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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
107/162

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「じゃあ、シバルリ勢は除外ね」


 三人は結成集会と言わんばかりにささやかな宴を開いた。とは言ってもやっていることに変わりはないのだが・・・


 酒を酌み交わし、盃を呷る。ほどほどに退散する気だった戮丸も腰を据えた。

 冒険者の集会でのメインは、酒や肴ではなく冒険譚であった。単純に二人の語る話の内容に引き込まれたからに過ぎない。


 ムシュフシュは枯山水のありようを実話じつわ入りで話す。

 枯山水かれさんすいが一目置かれるギルドというのはわかったが、その中身までは知らなかった。単純に規模と収穫物で一目置かれている。と言うのでは戮丸には疑問が残る。


 どう考えてもダンジョンの方が実入りがいい。

 そう考えると猟友会と言うギルド運営をしている意味が戮丸には判らない。

 当然戦士に許された高火力と言う物は有るがそれは一過性のものに過ぎないのだ。手に入れれば終ってしまう。もちろんその為の互助ごじょ組織と言う面は否めないが、それなら固定メンバーが居ると言うのがおかしい。


 つまり猟友会には猟友会の魅力がある筈だ。


 どちらからともつかず盃を酌み交わし耳を傾ける。






「お前ら頭おかしいよ」

 戮丸が言った。「褒め言葉か?」とムシュフシュは笑う。


 狩りをする時に敵を誘導し仕留めるのが基本だ。それは此処ではなくても変わらないだろう。当然枯山水もそれは変わらない。

 ただ、彼らはそれで収まらない事がある。そこが一流猟友会のゆえんだ。


 一流猟友会と言う物は下見と連携で誘導を巧みにこなし、確実に獲物をヒットするものだと思っていたが、ディクセン付近ではそのやり方が通用しない。

 モンスターが多いのは当然として、更にはブッシュ・起伏の激しい地形。平坦な場所の少なさから出来ないのだ。

 それでも普段であればそうできるように心がける。


 しかし枯山水は違う。敵陣のど真ん中に狩場を確保してしまうのだ。その為の盾組みでありフォーメーション。

 想像して欲しい。モンスターの源泉ともいえる密集地帯に突入し、囲い込み、狩りを完遂して退却する。

 そうできれば一番だ。だが、その司令塔に対する負荷は尋常ではない。それを可能にして日常的に実行しているのが枯山水だ。

 そんな状態は何処も変わらないというだろう。ただ、何の気なしの茂みの中からトロールの戦士団が当たり前に出現するお国柄。頭がおかしいの評価は妥当なところだ。


 戦場は有機的に変化する。単純に囲い込み用人員は初心者と相場が決まっているが、彼らの戦い方では一番簡単なポジションでさえ高度な判断が要求される。


 そこに矜持が生まれる。


 だから彼らは排他的で実力主義なのだ。

 入団条件の増筋装備の取得は完全に運である。だが、そんなことを言い訳に二の足を踏んでいる奴らは要らない。

 できる事は山ほどある。そして、運も重要だ。


 火力増強に人は集うが、それは単純に撒き餌に過ぎない。限界ギリギリの戦場。それこそが彼らの望む物。モンスターの思考とさほど変わらない。

 攻略法はあるが、それだけでは足らない。そんな戦場を駆け抜けてきた一騎当千の男達。

 そしてそんな男達にもたらされる運命の神の振舞ふるまいイモータル。

 彼らは、辞める事が出来ないのだ。


「面白そうだな」

「あんたは規格外だ。そうそうは誘えない」

 ムシュフシュの言葉に残念そうな戮丸。


