ゲーム作成
「で、ムシュフシュ。負けたんだって?」
再度、アタンドットに姿を現したのは戮丸だった。
群党左門芝瑠璃 戮丸。彼のこのゲームでの最初のキャラクターであり、その英雄的活躍は殆ど戮丸での話しだ。身長を限界まで引き伸ばされ、敏捷に極振りされたドワーフ。
ユニークアイテム。アトラスパームを使い。なかったはずのシバルリを築き上げた。第五の代表的なクラン【錆びた九番】の創始者でありリーダー。ムシュフシュもそのクランに属している。次郎と友好を取っているのはプレイヤーが同一人物という流れからだ。
「三戦中一勝している」
「二敗したんだ」
黙れと戮丸に食って掛るが、戮丸はなにやらスクロールに書いている。
「いやいや、三対一で一勝できれば凄い事だよ・・・」
「お前に言われると嫌味にしか聞こえん」
「わかる?」
彼は格闘技の達人で、その恩恵は戮丸に顕著に現れる。ムシュフシュは【狂戦士の激情】を発症した戮丸を押さえるために闘った経緯がある。そのとき、戮丸はオーガの群れとムシュフシュらを相手に圧倒した。
戮丸の恐ろしさが肌身に沁みたムシュフシュにとっては嫌味でしかない。
とは言え、三人の成長スピードは目を見張るものがある。普段から行動を共にしているせいかコンビネーションは流石の一言だ。
「大吟醸が活躍したんだってな」
「アイツはメキメキ強くなってる。グレゴリオの所のコボルトの侍といい勝負したしな」
「勝ったの?」
「いや負けた」
戮丸は書き物をしながら眉を顰める。
コボルト相手にタイマンで負けたのは―――
「―――怠慢だな」
「ギャグのつもりか?」
「ソンナハズナイジャナイデスカ」
「まぁ、いい。フォローするつもりは無いが相手は侍だった」
「上級職?」
「まぁ、そうだな。最近出てきたが職業持ちのモンスターは毛色が違う」
「色違いなんだ。ベス的に」
「そういう意味じゃない」
「まぁそれでも、純粋戦士職で遅れを取った言い訳にはならねぇな。しごいちゃろ」
「侍が純粋戦士職の訳無いだろ・・・?」
戮丸の筆が止まる。
このゲームにまさかはある。それ以前に、西洋系遵守のつくりのこのゲームで侍の職業がある事自体が異常だ。当然、刀や太刀、大鎧などある訳もなく。
―――では何を持って侍と定義するのか?
「―――まさか」
「そのまさかだ。攻撃呪文を使ってきた」
「よく闘いになったな―――」
魔法は絶大な威力を持つ。この世界での戦士の限界は低い。ドラゴンはゲームより現実準拠で、攻城弓を持ち出しても仕留めるには雨のように降らせなければ無理だろう。剣で挑むのは論外だ。ゴジラ相手に備前長船装備の達人でもぷちっと潰される。そういう世界だ。
それでも倒せるのは魔法を使えるからに他ならない。
「呪文封じに小麦粉を投げつけた」
「なるほど―――で火をつけたと」
「教えたのか?」
「いや想像。アイツ、火も付けたんだ。それで削りきれなかったとなると問題だな」
「おいおい、機転を褒めてやれよ」
つまり、大吟醸は呪文対策に小麦粉の詰った袋を投げつけた。これで呪文詠唱は阻害できた。それだけでも評価に値するが、そこに大吟醸は火を放った。
小麦粉は―――粉末は実は燃えにくい。個体としてはとても燃えやすい形状なのだが、熱の伝播が甘い。表層はすぐに燃え炭化する。その炭化した層が酸素を遮断し燃えないのだ。燃えない理由は酸欠によるもの。では、そうならないように空中に散布した状態であれば―――これを粉塵爆発という。
爆発というのは急激な膨張を差す。爆弾のようにはいかないが炎の固まりに一瞬で変化する。これが、閉所で行われると、膨張した空気の圧に耐えられず一般的な爆弾のような爆発を起こす訳だ。
それでは粉塵爆発の被害に達しないと思うかもしれないが、室内に粉末が充満した場合、室内の空気全てが発火温度まで上昇する。その際の気体の膨張量を想像してみて欲しい。通常、炎は循環気流を形成する。それは気体の冷却構造を意味するが、小さな粉末の粒が連鎖発火した環境では循環気流の生成しようが無い。空気の決壊により建造物を破壊するのだ。
丁度、爆竹をほぐしたものに火をつけるとよくわかる。ボワッと燃え上がるだけだ。つまり爆竹は包み紙が一種の密室を作り上げており、それが千切れ飛ぶ音が、爆竹の音の正体。
大吟醸は敵をその炎で包み込んで闘った。
「失敗して褒めるのは子供までだ。んな事より、そこからの品数を増やしてやらんとな」
――――
「ん?どした?」
「いや、あいつが強くなる訳だと思ってな。ところで何やってるんだ?」
「パッドのアサインをな。ジャンプは入れるべきか・・・そこが問題だ」
