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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第二章 ドラゴンサーカス
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035 損害報告

せくしー?

 ◇035 損害報告




 市は騒然としていた。それもそのはず、背に女性を背負った小男が拳を繰り出した男の肩の上に乗った。曲芸とも取れるその動きに人の輪が出来る。男は小男下敷きになり踏まれている。


 冒険者、戦士のブーツには鋲が仕込んである。滑り止めの意味合いが多いが、泥濘でいねいなどは鋲ではどうしようもないし、岩場では刺さらない。木の根や土の部分なら多少の効果が見込めるが、それも劇的な効果は無い。


 サッカーや野球のようにストップ&ゴーを繰り返す場合なら分かるが、戦闘する戦士に必須のアイテムというのも不思議な話だ。現に格闘スポーツでスパイクがあるものは少ない。スポーツという見地から踏みつけ(スタンプ)が強力な攻撃・・・危険行為から無いという理由も分かるが、必須なものではない。


 では何故、ブーツには必ず鋲が付いているか?

 答えは簡単とても滑る物が戦場では当たり前にあるからだ。


 死体、人体である。


 よく、「屍山血河(しざんけつが)を乗り越えて」という表現がされるが、それを素で再現しようと思えば普通転ぶ。死体は非常によくすべる。トドのように寝転ぶ父親を、踏んで歩いた経験があれば良くわかるはずだ。


 死体を踏む可能性があり、避けている時間が無い前衛職のブーツには鋲が装備されている。有ったほうがいい装備ではなく、無いと困る装備なのだ。軍であればまだ仮想戦場を想定して必要ない部署もあるが、冒険者ではそう言う訳にも行かない。


 当然、戮丸のブーツにもそれが付いていて、哀れな犠牲者をむ。


 ――叫び声が響く。


 戮丸はあたりを慎重にうかがう。取り巻きは構えを解いていないが戦意は無い。やり場の無い武器を構えた―――ポーズだ。





 予定通り、戮丸は不思議体術でごろつきを圧倒した。毎度驚くほどの手際だが、それで調子に乗る事を戮丸は嫌う。・・・学習していた。伊達におじさんではないのだ。


 戮丸は一事も声を発しない。それで威圧しているのだ。弱い犬ほど良くほえる。戮丸は強いから沈黙の使い方も熟知している。誇らしくも思うが、まだ終わっていない。警戒を解いていない。それがわかるのが嬉しかった。


 ―――警笛が響く。


周りに居た人たちはその場を離れた。それにあわせて取り囲んでいたものも消えた。人だかりの輪は一回り大きくなり制服姿の二人組みが姿を現した。


「何の騒ぎだ!?」

「事情徴収はコイツにしてもらってくれ。――俺は行く」


 そう言って戮丸はその場を離れた。





 ―――揉んでもいいよ。

「そんだけ余裕があれば十分だ」

 それでも戮丸は振り解きはしないのだが・・・



 ◆ 物色―――装備変更




 トコトコ歩く。市場ではなく、ちゃんとした店を覗いて回る。宿屋兼酒場探しをねてだ。

 ランタンを扱っている小物屋は見つからなかった。マツアキが惜しまれる。


 後に知った事だが、マツアキはエンチャント済み松明たいまつのことを言うらしい。このゲームのユーザーメイド品のネーミングセンスはすばらしい。殴りたくなる。


 効果は、使い減りしない松明。これは副次効果らしい。本来の魔法はライトがかかっている。効果を解除するまで消えない大光量の魔法の光。そういうジョークアイテムだったらしい。魔法をかけてあるので減らなくなった。壊れないという特性が活きたのだろう。いざ出荷してみたら、大人気アイテムに!


 減らない松明というのもありがたいが、フラッシュグレネードとしても使え、人口太陽の代わり、夜間の乱戦時の戦局打開・・・予想外の使用用途の数々。原材料が安く単純な魔法なので、値は手が届かないほどの高級品ではない事が、売り上げを伸ばす要因になった。

 

 魔法の物品で変化を受け付けないはずだが、燃えている火は松明染み込んだ松脂だ。アルコールランプの理屈で燃えるらしい。

 実際、火がつく。


 ――二・三本買っときゃよかった・・・


 後悔先に立たず。





 シャロンの提案で服飾店に入った。ニイタカヤマの新作が出てないか、気になるとの言だ。

 戮丸もショップ品のレザーアーマーで正直に言えば良い物に変えたい。着ている物は革ジャンのようなソフトレザー。+1装備で全身を固めてもおかしくないレベルでこれは頼りない。

 オーメルクラスの化け物と戦うには装備の性能は度外視できない。


 戮丸はプレイヤー自体の格闘能力が高いから、先制で10割コンボを決めている。それが強さ。しかしその始動キーになる技を凌がれては、装備の性能やレベルがものを言ってくる。正直な話。先日のガウェインの方がゲーム的には戦闘能力は高い。再戦があればこのままでは、まず勝ち目は無いだろう。


 男でも装備可能なニイタカヤマクラスの防具があれば、多少無茶な金額でも出す覚悟だ。


「男性用のニイタカヤマのような防具はありますか」

「ハイこちら」

「性能は?」

「皆さん、そういうんですよね・・・」


 男祭りのこのゲームでブーメランパンツや、ふんどしをつけて喜ぶ趣味は無い。


「じゃあ、皮鎧で出物はありますか?」


 その問いかけに店主が出してきたものはハードレザー。ハードレザーは皮を何枚も重ねて強化した鎧だ。その辺であれば妥協案になりうるのだが・・・

 防御力はすばらしい。値段もすばらしいが――


 問題は、剣道の胴のような作りだ。金属は使っていない金属以外のプレートに革張りしたもので、デザインは古き良きラノベ時代のような「それ絶対腕あがらないよね」的なデザイン。重要視しているのは清音性と可動範囲。嵩張らない物が望ましい。


