何よりも難しい大切な事
遅れましたが第二転章完結です。
ゲームのアイデアには相性がある。
次郎が提案した案は、あのゲーム用に纏めてある。HPはそこまで多くない。RPGのようなHPのシューティングではダレてしまう。そこをフリースクロールという形で片付けたが、装甲や武装にもアイデアがある。それは、現状のゲームにはそぐわないと実装を先送りにした。
単純に防御力を上げる。
HPをブロック制にするアイデアだ。つまり、装甲の硬さを固定化する。たとえば、装甲を一つ3と定義しよう。3未満のダメージは弾き返すが、それ以上は、そのブロックごと消失する。現状、あのゲームでは6以上のダメージは発生しない。
現状HPは10と規定してある。残りを1と規定して、表面装甲に3のブロックを置けば、キャノンやミサイルの直撃を受けるまで通常弾は無敵になる。6以上のブロックを設定すれば、事実上無敵だ。
当然ブロックは固いものを選ぶだろう。そこは重量で補う、固い装甲部材は重い。現状が1の10層装甲な訳だから、3の3層は致命的な重さになる。
現状でもかなり遅く設定されたロクマルだ。こんな装甲に変更したら大火力のいい的だろう。
そして1の多層装甲にも利点はある。中空装甲という考えだ。
一般にはチョバムアーマーと言う物で、装甲の間に隙間を開けることによりダメージを拡散させる効果がある。単純に抜けなくする処置だ。
10連層の中空装甲なら大火力のキャノンの攻撃を十回はじけると言う事になる。火力のいかんに関わらず剥ける装甲は1なのだから・・・
これも、採用したいだろう。しかし、密着させて現状のスタイルに収まっているのだから10連層の中空装甲ではブクブクと太ったシルエットになってしまう。
現状のロクマルには10層分のスペースがあると言う事になる。これ以上増やすのは可動に無理が来るだろう。
次郎は今、このアイデアで悩んでいる。
非常に魅力的な考えだが、このアイデアは既に却下していた。
ゲームのスタイルに合わないからだ。乱戦時にその性質を視野に入れて戦うのには無理がある。ややこしすぎるのだ。
ロクマルを最底辺機体とするのは、当初からの考えだった。
ロボットとなったからにはカスタマイズしたい。
だが、パーツごとのデザインを決めてその組み合わせで闘うゲームは既にある。
同じ土俵では戦いにすらならない。
非常に魅力のあるシステムだが欠点もある。
相手を認識しづらいという点だ。たとえば、二機の機体があったとして馴れたものは大体の性能の目星は付くだろう。しかし、外観が自由すぎてイメージがつかない。「どっちが強い?」と聴かれても答えるのに苦労する。
外観が決まっていれば、評価は同じ機体を基準に考えられる。
どうやら、このDBは車の名を模した物だろう。そう考えると、ロクマルはインプには勝てないだろう。それだけの性能差が想像できる。
好き嫌いは置いておいて、それを捨てたくは無い。
駆動するアクチュエーターを強化できれば堅い装甲に・・・ライトグレードって言っていたな。じゃあ、ロクマルと同等機体当然あるんだろう。
完全内骨格とも言っていた。という事は、装甲にフレーム加重を分担させる構造の機体もあるはずだ。完全外骨格・・・つまり装甲部材で凌げる構造も有るのか?
・・・って作れるのか?
