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AT&D.-アタンドット-  作者: そとま ぎすけ
第一章   ストライクバック
1/162

プロローグ:ワーストデスダンジョン


 【アタンドット】って、知っているか?

 ――ネトゲのか?


 この二人はゲーマーと呼ばれる人種だった。

 過去形である。


古くからのゲーム好き。

 昔は熱狂していたが、そんな情熱も年月はこともなげに枯らしていく。

 当然、あらがう者もいる。だが、その行為自体に価値を見失っていく。

 【枯れてしまったもの】を「枯れてない」と叫ぶ心のむなしさが、毎日の生活の中で風化していく。


 そして、思い出話の中にのみ咲く花として、愛でていくのだろう。


 そんな共通の認識の中、家庭を築いた男の口からこぼれた言葉は意外だった。



「なんでまた酔狂な?」



 アタンドット。世界初のフルダイブ型ネットゲーム。

 【MMO】というらしいが彼らに合わせRPGと呼ぼう。

 

 フルダイブとはネットに直接神経をつなぎ仮想世界のキャラクターを操る。というより潜る。

 見るもの聞くものは仮想世界のものになる。操るといった主観は消え果て、その世界を実体験するシステム。

 そういった創作物はすでに多く出ていて、現実がそれに追いついた。




 そのニュースは、彼らのような枯れたものでも興味の対象になる。

 発売前はネットでも騒がれたが、開始後そっと喧騒は消えた。


 少なくとも彼にはそう見えた。



 予想通りに。

 ゲームの実体験は夢に見るほどいいものではない。そのことが簡単に想像ついたからだ。

 単純に移動だけとっても、通常の歩行じゃ遅すぎるし、走り回るとなればその距離は相当なもの。

 かんがえただけでも――なえる。


 リアルなら良いというものでもない。

 しかもゲームをするには手術を受けなくてはならないし、生活に必要がない。【最先端医療】・・・そう聞けば耳触りもいいが、どんな不具合が待っているかわかったものではない。人柱が足らないのだ。


 この辺が敷居をさらに引き上げている。

 それが普通にわかるだけに、彼には疑問はさらに募る。

 それがわからない訳ではないと思うが・・・


「こう書く」


 さらさらと紙にペンを走らせ、それを見せる。その顔には確信の笑みが浮かんでいた。

 そのアルファベットの羅列をみて、理解した。


 【AT&D.】


 口角が引きつるのがわかった。

 来るはずのない召集令状。


 どうやら俺は戦場に帰らなければいけないらしい。




 ――彼は去った。




 部屋には、呆然と壁を見つめる男が一人。

 白い壁を時折、指でこする。

 男の首から伸びたケーブル。

 それが刺さったルーター(かたつむり)は忙しく明滅を繰り返す。



 ふと、レビューを見つけた。


「ようこそ!デッドマンズワンダーランドへ!」

 ここでの情報はこれだけのようだ。

 これで十分だ。

 十二分だ。



 アラームがダウンロード終了を告げる。




 ――ああ、行こう。





 ――死にに――



 男の顔には狂気じみた笑みが浮かんでいた。





     アタンドット

  一章 ストライク・バック


          作:外馬偽介そとまぎすけ




「ほっ・ほっ・ほっ」

 リズミカルな息遣いが、真の闇の中 ――場違いに響く。

 音だけで聞けば陽気とも取れるが、音だけしか聞こえない真の闇では実に奇妙に響く。


 彼の動きに迷いなどなかった。

 視界は温度が見られる故に薄暗いが、はっきりと洞窟の内部を見渡せる。


 ・・・こう見えるのかと感心した。


 昔テレビで見た極彩色の映像は、温度量を把握しやすいようわざと着色しているという説明を思い出す。こんな洞窟でも温度は存在する。その温度差は色ではなく、光の強度となって映っていた。

 白い闇、モニターの輝度を最大限引き上げた状態の黒い部分。実際にはグレーだが、認識としては闇。そこにモノクロの画像が浮かび上がる。赤外線は温度に比例する。清水で濡れた鍾乳石などが発しているモノではないが、ドワーフ自体が強烈な光源として作用する。ゆえに真の闇でも見えるのだ。ネズミでもいれば、その周囲はポウッと光って見えるだろう。


 斜度は最大10度くらいだろうか、上るにも降りるにも気を遣う。何より平坦な場所がない。さらに崩れかけた鍾乳窟、普通であればそれでも足は鈍る状況だが、彼は意にも解せず突き進む。

 その疾走感を楽しむかのようにだ。


 視界の精度が上がり色づき始める。本物の光源が近づいてきたのだろう。

 この先、道が交わる先にいるな。そう感じた彼は息を殺し、速度を上げた。


 ――思考すら介在していない。

 ――忍び足をする気配もない。


 ――視界に入った。


 ――ゴブリンだ。


 こちらには気づいていない、後ろを気にするそぶりは――

 ――後続がいるな。


 ――ドッ


 衝突した。そして絡み合うように転んだ。


 彼の視点ではすべて意図したこと。前回り受け身に人を巻き込んだようなものだ。

 足を刈り、抜いたナイフを四肢どれか(気にしてない)の付け根に押し当て、そのどれかをむしり取りにかかる。    

 もちろんそれは回転を制御するための動きであり、ちから

 その最中、視界の隅で後続を確認。


 ――二つ。


 むしり取りの抑える力(肘)を開放し、まだ切れていないそれ(●●)を振り回す、その行為は立つためのモーションも兼任している。そして、それ(●●)を後続に当たるように離すのは難しいことではない。

 それ(●●)は、後続の二人を巻き込むコースだ。


 ――僥倖ぎょうこう


 ついでに投げたそれ(●●)だが、首が取れかけていた。


 着弾などは確認しない。


 体当たりで追撃。

 今度は武術家の行う動きである。

 ――体の間にナイフを縦に置いて。


 ナイフは柄まで貫通し、死体越しに絶命させる。


 ――あと一つ。


 巻き込まれた生存者は、頭を振って立ち上がろうとした。

 理解できなかったのだろう。理性を取り戻すための無意識の行動。


 だが、それがいけなかった。


 ――致命的だった。


 裏拳が飛ぶ。命綱の正気に、しばしの暇を与える。

 つぎに正気に戻ったのは仲間の盾が、彼の頭蓋をかちわる直前だった。

 殺戮者が使用したのは被害者の円盾。それは腕を通して使うものだったので、被害者ごと使用した。

 その事からも哀れな最期の被害者が混乱していた時間は、1秒に満たないごく短い時間だったと思われる。


 今となってはどうでもいいことだが。




 そして、彼は首を落とす。


 1個目はナイフで落としたが、その作業は思いのほか難航した。

 骨の間にうまくナイフが入らないのだ。


 ――ごりごりごり


 それに懲りて、残りの2個は拾った斧で落とした。

 落とした3つの首は目立つ岩の上に並べて供えた。


 両手を打ち、ペコペコと拝む。

 ――二礼二拍手一拝だったろうか?

