレーの選手なら近い動きは出来ると思います。彼らは高く飛ぶことに特化してますから・・・ただ、大吟醸さんの場合は戦いに特化してるんです。これは飛ぶ事に限らず斬撃にも言える事です」
でなければトラックのタイヤのような皮膚を持つトロールの心臓を貫けない。
「それじゃあ、何か?いつでもフルジャンプできるくらいの体幹の持ち主って事か?」
「いえ、体幹はそこまで強くない。ただ、それを支える足さばきが異常なんです」
「それが本当なら普通に化け物じゃねぇか・・・いくら何でも・・・」
マティは黙っている。いやな汗があふれてくる。心当たりがありすぎるからだ。
アクセルの強みは二連撃にある。極論すれば崩して斬るだ。だが、大吟醸は崩せないし、躱される。挙句、二連撃を一刀のもとに切り裂かれる事もある。ガッシュの説ならそれに説明がつく。
シールドバッシュで弾いた時も、粘りとリカバーが速すぎてアドバンテージが奪いきれない。
「それって、ほとんどのスポーツ・・・万能なんじゃねぇ?」
「おかしいな?運動神経は悪いって本人は言ってたんだが」
「多分、太ってたんじゃないですか?物心ついた時点で太っていると、そういう才能が埋もれるケースがあるそうですよ」
「まさか?」
「太っている人のフォームって大体一緒なんですよ。顎が上がって手足がブラブラで一見楽に見えますが、あの走り方ってすごく負荷が高いんですよ」
顎を閉めて肘を関節を固定し振り子の動きで一定以上のスピードで走るほうが体は楽。一番の違いは走行による冷却が追い付かない。発熱は距離に比例するとして、冷却が機能しないほど鈍足に走れば熱は蓄積する一方で、茹ってしまう。
「詳しいな」
「ガッシュさん教育関係の人でしたか?」
「私は先生じゃありませんよ。ちょっとその辺は踏み込んでまして・・・空手を少々」
「そうだったんだ。でもさ、少々ってのは【おまわりさん】くらいのを言うんだぜ?どこまで行った?」
「言わなきゃダメですか?」
「ダメってことはないが教えてほしいな。戮丸がすげーのは分かるがどれくらいなのかは想像もつかない。俺達には」
ガッシュの実力を物差しにすれば、結構見えてくるものがある。
「で、マティは?」
「参加賞止まりです」
「自慢できるか!」
「いや、警察で参加賞なら結構強いんじゃ」
警察である。マティは最初からベリーハードコースだ。それを加味したニコルのフォローと、むしろ『お疲れさん』といったニュアンスの言葉だ。
「今なら良いところ行くだろ?」
「ロングソードとヒーターシールドアリならね」
「そりゃ無理だ」
「アクセルも欲しいな。キラン」
「自分で擬音つけるなwww」
ひとしきり笑って・・・
『で?(真顔)』
ガッシュは四人の圧に負けた。
「・・・・・・・・・・・・・・全国です」
『『『はッ?』』』
「全国のどこまで行った?」「いつ?」「サインもらっていいですか?」「詳しく話してもらおうか?かつ丼おごるよ」
「ええっと・・・高校までは県止まりで、大学で全国をウロチョロ。就職して一昨年優勝して、今は引退してここです。大会名は勘弁してください」
「そんな少々があるかぁあああああああああああッ!」
「それ少々じゃなくて少将や」
「日本一じゃないですか。すごいなぁ」
「ガッシュさん。先輩風吹かせてすみませんでした。まさか戮丸クラスとはつゆ知らず」
とマティが深々と頭を下げるが・・・
「やめてください(真顔)俺なんかとあの人を一緒に見られては・・・おれ、あの人に憧れて・・・あの人に薫陶を受けて全国いけるようになったんですから」
「え”弟子!?」
「弟子じゃないですが・・・あの人の育成方針はその特殊で、水が合ったというか・・・大体あの人全国初出場の中学生預かってその年の優勝まで導いた伝説持ってるんですからっ!俺なんて雑魚とてもとても」
『『『は?』』』
全国優勝経験があるガッシュが雑魚だと、マティはシーモンキーなのですが・・・