「ヌルゲになる。俺達の居場所が無い」

「だよねぇ。高火力、高機動ドワーフなんてねぇ・・・」


「それにHPは並だろ?ラッキーヒットで爆散するヤツに、合わせてフォーメーションを動かすのはどう考えてもおかしい。ソロでやってくれ」

「ボッチだからってそれは酷い」

 クランマスターの戯言に暫し笑う。


「まあそれでもだ。俺達でもヤバイ狩場がある。行きたくても行けない狩場がな。その時には頼みたいが・・・連携を仕込んでいない奴は連れて行かない」

「・・・当然だな。まずは馴染ませてからだな。コイツも要るだろ?」

 そう言って銀を差す。


「まぁ、これが味方なら何処にだって突っ込むよ。アレは二度とゴメンだ」

 銀にとっても一刀の元に切り伏せられる。そんな経験は初めてだ。最後にしたい。


 ムシュフシュは酒を呷る。

 彼の脳裏には様々な戦術が交錯する。戮丸加入で制空権が得られる。飛ばれてしまえば歯噛みをするしかなかったが、今はそれが出来るのだ。

 安定など求めない。ネームドドラゴンに挑める。ドラゴンは屋外では桁違いの厄介さだ。【這い回る澱】・【虚空の染み】、伝説級の強力なモンスターに挑める。


 そう思うと血が滾る。


 特に【染み】には遭遇した。文字通り、最初は空の一点にある染みに見えたが、それは瞬く間に広がり視界を覆った。それでもこちらの攻撃は届かない。どう考えても倒すどころか一矢報いる方法すら思いつかない。


 戮丸加入を考慮に入れても打倒可能とは思えない。


 だからいい。


 そして、何もかもが足らない。目下足らないの練度だ。

 自分達は何処まで強くなれる?

 そんなことすら忘れるほどの・・・


 ムシュフシュは思考の海を彷徨っている。

 それが二人には判るからこそ言葉は要らなかった。

 そんな時に酒を飲み肴を摘むのだ。




 いっぽう、銀がもたらしたのは魔法についてだ。

 魔法は上級職特有の物もある。魔法カテゴリに上級職用があるのではなく、上級職専用魔法と言うカテゴリーがあるのだそうだ。

 このゲームにはSPゲージもあることにはあるのだが、既出の技能ではそれを使わない。

 カテゴリごとにシステムが違うのだ。


「と言う事はいずれ全員が上級職化するのか?」

「それを見越したバランスだろうね」

 アタンドットには何でもある。当然ゲージ消費型の魔法もあるのだろう。


「それを差っ引いて、他に出ていない魔法カテゴリーってあるのか?」

 戮丸の当然の疑問だ。上級職はまだ届かない。そのアンロック条件がわかってないのだ。致し方ない。


「俺が知ってるのはコモンルーンか?」

「やはり有るのか?」

 共通コモンルーンと言うのは汎用魔法だ。モデルになったゲームには実装されていた。それで、やはりと戮丸はいった。汎用魔法と言うのは魔法使い以外が使える魔法で、基本的に禁忌に当たる。威力は低く、条件が厳しい、種類が少ないと禁忌を犯すワリには使い勝手が無い。


「【教え】か?」

「いやそれは無い。アイテム、主にアクセサリーで可能になる」

「・・・なるほど」

「【キャスティング】に近いのか?」

「アレは別。【キャスティング】の特性を持っている必要があるんだ。俺は【幻惑魔法】。オーメルは【聖騎士魔法】の素養がある。自動的に【キャスティング】因子を一つ持っている。多分ノッツも使える。戮丸は無理だろう」


 【キャスティング】は単純に知識インテリジェンスに依存する。コスト、倍率は以前語ったが、それは簡単に言い直したものでしかない。

 戮丸の特性【狂戦士の激情(ベルセルクガング)】は知識インテリジェンスの値が高いと発動しないだろう。これはモデルに成った【凶暴化バーサーク】がそうなのだ。それを期待して作られた戮丸にはその素養が無いのだ。