次郎は大きく伸びをした。煮詰まったのである。
「次郎、これを見てくれないか?」
「スゴクオオキイデス」
次郎はムシュフシュの右のバスターをヘッドスリップでかわす。
―――挨拶らしい。
ムシュフシュが出した掌の上に乗っていたものはロクマルだった。
「おまっ、これどうした!?」
驚きも当然、ロクマルは立体映像の様な物で触れない。銃やミサイルにキャノンをぶっ放しているんだ。実体があっては困る。
「オプ爺が作ってた」
ゲーム自体はダウンロードが普及したので、ゲーム場に屯するのは腕に自信があるものばかり、実際のゲームセンターと同じ状況になっていた。
張り合うほど自信の無いムシュフシュはギャラリーに徹していた。それでも、修練のかいあってソロクリアは出来たし、その辺がムシュフシュのゲームクリアのラインだった。
そんな所で、チョコチョコとゲームをやるでもなく、覗いているドワーフが居た。
ダイオプサイトだ。
ムシュフシュとはあまり縁は無いが、大吟醸やノッツの仲間で、ムシュフシュの宿敵グレゴリオの友人でもある。知らないというほどではない。
一応同じクランのメンバーでも有る。
『ゲームがやりたいなら取り成してやろうか?』と申し出た。ダイオプサイトはNPCだ。ゲームはここでしか出来ない。プレイヤーが占有しているのは大人気ないと思ったのだが、ダイオプサイトは『いや、いいんじゃ』といって逃げ帰った。
その時は気にも留めなかったが、見ていると、ダイオプサイトは頻繁に現れて、納得すると帰っていく。
そこで、気になってつけたら・・・
「・・・これ相手に格闘してた」
「・・・オプ爺が作ったのか・・・」
呆れて声も出ない。プラスチックや木じゃないのだ。本物の金属で作られたロクマルフィギアは実に精巧に出来ていた。格闘といってもこれ相手に闘っていたのではなく、「動け!動くのじゃ!何故動かん!」と言った具合だ。
額を押さえる次郎、ムシュフシュは『説明しておいた』と答えた。
「・・・凄いなこれ、フル可動かよ」
ドワーフ脅威のメカニズム。それにしてもアレはかなり縮小してある。本物は6メートルのロボットだそうだ。コの字型の頭部装甲なんてどうやって曲げたのか・・・薄く延ばした金属板を箱組みして・・・しかし、溶接の概念も無い。
柔らかいアルミでもない。鋳型・・・こんな細かい所に湯は流れては行かない。現在の加工技術には、圧をかけるダイキャストという技術も有るが、そんな技術も無い。曲げるのは論外。対象が厚過ぎる上、固い。その上、小さすぎる。
ムシュフシュは『削り出したそうだ』と言った。
これには次郎は呆れるしかなかった。どんな技術力だ?想像もつかない。
ひたすら忠実に作れば動くかもしれないと思ったのだろう。映像と遜色が全く見えない。匠の作品だ。
「これ・・・とんでもないお宝だぞ?」
「だよな・・・オークションに出したら幾らの値がつくか・・・」
「で、これ・・・貰ってきたのか?」
「いや・・・それを踏まえてこれを見てくれ」
「か、かっちょえー・・・」
そのロクマルは最底辺機に有るまじきカッコよさだった。ウェザリングにミキシングビルドが加わりオリジナルのカラーリングを施されたロクマルがそこにあった。
ウェザリングとは汚れたような塗装の仕方で、ミキシングビルドとはワザと寸法を変えて作る方法である。足を大きめ、頭を小さめに作る事によって、巨大感や重量感を表現するのに用いられる技法だ。
歴戦の戦士の風格と重厚感を兼ね備えた姿に、次郎は感動すら覚えた。
「・・・おいおいおい。これって鉄の棺桶なんだよ。こんなかっこ良くしてどうすんだ?」
「そう言うと思ってな・・・こんな感じか?」
ああ、安っぽい安っぽい安っぽい。
戦争で『これに乗って闘って来い』と言われたら、多分俺は泣く。
そんなロクマルがそこにあった。
「ムシュ・・・ムセる・・・コーヒーがとても苦そうだ・・・」
「わざわざ、塗装が下手な公園見つけて参考にしたかいがあったな」
よくよく見れば、せっかく綺麗に出してあるエッジをぼったりと塗装して、安っぽさを演出してある。連日の可動で歪んだパーツと交換して異常に真っ直ぐなパーツをチグハグに組んで違和感を演出してあったりもする力作だ。
「ムシュ・・・もしかしてそっちが得意なのか?」
「まぁ、職業柄、嫌いじゃないな。細工の凄さには自然と目が行く」
にしても、カラーリングに光るものがある。その辺はさすがスタイリストという所か。
「このショボイのは正式採用でアップデートしよう。こっちのは勿体無いが・・・ミキシングビルドしすぎだ」
「ショボイほうもミキシングビルドしてるぞ?」
「・・・ホントだ。これぐらいなら問題ないだろう。ただ、ショボクなりすぎたか?」
