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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
転章 未定
123/162

意外な不具合




「・・・ああ、判った」

 オーメルはこまっしゃくれた少年にコントローラーを渡した。


 毒皿で、事情を知ったオーメルは他の公務をすっ飛ばし、シバルリにきていた。

 好きなジャンルではあるが、大人気ない態度を取るほどではない。

 

 男の誘導尋問に引っかかり、計画に巻き込まれた。ならその腹いせにゲームぐらい楽しんでどこが悪いと飛んできたのだ。


「弾薬集めて!」「シールドはそこ!」などアドバイスが飛ぶ。ゲーム自体は多分ルナ程度の弾薬量が飛び交っている。現在五機による共闘なのでどうにか出来ていた。初見ならまず落ちただろう。このバランスは、根本的に甘いあの男の味付けではない。ノッツ、大吟醸の辛口の味付けだ。


 色気は出したかったが、初見プレーだ。大人しくアドバイスに従った。そしてそれは正しかった。


 ゲーム内容は5ステージで弾薬限界量の規定は無し。ステージ持ち越しで、強制スクロール面が2と4。障害物に潰されればゲームオーバーだ。

 他のステージはゆっくり出来るかといえばそうではない。


 敵の侵攻に緊急出撃するというストーリーに準じたつくりで、ステージ毎に制限時間が設けられている。


 後で聞いた話だが、放置した敵が後々、最終戦で悪さをしでかすらしい。

 敵の中には弾薬をドロップする敵も居て、コンテナ回収だけすればいい訳ではない。


 更にSPCというものが設定されている。端的に言えば敵の猛攻パターン。シューティングにはお馴染みのアレだ。


 警告音に緊張が走る。


 こちらもさすがというべきか連携が出来つつある。放り込んだ手榴弾の爆発に敵を盾で放り込むのだ。これを三人四人で連携されると驚きを禁じえない。

 当然合図は、プレイヤー同士の掛け声で行われる。


 格闘攻撃が無いのには不満があったが、これはこれで良い拘りだ。爆弾の爆発とシールドチャージを上手く組み合わせれば・・・滾る物がある。


 クリアはしたが、課題は山積みだ。まずはクリア。そこからソロクリアが可能らしい。全無視で駆け抜ける?必要弾薬は?シールド確保に必要な弾薬量の割り出し、クリア時間によるペナルティと撃破不足のペナルティのバランスは?


 まずはソロでどこまでいけるかを試してから・・・


「このゲーム勝ち抜け」

 小憎らしい少年が満面の笑顔で宣告した。


「・・・落ちりゃ良かったッ!俺、初見だぞ!」

「初見クリアおめでとー」

 気の無い周りの拍手が聞こえる。絶叫したのはオーメルじゃないが、酷く同感だった。




「たいした味付けだな」

 オーメルはこのゲームに満足していた。もう一度、順番待ちの列に並びたい誘惑に駆られるが、立場上控えた。控えずに居られない。


「満足してもらえたのなら何よりですよ」

 ノッツは意地悪い笑みを浮かべる。こちらの気持ちはお見通しなのだろう。


「このゲームのトップスコアは君なのか?」

「まさか?僕は勤勉型のルナシューターだから、天然の大吟醸には勝てないよ」

「じゃあ、大吟醸君がトップなのか?」

「残念、巴。彼女は洒落にならない。次郎が幻獣って言うのがよくわかる。通り名はバンシー。判るでしょ?」

「そんなに凄いのか?」

「天帝避けやってのけた」

「・・・人間か?」


 列の向こうには巨体が見える。ムシュフシュだ。歴戦の猛者も、ここでは新兵以下らしい「おじちゃんをクリアさせるぞー!」と子供の元気な声が聞こえる。

 ムシュフシュにしたら立場は無いが、厳然たる事実に「ああ、よろしく頼む」と答える。彼らは小隊編成の三機でエントリーのようだ。


「なんで、あそこでアレに拘るんだ」「馬鹿、後で邪魔になるんだよ」「下のコンテナ残しか・・・どういうつもりだ?」


 とギャラリーの声が聞こえる。他人のプレイは勉強になる。こと、このゲームではその辺が顕著だ。単純に全部のコンテナを回収すれば良いというバランスではない。どこを無視して、どこに保険を残すか?敵出現のバランス変化はあるか?