「やはり共通コモンも知識が重要なのか?」

「当然」


 銀は語った。共通コモンは出来の悪い【詠唱チャント】アイテムだと。

 RPGには定番である道具として使うと魔法と同等の効果を発揮するアイテムを【詠唱チャント】アイテムと言う。

 本来なら触媒を必要としないそれに、HP消費と使用制限が付いているのが共通語コモンルーンだ。


 利便性はある。魔法の残弾を気にしなくていいのと詠唱が必要ない、もしくは短くて済む点だ。それでも【詠唱チャント】には及ばない。


「そうか、残念だ」

 冒険には装備を解除しているシーンも多い。そこで補われるのが共通コモンルーンなどの代表格だ。アイテム依存と言う事で除装も可能。囚われたら真っ先に奪われるだろう。


「他には?」

 戮丸はこの世界の知識に乏しすぎる。経験から推論できるが、それはあくまで推論に過ぎない。知っているには及ばないのだ。


「他って言われても・・・ほとんど【魔法】でカバーできるから・・・」

「・・・?」

「ああ、まだ神聖魔法みたいに種類が少ないと思ってるんだ」

 不思議そうな戮丸の顔に納得して銀は語る。


 魔法と神聖魔法の違いは【スクロール】で習得する以外の違いがある。

 神聖魔法はレベルが追いつけば自動的に全て覚える。対して魔法はレベルが達しても習得可能になるだけで、スクロールが必要で、何とかして入手しなければならない。これが既存の知識だ。


「魔法には際限が無いんだ。初心者部屋では基本魔法しか手に入らないだけで」

「じゃあ、オーメルがバカスカ撃ってたのは・・・?」

「基本魔法。レアや変異魔法を【キャスティング】したら殺されるよ。それにあんなことオーメルだからこそ出来る贅沢だ。あの戦闘で凄い金額がすっ飛んだよ」


 魔法使いだってオーバーキャスト用にスクロールは保持しておきたい。需要はとんでもなくある。しかも、外は規格外魔法とレベル制限解除によって、定番魔法も品薄状態だ。


「じゃあ、シバルリ開通って・・・」

「魔法的にも凄い要所って事だ」


「俺・・・ばら撒いてたけど・・・」

「今の新人魔法使いはほとんどの使用可能魔法をコンプリートしてるからね。あんたの犯罪」

「店売りしちまったが・・・」

「・・・有り得ない」


 つまり、魔法のスクロールは値段が高騰している。戮丸がキャラクターシートを開いて在庫を銀に見せる。

「・・・城が買える」

「・・・持ってる」

 戮丸の舐めきった言葉に銀の言葉が出ない。


「うちの魔法流通価格表なんだが・・・」

 それを見た銀は気が遠くなった。

「・・・桁がおかしい。ゼロが足らない。もしかしてこれ白金貨?それでも安い」


 Oh・・・またスレイに怒られる。


「わかった。全てうちで買い取ろう」

「って売るか!」

「いやいや、これほどに在庫があれば――これぐらいでどうだろう?」

「あいっ変わらず足元見るな・・・ってオーメル!?」


 赤の旅団首魁オーメル=タラントがそこに居た。

「良いにおいがしてきたのでね」

「金のにおいを嗅ぎつけたか?」

「それは褒め言葉として受け取っておこう。実際、先の戦いに使いすぎてね。君の責任だ」


「売っちゃダメだからね。もう少し吹っ掛けて・・・」

「銀よぉ。言ったらダメだろ?」

「ダメなのは戮丸リアクション。大きすぎ、聞こえてないんだから」

「・・・あっ・・・・」


 オーメルには全て聞こえていない。状況把握であてずっぽうに言ってのけただけだ。

「これでも安すぎると思っているんだが、欲が無いな」

 戮丸はチャットルームを解除して・・・


「売る訳無いだろうが!」

「そうか、それは残念だ」

 オーメルは拍子抜けするくらいあっさりと引き下がった。後日、その理由は判明する。

 戮丸の価格表はオーメルの手によってシバルリ駐在武官に筒抜けだったのだ。

 シバルリの値段は戮丸の設定した金額を基準にした相場である。つまり破格である。当然、価格表などは外部には漏れていない。だが、こちらからそれを基準にした金額を提示すれば素直に応じる。