 ――真逆である。


「ミスリルチェインがあれば見せて欲しい」


 ミスリルというのは有名な魔法鉱物。魔法銀と呼ばれる事もある。総じて魔法に対しての耐性があり、魔法の行使を阻害しない。軽くて音もしない。

 最終兵装に睨んでいるアイテムだ。チェインなら動きの阻害も無いだろう。


 チェインメイルといえば鎖帷子。これを同一視してるものが多いが実はまったくの別物。チェインメイルは鎖を布状に汲み上げた物で、まあ、見た目は漫画通りである。逆に鎖帷子はマンガなどでは網タイツのように表現されるが、現物は鎖が織り込まれた半纏のような物。半纏ほどスカスカな拵えではないが、見た目は物置小屋から出てきた襤褸布(ぼろぬの)といった風である。厳密にはリングメイルに近い。

 幸い歴史資料館とかで現存している。襤褸切れに見えるのは、この為だろう。


 チェインメイルに比べ防御能力は大幅に劣るが、音がしない。ここで店主に訊かないはセクシークノイチみたいなのが出てきたらどうしよう?と思ったからだ。それにチェインメイルと同一視していたら説明が厄介だ。


 ミスリルチェインが出てきた。性能云々ともに素晴らしい。持った感じ、音もし無かった。ただ――



 ――まぶし!


 発光しているわけではない。ミラーボールのように光を乱反射するのだ。エルフや人間の優男なら似合うかも知れんが・・・


 ・・・銀鮭?俺では銀鮭のコスプレにしか見えない。


 無しだ・・・


 見た目は拘らないと言っても、以外に上手くいかない物である。





「戮丸、戮丸」


 シャロンは更衣室から首だけ出して戮丸を呼ぶ。見て欲しいのだろう。眼福にもなるし、行ってみよう。実は某ゲームのMOD紹介ページを眺めるのが趣味だったりする。下手なエロ本よりいい。ネトゲの楽しみの一つでもある。


 最新作アケボノでございます。




 ――!!!


 それ!シール!


 顎が外れた。


 局部だけ隠す兵装、万有引力など知った事か!と言わんばかりに張り付く。その布も全て炎を模したかのようにシースルー。透けているように見えるが炎の揺らめきのように下は見えない。そのくせ脚や腕は盛大に覆っているすける黒地、そこに赤・・・炎と同じ色だろうがラインとなって飾り立てる。


 敵キャラで炎の精霊とかで出てきそうな格好をしたシャロンがそこにいた。


 頭に真っ先によぎった言葉は《痴女》

 口に出すのは本能が危険を訴え辞めた。


 ギリッギリッだった。




 MODのホームページなら画像を保存してガン見だが、悲しいかなそれが出来ない戮丸。

 驚くべき早業で、―――視聴者がいれば苦情が出るレベル―カーテンを閉じた。


 シャロンは首だけ出してこう聞いた。



「興奮した?」

「やめて下さい、オネガイシマス!」

「せくしー?」

「だから!俺にとっては拷問だといっただろうが!」


 自分のいたずらに満足したのか、シャロンの頭がカーテンの向こうに引っ込む。

 心臓に悪い。股間は反応しなくとも心臓は苦しくなるんだな。


 シャロンはまだ見せるものがあるのか?もそもそと着替えている。

 手持ち無沙汰になった戮丸は視線を壁に這わせある一転で止まった。


「あれは・・・?」

「あれは、厨二装備ですね。職人が冗談で作った品です」


 革ジャンのような仕上がりのレザーアーマー。特筆する点は左腕が金属鎧で覆われている。完全に金属鎧ではなく金属鎧風プレートが、補強素材として使われている。


「羽織ってみていいかな?」


 戮丸の提案は店員に快く承諾され、壁から下ろされる。プレートはイミテーションではなく実用に耐える作りだ。現実ではないのでイミテーションの必要はない。


 腕を動かし可動チェックをする。職人魂か?干渉はまったく無い。音もしない。無理にさせようとすれば音がする程度だ。魔法はかかってない。が、製作精度がいいのか+2相当。


 ――冗談で作った?

 ――いや、冗談だからこそ本気を出した作りか?


 需要が発生しないものは作れない。高級革製品などがそうだ。普通の戦士ならいかに良くても革製品は使わない。お洒落着なら話は別だが、実用品だ。

 だが生産するほうにも、試してみたい技法やノウハウがある。


 片腕だけガードプレートなどまず使いこなせない。シーフには邪魔だし、戦士には貧弱すぎる。

 わき腹を叩くと固い感触が、レザーに見せてラメラーか?ラメラーというのはレザーの下地に金属片を縫込んだ防具。小さな板を連結させて作る事もある。


 だが、これはレザーだろう。要所要所にしかプレートが入っていない。可動範囲を重視している。使う側からすればスカスカにも見えるが、そこ以外の部分は殆ど攻撃を受けない。


 使いこなせれば、費用対効果はすさまじいだろう。使いこなせればの話だ。


 ――買いだ。


 この鎧の名前は――


 【孤独の怨嗟】


 ・・・厨二アーマー・・・

 そんな所で厨二じゃなくていいのよ?




せくしー?

絵師さんが付いたら楽しみな回です。アニメだったら神業レベルのチラミセダロウナ。


20160206 編集加筆

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