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「ちょ、まてよ!・・・頭おかしいんじゃないのか?第一・・・ゲームだぞ。ゲームのキャラ殺して、それで殺されるなんてありえないだろ」
その事は大吟醸たちも判っている。しかしだ。
「そこのベットで出れるって」
「懲役三ヶ月、短ぇもんだな・・・ハハ、ワロス」
「そんなのは暴利だ!」
ディグニスは二人の口振りに唾を飛ばす。ディグニスのアタンドットはこの先三ヶ月間はこの部屋のみとなった。
食事や飲酒をアタンドットに依存している以上、厳しい処置だ。当然、お金など無いし、食事が受けられるとも思えない。
「どこが???サブ垢作れば済む話じゃねぇか」
「そそ」
「んな金払うか!こんなのは不当だ!」
「じゃあ正当って何よ?ってどうでもいいか。次は【マグマ落とし】だってさ。それもどうでもいいだろ?残った人生せい一杯費やせよ。無駄な事に」
「もっとやる事あると思うけど・・・それさえも判らないんだね」
「そこだよそこ!何で俺が死ぬんだよ!」
「そこは俺らもわかんなかったんだけど、説明聞いたら何得した。いいんじゃね。何を言っても理解しない、聞く耳持たない。他人と自分の価値観が違う事も理解できない様なやつ。迷惑だから死ねよ」
「ってのも困りもんなんだよね。正直に言えば【居なくなって欲しい】純粋にそれ。【殺人事件】なんて置き土産はいらないんだ」
「それならお前らが俺を助けろ。このゲームを潰させたくないんだろう?」
「アホ極まれりだな・・・」
「もう既に行方不明者8人出てるって・・・それが9人になってくれれば、全く問題ないのが判らない?」
ディグニスはその場にへたり込んだ。
「・・・そ、そうだ。警察!警察に駆け込むぞ。表沙汰にはしたくないんだろ?」
「何ていうんだよ?」
「へっ・・・」
「殺される理由も判らない。誰に殺されるのかも判らない。警察がまともに取り合うかな?それに、消されるのであって殺されるとは限らない。拉致監禁なんて力技使ってくれるといいね。よく知らないけど、居なくなった人なんて山ほどいるよ」
「それにそんなのはマッチポンプにしかならねぇよ。それこそが消される理由なんだから・・・」
「・・・なんだと?」
「わかんないかな?ここは発展途上の市場なんだって事が、だから難民の子供を現金払って買ってるって」
「誰に聞いた!」
「バレバレ」
「あんな事する理由なんて他に無いね。確かに、一見レベリングに良さそうだけど、効率が悪すぎるよ。僕らのレベルじゃLevel Up!!は見込めない。更に求人出してまでするなんて頭がおかしい。そうなれば他にうまみがあるはず、ぶっちゃけレベルアップ自体もう期待して無いだろ?」
「ダンジョンにいかねぇんなら強くなる必要も無いしな。現金稼げてるとなれば話は別だ」
大吟醸・ノッツ・ディグニスのレベル帯では全額独り占めしてレベルが上がるかどうかといった金額だ。実際に戮丸が巻き上げた金額を聞いて二人は驚いた。
もちろん、戮丸が得た村の総資産が貧しかったのはある。規模が小さかった。先の名も無き村の総資産なら二、三倍は見込めただろう。ただ、二、三倍でしかないのだ。労力といった観点ではなく、損害といった面では比較にならない。現に枯山水は一時拠点として利用している。その拠点、換金場といったメリットを損なってまで欲しい金額ではない。人道的には言うに及ばずだ。
「RMTの何が悪い!」
「居直りやがった」
RMTはゲーム内アイテムなどを現金で買う行為だ。場合によってはアカウント間で売買の対象になる。他人のデータを買って楽しむという人種は確かに居るし、実際買うかどうかを差し引いても【欲しい】と思うのは理解できる。
当然、ゲーマーの中には「それってゲームの意味無いじゃん」というのが大勢を占めるが、対戦要素などがからむと少し話が変わってくる。彼我の戦力差を現金を払っても埋めたいとは思うもの。
人によっては軽蔑するものも居るが、そのシステムを実装しているゲームも有るのは事実だ。一概にRMTだから悪いと言う事は無い。ただ、大抵のゲームでは禁止している。
禁止しているものをヤルから悪い。端的にそう言えるが・・・
