039 エイドヴァン地方とディクセン古王朝
◇039 エイドヴァン地方とディクセン古王朝
ディクセン古王朝。エイドヴァイン地方を統べる王朝だった。
その王朝は|《王国》に飲み込まれた。侵略されたという意味ではない。
周辺領土が王国のものになったのだ。
どのような意図があったのかは今となっては知る者はいない。経済封鎖だったのか、防衛のためか、不可思議な政策はそのまま行われた。その全権をおったのがエトワール家だ。そのエトワール家も、栄枯盛衰の理から逃れられない。
きっかけは王国に繋がる街道を押さえたバシュマー男爵家の造反だった。戦乱を導いたわけではない経済を遮断したのだ。そこにすかさず反応したのがバーフォート伯爵家。内側を封鎖する事でエイドヴァンすべての物資を盾に交渉を迫った。これは会戦が狙いだったが、バシュマー男爵家は通行料で手を打った。バシュマー家はバーフォート家に屈した形になったが、後にエイドヴァン北西部オーベルジュ地方の筆頭領主となった。
そんな事がきっかけで、エイドヴァンは五つの地方に分断される。
まずは、中心のディクセン。実質町が一つだけ。正確にはディクセン聖王国。今となっては《王国》の貴下に入るより独立していた方が|《王国》側にとって都合がいい為、独立を保っている。
次は《王国》との街道を持つオーベルジュ地方。街道の利益を吸い上げ頭角を現したバシュマー男爵家が筆頭領主である。その直轄地ジッソーク市は実質この地方全ての関所である。内にバーフォート伯爵家。その存在理由上からすべての物資が集まる通商都市バイネイセンを治める。
もし、バーフォート家の活躍が無ければ、バシュマー家に言いなりになっていただろう。今も執拗に攻撃を続けているが、のらりくらりとかわし続ける。
バーフォート家はエイドヴァンの守護者的立場である。発言権は絶大で、その重責から代々党首は短命で、今はアリューシャ・バーフォートが治める。
当然巨大クランも身を寄せていて、【精霊雨】がそれである。
次に南。エイドヴァン南西に位置する地方ケイネシア。本来エトワール公爵家が治めていた地方で、失墜したのは既に昔。
復興を夢見て奮戦し倒れ、いまや当主は軟禁の身のガレット。既に自壊と呼べる状態であったが、権力闘争がそれを許さず。見かねたオーメルの手によって粉砕された。
有力都市はアルブレスパ市。元はエイドヴァン地方の首都とも言えた都市で、非常に発展した都会である。今はオーランド子爵家が納める。オーメル率いる【赤の旅団】の本部も有る。総じて【警察機構】の本部も・・・
オーランドはその背景から、【赤の旅団】をバックアップしてきた。もちろん、その弱みにオーメルがつけ込んだのである。【警察機構】の立ち上げもオーランドの地位を磐石にするために計画を積極的に推し進めた。
しかし、首輪で飼いならされるオーメルではない。【赤の旅団】と【警察機構】の線を完全に断ち切った。それ故に、全クランに浸透し市民権を得た。
その説得にオーランドはしぶしぶ納得。全土に浸透していなければ、偽善色の強い武装集団に過ぎない。それでは駄目だ。オーメル自身がパイプを断ち切ったのは私兵集団にさせない為だ。
その結果オーメルとオーランド子爵は遠くなった。
その事が、ポリスラインの浸透に一役買った。
現状でもオーランドにはメリットはあった。警察機構の後見人。その肩書きだけで十二分な武器になる。ただ、それでは満足しない。それにオーランドの想定外の行動を取り続けるオーメル。切り崩しは既に始まっていた。
致命打はエトワールの一件。
オールドブラッド製造機をオーメルは電光石火の早業で引っこ抜いた。そんなそぶりを一切見せていなかったのにも関わらずだ。古今無双の【赤の旅団】に砕けない武装集団――ふざけるな。何処から持ってきた!
猟犬をつなぐ紐は切れたのだ。だのに、この場で悠然と笑い今後のことを議論する。
オーランドがオーメルの刃を研ぐ砥石と気づくのは何時だろう?
それが何時だろうと切り伏せられる。それがオーメル・タラントという男だ。
東に視点を移そう。エイドヴァン南東ダグワッツ地方。主要都市はルハン市。サンクソン侯爵家はいわば敗残者である。その家格の高さから衝突を嫌い街道からも最も遠い。利点としては広い領土と、賛同貴族の数である。
貧富の差は激しく。ケイネシアもかくやと言う暮らしぶりの市外もあれば、ゴミ溜めのような貧民がいも有る。
巨大クランは存在しない。いや、変わり続けている。サンクソン家の方針でクラン同士ぶつけ合わせている。ポリスラインは受け入れているが、その線引きで衝突は絶えない。
アングラなプレイングを好むプレイヤーが集う。
その為、露出情報は少ない。
そこから北上、クライハントはイルマース市を中心とした市外で筆頭貴族はルバッカ子爵家。砂地と山地が多いが、気候は温暖でオーベルジュと隣接しているため、生活水準は地味に高い。貧富の差は少なく、牧歌的な地方だ。
巨大クランは【砂の冠】その名の通りルバッカ家の継承問題を解決したクランだ。と言うより継承問題を解決した際に発足。その際に新米当主にクラン名を言い放ったのは有名な話。
珍しく当主とクランリーダー間の友情があるらしい。
そして、中央のディクセン。貴族連絡会議では伯爵家相当扱いらしい。当然貴族はディクセン家。町の名前もだ。他にも貴族はいるらしいが領地を持たない名前だけの貴族だ。町も市と呼ぶほどの規模は無い。古い王城と町並みだけ。実質緩衝地帯に名前だけ残った都市だ。女王様がいるらしい。ファンタジーだな。
◆ 次郎坊経由、戮丸リポート
「それが俺の把握している情報だ」
そう言ってお茶を差し出す。ここはシバルリ村の邸宅の一室。その立地で日の光が差し込む一等地だ。暇さえあればドワーフたちは細工を施していく、ちょっとした王宮の一室でも通用しそうな作りで、実際値段を付けたら幾らの値が付くか?