「戮丸って何者?」
「個人情報をバラす気は無いんで本名は言いませんよ」
「多分言っても分からない」「そうだな自慢じゃないが」
「あの、この間戦っていたトウゴウって多分東郷六段ですよ」
「「「だれ?」」」
「巴さん師匠筋の人!警察あたりじゃ神に等しいレベルの名人が、戮丸さんと戦いたくてエントリーしてきたんです。凄かったじゃないですか!あの駆け引き!」
ネームバリューが全く通用しない。ガッシュの目には伝説と神の一騎打ちも、この人たちにとってはただのPVPに過ぎない。それを好んで、求めてきたが・・・この仕打ち。ちょっとくじける。
「あとで署で訊いてくる」と言って後日。
警察署でマティこと間桐達也は首を絞められる。
「えーとうちのオンゲで空手の東郷六段って人が入ってきたんだけど・・・強いの?」
・・・聞き方が悪かった。
閑話休題
「で、強いの?」
ガッシュは額を押さえた。東郷六段の名前を出しても通用しない相手に伝説級の強さを証明しろというのは難題であった。
「あー。格闘技には幻の技ってあるじゃないですか?」
「あー、あるある。柔道の隅落とし、空手の二枚蹴りとかね」
「あれって出来る人は少なからず現存してるんですよ」
「だろうね?」
「でも、こう聞いたことありませんか『本当に強い人は実戦にその幻の技を活用してくる』って」
「あー、聞きますねぇ。本当らしいけど都市伝説に近い・・・夢のある話ですよね」
「犯人は戮丸さんです」
空気が止まった。
いや、正確には理解できなかった。話の流れで【犯人】が出る必要が無いのだ。
「ど、どういうこと?」
「多分、いや絶対東郷六段も同じことができますが、あまりに高齢なんです。今八十超えてるはずです。一方戮丸さんは今四十台だから、全盛期で三十そこら、そんな若さで伝説級の超難易度技で実際に勝って見せれば・・・広まりますよね」
途方もない話だ。
「あ、あるよね。そういう神話」
「何度も見ましたし、ここでだって使ってますよ」
「いやいくら何でも・・・」
「使っていることがわからないくらいさりげなく、ごく当たり前にやってるから気付かないだけです。この前一回転して吹っ飛ばされてたじゃないですか?」
マティは一回転したときを思い出す。吹き飛ばされるのは日常茶飯事だが回転することは稀だったので心当たりはすぐに分かった。
「ああ、あれはオレが自分の勢いでバランス崩しただけで・・・」
「それを隅落としっていうんです」
・・・マティフリーズ。
「隅落としってどういう技だっけ?」
「確か柔道で・・・組んだ状態で・・・だけで投げる」
「どういう理屈なんですか?」
とニコルは素朴な疑問を投げかけた。組んだだけで相手を投げられれば世話が無く。足を使わないというのであれば背負い投げも立派に隅落としだ。だが違う。
「要は崩しなんだけど、相手の勢いを利用してバランス崩しすぎて結果吹っ飛ぶ・・・?」
漫画か何かでそんな説明が書いてあったのを思い出す。
「いや、だから・・・」
「百回やっても同じように吹っ飛びますよ」
「嘘だろ?」
「そりゃ、ほかの技同様警戒されればかけづらくはなりますが・・・」
「再現できると・・・」
「いえ、阻止できない」
誰かが唾をのみ込んだ。
「だから、その原因に気づいた人たちが流すんです『本当に強い人は・・・』って」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「マティさん時間ッ!」
「やばっ!」
「おおう、悪かったな。護衛頑張って」
【ボルゾイ】のエディスが声をかける。
「マティじゃん。まだこんなところにいたんだ」
こちらに来たノッツがマティを見て声をかけた。ムシュフシュとバイトマ。一緒にいる女性は多分【お水ちゃん】だろう。
「だから急いでる!」
「急いでるってそこだろ【ターミナル】怒ったりはしないと思うけど・・・」