 それの出来の悪いパロディのようだ。



 そして、戦利品をまさぐる。

 ――儲けは悪いようだ。


 立ち去る前に思い出したように戻る。

 彼はゴブリンの耳をそぎ落とし、それを袋に押し込んで立ち去った。




 ――そんな彼も死ぬことになる。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――倒したと思った敵に、文字通り足を引っ張られた。

 バランスを崩す。そこに有象無象の剣が刺さる。たまらぬ痛みに悲鳴を上げ虚空に手を伸ばすが――

 ――それも斬られる。


 ここで勝ち誇ったり、舌なめずりをしたのなら、逆転の可能性もあったのだが、滅多斬りではどうしようもない。

 中には急所を避ける動きが見られるが、それは意味をなさなかった。



 ――彼らは死に物狂いで殺した。


 そのせいか絶命まで意外と時間がかかった。




 ――いい気味である。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――超最悪チョーサイアク

 カタカナで書くべきだったか?


 時代遅れか?

 ――そんな言葉も、意外と出てこないものだ。


 本当に何も見えない。


 真の闇は彼女にとって初めての体験だった。信じられないほどの真っ暗。自分の指さえも見えない。

 当たり前のことだが、そんな思考が彼女を支配していた。



 こんな場所でも意外に情報は多い。耳をすませば息遣い、足音、衣擦きぬずれ、空気の流れる気配、時おり聞える戦闘の音、断末魔の叫び、濡れた足場。


  何かしらやりようはあるのだが、彼女はそれらを拒絶してしゃがみこみ嗚咽をこぼしていた。


 ――これはゲームだ。


 だが、生まれて初めてのフルダイブ。

 最大の差異を確認できるはずの映像が無い――ダウンしている。


 しかもそれを確認する前にだ。

 泳ぎの達者なものでも、水に入ったとの情報を与えず水に転移させれば9割方溺れる。

 息のつもりで水を飲んでしまうのもあるが、まず水面の方向が分からないだろう。

 

 彼女の狼狽ぶりは致し方ないというもの。


 首をしきりに抑えている。自分の首を絞めているように見えるが、声を絞り出そうとしていた。


 声を絞り出そうと思いっきり首を絞めれば出るのは呻き、それが成果のように感じ必死で自分の首を絞める。

 もっと音を出そうと――


 一時的なパニックの症例だろう。

 呻きすら出なくなっても力を緩める気配は無い。


 内臓を引きずり出し握りつぶせば、こんな表情になるのだろう。


 目をそむけたくなる光景だ。


 しかし、ここは真の闇。

 その姿さえ闇に包まれ、それを幸いと呼ぶには皮肉が効きすぎているがだれの目にも触れることはなかった。

 



 大口開けてパニックを起こしているドワーフを除いて・・・




 ・・・えらいこっちゃ・・・




 どう鎮めるべきか?

 声をかけてみた。肝試しのようにならないように、大きすぎないように滑舌をはっきりと。



 失敗。

 それどころではないらしい。困った。




 火を起こしてみた。

 失敗。気づいてない。火を見ようともしていない。

 自分が固く目を閉じていることに気づいてないのだ。


 ――困った。




 残る手段は・・・


 ――大声を出す。

 ――肩に手をかける。


 二択だ。ドワーフには現状がわかっていない。

 わかっているのは恐慌状態だということだ。それとほおって置いたら彼女は死ぬ。自分の首を絞めて自殺は出来ないのだが、その真偽を確かめる気にはなれない。


 犯されたのかもしれない。

 昔そういう人を道で拾ってひどい目にあった。


 放っておくという選択肢も実はあるのだが・・・


 ・・・彼には二択だった。

 

 意を決して肩に手をかけた。

 

 !!!

 

 筆舌に尽くしがたい絶叫。慌てて掴んだ手に力を込める。ここで手を放すのはあまりに危険すぎると本能が告げている。

 彼女の名誉のために内容は記せないが、めちゃくちゃな暴言を吐きながら叩く、殴る、引っ掻く、噛み付く、見事なまでのバーサーク。


 そんなゲームがあったなぁ。閑話休題。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――薪が爆ぜる。


「落ち着いた?」


 コクリと頷く。

 どこかぎこちない笑顔でドワーフは相槌を返した。

 ――顔の引っかき傷を撫でながら――


「まずは、自己紹介だ。俺の名前はえず【あ】が四つで《ああああ》。ドワーフだ」

えず?」

「宿で変更可能らしいからね。呼びづらければ《アーさん》とでも呼んでくれ」


 ・・・ずぼらな人らしい。


「で、お嬢さんは?」

「高月夏樹です。群〇銀行伊勢〇支店窓口に配属・・・」

 アーは夏樹の言葉を手で制し「個人情報」と呟いた。

「あっ!」

「あなたの別嬪さんのお名前は?」と再度訪ねた。聴かなかった事にしたのだが、夏樹には全く効かなかった。

「あー・・・」

「はい?」(←アーさん)

「同じじゃ・・・だめ・・・ですか?」


 ・・・勇者の降臨である。太陽万歳。またの名をお手上げ。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「ベテランさんなんですか?」

「プレイ初めて5時間でベテランとは言わないねぇ」


 薄い無精ひげをなでながらそう言った。

 パイプでも加えれば素晴らしく似合うだろう。


 この男アーは短髪に無精ひげ、すべて銀色――というよりも白髪。体格は良くそれに比べて背は低い。成人男子としては・・・だ。

 いわゆるガテン系。これで身長がもう少しあり、鋭い目つきをしていれば好きな人にはたまらない美中年なのだが――


 愛嬌がありすぎる目元がすべてを台無しにしている。服装はレザー。ライダースというよりも綿を抜いたレザージャケットを要所要所で絞り込んでいる。


 質実剛健、巌の如し。ただ、目元は好々こうこうや。それがアーという男の第一印象だった。

 

「辞めかた知りませんか?」

「――辞めかた?」


 意外な質問に面食らった感じだが――聞き入れてはくれたようだ。

 壁を指でこすったり。試行錯誤をしている。


 ――あれはサポートボードを操作する仕草だ。


 サポートボードは首に埋め込まれた端子のおまけ機能で、ある一定の平面物をタブレットパソコンのように使えるというもの。実際は脳に直接投影される。


 そんな仕草が現代人だと安心できた。


 それを見て自分でも同じようにサポートボードを起動させてみるが、反応はない。


 アーさんも同様のようだ。


 板のサイズ不足か、起伏が大きすぎるのか、それとも模様が認識を阻害しているのか?

 アーは荷物を広げ、いろいろ試しているがかんばしくないらしい。


「・・・わかんないね・・・どうやるんだろ?」

「それじゃあ、どうやって帰るんですか!こんな所に閉じ込められて!」


 この辺がフルダイブの厄介なところで、コントローラーを放り出すと言う訳にはいかない。


 フルダイブ中は自分の体、リアルボデイは動かない。眠っているような状態である。

 ケーブルを引っこ抜く・電源を落とす、などの強制終了手段はあるが、すべて外部の人間の手によるもので自分ではできない。


 それを題材にした小説・ゲームは山ほどあるのだが・・・


「少なくとも電脳神にはならなくて済むシステムのはずだから、心配する必要はないと思うよ」

「電脳神?」

「ケーブル引っこ抜いても帰ってこれないっていう怪現象・・・オカルトだよ」


 顔が蒼くなる。


「ああ、テレビの中から貞子が出てくるくらいのオカルトだから・・・それに薄々理由はわかるし」そう言ってアーは頭をかく。


 (もっともそれぐらいのオカルトだったら起こってしまったら対処方法がないんだが、このことは黙っておいたほうがいいだろう)


「――わかるんですか?」


 ――少し落ち着いたようだ。

 

 

「まぁね。このゲームは初めてだけどゲーム歴は長いから・・・」

「・・・達人・・・」


 (・・・達人?・・・RPGの達人って何だろう?)