想像して次郎坊はうへっとした。
その部屋にいるのはスレイバイン・・・スレイだ。論文が忙しくてINが散漫になっているが、情報統合のために呼び出された。
「貴重な情報をありがとうございます。それじゃあ、今回の件は・・・」
「順を追って話そうぜ。まずは初心者部屋としての情報の統合だ」
世界の名前はエイドヴァン地方。巨大な王国の一地方が舞台で、その地方は五つに分断される。中央のディクセン・北西のオーベルジュ・南西のケイネシア・北東のクライハント・南東のダグワッツ。
「ディクセンは緩衝地帯という話でしたね。冒険者クランは?」
「あるかもしれないが、歯牙にもかけられないレベルだろう。言わなかったが大小クランは無数に存在している。貴族や町もだ」
「では境界線は無いのですか?」
「ああ、実際は浮島のような状態だ。市外を島に見立ててな。人間の生活圏はそんなに広くないんだよ。それを道がつないでる。この領土分布もイメージでその影響下にあるって程度の話だ」
「なるほど」
スレイは受け取ったお茶を啜った。
「まあ、綺麗に分布してるな。オーベルジュは金・商売、ケイネシアは名誉、クライハントは自由、ダグワッツは悪」
「悪は言いすぎじゃ有りませんか?」
「言葉が悪かったのは認めるが、そういうプレイが好きな奴は多いし、その中で己の信念を貫くプレイングもスリルがあっていいもんだぜ。だから衝突は頻繁に起こる」
「ケイネシアとオーベルジュは肩がこると・・・」
「そそ、クライハントは居心地いいが儲けが少ない。ダグワッツは激ヤバ」
「クライハントには詳しそうですね」
「ああ、今いるんだよ。戮丸とシャロンが・・・銀も情報源になるしな。初心者向けだ。冒険者と言っても眉をしかめる奴もいない」
「私はオーベルジュとケイネシアですかね?」
「ああ、あってるかもしれん。ただ、コネが使えると思うな」
「そりゃあ、失礼ですしね。」
「ちがう、ヤバイんだ。あの二人に何か期待して近寄ったらケツの毛まで毟られるぞ」
「――心得ておきます」
「話を聞いてもらえる程度のメリットと思っておいた方がいい。特にアリューシャは危険だ」
「その根拠は?」
「オーメルも同じ条件だったはず、なのにアイツはケイネシアに行った。逃げたんだよアリューシャから・・・」
そう言って、紅茶を啜る。あのオーメルが逃げ出すアリューシャって一体・・・
・・・分かる気もする。
「俺は落ち着いたらクライハントに行って、サンドクラウンに所属するのもいいかと・・・」
「駄目です!大体シャロンさんは何て言ってるんです?」
「えらい怒られた。銀にもだぜ?酷いだろ?」
・・・この人は・・・自分が既に要人だという自覚が無い。銀が怒ったのは大方そんな継承問題を抱えたままで、クランに入ってくるなといったところか?
「俺は何処に行けばいいのだろう?」
歩く核弾頭。アリューシャあたりは嬉々として受け入れそうだが、大戦争が勃発してしまう。オーメルと組んだらおっかなすぎるし・・・サンドクラウンは受け入れる体力は無いだろう。ダグワッツは・・・駄目だ。マフィア映画のような展開が・・・任侠モノか?
素晴らしく似合ってる。
大体この人に野心が欠けている。
「クラン起こすんじゃないんですか?」
「お前もそういうの?」
「いや、普通に考えて・・・って誰に言われたんですか?」
「銀。―――ディクセンで第五勢力立ち上げろって・・・」
それが一番しっくり来る。第五勢力にならなくともクランと立ち上げれば、互角に立ち回れる。武器は中立性。エトワール家とディクセン家を抑えれば名目上はこれ以上無い。
仲間もそれを望むだろう。とゆうよりも、これ以外でどうやって現状を片付ける気か?
「・・・誰の差し金だろう・・・?」
次郎坊のつぶやきに、スレイは愕然とした。
自分の功績に無頓着なのは元より、自然に銀の裏を疑っている。
遅れてスイマセン
20160206 編集加筆