バトルスタート
「戮丸!もう一戦だ!」
戮丸の青い機体は赤い機体に僅差で勝利した。機体をぶつけた反動と壁に当たった反動を上手く活かし、敵弾を回避、逆にムシュは衝突して勢いをそがれた所を狙撃され敗北した。衝突時にレバーを逆に入れたか入れなかったかの違いであるが、このルールでは勝敗を分けた。
「じゃあ、一つ変更点を付け加えていい。ただし、両方の機体に適応されるからそのつもりで」
つまり、自分の都合のいい変更を加えられるが、それは相手にとっても同じ恩恵を与えるという事だ。
「ロックオン機能は・・・」
「ロックオン機能は極力つけない方向で考えているんだが・・・」
ロボット物は基本的に攻撃がターゲットに向かって吸い寄せられるつくりのものがおおい。それは、人間に比べ遠距離で闘う事と、移動スピードが速すぎる点をカバーするため、このケースが多い。ただ、通常のロボットゲームと違いこのゲームは基本的に平面上の戦いだ。サイティングにそれほど苦労は無い。確かに当てづらいがあさっての方向を撃っている訳ではない。
これにロックオン機能を搭載すると、回避の概念が変わってくる。
今の時点では人力であるため、フェイントなどで避けられるが、自動化するとそれらが全く通用しなくなり単純な弾速にウェイトが傾く。
せっかく狙って当てて、見てかわすことを楽しむつくりだからそれは避けたいということだ。その意見に一理あると思いムシュフシュは撤回した。
そこでムシュフシュが選んだのは盾の存在だった。
展開している間は前面方向のみ無敵という単純なものだ。どの方向から攻撃されても自分なら反応して攻撃を防げると踏んだのだろう。
だが、結果は戮丸の圧勝で幕を閉じた。戮丸はまともに射撃戦はしなかったのだ。前面無敵という特性をフルに活かし、敵に体当たりを仕掛け、衝撃で硬直した隙に回りこみダメージを稼ぐ方法にシフトした。
それに、衝突を速度に変える手法を駆使し、赤い機体よりも速く移動する。その度にリズムを狂わされ、衝突負けするのだ。
どうやって勝つべきか?
ムシュフシュは思案する。
格闘攻撃を入れるべきか?
―――いや。奴は格闘技では一日の長がある上、ロボットゲームを知り尽くしている。土俵を広げるのは愚策。しかし、盾はムシュフシュの発案だ。それで戦況が不利になった。自分がヤツに勝てる分野は・・・
「盾に耐久度付けて、吹き飛ばし属性を付ければいいんじゃない?」
そう言ったのはノッツだった。大吟醸と一緒に覗いている。ノッツの提案に戮丸は露骨に嫌な顔をする。ここは乗るべきか―――?
戮丸の表情にムシュフシュは乗ってみる事にした。
「盾はあまり使わず、基本は回避。使っても徹底してスポットで、相手の盾をまず潰して」
戮丸は先の戦闘の様に盾を構えて突っ込んでくる。
「引き撃ち!盾を捥ぐチャンスだよ!」
逃げながらムシュフシュはバトルライフルを乱射する。攻撃は面白いように盾に吸い込まれていく。一方、戮丸の反撃はかわされる。逃げるほうがルートの自由度が高いのだ。機体を振って逃げると数発に一発しか命中弾が無い。
その命中弾も断続的に展開されるシールドに取られ被害は半々になる。
しかし、機体を振って逃げるムシュに対し一直線で追う戮丸。距離は詰る。
「シールド!」
衝突の瞬間ノッツが叫ぶ。盾を展開した事により、ムシュも弾かれるが戮丸も弾かれる。
「ぼっとしない!撃つ!」
双方盾を構えての射撃戦に移るが、先に盾が吹き飛んだのは戮丸のほうだった。
機体の損傷が浅いうちに障害物へ逃げ込む。
「追っちゃダメ!」
盾を失った戮丸は近接戦に見せかけて中距離戦を挑んでくるという事だった。
逃げるをいい事に追えば、障害物越しに襲ってくる。当然当たり負けしないよう盾を構えるが、吹き飛ばし属性。戮丸は吹き飛ばされながら盾を奪いに来る。
奇しくもムシュのやった事をやり返されるというのだ。
「じゃあ、どうする?」
「今有利なのはこっち。イーブンの射撃戦なら負けない。地形を見て、こっちは吹き飛ばせるんだ。吹き飛んだ勢いで逃げられない地形に追い込む。ゆっくりでいい。向こうのペースに乗せない」
言われてみれば、その通りだ。いかに衝突を上手く速度に変えられるとしても冷静に跳ね返るとわかっていれば、蜂の巣に出来る。
さっきまでの戦いはこちらの動きを止められ、翻弄されるから負けたのであって、落ち着いて距離を取れば対応できる。
「なら気合よけだ!」
そう息込んで回避するも、盾を破壊されたアドバンテージは崩されるものでは無く、青い機体は程なく擱座した。
「っしゃあ!」
「おめでとう!」
「ああ、有難う助かったよ・・・なんだその手は?」
―――金を取るのか?とムシュフシュが問うが―――
「この対戦って勝ち抜けでしょ?次は僕の番」
先の戦闘で負けたほうが条件を付けた。つまり勝った側が変動するという考えに基づいて、この戦いで交代するなら、ムシュフシュだというのだ。しぶしぶコントローラーをノッツに渡す。
須らくノッツは策士であった。
「さって、ボコルぞ~♪」
「―――じゃあ、手榴弾追加な。R2だ。放物線投射後2秒で爆発。オブジェクトには反射、転がる。敵に直撃もしくは踏んだら爆発。オーケー?」
「了解♪シールド無視は?―――爆発位置によるでおk?」
了承を受け取って、二人の対戦は始まった。