 そう言ってアーはポケットをまさぐり、話を続ける。


「このゲームの開始状況がまずありえない。いろいろ知っているが、これはトラウマ級のオープニングだ。俺も暗視もちのドワーフじゃなかったらどうなっていたか・・・」

「そうなんですか?」


「ああ。今までの最悪で離島スタートかな?途方に暮れたよ。ドラゴン強襲なんてのもあったが・・・これに比べれば笑い話だ」

「なんでそんなことを・・・」


 ・・・するんですか?との疑問を口に出す前に、喰い気味にアーは説明を続けた。


価値観かちかんの破壊だな。ゲーマーは慣れてしまうからね。他のゲームの感覚を持ち込んでしまうんだ。うまく言えないが、ブティックのような店で実はお化け屋敷だったなんてのは、トラブルの原因にしかならないし、ユーザーも困る」

 

「・・・うん?」


 アーの説明は意味不明だった。ブティックのようなオバケ屋敷など有る訳が無い。

 しかし、説明は続く。


「そこで一発ドカンとやらかして、そのゲームの常識に引きずり込むんだ。ここでならダンジョン探索に明かりは必須ってこと、明かりの有る無しは探索自体をあきらめるか?レベルの大問題ってことが身に付くし、明かり無しでダンジョンに突っ込むような輩にはその感覚では通用しないってことを学ぶ」


 アーの説明は要領を得ないが何となく判った・・・様な気がした。


 ゲーム序盤はイージーモード、手加減をしてもらうのが当然で、チュートリアルが当たり前と素人は考えるだろう。

 ただ、生まれて初めての探索は、その人の人生でも屈指の危険度を持つ。常識で考えれば判る事だ。


 どちらも十二分にある事、理に適っているが――


「でも、これってひどくない?」

「うん。ひどい。――効果は抜群だ」


 実に楽しそうだ。


「で、その場でログアウトできたらクソゲー確定だろ?」

「うん」


 すでに確定してるといわんばかりの顔つきだ。


「ワンパンKOされる程度の人間は正直いらないが、それじゃ困る」

「なぜ?」

「これはゲームだ。楽しむものだ。ジェットコースターの最初の登りでリタイヤされたら商売は成り立たない。ジェットコースターは好き?」


「ふ・普通に乗れるけど・・・」


 ――嘘が下手だ。


「登りは普通に怖い。俺だって身構える。ただ、それが全てじゃない。途中下車なんてありえないのはわかるな。それと同じだ」


 ジェットコースターの途中下車・・・怖い以前に危険である。新聞の一面を飾るくらいに。

 

「じゃあ、この洞窟を出られれば・・・」

「ログアウトできるだろうな。ステータスもまだ開けないし・・・」

「すぐ出ましょう!」


「頑張って」

「・・・え?」

「応援してるよ」


 理解できないらしい。


「助けてくれないの?」

「いや頼まれてないし。ここからちょっと行ったところで、惨殺されたんだ。だからその辺も調べてリベンジもしたいし・・・」


 物騒な発言が飛び出る。


「そこの道をまっすぐ行けばたぶん出られるよ。ボスがいるけど。脇を駆け抜けてもいいし、崖になってるから突き落とすってのもありだな――」


 フリーズ


「そろそろゴブリンの巡回が来るよ。物陰に潜んでやり過ごせばいい。がんばって」

「頑張って」の一言が頭の中でエコーし続ける。


 つまりこの男は殺人を犯せと言っているのだ。こともなげに。


 出来るはずがない。

 無理。

 不可能。


 電車待ちで列の前の人を突き飛ばせばいい。そんな行動は可能ではあるが不可能だ。


 この男は異常者だ。


 いや、ゲーマーというのはすべて異常者なのか。


 何が楽しい。

 理解できない。

 殺人ゲーム。

 くだらなすぎる。


 こんな洞窟に嬉々として飛び込み、殺戮を繰り返し、あまつさえ殺される。それが楽しい?


 

 ――頭おかしいんじゃないの!?


 

 思わず言葉が口から飛び出した。

 言葉は罵倒だ。


 その手は相手の手をしっかとつかみ、その大きな瞳は相手をしっかりとにらむ。大粒の涙がこぼれる。

 それは恐怖のせいで出たそれではないだろう。


 理解して欲しいと懇願するかのように――


 何もかもがあべこべで出鱈目。




「――ついてこい」


 その言葉は冷たく響いた。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――岩棚の上にそれはあった。ゴブリンの首だ。

 アーは周りを見回す。


 ネズミの頭骨だろうか・・・


「・・・何?」


 思いっきり吐いた口を拭いながら問いかけた。


「お供え物・・・だろう。地下じゃこんなものしかないんだな」

「――誰が?」


 当然の問。


「それもゴブリンだろう。そんな感情があるとも思えんが・・・」


 そのゴブリンは俺を殺した一団だろう。

 確か5匹だったはず・・・合流したか?


 何人かが分かればいいのだが、そうもいかない。足跡は洞窟故に発見できなかった。熟練者はこういう場所でも岩の削れ具合や、小石の散乱具合で判定できるらしいが、素人のアーの目には何も映らなかった。


「――見ないほうがいいぞ」


 ゴブリンの頭骨からまだ無事な方の耳をそぎ落として、血を払ってからポケットに入れた。


 そのままポケットをまさぐるが、ここにはタバコがないことを思い出しやめた。

 

 二人は暗い洞窟を進んでいく。

 明かりはアーの持つ松明だけで女はそれに付き従う。


 明かりがあると暗視能力の妨げになるという懸念もあるが、彼の目には支障はなかった。実際の光が届く範囲は色が付き、後はモノクロ――というより影のない線画に近い。

 



