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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
転章 未定
126/162

撃退




「急に引っ越したでしょう。まじめに働く気になったようで私嬉しくなって引っ越し祝いにご迷惑だったかしら?」

 ―――迷惑だ。問題は本気でその言葉に酔っているから手に負えない。

 あまり話はしない方がいい。そんなアドバイスを貰った。その人の話ではオバサンは紐付きだと言う話だ。オバサンの行動は度の過ぎた素人の行動に見えるが、幾つか不審な点がある。出鱈目に見えて抑える所はしっかり押さえている。

 つまり、オバサンに入れ知恵をしている者の存在を匂わせる。

 そうとなれば、男にとってはなれた手合いだ。


「失礼ですが、この場所を貴方に教えた人を教えて頂きたい」

「―――ガス会社の人だったかしら?役場の人だったような・・・?」

 オバサンははぐらかす。

「ガス会社は転居先の住所なんて聞いてこない。役場ですね。確かな話ですね」

 そう言って念を押す。


「―――なんだって人を疑う事言うんだい?」

「疑ってますから、正式に裁判所に訴えます。私は転居先を漏らさないように強く念を押して回っていたんです。仕事上必要だから―――それに、私と貴方は被害者と加害者の間柄。普通は警察だって情報は明かしません。明らかに違約行為です。やりすぎましたね」


「あたしはあんたの事を思って―――」

「その枕詞は要らない。現に、被害者に加害者の住所を漏らして社会的に責任を負わされた役人の話はこの間ニュースになったでしょう?」

 それは『連絡先を知りたい―――』という言葉に流された人間の話だった。

 人情的にわかる話では有ったが、その先の行動がよくなかった。大問題へと発展して、その責任を個人情報漏洩と言う形で償う形になった。

 オバサンの顔色が青くなる。


「そんな後ろ暗い事やってるんかい?」

「ほぅ。それは頂けないなぁ」

 廊下の後ろから現れた男が言った。パリッとしたスーツを着こなすがくたびれた感のする男。いわゆるスジ者。それもチンピラではない。気配はそれなのにスーツは普通の上物だ。黒服がチンピラヤクザの制服なら、その制服着用義務を負わされないレベルの―――


「ああ、安田さん。こんにちわ―――来たんですね」

 見知った顔だ。

「ええ、来てしまいましたよ。面白い事になっているようで・・・せっかくその人が迷惑にならないように引っ越してくれたのに、それをどぶに流すような輩には一言挨拶があって、当然でしょう?」


「あ、あんた―――」

 オバサンを手で制する。ここから先は失言では済まない。


「安田さんは普通の会社員ですよ。ヤクザが裸足で逃げていく人相ですがね」

「それはお互い様でしょう?二人そろうと何故か警察呼べれて難儀しますよ」

 方やヤクザに方やフランケンシュタイン。確かに二人そろうと只事ではない。


「け、警察―――」

 警察を呼んでくれとオバサンは懇願する。こちらの言葉は耳には入っていないようだ。


「警察ならあたしが呼んどきましたよ。お連れして―――」


 血が一気に沸点に達した。

 ギィッ――――。

 歯軋りの音が妙に大きく響いた。この二人には見覚えがある。タコ殴りにした記憶すらある。


 相手も同様で警帽を目深に被り、徹底して目を合わせない。

 ただ、殺気だけが濃厚に充満する。


「個人情報漏洩に関してお話を伺いたい。お話は署のほうで―――ご同行をお願いします」

「―――なんで私が!?私は悪い事なんて―――」

「ご・ど・う・こ・うお願いします」

 警察官の血走った目つきに押されオバサンは連行された。




「お邪魔する気は無かったんですがね―――」

「いいえ、助かりました。目星は付いたんですか?」

「お邪魔させていただいても?」

「どうぞどうぞ」


 奇妙な来客は招き入れられた。


「こちらの方が安田さん。今後、治安と風俗関係でお世話になる予定です」

 そういって紹介した。社長は元より朽木夫妻も初対面のようで、面食らっている。

「それじゃ、あんまりでしょう。あたしは金本興行の主任をしています安田です。社長のお嬢さんの件であにさんにはお世話になっています」


「それってこいつが警察で暴れた件の・・・」

「ええ、それです。本当に助かりましたよ。あの時は・・・」


 女性を保護して、保護した先の警察で、セカンドレイプに会い。大暴れした件だ。彼女の父親は世に言うヤクザの大親分で、男の介入が無ければ警察対ヤクザの抗争が勃発していたとの事だ。


