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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
転章 未定
117/162

賠償問題、受取拒否




 彼は持たれかけた姿勢から身を起こした。


「もう、本題に移らないか?末期の人間はゴマンと居る。どうにも出来ない事は山ほどある。俺だけが特別と言うわけじゃない」

 彼はこの牢獄に繋がれている間だけが安泰なのだ。人間らしさとは懸け離れたこの牢獄。


 このアパートはこの建物ごと権利を、あのおばさんが買い取った。いたる所に監視カメラが仕掛けてあり、常に観察されている。この部屋は法的に彼のものなので、部屋の中までは無いらしいが・・・


 常にうかがっている。

 女史が事前連絡を入れていればまだ対抗策は取れたが、興奮気味の彼女は全く考えずに友人の家に遊びに行く感覚で、ここに来た。


 最悪だった。


 どうにも出来ない事を語ってもしょうがないという、彼の言葉がありがたかったが、悲しかった。




「―――で、できるだけ賠償金を払う方向で話しを進めるわ」

「いらんよ」

 汚物でも捨てるように吐き捨てた。


「え・・・でも?」

 もうすっかり萎縮してしまった女史が力なく反論する。


「収入があれば難癖付けられて、持っていかれる。家賃値上げとかな。それにアタドンで不祥事は俺もいやだ。シバルリも軌道に乗りつつあるし、新規ユーザーも一気に増えた。それはノッツの狙いでもある。俺が原因で水を差すのはいやだ」

「・・・でも?」


「臨時収入と家賃の値上げどっちが重要だ?薬代も払えなくなる。勘弁してくれ」


 映像流出の件は広報課にデータを盗まれた。しかし、広報課自体は今までの宣材不足を盾に徹底抗戦の構えだ。戮丸が莫大な賠償金を吹っかけても当然と言うところ。実際その折衝は女史がやるのだが・・・

 正味、びっくりするくらいの金額を吹っかけてやるつもりだった。


「売り上げをそんな形で浪費するな」

 至極真っ当な彼の意見で女史の野望は潰えた。全てをひっくり返すような金額を提示すれば、どうしても事件になる。かと言って事件性のない金額では焼け石に水というのだ。


「俺みたいなお荷物―――切っちまったほうがいいだろうに?」

「ダメよ!」

「シバルリ運営もディクセンも適当なヤツに引き継げばいいだろう?むしろ運営の管轄下置かれるほうが望ましい組織だ。プレイヤーが―――」

「そんな事はどうでもいいの!貴方が必要なの!」


 ―――?

「どういうことだ?」

 彼はエイドヴァン―――アタンドット世界の情勢を危惧していた。

 だが、女史にとって彼は無くてはならないプレイヤーになっていた。


 ―――理解できない。と言った表情だ。それもそうだろう。所詮はゲーム世界の情勢だ。当然、多くのプレイヤーも参加している。現実へのフィードバックも有る。その辺の危惧も含めてだが―――

 社会的に見れは取るに足らない現実だ。

 切り捨てても問題ないと彼は思っている。




 ◆戮丸の価値とシステムの真実





「貴方は自分の価値をわかってないわ。いい?貴方はこの世界のクオリティを極限まで引き上げてるの?」

「まさか―――アタドンのクオリティの高さは知ってる。アレは、本来持つスペックだろ?」

「違うわ」


「アタンドットは夢と夢を繋げて一つの舞台で演算処理するシステムなの」


 彼の顔色が変わる。

 その一言で理解できる彼も凄いが、話が早い。

「―――そんな馬鹿な。ネットだからストレージは山ほどあるだろうが、同時演算できる筈が無い。膨大な量の演算をどこで―――処―――理―――まさかっ!」

「そう、人間の脳で処理してるわ」

「人間をCPU代わりに!それで!味覚データまで有るのか!?」


 モンスターが現れた。

 攻撃。

 10ポイントのダメージを与えた。

 反撃。

 5ポイントのダメージを食らった。

 攻撃・・・

 ・・・モンスターを倒した。


 この部分はコンピュータで処理できる。アタンドットの基幹システムはそこまでしか処理していない。ただ、夢ならば過程の情報が有る。モンスターが何なのか。もちろんそこまではシステムに委ねられる。ただ、ゴブリンだったとしても身長は?体重は?骨格は?そんな物は必要ない。


 漠然と闘ったイメージを引き出してやればいい。マンガやアニメ。映画などで見た情報を引き出して結果にすり合わせてやれば、夢として成立する。


 夢と言うのは人によって必要の無い物は欠落する。フルカラーの夢を見る人とモノクロの夢を見る人。それはその人が色を重要視する生活を送っているか否かに起因する。


 そして、彼はその本来要らない物を戦闘に活用する。


「じゃあ、俺がモンスターの骨格を作りながら闘っているって事か?」

「それどころか、風の向きや地形の正確な起伏、土壌の地質状態まで作っているわ」


「オーバーヒートよくしないな・・・」

 脳のオーバーヒート。それだけで生死に関わりそうだが、女史の言葉は端的だった。

「する訳無いでしょ?並列接続した脳の演算速度は洒落ではすまないし、そもそも演算自体してないの」


「―――してない?」

「だってそうでしょ?潮目読むとかって、計算すれば流体計算なんだから膨大な情報が必要になるけど、熟練の漁師がそれをやってると思う?自分の経験にすり合わせているだけでしょ?違うのはそのキィになるデータ。潮の色の違い。鳥の状況、吹く風の向きに、湿度―――そういう一見関係無さそうな情報を経験に結び付けて、予測を引き出す。思い出しているの究極の経験則ね」


「巧くは言えないが物騒な話しだな」

 だが、人体に悪影響を与えないと言うことは理解できた。現実でも、歩っているだけでも、人間は多数の情報を無意識に収集している。

 風の匂い、日照量、路面の状況、気温、湿度。更に自分の体調と疲労度、空腹度、渇水度。

 数えだせばきりがないほど情報はあるが、人間は漠然と感覚としてそのデータをない交ぜにしたものを憶えている。


「とんでもないシステムだな。天才だよ、作った人間は―――アンタが作ったのか?」

「違うの見つけたの―――」


「見つけた?」




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