 ふとアーは松明を落とし、物陰に女を引きずり込むと「シッ!」と小声で指示を飛ばす。

 その手は工業機械のように頑強で抵抗の意思もわかない。


 明かりが増えてきた。

 甲高い濁った声がする。


 アーは石を投げた。

 砲弾のようなそれは視界外で岩壁を砕いたようだ。


 濁った声は騒ぎ立てる。

 哀れとも取れるその声は怯えだろうか。


 ただ、興奮状態だということはわかる。




 『・・・ゴブリン語か』


 アーの口から言葉がこぼれた。

 アーは次弾を投射し、慎重に様子を伺う。


 先ほどより遠いところから音が響いた。普通に無視できない音だ。

 だが、ゴブリンは音を追ってはいないらしい。声の数が減ってない。


 アーの手から3射目は発射されなかった。


 ――緊張状態は続く。



 しばらくして、足音が増えた。


 声から怯えの色は消えていた。その中に一際大きな声が響く。

 鬨の声だろう。追従は続き、大きな地鳴りを残し去って行った。


「もう大丈夫だ」


 松明に明かりを灯した。新しいものだ。


「行くぞ」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 

 ゴブリンのねぐらを見つけた。

 ネズミの死骸が串刺しになりぶら下がっている。


 見つけるたびに「ヒッ!」と女は小さな悲鳴を上げたが、アーはそれに取り合わなかった。


 ポケットを確かめると切ったはずの耳は消えていた。


 周囲を警戒する指示をだしたが、変化は訪れなかった。


 アーはひとしきり物色するが、目ぼしいものは見つからなかった。


「――うんわかった。脱出しよう」


「何が分かったの?」

「説明は後だ」


 二人はその場を後にした。





「多分このダンジョンにいる敵は2種類でゴブリンとホブゴブリンだ。ホブゴブリンはこのダンジョンのボスだろう。」


 厳密にはモンスターを識別できないが、それに近しいものと推測している。


「でゴブリンの総数は15匹。いま、それがまとまって行動している。遭遇したら勝ち目はないが、その分迂回しやすくなった。暗視能力は無い。斥候を飛ばして本体が追従する形だ。迂回はそれほど難しくない」

 


 このダンジョンは円形に繋がっている。それはこれまでの調査で分かっていた。ただ、階層という概念はない。平たんな場所は皆無で、高さのズレが激しい。


 さらに行き止まりの支道が無数にあった。人の通れる。という条件を除けばまさに無数だ。


 蛇や蜘蛛といった定番の脅威に遭遇していないのが救いといったところか・・・

 


 アーがここで気付いた情報は『敵は死ぬとリスポーンする』


 ゲーム経験者なら当たり前な情報だ。その周期が味噌なのだ。


 普通のゲームでは敵を倒せばすぐ消える。しばらくしてからリスポーンする。しかし、アタンドットでは敵は死体になって残る。そして消えてからすぐにリスポーンするのだろう。


 つまり、彼のとった奇行には理由があった。


 まずは、マーキング・・・道しるべ。

 次にその場所の安全確認。死体がさらしてある場所は比較的安全なのだ。

 そして、奪った耳は敵のカウントと状況把握。


 自分も死んで、奪取した耳はすべてロストした。総数の把握は断念せずにはいかないが、最新の耳を確保しない訳にはいかなかった。


 彼が、なぜ耳を集めたかといえば、西部劇でのインディアン討伐の際に行われた蛮行という知識もあったが、牙や頭骨はそのまま換金アイテムや素材になって残る可能性がある。というよりも他のゲームで見たことがあるからだ。


 お供え物は予想外の収穫だった。


 歴史にのこる蛮行は、彼らにとってもまた蛮行だと分かったからだ。

 鎮魂を意味する行為だったのだろう。埋めてやればいいのにとも思ったが、ダンジョンで土葬は――無いな。


 その事から、アーは推察する。このゲームには『ヘイト』は存在しないんじゃないだろうか。いや・・・そんな生易しいものじゃない。《怒り》や《憎しみ》が存在する。


 つまり、感情があり思考が存在するんじゃないか?


 ヘイトというものは憎しみのパロディだ。普通のネットゲームには採用されているシステム。

 ワザとヘイトを集めるスキルはゲームの根幹をなす鉄板スキルだ。

 これがなくなったらゲーム継続が困難なプレイヤーもいるだろう。戦略は全部刷新しなければならなくなる。


 つまり、他のゲームの常識は通用しない。

 

 これで彼らの行動パターンの変化に説明がつく。アーは同時に3体までの敵は倒してきた。しかし、5体の敵に惨殺された。


 ゴブリン側から考えれば、そんな脅威が存在する。彼らは対策をとった。


 今までの体勢では各個撃破は免れない。彼らは数で対抗する方法を選んだ。

 総勢を一カ所に集め斥候を飛ばしながら掃討する。

 ほかに方法は考えられるが・・・妥当な方策だ。


 こちらもリスポーンすることを経験測で知っていたのだろう。

 戦い方は変化する。


 ――アーにすれば戻るともいえる。

 攻略法は存在しない。見つけた瞬間、賞味期限が終わる。情報封鎖で延命を図るもいいが・・・愚策のみが唯一の活路になる可能性もある。

 既知にして未知の戦場に戦慄を覚え、気が付けば乾いていた唇を舌で濡らした。

 そして思い出す。

 酷い事はやめよう。かわいそうだし・・・




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 高月夏樹は銀行員だった。受付業務を拝命した。


 いつも通りの配置である。自分の容姿にそこそこの自信はあったし、それで天狗になるほど人生経験も貧弱ではない。


 つまり、自覚のある美人さんである。


 彼氏がいた。ゲーム好きの彼氏だった。彼氏の言う言葉の意味は分からないが、楽しげに話す彼が好きだった。

 その口ぶりでは達人らしい。ランキングに載ったとか、名作がどうのとか・・・


 暇を見つけてはデートした。頻繁に誘うので最初は渋るが、すぐに機嫌を直す。レストランの料理に遊園地のアトラクション、映画、一々大げさなリアクションで返してくれるところが可愛い。


 それに比して出費も嵩んだ。自分も十二分に楽しんでいるので不満はない。



 ――幸せだった。



 嵩んだ分の出費を補う為にも労働に勤しんだ。仕事は忙しいがそれだけ手応えもあり・・・


 何事にも終わりは訪れる。


 予兆はあった。というよりも、はたから見れば、うまくいってる方が不自然だった。かみ合わない会話・趣味。生きる速度すら違う、うまくいくはずがないと周りに言われるが、それでも自分たちは特別だと思っていた。


 ただ、(かたく)なにそれを無視した。



 ――そうだ旅行に行こう。



 どっかで聞いた言葉だ。ボーナスを全部掃き出し・・・それでも・・・貯蓄もした。残業も率先して務め、その態度にこたえるように職場は深い所を教えた。

 仕事はこの上なく上手くいっている。楽しいと思いもした。時間と仕事量を引き換えに計算するようになった彼女には、彼氏との楽しい時間は急速に色あせた。


 が、出会ったころの輝きを取り戻そうと彼女は《労力》を絞り出す。


 ――悪循環は止まらない。


『旅行にさえ行けば・・・』


 そこで何をどうするの?と問いかけてくれる友人がいれば・・・それでも無理か・・・

 破局はあっさり訪れた。


 「ゲームをやる時間が足りない」


 そんな理由で振られたのだ。


 この時点で残念な彼女だが、それ以上だった。


「おじさん、一番難しいゲームって何?」


 そう彼女は振った彼氏を見返すために、ゲームを始めたのである。

 ――あくまで彼女の談。

 さらに不運は続く。

 