 どの条件で、SPCが発動するか?SPCは発動させたほうが良いのか悪いのか?

 貪欲にゲーマーは議論する。


 SPCの発動は当然スコアの伸びに繋がる。発動自体にボーナススコアがあるらしい。当然余力があれば狙って行きたいが、敵総量が設定されているらしい。増殖母体も居る。つまり序盤でSPCを発動させ増殖母体を撃破してしまえばトータルのクリアは楽になるのではないか?という懸念が立った。

 SPCを発動させ、最小撃破で済ませれば、難易度が跳ね上がり、スコアも跳ね上がる。攻略優先なら敵母体を特定し優先撃破すればそれだけ楽になる。


 圧倒的に試行回数が足らない。


「つつっ・・・おっ?やってるな?どうよ?」

 そう言って現れたのは次郎坊だ。右顎を押さえている。その下には青痣があるのだが・・・

「・・・いいじゃないか」

 オーメルは率直な感想を述べた。


「おかげでおれ自身がクリア出来ない・・・困ったもんだよ。にしても込んだな・・・八雲中尉二三、ステージ増やして」

「了解しました。三ステージ増やします」

「あいも変わらず素っ気無い」


 八雲中尉はコントローラーを配って廻る。そこで気付いたのだが、八雲中尉は次郎坊にそっけない。本人の言っている通りだ。軍服姿という事もあってそれがデフォルトの設定なのかとも思ったが・・・


「ノッツや大吟醸には愛想がいいんだよ。参ったね。どうもゲームが下手だと虫扱いらしい」

 そう言って、次郎坊はうなだれる。

「奥さんを大事にしと方がよろしいかと思います」

 八雲中尉の眼差しは氷点下の眼差しだ。


「どういうことだ?」

「さっきガルドに引っ張られていったの・・・どうやら奥さんがガルドに泣きついたらしいんだ。『うちの亭主が帰ってこないんです』って」


「つまりアイツは・・・ガルドと一戦交え・・・」

 ―――奥さんとも一戦交えてきたらしい。

 よく見れば首元に唇の跡が付いている。


 それにしても次郎坊の奥さん。つまりヘルガ=ディクセンの惚れ込みようは目に余る。先日まで不幸の代名詞のような女性が今は―――人間ここまで溶けるか?と目を覆わんばかりの惚気っぷりだ。

 次郎坊自体はいたって平常運転。


 何をやっているのか非常に気になる。ただ、ヘルガが非常に幸せそうだから、追求はしないが―――


 ―――ただ、次郎坊がとんでもないエロマシーンだと共通認識になった。

 八雲中尉が素っ気無いのも自然な気がする。


「で、どうだった?」

「ありゃ無理だ。前々から判っていたが・・・振り向けば必ずそこにいるってどっかのマンガの台詞じゃねぇぞ?リアルでやるなよ」

 ―――周囲の人間が聞きたいのはそれじゃない。


「お前でも、無理か・・・判ってはいたがな」

 周囲の期待に反してオーメルが聴きたかったのはガルドと手合わせした感想だった。


「ネタがネタだけに勝ち目がねぇんで抵抗もあまりしなかったが・・・予定通りで行けるんじゃないか?こちらの増強も必要不可欠だがな」

「レベルアップという話ではないよな」

「そうだな。そっちを上げればガルドは無制限に能力を拡大する。ルールを決めてその中での精度引き上げるしかない。お前はどうなんだ?」


「闘っちゃいけない相手だとわかった。それが全てだ。こっちは張り合う場所から探さないとな。アイツとは事を構えないほうがいい」

「―――同感だ」


 二大巨頭はガルド攻略も視野に入れているらしい。それでも聴きたいのはそんな話じゃない。


 愛情に飢え、最終兵器ラスボスに陳情を訴えたヘルガ元女王の処遇をどうしたか?だ。その対応によっては最終戦争が再発しかねない。

 ―――だから、その状況を克明に!自分たちが納得できるクオリティで報告する義務がある!