「悪いかどうかじゃねぇよ。・・・ていうか、ドッからどう見ても悪党じゃん。今更そんな醜聞気にするのか?」
「システムが許してるんだ。何が悪い!」
「ほんとに頭固いね。悪いかどうかじゃなくて危険なんだよ」
そう危険なのだ。ネットゲームはその性質から匿名性が高い。誰が何処からアクセスしているかなど判らない。遡って調べようとしても、稼働中のサーバーに探査プログラムを埋め込むなど離れ業だ。それでもするというのであれば、サーバー本体をハッキングした方が早いし、それでも同時接続数はそれこそ千、万単位だ。特定は至難の業だ。その離れ業をやった上で特定できるのは回線まで、今度はその回線の持ち主の個人情報を発掘しなければならない。その上、週に一度はシステムメンテナンスが入り、クライアントが刷新される。
単純に不可能と言っていい。RMTを内包しているゲームであれば高度なセキュリティが期待できる。
「そんな事は判っている!対策は当然してる」
「ほんと?完璧?」
「何が言いたい?」
「それって個人レベルじゃない、詐欺の?僕らが危険視してるのは組織単位での相手」
「無理だろ。スレの住民が全員サクラだって普通に出来るぞ?その情報を聞いた所から完全にシロって言い切れるかよ」
ディグニスはここに至ってうっすらと全貌が見えてきた。
「まさか・・・」
「やっと気付いたか?」
「それでも・・・なんで・・・」
「金になるんだよ。性病も子供も絶対に出来ない風俗ってのは、それに、どんなに喰っても絶対に太らない。どんなに騒いでも、絶対に騒音が出ない。何百万人も収納できて、アクセスの問題が発生しないアリーナ。どれもそのデメリットを押さえるために巨万の金が動く。音楽を演奏して皆に騒ぐだけにドーム作っているんだぜ。リアルはそのレベルの相手に完璧な情報遮断が出来てるのか?って無理に決まってるだろ」
「それならアタンドットだって・・・」
―――クラッキングを受けてる。
「もうやってる筈だって。でも類似ゲームが他所からリリースされてないから、メンコン社のセキュリティは鉄壁なんだろうね。AI一つ取ったってNPC一人一人に俳優をつけてるとしか思えない。思いっきりオーバーテクノロジーだ。どんな新製品でもどういう理屈かは想像が付くけど、ここは無理だ」
「それじゃ何で人攫いなんかさせるんだよ。俺なんかに・・・」
「そこだよ。間違いなくお金になるけど懸念材料が無い訳じゃない。人口の低さだ。新車一台の先行投資はきついよ。だから組織は・・・会社かヤクザかなんてわかんないから組織って言うけど。組織はこのシステムが欲しい。まず第一義にそれ。そして、それが叶わないならこの市場でのイニシアチブを取りたい。その際にはこのゲームの人口が増えて貰わなければいけない。そこではメンコン社には絶対に逆らえない」
「だからほどほどに、地盤を組み立ててつつ、水面下で動かなきゃならない。【自由通商同盟】のバックはそれさ。一部プレイヤーの暴走って位置づけで何処までやっていいか見極めてるんだ。そして、それは【旅団】のバックでもある。抑止力は必要さ。バックだって一つじゃない。出すぎた事をすれば消される。ホント、オーメルってすげぇよ。その構造を理解して【旅団】を立ち上げちまったんだから」
「・・・勝てる・・・わけがない」
オーメルは全てを理解した上で、自分の意思を捩じ込んだ。表向きはクラン間と貴族の利害関係の間を突いたように見えるが、実際はさらに離れ業であった。そこまでの視野の持ち主相手に間隙を縫っていると思ったのは錯覚でしかない。掌の上で遊ばれていたのだ。
「そ。戦力的には【旅団】は【ディクセン猟友会】を消し飛ばせたんだ。それをしなかったのはオーメルがプレイヤーの命を案じていたからで、それだって自分がゲームが出来なくなるって理由だよ。恐れ入るね」
「じゃあ、あのドワーフは邪魔を・・・」
「それを呼び寄せたのがオーメルだ。勘違いするな、お前らの跳ねっ返りを忌々しく思っていたんだ。」
「それだって、ディクセン強襲なんて話が出てこなければ静観したろうね。流石に一部プレイヤーの思いつきで地図が変わるのは納得がいかなかったろうね。うちの大将に感謝して欲しいぜ。【旅団】本気で攻めてきたらこれじゃすまない。そういった意味で上手いんだよ。うちの大将は・・・」