「アタンドット」


 よりによって最悪のアンサー。

 設備投資に金はかかるし、オープニングはトラウマ級。痛みは1:1の割合で再現される。まかり間違っても完全な初心者、いや、無経験者がやっていいゲームではない。

 当のおじさんも話のネタくらいにしか思ってないんだろう。


 ――勢いは大事。


 取りあえず、そんなこと言ったバカ連れてこい、ぶん殴ってやる。


 それが掻い摘んで聞いたアーの感想だった。


「・・・ところで・・・なっちゃんと呼べばいいかね?」


 アーは(こうべ)を垂れながら聞いた。


「いきなり下の名前で・・・」

「それ、リアルネームでしょ。これネトゲ」


 状況を把握したようだ。


「・・・まずい・・・ですか・・・?」

「かなり無謀・・・宿屋で改名コースだな・・・」


 名前が表示されないのが幸いした。


「取りあえず、別嬪さんはログアウトが目標。念の為、改名できる所についたら即座にすること。即時引退でも、痕跡は残る可能性はあるし・・・個別SNSとかログとか」


「・・・ん・・・」不承不承納得する。


「で、俺はこの難易度が気に入ってる。予想以上におもしろい。記念すべき初プレイを引退希望者に付き合って駆け抜けるのは、ちょっとありえねーんだわ」


 このアーは熟練者だ。このゲーム自体は初めてのことだが、行動に迷いがない。

 たぶん、山で遭難した時でも彼なら安心してついていける。そう思わせる雰囲気をもっている。それだけに残念な申し出だった。


「そこで歩み寄りが必要なわけだ」

 ?


「パニックに陥った人間を放置プレイできるほどレベル高くねーよ」

 !


「このダンジョンの探査はほぼ終わっている。未探査はボス周辺・・・で、たぶん、このダンジョンにお宝が眠っている。それも特大級の・・・」


「うっそぉっ!何を根拠に」


「うだつの上がらない中年男のカンです。というのは冗談でよくある手、何だわ」

「5時間・・・いや6時間になるかな?潜っているが再エントリーする奴は見かけない。出口から出て帰ってくるやつがいない。どいつもこいつもパニクって命からがら出ていく。それも頷ける」


 考えられるのは、そこで死ぬか、脱出した。死んだらリスポーンするから可能性は薄い。

 俺と同じ考えの奴もいただろうが、それなら態勢を整えて帰ってこないのもおかしい。

 つまり、ここには戻ってこれない訳だ。


 で、そうなるとここにちょっとシャレにならないレベルのお宝が眠っている可能性がぐんと跳ね上がる。

 そんな馬鹿なと反論しかけるが、そういうゲームだと釘を刺される。


「お宝はある。そういうゲームだ。じゃあ、どこに隠す?」

「そんなことのためにこの洞窟に?」


 ――残留した?


「無いことの証明ってのは時間がかかるもんだ」


 言いえて妙である。

 実際、今、自分の中でも天秤は脱出に傾いている。が、その傾きが強ければ強いほどお宝の予想金額は・・・重みは・・・加速度的に跳ね上がっている。


「まぁ、金塊の山ってのは行き過ぎだろうが、ユニークアイテム・・・くらいは期待できるな」

「そんなパーティグッズは・・・」


「ゲーム全体で一個しかないアイテムをユニークアイテムっていうの、映画とかでも良くあるだろう。【始まりの指輪】とか【アーサー王の剣】とか・・・ラスボス一撃って威力じゃなく、使い勝手が半端なくいいって感じのな」


「始まりの指輪って呪われたアイテムじゃなかった?」

「透明化無限回使用可能だぞ・・・」


 ・・・詳しい。


 ちなみにアーサーの剣は威力も去ることながら、壊れない、推定だが光る。さらに完品なら持ち主は不死身・・・出血しなくなるそうだ。出鱈目である。


「・・・すごい。ってアーさんは、どんなものを期待してるの」

「そうだなぁ。最強クラスはまぁ無いにしても、無限に旨いものが出てくるテーブル掛けとか嬉しいな。食費がかからなくなる定番アイテムだ」


「うっわ小市民」

「高級タラバガニ食べ放題ボソッ


 ・・・うっ・・・


「カニとかってあんまり・・・嬉しくないし・・・アレルギーあるし」

「A5等級松坂牛食べ放題ボソッ

「た・・・体重が・・・」


「・・・で、太らない」


 !!!!!!!!!


「ま、まじで・・・」

「逆に聞くがどうやって太るんだ?アバター自体は太る可能性はあるが、むしろ本体は餓死する危険性があるというのに」


 コンビニ弁当が口に合わず餓死。ゲーム社会が落した光と影。そんな新聞の見出しが頭をよぎる。


「ここじゃ、アレルギーも関係ないし・・・カキにあたって死にぞこなった経験がある、って場合はその限りじゃないだろうが」

「リアルの食事代も浮く可能性がある素敵アイテムを、想像もしないで小市民とな?」


 このドワーフ策士である。


 つばを飲み込む。

 確かにそこにあった味覚。

 何かが音を立てて崩れた気がした。


 たぶんそれは常識というのだろう。今はもういらないものだ。


「ま、一日三食が限界だろうな。じゃなきゃレストラン開いたら一生安泰だし、経済バランスを崩しかねん。だがそれを考えれば十二分にあり得る」


「今すぐ探しに行きましょう」

「夢を壊して悪いがそれそのものがあるとは言ってない」

「えー」

「ま、半分はな。この世界の金を出せば食えるだろうし、それで肥満になったりもしないだろ」


「ゲームってすごい」

「俺もびっくりだ」


 実はしゃべりながら気が付いた。しきりに感心する夏樹には、恥ずかしいので黙っておくことを心に決めたアーだった。


 二人の会話は盛り上がった。

 おとぎ話に出てくるものは全部可能性があるとの言葉に夏樹は驚いたが、アーに言わせれば逆らしい。おとぎ話ほどスタンダードな物はない。何でもできる魔法の道具といっても自由すぎて、想像のピントが合わないのだそうな。用意する方も大変だ。

 

 会心のマジックアイテムであってもその価値を理解できないのでは困る。


 そんなときにおとぎ話は重宝する。一言で説明がつくうえ、正しい使用例、間違った使用例、使用上の注意などは物語付きで教えてくれる。


 というより知ってる。もし知らなくとも後日知ることもできるし、よくよく調べてみると、裏話や伝えられなくなった話や後日談などが出てきて、それこそがそのアイテムに秘められたトラップだったりもする。


 アーは例に《打ち出の小槌》を出してきた。願いを叶える万能の願望器だ。


 ・・・あんななりでも。


 それで、敵にノリで「光になれー」と殴ったとする。


 ・・・これは現代の慣用句と説明を受けたのでそのまま受け流す。


 で、敵1体分の質量を光に転換した際の熱量とエネルギーは如何なものだろう?