「だからエロ秘術『肩甲骨はがし』伝授を!」


 ―――こんな恥ずかしい話を聞ける所が大吟醸の凄い所。


「馬鹿―――」

 ノッツが額を押さえる。


「俺が言えるのは―――今日確実にム○ゴ○ウさんを超えた。それだけだ」

 ザ・ラストブリーダー?


 ―――死ぬ準備はいいか?

 次郎坊の指がワキワキとざわめく。


「で、一戦やらかしてきたの?」

 呆れたように聴いたのはノッツだ。

「何で?まだ日も高いだろ?」

「―――ココ、キスマーク付いてるよ」


「ああ、気付かなかった。―――いいだろ?」


 次郎坊は言った通り、動物を可愛がるようにヘルガに接した。脇をくすぐり、首筋を撫で髪をクシャクシャにして『寂しかったな』とささやく。

 その声に笑えば『可愛い声だ』とささやく。前髪を避けては『綺麗な顔だ』とささやく。裏表の無い感情。確かに次郎坊はヘルガを堪能していた。

 込み上げる感情に声、それらを抑えようと必死で貞淑な元女王は爪痕を残した。親愛の爪痕を―――。

 程なくヘルガは疲れた。脇をくすぐられ笑い転げた事もあるが、溢れてくるものはそれだけではない。

 それを押さえるようにぎゅうと抱きしめられる。男の筋力で苦しいくらい。

 あふれ出たものが、強く抱きしめられると愛情へと変わった。


 胸いっぱいで、息も絶え絶えで、抗う気持ちも全て解け、ヘルガは開いてしまった。

 その開いたヘルガを整えるように撫でる。

 クシャクシャになった髪を手櫛で整え、涙を拭う。胸に置いた手は鼓動を鎮める為のもの。ゆっくりと、綺麗なヘルガが出来上がっていく。

 焦る事無く、ゆっくりと仕上げていく。


 最後に綺麗になったヘルガに口付けを交わす。


 ―――入ってきた。

 全てを台無しにするような背徳のキス。


『寂しい思いをさせてスマナイ。そっちは頼む』

 日の出ている間は情交はしない。

 それが次郎とヘルガの約束だった。

 その約束に何の拘束力も無い。

 ―――そして、それを裏切るようなズル。


 ヘルガは満たされていた。ヘルガの寂しさはこうして消えた。だから、親を失った子供たちに分け与えなければいけない。


 ただ、ズルはあの人だけに―――



 次郎はそんな事実を自慢げに語る性格ではない。

 夜は夜でもっと凄いのだ。次郎の性格は博愛主義でも、その性質は捕食者だ。自由を束縛する術には長けている。

 その胸に揺られながら拘束に安心を見つける。


 あの人の腕は不幸に落ちる自由さえ許しはしない。


 私の寝息を啜る凶暴な獣。全てはその為の前戯に過ぎない。

 私は美しい花弁を飾らなければいけない。

 私は甘い蜜を滴らせなければいけない。

 私は女を実らせなければいけない。

 私はあの人の名を呼ばなければいけない。

 甘く。あの人の孤独を少しでも癒せるように。


 それでも全てを吐き出し抜け殻のような寂しさを啜る獣なのだ。

 ゆっくりとその手は撫ぜる。

 何故って

 薄目を開けて目に入ったあの人の顔は微笑んでいたのだから。




「結論、大吟醸死亡確定!」

 ノッツは高らかに宣言する。大吟醸義経は端部をぴくぴくさせながら一応生きている。死亡宣言しないと次郎は止まらないからだ。

「ノッツの方が―――」

 だみ声で反論する。次郎はノッツを見る。


「夫婦仲。保つ秘訣はスキンシップだよね」

「―――まあ、そんなとこだ」


「俺と態度が違いすぎる!」

「童貞坊主のエロネタ質問じゃないからな。おかしな所は何処にも無い」

「納得いかない!」