「その組織に、お前らの行動はどう映ったかな?」
「・・・やりすぎた」
「そうだぜイレギュラー。オーメルがディクセンの大掃除しちまった。直接の関係はないがその切っ掛けはお前だよ。そして、お前からは確実にバックに繋がる」
「ハイ、オワタ」
「お、おれは助からないのか?」
「どうだろね?消すってのがどんな方法か判らないし、平謝りに謝ったら・・・」
「それで許してくれるか」
「にっこり微笑んで優しく処刑場に案内してくれるよ」
「・・・ダメじゃん」
「そういったって、許す許さないの問題じゃないって。痕跡を消すんだから、感情なんて間に入ってないよ。普通」
「・・・はははは」
「とりあえず、捨てられるものは全部捨てて、アカウントも消したほうがいいな。高飛びしたら多分これ幸いに打ち落とされるから・・・」
「おい、助けるつもりか?」
「俺だって助けるのはやだよ。でも仕方が無いんだ」
「・・・え?」
「だってそうだろ、その理由ならうちの大将が動きかねない・・・それだけは僕は納得がいかないんだ」
子供を助けるために、ただその為に狂った男。狂って狂って、全てを平らげ、子供だけが守れなかった男。
その男がその原因を救う為に走る事は容認できない。
絶対に見たくないし、させたくない。
「そっか、そうだな。俺らがやればいいのか・・・」
戮丸の覚悟には及ばない。それでも・・・
「それで、策はあるのかよ?」
「・・・そうだ・・・お前なんかに出来るのかっ!?」
『黙れ』
「ちょっと大仕事になるけど。飽和攻撃で行こうと思ってる」
「なるほど」
「判ってないだろ?」
「当然」
「・・・予定通りだよ。有難う」
「俺は・・・」とディグニス。
「とりあえず、今回の逮捕劇を隠蔽する。無かった事にするんだ。それでも、一時しのぎにしかならないけど・・・」
「それから?」と大吟醸。
「その間にめくらましを仕掛けて、ディクセンに人を集める」
「どうやって集める?」
「戮丸が言ってたろオーメルに『三回殺す』って、オーメルは了承したけど、あいつが処刑って意味じゃない。手加減なんて求めない。つまり三回殺すまでガチバトルをするって意味だ。信じられないけど。それを大々的にやるんだ。人なんて幾らでも集まるさ」
「そいつは俺も見たいな。・・・で」
「こいつはさっきのめくらましの部分だよ。その間にポリスラインを通して、連合を組む。」
「ふむ、それでも戮丸の分が悪すぎるんじゃないか?」
「そこはレギュレーションで調節する。第一戦はコモン装備縛りってのでどうだ」
「勝てる訳無いだろ?10レベルと50レベルだぞ」
「オーメル死亡確定だな」
「・・・だろ?」
訳が判らない。
「で、連合のほうは?」
「今、ディクセンは【旅団】の支配下だ。つまり騎士システムが生きる」
「いい感じに肥え太ってるな」
「そう、大クランを通して内密に組織して、罪状の準備は銀をメインに内偵を進めて、その間、治安は枯山水が警護に当たる。適度に現状維持で・・・精霊雨と砂の冠にも声をかけて・・・」
「砂の冠は兎も角、精霊雨は無理だろ。ダグワッツはどのクランかも判らない」
「それでもより多くのクランじゃなければダメなんだ。ムシュフシュあたりに仲介してもらおう。旨みは十分にある。天文学的な金と経験値が動く。やってもらわなきゃダメだ」
「で?」
「一斉検挙だ」
「それのどこが作戦なんだよ!?」
「ちまちまやってれば適度に消されるさ。でも、歴史の流れにしてしまうんだ。大規模検挙。組織の恐れているのはメンコン社の介入。GMコールだ。そこまで大規模なら消す手も回らないだろうし、GMも自浄作用ありとして、システムの改善は見送るだろう。相手の判断次第だけど、オーメルが根回しをすれば・・・」
「かなり分があるな」
「実際は戮丸、オーメル主導だろうけど・・・一人で片付けさせるよりは、はるかにマシだ」
「・・・出来る訳ないだろ?」
この作戦じゃない。戮丸一人にこの作戦の代替はという意味である。
「アイツならその無理も通しちまうんだよ!あほがっ!何見てたんだよ」
「だから、僕らがあんたらに望むのは沈黙だけ・・・」
「・・・それでさ、俺もその儲け話に一枚噛ませてもらえないか・・・な」
『ド阿呆っ!!』
―――懲りろよ。