 後日、自分の在庫以外を根こそぎ買われ、戮丸は関税を設置した。それでも良心価格なのは救いようが無い性格ならばこそだろう。





「救いようが無いと言えば、最後の言葉はなんだ?」

 オーメルが憮然と問う。

「何かおかしなことを言ったのか?」とムシュフシュ何の事か理解できない。しかし、銀には容易に見当がつく。

「ああ、アレね。これからのディクセンの面倒をどう見ていく気なんだ?」

「アレは戮丸ノータッチだと宣言しただろう?確かこそ泥を・・・紹介して」

「そのこそ泥が次郎坊。戮丸のサブキャラさ。結局全部背負い込むんだから・・・」


 ・・・ノッツと大吟醸が諦めたように溜息をついたのを思い出す。

 合点はいったがそうなるとこのクランも無関係ではない。

 ムシュフシュも大きく溜息を吐き「どうするんだ?」と問う。


「まぁ、あれね・・・そのなんだ・・・前向きに善処します」

「何処の政治家だ」とオーメルが呆れる。

「まぁ心配なのもわかるが・・・」とムシュフシュ。

「それに女王陛下は兎も角リーゼがねぇ・・・こそ泥を招致するかな?アレだったら戮丸で強気に出たほうがよかったんじゃないか?」


「女王陛下とは商談の窓口を作ったんだ、当面の問題は無い。外堀から勝手に直した方がいいだろ?こういうことは錦が邪魔になるもんさ」

 戮丸はしどろもどろで弁明する。


 その意見には一理ある。国は住民に対し権威が失墜している。ここで、国の代表として復興すれば、今までの補填騒ぎ等が浮き彫りになる。産業や開墾をやれば、旧来の身分を無視できない。単純な復興であれば事は簡単に済む。それだけの資本力が戮丸側はあるのだ。ややこしくはしたくない。


「いざとなれば国取りって選択肢も取れるんだ。まぁ、二人の手並みを見てみようじゃないか?此処で舵取りをしくじったら間違いなく断頭台だ。プライドを捨てるくらい出来なければ話にならないし、俺もやりづらい」


「国取りか・・・」

 ムシュフシュは戮丸の言葉に魅力を感じた。だが、今は無人の野をいく如し、歯ごたえは期待できない。

「やっぱりちゃんと考えてはいるんだ・・・まぁいいけど」


「甘いな・・・あのリーゼは筋金入りのお嬢様だ。お前の予想どうりに行けばいいがな。・・・もっともお前が策を巡らせてその通りになった事が無いが・・・」

 オーメルの言葉にムシュフシュが「そうなのか?」と銀に問う。


「あ、ああ・・・そうだね・・・」

 戮丸は結構策を巡らしているのに大抵は空振りである。と言うよりも大体の予測は当たっているし、説得力のある策を練るが、それが拗れに拗れて辛うじて及第点に落ち着く。

 馬鹿じゃ無いのにどうしてこうなるんだろう?


「結果オーライ」

「戮丸!」

「ん?」

「反省」

「えらいすんません」

 やはり戮丸は女に弱いのか、銀と戮丸のやり取りに一抹の不安を抱くムシュフシュであった。


「それにしても銀のこの姿を見てどうも思わないのか?」

 とムシュフシュはオーメルに問う。今の銀は女性の姿だ。

「まぁ、予測は出来ていたしね」

「間者様か?」

「ああ、戮丸の話を聞いたのか。それもあるけど付き合い自体は長いしね。話してみれば自然と判る物だよ」

 会話に不自然な点が多い。など怪しい点を列挙してみせる。更には会話にブラフを交えて・・・知っている事を知らない振りというのは難しい。日常会話では更にだ。しかし、その矛盾点は今オーメルに指摘されて気付いた。もしくはそんなやり取りをした事すら銀は忘れていた。


 こんな連中の折衝を丸投げされたら銀もオーバーヒートするよな・・・

 ムシュフシュは新しい同僚の心痛に同情の念を隠せない。


「しかし寝なくていいのか戮丸おまえは?」

「寝たよ。目がさめちまったんだからしょうがない」

「もう一騒動来るな・・・」

「そんな馬鹿な・・・そんときゃ頼むぜ。俺は疲れた見物に回らせてもらうよ」

 とムシュフシュと戮丸は笑うが、銀とオーメルはうんざりとした顔を隠せない。


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