ボマーの異名は確かなもので、障害物越しの攻撃は元より、障害物の反射を考慮して攻撃を仕掛ける戮丸。流石に転がる手榴弾に向かってシールドで吹き飛ばされたのは面食らったが・・・先の二点はやって当然と試合運びをしたノッツの勝利で幕を閉じた。
「―――畜生」
戮丸は事実上の二敗をノッツに喰らう。「世にも珍しい戮丸のほえ面」に気分を良くするも、実にイイ笑顔の大吟醸に顔を顰める。当然、交代を意味する笑顔だ。
戮丸vs大吟醸戦が始まる。
戮丸が提案した新要素は【ダッシュ】だ。
結果は―――
戮丸の惨敗。新要素ダッシュに衝突の反動、シールドの吹き飛ばしを利用してありえない高速移動を可能にし、その銃撃は常に戮丸を捉え続ける。
「お前らほんとに人間か?」
「謹んでその言葉、返上するよ」
人生極振りの廃人である。その中でも頭一つ抜ける大吟醸のコントロールは驚嘆に値する。
「参ったな。勝てる気がしない。おまえらはこれでシューティング組んでくれないか?」
「シューティング?」
そう言って戮丸は周辺を差す。人だかりが出来ていた。プレイヤーは当然として、村のNPCやドワーフが覗いている。特にドワーフは大親分ともいえる戮丸の敗北に一喜一憂している。
「こいつらにいきなり対戦は無理だろ?勝負にならない。シナリオモードを作って遊べるようにしたいんだ」
操作は比較的簡単な部類だが、それでもゲームを始めて見る人間が遊ぶのに相手が廃人しか居ないというのは酷だ。
それならと、二人は製作に取り組む。こちらの要望を八雲中尉に言えば、それらしいものが即座に出来上がる。MOBや破壊できるコンテナ。などを配置していく。
強制スクロールか?という質問もあったが、基本はフリースクロール。たまたま出した自機オブジェクトがロボットなのでその方が自然だという事になった。
もちろん恩恵を受けられないプレイヤー陣が不満を言うが、テストプレイヤーでと納得してもらった。
「当然武装カスタムは出来るんだろ?」
という声が上がった。この点には逆に戮丸は制限を付けた。キャノンと誘導ミサイルのみを追加し、バトルライフル以外には弾数を設けた。
キャノンは高威力の5だが連射は効かなく弾速も若干遅い。弾体は大きい。射撃時のリコイルで機体が少し下がる。R1に設定。
ミサイルは威力は高めの2だが、射撃時にやはり少し動きが鈍る。弾速はもっとも遅く斜め前方向に二発飛んでいく。一定距離か、障害物に当たると爆発。爆風ダメージは1。L1に設定。
ダッシュはL3。
先の手榴弾は連射は効かず、ダメージは3。こちらの爆風は若干広めで、威力も2。発射時の減速は無し。斜め上方に射出するので障害物の上を超える場合もある。当然転がる。
盾はR3に設定された。耐久値は20。
バトルライフルも射撃時若干の速度低下を付与された。弾数無限である以上、当然垂れ流しはありうる。そのペナルティを加えた。どちらかと言えば、攻撃をやめた高速移動モードが付与された感が強い。
「レジェンド並みの重装備ですね」
八雲中尉が感想を述べた。彼女の世界には現物があるのだ。
「そうなのか?中尉。実際にこの武装だったらロクマルの機動力はどの位落ちるんだ?弾薬の重量は無視するものとして・・・」
「半分くらいですね。弾薬が一番重いので・・・これくらいです」
「・・・ちょっと遅いな」
ムシュフシュの感想はゲーム基準だ。この位の速度のシューティングゲームは有るが、スピードアップの能力が付与されたゲームで初期状態という感じの速度だ。
「ああ、これ採用」
「ちょっとまて、これじゃ幾らなんでも遅すぎる。ライフル撃ったら歩くぐらいの速度しか出ないぞ?」
「いや、これでいいでしょ?戮丸は当然乗り換えも考えていてだと思うよ。さっきまでのスピードで、高機動機が出てきたら多分大吟醸でも使いこなせない」
「まぁな」
戮丸は当然、廃熱、エネルギー残量、スタビリティなど様々な要素を知っている。アイデアはそれこそ売るほどある。それを全部つぎ込むのはよくないと思った。
「大体のバランスはわかったよ。防御を忘れたら一瞬で死ぬバランスだね。シールドで何とか持たせるぐらい・・・その方がスリルが有っていいかもね。でもそれでもここの人間にさせるのは心配だ」
ノッツが危惧しているのはNPCのゲーム熟練度だ。ずぶの素人もいいところで、逆にそのレベルの技量が想像付かない。
「ちょっとやりすぎ程度でいい。クリアできて当然はあきが早い」
「それでもさぁ・・・」
「共闘もありだ。遠慮は要らない。それで最低線を割り出す」
「なるほど!人海戦術もありかッ!」
過ぎた難易度は人数でカバーできる。わざわざ、ロックオンに頼らないゲームシステムを作ったのはそのためだ。これでノッツも遠慮しない難易度で組める。
「フレンドリーファイヤあり?」
「喧嘩の元だな。遠慮すんな有りだ」
「おいおいおい」
「ご安心を―――ここはアタンドット。殺されても生き返る。NPC殺人は、うちのクランで対処する。元より、死なせるな」
NPCはPCと違い死ぬ。だが、違う点は死体が丸一日残るという点だ。そして蘇生呪文は比較的簡単に使える。現にノッツは覚えている。それでもロストの危険はあるが・・・【錆びた九番】に喧嘩を売る馬鹿者は居ない。
こと、そういう問題には絶大な信頼を勝ち得ている。