「だからお前は坊やなんだ!」

 大吟醸は潰されています。


「お前が女王と仲がいいのは大変結構な話だが、妻が聴いたらどう思うかな?」

「な、何でそうなる?」

 次郎はオーメルの言葉にギクシャクした感じで答える。やましい点は何処にも無い。


 オーメルの奥さんはオーメルの嫁だし、色々よくしてもらった点もあるが、結果として結婚は喜んでくれる筈。むしろ不機嫌になる理由がない。そうなったらオーメルの立場はどうなるのか?黙ってみている性格ではないし、寝取られ展開など俺が一番嫌っているし、こいつはそこまで愚鈍じゃない。


 それでもドキドキするのは何故だろう?


「年の近い親戚をとても可愛がっていてな・・・」

 ズシャッ!


「まあいい。ところでこのゲームには重大な欠点がある」

「どこだ?」

 次郎はオーメルが話を変えたのに乗っかった。乗らずにはいられなかった。

 やましい事は何も無いのだが。


「ダウンロードボタンが付いてない」


 この発言にプレイヤーはいっせいに乗っかった。

 順番待ちでゲームをするには限界があるし、予習がしたい。

 地元民が有利すぎる。


「お前ならではだな・・・念動でプレイする自信があるのか?」

「多分出来ると思うが、そうじゃない。お前はダウンロードを見越して作っているだろう?」

「何を証拠に?」

「そのパッドだ。PCゲーム基準で作っておいてよく言うな。どうやってパッドを繋ぐつもりだ」

 オーメルは自分の仮定を確定情報として聞いた。


「無線ゲームパッドが出てるだろ?有線でもデンデン虫に差せば普通に使える。レセプターはジャックに搭載されているから、その辺の設定開いて認識させれば普通に使えるよ」

「やはりな・・・後はお前がダウンロード可能にすれば問題なく出来る。違うか?」


「まあな。ただ、もう少し購買意欲にブーストかけたかった。完成とは程遠い。音響は、特にBGMは壊滅的だ。環境音だけってのは厳しい。それにロクマルのデザインも今のままじゃカッコよすぎる。もっとダサメにしないとその先を期待でき無い。あと、イラストも欲しい。ストーリーも『買奴帝国をぶっ倒せ!』ふざけんな!大吟醸!鬼畜設定にするつもりか!?」


 もう少し焦らしたかった。概ね完成と言い切れるスタッフが集まるまでは、ここでロケーションテストをしつつ、購買層を焦らし、有る程度熟成を狙ったのである。その理屈はオーメルにもわかる。

「テストプレイヤーが並んでちゃ調整に時間がかかるな」

「貴族勢も巻き込む予定だ。あまり早足は出来ない」

「なら、先行配信と言うのはどうだ?アイデア以前にやりこみが足りていない」


「自分がやりたいだけだろ?」

「わかった言い方を変えよう。俺がやりたいからよこせ」

「正直で結構」


 この場に居る全員にその恩恵は渡った。一つの条件を飲ませることによって。


「この話は他言無用」

 つまり、予習をタップリやってハイスコアをとっても、とぼけなければいけないのだ。

 もしばれたら、配布したゲームは全て消される。

 ゲームギルドが結成され、沈黙を固く誓った。


 ただ、それを多数のNPCが見ていた。


「NPC経由でバレたら?」

「当然消します」

「どうしろって言うんだよ?一人でも漏らしたらアウトだなんて・・・」

「お前らには未来が買える有り余るお金が有るだろう?」


「買収しろってか・・・」


 その日シバルリでは何故か宴会が開かれた。




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