何事も最初は肝心だ。一緒にしないでもらいたい。と抗議を返す。
マティの性格はノッツも重々把握している。こういう所は融通が利かない。
「大吟醸見なかった?まだ来てないんだ」
「大吟醸?多分来れないだろ?クレリックが奴の家に走っていったのを見たぞ」
「・・・いつもの修羅場か、当分来れないな。ありがとマティしっかりな」
マティは階段も使わずターミナルの方へと走っていった。
いつもの修羅場というのは、大吟醸が扱っている家人・・・救出したお姫様たちだが、時折自傷行為という形で抗議を訴える。『紹介したい女性がいる』なんてのたまえば。この結果は想像できた。
こうなると大吟醸なしでは解決しない。大吟醸邸は今頃血の海だろう。蘇生できるが、そのことが彼女たちの行動のエスカレートを招いていた。
女性プレイヤーの紹介はお互いにとってプラスになるはずだが、大吟醸には荷が重い。
「アタシのそっちに行った方がいいかな?」
「いや、火に油を注ぐだけだから・・・止めた方がいい。スレイ。アクアさんへの教育はこっちでやった方が良いみたい」
「そうですね」
「さっきの人は?」
「ああ彼はマティ【おまわりさん】だから何か問題あったら相談して・・・今日は非番だけど・・・」
「スレイさんマティさんの用事って?」
ニコルがスレイに問いかける。
「ああ、今日は彼もペアデビューなんですよ。シャロンさんと・・・っていい所に先生。彼女はアクアさん。今日エントリーしたばかりの新人さんだからよろしくしてもらえますか?」
「こちらの方こそよろしくお願いします。あたしもまだ初心者ですので冒険行く際はお供しますよ。ガッシュさんもいいですよね」
にっこり人好きする笑顔で答える。
「ニコル先生はエルフですが噺家でもあります。顔も広いので頼もしいですよ」
「顔の広さじゃスレイさんにはかないませんよ」
現地人の相談取りまとめ役に近く、戮丸からもシバルリを任された経緯から貴族にも顔が利く。と周りがはやし立てる。
「俺らに【おまわりさん】の後釜任せるだって」
エディスの言葉にフロウがとぼける。
「おいい。正気か?なんの冗談だ。戦争してくれって言ってるようなもんだぞ。なぁバイトマ」
ムシュは大げさにおでこ大きな手でたたく。
「まぁ、この二人はおとなしくしててくれれば最大の貢献だし・・・」
「だし?」
「【おまわりさん】頼みを無下に出来るとは思えないな」
「正確には粉屋のおやじからのオーダーだ」
「ならなおさらだな。胃袋押さえられてイキがるのはガキのすることだ」
「ちげぇねえ」
とエディスが笑う。地元じゃマフィアクランを束ねてはいるが、あくまでプレイヤーだ。銀の誘いで覗いてみたシバルリは思った以上に面白い。地元のギリギリのプレイングも好きだがシバルリのライトな空気も嫌いじゃない。なんの因果か目の上のタンコブフロウと同席することになったが、地元の駆け引きに深みが出て逆に面白くなった。
遊び場をつぶす気は無い。気にっているからここにいる。それはフロウも同じはずだ。
「俺たちが本当にのんびりできればいいんだがな・・・」
フロウは『アレをどうする?』と指をさす。
そこには『独裁者廃絶』と掲げられたプラカードを持つ一団が居た。
「署名をお願いしまーす」
無害な筈の言葉が鈍く響く。
ダグワッツのマフィア勢が動き出しました。いってもプレイヤーなのでそこまで悪どくは無くいのですが、それ以上に質が悪い。って風に書ければいいのですが・・・
ムシュのように毒気を抜かれるのか?
第三章中心メンバーのガッシュ・ニコル・アクアどうしましょ?
ジェノサイドの件は裏で着々と暗躍中です。どっち側も風呂敷広げすぎたかな?
2/2修正
ダグワッツとクライハントを間違えました。
・ダグワッツ【廃都】・・・霧の都ロンドンやシャーロックホームズに近い雰囲気。住民の服装は貧民層でもシャツを着用し、パブで飲む。
・クライハント【砂の都】・・・未開の地。サンドクラウンの活動拠点。