 詳しい知識はないがそれでも、大惨事・・・いや・・・それを超えた何かになることは想像に難くない。


 「怖いね。《打ち出の小槌》」

 「ああ、取り扱いは厳重注意だ」


 ぼそりとこぼした言葉に真顔で答える。ただし、肩は震えている。

 そんなやり取りは心地よかった。そして最後に二人で大笑い。


 おかしな話だ。つい半時前までこの世の終わりのように思っていたが、今はこうして笑っている。夢物語を語り合う余裕さえある。状況は変わったが、ロケーションは何も変わっていない。

 ただ・・・


 「着いたようだ」


 そういって松明を高く掲げた。

 大きな縦穴に出た。穴の上と下は光が呑み込まれ見えない。

 穴の大きさはおおきなコンサートホール・・・いや・・・それ以上か。

 空洞音が暗闇を渡る。

 カラカラと小石の崩れる音が響く。


 この巨大空洞には橋が架かっている。橋といっても人口のものではなく、平地の両脇を抉り取ったような、壁のようなもので、幅は3mといったところか。


「落ちる心配はなさそうだが・・・いやだな・・・」


 当然、欄干や手すりのような物はないがそれではない。吊り橋のように穴の中心に向って落ち窪んでいる。渡り始めは緩い下り、終わりは逆だ。これが人工物であるとするならば、――ゲーム会社が用意した人工物なんだが、絶妙な嫌がらせと評するほかはない。

 橋はそのまま対岸の洞窟に繋がっており、そこがゴールだと分かる。


「ここにボスがいるんでしょう?」


 松明を少し掲げて「見えるか?」と聞いた。

 対岸付近に少し高台がある。そこからボスが降ってくるそうだ。

 確かに一人で駆け抜けるのも可能そうだし、突き落とすのも・・・だが、間に合わなかったら・・・転げたら、中心付近まで止まるかわからない。

 そこから落ちるか。

 正直どうなるかよくわからない。そんな微妙な空間だ。

 がむしゃらに駆け抜けるのが最良の選択だというのはわかる。


「ここが最終決戦の場で、最後の未探査エリアだ」


「この空洞全てを調べるの?」


 気が遠くなる。想像しただけでもうんざりするほど広い。空洞音が鳴ったということは見えている以上に広がっていることを意味するが、経験がそのことを教えてくれる。


「いや、そこまでいじわるはしないと思う。何かしら信号を出しているはずだ」


 このゲーム自体が人為的な創作物である以上、砂漠で一粒の砂金を探すようなまねはさせない。隠し方としては優秀だが・・・お話にならなすぎる。

 後で聞いて「しまった」と思うぐらいではないと。


「となると、どこが怪しいと思う?」

「あの・・・高台って登れる?」との夏樹の問に満足そうにうなずくと、ロープが必要だと答えた。

「じゃ・・・」


 と、問いかけようとすると、アーはすでにぼろきれをつなぎ合わせたロープ状のものを用意していた。いろいろな場所で物色していたのはこれだろう。


 高台は2.5mくらいのところにあり、アーでは・・・普通届かない。諦めるには絶妙な高さだ。

 確かに今までの情報をかんがみると宝があるのは確定していると思わずにはいられない。

 アーがクリアを渋るのは頷ける。


「たぶん、あるよ絶対!!」


 日本語がおかしい。


「まぁ、まて。これからはチームだ。確認しておきたい」

「まずは、俺はドワーフ・・・戦士だ。ボスは任せてもらおう。脱出まで殺しはしない」


 その言葉に夏樹は「え?」と怪訝な声を出す。


「手加減ってのは軽く罠だ。殺さないように全力で戦う方が安全だ。」


 半分のスピードで攻撃しても死ぬときには死ぬ。ならば、絶対死にようのない個所を全力で打ち抜いた方がいい。だから、その分酷い事をする可能性があるが我慢してくれ。との事だ。「酷い事?」との問に、首を絞めたり、肩の関節を外したりetc・・・


「いつも通りでいいよぉ」

「俺が、人体解体ショウを始めてパニックにならない自信はあるか?」

「・・・」

「で、今後は原則二人一組で動く。これはホラー映画でありがちな展開にならないため」


 この申し出は正直ありがたい。不安なのは変わらないのだ。


「で、ベッピンさんの職業は?」

「銀行員」

「そのギャグはいいから」


「クレリックって言うの?それ」

「じゃあ、回復魔法を頼めるな。思った以上に心強い・・・」

「魔法・・・ってどう使うん・・・ですか?」

「そりゃ、初めにストックしておいて・・・あ“・・・」


 ストックも何もない。レベル1クレリックは魔法が使えない。


「私・・・役立たず・・・?」

「いやいやいや、持ち物に護符があるはず、それを掲げてみ」


 言われたように、護符を掲げる。護符はヒトデを背負った十字架のような形だ。

 そしてそれは薄ぼんやりと光を放つ。


「これは・・・」

「退魔の光だ。アンデットを追い返すことがある」

「・・・だけ?」

「いやいやいや、真っ暗闇では貴重な光源だ。すごいぞ」


 あからさまに下手なフォローである。


「まあ、昔っからクレリックは難しい職種だ。いきなりちゃんと仕事出来たら俺の方がびっくりだよ」

「クレリックならあぶれないって聞いたのに・・・」

「まぁな・・・だから難しいのさ。考えなしならただの薬草って認識だ」

「そなの?」

「薬草なら誰だって買い込む。だからどんなバカでもついてきてもらいたい」

「バカ・・・」


「まぁ、どんな職種であれ、ちゃんとやるのは難しい。戦士だって荷物持ち、魔法使いはボム、盗賊はただの鍵って言われるぞ。戦士や魔法使いなんてのは効率を追求さえしてれば一端だ。あてにできる」


 逆にクレリックは全体の管理、しかもこのゲームではそこそこ戦える。魔法は回数制限。ぶっちゃけ何でもできた。

 考えなしに回復魔法をかけて弾切れになるのもNG。戦線に参加して先に死ぬのもNG。

 魔法温存して抱えて宿に戻るのもNG。何をしに来たと叱責をされる。


 厳密に仕事ができるクレリックはほんの一握りだ。

 正解は無いうえ、確かな結果は出ない。

 それでも発言力は大きい。退却指示は総じてクレリックが下すことが多い。


 止める側の作戦参謀が基本的な立ち位置だ。普通はだれもやりたがらないのだが・・・イメージってこわいね。


「できる自信ないな」

「必要ないよ。悪く言うなら、いくらでも悪く言える職業だ。完璧なんて人間業じゃない。だから、そいつの判断が信じられるか、そんな仲間が作れるかが肝になるんだ」


 そう言ったが夏樹が理解できてないことはわかった。


「じゃ、行きますか。後ろの警戒よろしく」


 ボス戦中にゴブリンの群れに不意打ちされるのが一番怖い。


「付いて言っていいの?」

「もしもの時に駆けつけられないからね。ついてきて・・・原則」


 そう言われて思い出したのか「ああっ」といって夏樹は従う。


 彼女の小さな冒険が始まった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 体育館だったかな?。何かの式が終わり片付けが始まる。

 多くの人が折りたたみのパイプ椅子を畳み運んでいく。

 中には他の人と一線を画する動きの人がいた。


 カシャンッ・・・カシャンッとリズム良く手際がいい、その姿には関心すら覚える。


 ――そんなこと思い出した。


 

 身の丈2mほどと思われるボスもアーの手によってあっけなく畳まれた。

 正座で上体を後ろに倒した格好で。

 夏樹はあまりの事態に何が起こったのかわからなかった。ただ現実感の無い光景にあっけにとられていた。


 アーは胸を左手で浮き輪の空気を抜くように押し込み、右手を鉄杭のように打ち込むと、つぶれたカエルのような短い悲鳴の後に静かになった。

 肺の中の空気を抜いてから拳を打ち抜いた。当然肋骨など保護するものはあるが、それ以上に重要機関が詰まっている。若い女性でも大の男を悶絶させる手法だ。


 「さて、片付いた。踏み台になるから上でロープ結んでくれる?」

 「あ、はい」


 夏樹はしゃがみ込むアーに駆け寄ってロープを受け取り、その背を使って高台に登ると適当な岩にその端を括りつけた。

 結んだ合図を送るとアーはヒョイっと登ってきた。


 ・・・あまりにイメージと違いすぎる。


 「ロープ必要なかったんじゃない?」


 取っ掛りもなしにこの高さは無理だよ。の答えだ。ほんとにきっかけ程度にしかアーはロープを使わなかった。


 (この人は何者なんだろう?)