「な、何を言ってるんだ?って同人作る気になったのか」
そこには見慣れたゲームパッドが描いてあり、命令の配置が、つまりキーアサイン画面だになっている。手書きだが。
「まぁ、そんな所。ちょっとテストに付き合え」
そう言って戮丸はムシュにパッドを渡した。
「おい、これどこから?」
「あーそれな。持ち出し出来ないからあしからず。八雲中尉ちょっと来て」
「ハイ」
そう言って現れて敬礼を取った女性は黒い軍服を身に纏った女性将校だった。
「おいっ!どうなってんだ!」
アタンドットは何度も言うようだが西洋遵守型RPGだ。女性将校の縫製だけでも異常な事態で、中尉階級など有りはしない。二人だって楽なチュニックだ。
「八雲中尉はちょっと協力してもらうつもりで呼んだNPC。他のとちと違って外には出れない。お痛は辞めてくれ」
「戮丸さんと次郎坊さんに協力するよう命令を受けた。八雲あずさです。以後よろしくお願いします」
そう言ってムシュフシュに敬礼する。
「――ああ、俺はムシュフシュだ。よろしく頼む」
釣られてムシュフシュも敬礼で返す。付き合いがいい。
「お話の有った設定でよろしいですか?」
「ああ、頼む。動作チェックだ。弾は出ればいい。当たり判定は有りで破壊は計算しなくていい」
「動かすオブジェクトは如何致しましょう」
「適当に・・・出来る?」
「ではお名前からこれで如何でしょう?」
テーブルの上にゴリラのような体型ロボットが現れた。二体。サイズはコップサイズだ。
「おいっ!」
「即興で出したには凝ったデザインだな?」
「北斗社製ライトDB。VI-60。通称ロクマルです。お名前からこれがいいかと」
「VI-60?・・・付かぬ事訊くがこの上位機種は聞いていいか?」
「ハイ。有名な所はインサニティープレジャー。通称インプとレジェンドが有名です」
「・・・レジェンドのライバル機種は」
「トライアッド社製。パンツァーエディションです」
「それって・・・」
どっかで聞いた事がある。突っ込むのはよそう。
「ちょっと、でかすぎるな半分のサイズで」
「了解しました」
ロクマル見る間に小さくなった。
「主兵装はバトルライフル一本でいいですか?」
「ああ、弾数無限で。パッドの調整は使用者の視覚に準拠で」
「了解しました」
「り・戮丸・・・」
ムシュフシュの手にはパッドが小さすぎた。流石に3mを越える大男は対象外らしい。急遽パッドのサイズを大きくする。
戮丸のロクマルが動き出し、もう一機のロクマルに向かう。
「ぶつかるかな?」
「ではそのように」
ゴンッゴツゴツ。
ロクマルは執拗にぶつかる。
「おいおい」
「ここじゃあ、見づらいな床に移動」
「了解しました」
二機は消え、床に現れる。
「あや?みずらいな、どっちかわからん。俺は青で、ムシュは赤に色分けして」
二機に色が付く。
「まぁこんなもんだろ。戦闘開始」
青いロクマルから弾丸が放たれる。概ね赤いロクマルに当たる。命中精度は良くない様だ。
「どうやって弾撃つんだ?」
「Rレバーを倒した方向に弾が出る」
ムシュフシュは一方的にやられるのは性に合わないと反撃を試みる。
戮丸はムシュフシュを中心に円を描くように移動しながら銃撃を行う。ムシュフシュも同じような動きで反撃する。
時に反転を入れ、敵弾を回避する。
「ふむ、ゲームと違って広すぎるな・・・発射間隔を半分に」
八雲中尉が調整して二機の連射間隔が速くなった。マシンガンのように。
「当て易くは成ったが撃ってる感じがしないな」
これはムシュの意見だ。
発射の弾道はほぼ線に等しいがそれで、敵をなぞっているに過ぎないのが気に入らないらしい。
「トリガーをL2に」
「当たらん、結局一緒か?」
射撃トリガーを分化したため、機体がどの方向を向いているかわからず、結局トリガーを引きっぱなしにしないとまともに当たらない。
「バーストに変更。レーザーサイト表示」
ライフルの先から赤い光線が表示される。バーストは3連射。引き金を引くたびに三発弾丸が発射される。
「お?ゲームらしくなってきた。操作をラジコン風には出来ないか?」
「それだとサテライト出来なくなるぞ?」
「ああ、そうか。だが、後もう少し・・・」
「中尉、障害オブジェクト表示、半透明。着弾リコイルを暫定的に設定」
四角いゼリーのようなものがせり上がる。弾丸は通さないようだ。そして、被弾時ロクマルは揺れて動きが鈍る。
「やっと戦いらしくなってきた」
「なら、戦闘開始でいいか」
「当然だ」
「中尉。弾丸の攻撃力を1に設定。HP10と仮定。ゼロで行動不能とする」
「了解しました」
二人の戦闘が始まった。