「ビジュアルシーンで使えばいいだろ?・・・パッケージとか」
「その手があったか・・・これ、預かってもいいか?」
「オプ爺も俺も作って満足だ。多分、戮丸の所に収まるのが筋じゃないか?」
「貰っちゃっていいのか?普通に俺が出せない金額がつくぞ」
「まぁ、構わんが・・・欲を言えば次が欲しい」
既にクリア者は続出している。発展の余地は既に言っているし、プレイヤーもこうして欲しいなどの要望はよく聞く。敵のロボットは八雲中尉が用意してくれているが、DBはロクマルしか出ていない。
「この場合版権はどうなるんだろうな?」
「さぁ・・・ありがたく使わせてもらえばいいんじゃないか・・・ってアイデアはあるのか?」
「有るというより、出し切ってない。水場使った冷却とか装備条件に会社勢力の規格違いとか・・・」
アイデアは山ほどあるのだ。しかし、煩雑化や、良さを損なうと言う理由で先送りにしている。何よりも、ゲームに馴れてもらわないといけない。それらがあいまって踏み切れない。とりあえず、出ているアイデアを口にしてみた。
「面白そうだな。言わんとしている事はわかるが、俺としてはやってみたい」
「たださ、今のゲームに特化した技術が使えなくなる恐れがあるし、巴なんかはシステムよりも面構成を弄って欲しいと思うんじゃないか?」
「ふむ」
ゲームの基幹システムの変更は良くも悪くもある。上級者プレイヤーはあまり基幹システムの変化を好まない。『パーツや敵の数を増やしてもらえればそれでよかった』と言うのはよく聞く話だ。
「ところで熱効率って実弾系しか積んでないだろ?」
「ああ、レーザー兵器を出してジャンルはキャノンに属する。弾速は極端に早い。弾数無限で、チャージに時間がかかる」
「ふむ、それで?」
「水溜りと流水で冷却効率は違うわな。冷却効果はチャージ短縮という形で現れる」
「水場の争奪戦になるな」
「対策は有る。火炎放射器を導入して加熱も可能に。それにレーザーも弱点は水蒸気や煙に弱い。光だからな。ソリッドシューターで煙幕弾を投下すれば、ほぼ無力化できる。川に陣取っても煙幕放り込まれたら、水場での移動能力低下に、流水の移動阻害、で逆にピンチだ。それに川って言うのは基本的に低地なんだ狙撃ポイントとしては陣取るべきじゃない」
「そうなると風向きも重要だな・・・もっと遅くしないとプレイヤーの脳みそがついていかないんじゃないか?」
「そうなんだよな。もともとRPG用のアイデアだから・・・アクションゲームにするにしても真逆の・・・アクションRPGとかトレハンとかになるんだ」
「両方作るのはまずいのか?」
―――俺は両方やりたい。
「―――まずくないな。じゃあ今のをとっとと商品化しないと、後は音楽か・・・完全に門外漢だからな」
「それなら伝が有る。それに遊んでる連中が結構いいの作ってたぞ?」
「―――アレか。使っていいなら即採用だ。俺は次回作の方で大忙しだ」
「大変なのか?」
今まで大雑把にしか決めていなかったスペースや重量、出力を決めなければいけないのだ。熱量の推移なども決めなきゃいけない。水場で冷却と有ったが『その水場を加熱して熱湯に変えたら』という考えの人間のために煮詰めなきゃならない。
それに装備のお値段も決めなければ・・・会社の対立構造も決めなきゃならない。
一番いいのは八雲中尉にご教授頂く事だが、最低線は自分で決めたい。
それでも、それらは次回作の話で、現状リンクは寸断された。
「後は、まとめて販売に廻すだけだな」
「―――大事な事を忘れてるぞ?」
そうムシュフシュは言うが、次郎にはそれがなんであるか思い至らない。
首を傾げる。
BGMは用意できる。ビジュアルシーンもだ。シナリオはあいつ等の考えたものでいいだろう。ビジュアルの追い込みはほぼ合格線。
「ああ、客寄せ用のパイロットスーツのおねぇちゃんね。巴に協力してもらおう。イヤなら銀でもいいし、誰かやってくれるだろ?」
「いや、じゃなくて。もっと大事な事」
「何を言っているのか判らないな」
「このゲームのタイトルだよ。何時までも【ゲーム】で済むと思うな!」
「あ・・・それはそんなに大事な事なのか?」
―――真顔で言いやがった。
次郎は真性で手遅れな人種なのだろう。こいつの頭はシステムで一杯でそんな常識的なことが欠落している。
「とっとと決めろ!お前の我侭ならそれで通るからっ!適当にすぐ思いつくだろ?」
「適当にね・・・俺のネーミングセンスは壊滅的だぞ?」
「いいから決めろ。物は保証付きなんだ。多少変でも後で味になるかもだろ?」
次郎は暫し悩んだ振りをした。適度に時間を置いてポンと手を叩くと―――
「【未定】ってのはどうだろう?」
―――ぷぎゅう
ムシュフシュの拳は珍しく次郎坊の頭を搗ち割った。