 アーは気にせず周りを見渡す。つがいや家族を警戒してのことだった。ここの住人はゴブリンとは別系統のモンスターのようだ。いくつか候補が出てくるが取り敢えずコボルトとしておく、ぴったりのモンスターはいるが確か版権持ちだったはずだ。


 このゲームオリジナルの名前がついてるだろうし、意図的に生態を変えてる可能性があるので宛にしていい類の情報ではない。


「ボスって言う割には弱かったね」

「真面目にチャンバラやってたら、殺されてたかもしれんよ」

「へっ?」


 アーが言うにはこういう事らしい。柔道に押さえ込みというものがある。多分ご存知の通り、決まったらよほどの力量差がない限り解くことはできない。

 今回のコボルトは、戦闘経験はあるだろうが戦闘技術は乏しい。アーに近づいた際の位置関係が致命的な事に気付かなかったのだ。それゆえに勝敗はあっさり決まった。


 更に言えばアーが行なったのは痴漢撃退術の応用だった。胸を思いっきり押していたら、何かしらの抵抗を受け失敗していただろう。じんわりと押した。それが致命打の前準備とはコボルトも気付かなかった。


 武器を取ってまともに戦えば、パーティ一つと戦うポテンシャルを持ったボスに勝つのは至難の技。・・・完全に運である。


「武術なんて組み込んであるんだ」

「魔法じゃないんだから、重力と骨格が設定されてれば・・・」


 言いかけて説明を諦めた。重力エンジンとかボーンとか説明しても分かるまい。興味はなさそうだった。


「このゲームで新体操しようと思えば出来そうでしょ?武術も一緒」


 厳密には手ぶれ補正や、逆手ぶれ補正、1ラウンドごとの攻撃制限など・・・制約は多いのだが・・・

 ゴブリン20体以上虐殺してすり合わせた理論も徒労に終わるな。

 ため息をついて、目の前にあった洞を覗き込む。会話はしていたが注意は周囲に向いていた。


 そこは直径4m位のちょっとした小部屋になっていた。入口と正対するように洞が有り、その先から薄明かりがあった。

 そして、壁際にそれはあった。


 ――宝箱である。


 大きさは蜜柑箱くらいで金属で補強された木製の箱、蓋は空いていて中からは金貨や王冠を始めとした装飾品がこぼれている。

 絵に書いたような宝箱であるが・・・


「こ、こんなのリアルで初めて見たぞ・・・」

「す・すごッ・・・」


 ふたりは飛びついた。

 金貨1枚とっても現代の硬貨とは比べ物にならない。ゴロリとした存在感。金の塊を押し潰して作りましたとの説得力。装飾品の細工も拙いからこそメッキじゃないとわかる作り。


「なんだ?この厚さ!」


 百円玉2,3枚分はある。


「これって全部宝石?プラスチックじゃなくて?」


 ここではプラスチックの方が貴重だ。


「そうだ!ユニークアイテムって?」

「わかりません。街に戻ったら鑑定屋にいこう。鑑定料金で逆算できるかもしれん」


 興奮は冷めやらない。

 当然といえば当然だ。金貨1枚分の金塊ですらお目にかかったことがない。


「おいベッピンさん。この金貨をカネに換算していくら分の価値がある。日本円で。銀行屋だろう!」

「いっぱい。わからないわよ。金なんて仕事でも触ったことないし、触っちゃいけない危険物って思ってるもの」

「じゃあ、その危険物は俺に任せろ」

「お・こ・る・よっ!」


 一応、夏樹は金のレートぐらいは知っていた・・・が、今、この時に、目の前の代物が頭の中で同じものだと理解できなかった。


 「お金持ちだよ!!!」


 その一言でアーは正気に戻った。


 ――これは残念ながらゲームだ。

 ――ゲームなんだ。

 ――リアルでも何でもない。

 ――ゲーム。


 「・・・だが、ゲームだ!」


 それは、血の涙を流さんばかりの魂の叫びだった。

 そもそも、アーにとって端金と言えるレベル。むしろショッパイと言って良い額。ほかのゲームでは冒険の終盤ともなれば天文学的な所持金になることは余裕である。


 そして、ゲームと言った時の喪失感。


 (――どんな罰ゲームだ)


 普通に神を恨んだ。




「まだ、あるかなぁ?」


 (将来有望なお嬢さんだ・・・)


 ふたりは一旦財宝をこの場において明かりのある方に進んだ。




 天井からはカラリと光がこぼれた。

 どっかの本で読んだことがある、天使の梯子が降り注いでいる。


 湿った空気がもやとなって漂う。そこに光がさして光のラインを描き出す。これを天使の梯子というらしい。


 見えていた明かりはこれだろう。


 そこは、前の穴とさほど変わらない空間があり、明かりがあるのでその細部が浮き彫りになる。


 地下渓谷といった風情だ。


「見ろ」

「綺麗・・・」


 この景色さえも極普通に地下世界ではよく有る姿なのだろう。冒険なれしているアーでさえ、普段知っているのは知識だと思い知らされた。


「いや・・・それじゃない。アレだ」


 といって指をさす。

 それは対岸、光をスポットライトのように浴びた人工物。


「宝石!」

「いや、水晶だろう・・・彫刻?・・・のようだ」


 実際ダイヤモンドでもあるといえばある。ゲームなのだから。ただ、常識的に考えてデカすぎる。アーの背丈ほどあるのではないか?遠すぎて遠近感が麻痺している。

 ただ、まるっと持ち運べるサイズじゃないだろう。


「どうやって取るの?」

「いや・・・やめておこう・・・多分、罠だ」


 夏樹はアーの決定に異を唱える。


「いやね。両手に抱えられないお宝は取るべきじゃないよ。ここが引きどきだ」


 2m足らずのロープではとても渡れない。


「戻ろう。奴が起きても厄介だ」


 そして二人は来た道を引き返した。


 