「あたしらはお嬢の性格を知っていましたんで、来るべき時が来たなって納得してたんですがね。若い衆はそうも行かない。血気にはやって乗り込んだ先で、あにさんがメタクソにやっつけてたんでどうにか止められたんですわ」


 実際には社長が男を偉く気に入って嫁がせて、跡目をという話も出ていた。だが、男はヤクザ以上に極道だった。格闘団体に夜襲を受けることもある。所帯を広げる気は無い。


「ヤクザ以上に覚悟の決まった堅気って・・・」

「それで親父も更に気に入ったんですがね。お嬢次第って所まで持っていってあのお嬢が断らなければ・・・」

「昭和初期ならいざ知らず、今のヤクザをコイツに任せるのは自殺行為だ」

「そりゃ、あたしらも重々承知でさぁ。それでもあにさんはパワーが人一倍強いから・・・親父も心中覚悟で組を任せるって、のりのりだったんですが、肝心のお嬢があにさんのパワーにびびっちまって・・・お話が流れたんですよ」


 ―――判る気がする。

「で、お嬢は元気かい。安田さん?」

「元気と言えば元気なんでしょうね。出戻り三回目でうちにいますよ。離婚の時必ずいい訳にあにさんを引き合いに出すくらいなら、最初からくっついとけばいいものを・・・親父は呆れてますよ」


 今では件のお嬢はぶくぶく太り、貰い手に頭を下げるという按配で、男の下に話が廻ってこなかった。とのことだった。そんな時に男の回状が廻ってきた。

 当人は認めないが、大恩有る身でこの話を如何したものかと思案している所に男のほうから連絡があった。


 そこで安田は男と会い、情報を交換した。どうやら、ノッツがディグニスに提案した件が、どの経路からかこうして安田の元に至ったのだ。


 当然、安田も所長もこの件は突っぱねる気ではいた。ただ、義理人情では喰っていけないのがヤクザの世界でも同じで、『義理と人情計りにかければ・・・』という通り文句も今や義の字もかけている。理が無ければ動けやしない。

 ただ、その性格は男の物と近い。埃を被ったような古い考えを持ち出しても男は喜びはしない。


 そして、現在に至る。あくまでビジネスを安田に提案して、その見返りに不介入を貫く。


「ビジネス・・・」

「だから、風俗」


 風俗と言えどピンキリだ。単純にスナックなども含まれる。水商売だからと言って即座に犯罪行為ということは無い。アタンドットはその特性上極端な話売春が許される。誰が許すかという話ではない。売春の副次的なデメリットが無いのだ。

 ただ、やってみないとどんな問題が発生するかは判らない。単純にお酒を提供するだけの水商売でも事件は山盛りで起こるのだ。

 その辺では、やはり安田には敵わない。そこで、男はアタンドットでの生き方を提供する代わりに、その面倒をお願いするのだ。当然金銭の話にもなるが、その辺は追々話し合いで決める。


 安田にとっても新天地での巨大な屋根にはありがたい。現状先行投資の段は出ないが、あちらでは若返る。年を原因に引退したものも多い業界だ。

 飲み屋を開いてなんて話はよく聞くが、それはかなり成功した部類の話で、外人だったり、結婚できなかったりとそんな輩は履いて捨てるほど持て余している。

 声さえどうにか出来れば男だって商売が出来る環境は望むべくも無い。

 裏取引の場は幾らでも提供できる。


「それはありがたいな」

 遼平の意見だった。遼平はオーメルとして警察機構をになう立場だが、現在の水商売レベルであれば目くじら立てて追うレベルではない。

 無法地帯だから、その惨状は目に余る。その影響のフィードバックを恐れているのだ。勝手のわかる人材は実にありがたい。


「先行で若いの何人か送ってくれ。俺が世話する。その上で話を進めよう」

「そう言ってくれると思ってました。あたしが行きますよ。墨入れるより楽なモンです。寝てる間に終ってるんだから」


 人員は厳選すると確約し、その代わりに、情報をこちらに流すと取引が成立した。


「ところで、あの映像・・・あにさんですかい?」

「やっぱり判るか・・・」

「いや、らしいなと思って」


 はたして安田は戮丸の行動に何を見たのか?



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