「・・・ほかに理由があったんでしょ?」


 夏樹がそう聞いてきた。アーは何か裏事情を知っているそんな顔だ。


「んー・・・デザイナー視点で物事話すのは、基本タブーなんだが・・・」

「聞きたいな」

「んじゃま」


 このダンジョンは一人を想定したものだ。あの段差も無理をすれば登れるし、帰りは落として運べばいい。無理な話じゃない。ただ、心理の隙間を利用したお宝の隠し方だ。

 まぁ、量的にもほぼ限界量ってとこだな。持ち運べる。

 で、あの水晶は隠してなかった。


「段差自体が隠してるって言わない?」と素朴な疑問。

「段差を乗り越えた人間には隠してるとは言わない。その報酬自体は用意されていた」

「ふむ」


 まず間違いなく発見する。ご丁寧にライトアップまでされている。だから、報酬の落差を体験した人間には欲が沸く。もっとあるのではと?味をしめる。お世辞に報酬がうまいダンジョンとは言えないからね。


「ふむふむ」

「で、今度は障害の落差だ。最初のは近所の壁を乗り越える程度だが、今度は渓谷横断だ。しかも宝がある。餌がちらついてる。一人ならあれがガラス玉でも確認に行ったかもしれんが、危険すぎる」

「私のせい?」

「いや、一人なら坊主(収穫物無しの意)でも気にならないが、仲間がいるならしたくない。これであれがガラス玉で魔物の封印だったら、申し訳なくて頭が上がらなくなる」

「で、アーさんはどう見てるの?」


 アーは少し考え込んだ。


「あの形状自体が追加報酬なんじゃないか?今後あれと同じものを見れば、少なからず警戒する。まぁ、調べてみたいが、たどり着いてそこから持ち帰る手段が思いつかないし・・・そんなことよりあの宝箱を無事に下ろせるか、の方が心配だ」


「そっか。うん。納得した。で、そういう罠って多いの?」

「ああ、山ほどあるね。一番安い通貨・・・そうだな日本円に例えれば1円玉かな。それが流れ込んできて生き埋めにされる。最初は必死に集めるんだが、全部集めて安い宝石一個分の価値もない」

「死んでも死にきれないわね」


 クスリと笑った。


「でも、もうここには来れないんだよね・・・」

「サブ垢作れば来れるよ。ただ、それは俺の仕事じゃねぇな・・・そういうのは好きじゃないな。俺は次に行く」

「そう言えば次があるんだよね・・・」


 少し寂しそうに呟いた。


「ベッピンさんは引退か・・・それもいいかもしれん」

「意地悪?」


 少し膨れてアーを見返すが、その目は真剣で諦めに似た溜息混じりの顔だった。


「何か・・・あるの?」


 アーの言葉、態度には必ず意味があった。危険予測もあっているのだろう。あのまま進んだら自分には想像もつかない悲惨な事態に陥っていた。今はそう信じられる。だから、あっさり従った。


 もし、罠が何もなくて、莫大な財宝があったとしても、その話をあとで聞いたら二人で大笑いできる。そんな確信があった。


「いや、杞憂かもしれん。まずは脱出が先決。ゴブリンどももコボルトもまだ健在なんだから」

「そうね」


 そして、ふたりは暗闇で歩を進めた。




 戻れば下では、ゴブリンとコボルトの戦闘が始まっており、戦慄が走った。

 コボルト一匹でも警戒されたら敵わない。ゴブリンも数には勝てないとアーも言っていた。アーの目には狂気に似た光が浮かぶ。夏樹が見たアーの戦いぶりは片鱗だった事を思い出す。


 ・・・が


 ゴブリンとコボルトは肩を並べて逃げ出した。


「あの子達も誰が一番怖いか、学習したようですね~」


 まぁ、普通はね。


「・・・フフフ・・・怖いか」


 などと溢すがアーも地味にショックだったようだ。肩が沈んでいる。

 その後は何事もなく搬送作業が続く。


「泥棒してるみたい」


 夏樹はいたたまれない様だ。


「泥棒超えてるな。いきなり侵入して大暴れして恐怖を植えつけ、見てる前でお宝を持ち出す。強盗だな」


 そう言って親指で後ろを指す。そこには物陰からゴブリンとコボルトの1団が、ことの成り行きを見守っている。


「やりづらッ!」

「よごれちゃったねぇ~♪」


 アーの茶化しに文句を返す夏樹だが、宝を残していくという選択肢はない様だ。


 装飾品や剣は夏樹が持ち、金貨はアーがズタ袋に入れて持った。

 ズタ袋は相当な重さだがアーは平然と肩に担いでいる。


「重くないの?」

「じゃあここで捨てていい?」

「ダ・メ」


 そんなやり取りをしながら進むと、景色が変わった。




 場所が変わったというより、洞窟そのものが消えたのだ。


 Congratulations!!


 ふたりの頭上にはそんな文字が躍っていた。


「・・・クリア?」


 その後、頭上に金貨の枚数など取得した物のリストが並ぶ。


「リザルトだな・・・金貨365枚か・・・1日1枚使えってか」

「豪遊・・・?」

「金貨のレートがわからん。普通の通貨に使ってるゲームもあるよ。ゴールドって名前の通貨かもしれんけど」

「単位はgpか・・・懐かしいな銅貨はcpだな」

「じゃあ、残りは?」

「bはブロンズで青銅、sはシルバー銀、pはプラチナで白金。eはエレクトラム・・・金と銀の合金だったはず、価値は忘れた」


 エレクトラムはまず使わなかった。金と銀の合金だからその間の価値というものもいたし、逆に自然に発生する合金だから価値が高いとの説もあった。

 どうやら琥珀色の合金らしい。ここでは、プラチナと金の間に収まっている。

 その話を聞いて夏樹の目はキラキラと輝いていた。


 そして、装飾品も表示された。隣には金額が表示されている。


「ほう・・・」


 となにかしきりにアーは感心していた。


「なにか?」

「いや、それより分配だ。金と装飾品は半々。アイテムも半々の個数づつでいいな。なお、売却、換金、鑑定には手数料がかかるので注意だ」


「――いいよっ!何もしてないし!」


 いくらなんでもだ。彼女としては立場的に救出されたと思っている。しかも、引退宣言までしてる身としてお金が取られることはあっても、貰うなんて論外だった。


「貰うのも冒険者としての仕事だ。諦めろ」

「えー」


 と言いながら顔は緩んでいる。


「問題はアイテムだな。保留できるのか・・・取り敢えずそれでいいか。じゃ決定押すぞ?」

「ちょっとまって!」

「何?」


 

「お金って大事なものだと思うの・・・そのね・・・」


 アーは決定ボタンを押した。


「ああっ!」

「わかってる・わかってる・君は業突張りじゃないことはよくわかってる(棒読み)」


 頭上の表示はシャララと音を立てて減っていく。

 そして・・・


 Level up!!


 の文字が頭上で踊る。アーの頭上で2回、夏樹の頭の上で実に4回。


「すげぇな」

「これってどういう事?」


 夏樹は困惑した。何もしていないのである当然だ。


「経験値がどういうシステムで発生するかわからないが、殺しの数じゃないってことだけは確かだ。それと、滅多に見つからないイベントを俺たちが見つけたってこともな」


 なんだか嬉しかった。自分が未踏の地を踏んだ。それを証明された気がした。


 空間に扉が現れた。年季の入った扉でその向こうからは喧騒が聞こえる。


「まだ話が有るようだけど、酒でも飲みながらにしないかい?」

「それもそうね」


 二人は扉を開き喧騒溢れる光の中へと帰っていった。


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