深沢七郎、その土俗的民話小説の世界。hukasawa sitirou,The world of the ground worldly folktale novel 試論
深沢七郎といっても今ではほとんど忘れられた作家の一人だろうか?
文学自体が衰退して、今では村上春樹の「1Q84』などがブームともいえる賑わいを見せるくらいで
それ以外の文学の底流は低調である。だから、今更深沢七郎を知らなくてもやむをえないともいえよう。
さて、私が彼に接したのは、『人間滅亡的人生案内』というエッセイが最初だった。
この人はまあなんて、露悪的で斜に構えて、ニヒルなんだろうと思って、それから彼に小説があることを知り読んでみたのである。
彼の代表作は「楢山節考」「甲州子守唄」「東北の神武たち」『笛吹川」であると思う。
晩年の作品群も枯れて捨てがたい味わいはあるがやはり代表作ということになると、これらの前期作品群ということになろうか。
私が衝撃を受けたのは、「甲州子守唄」だった。今この本が手元にないので私の記憶で引用せざるをえないのだが、確か甲州の貧しい農民一家が希望を抱いて南米へ(ハワイだったか?)移住して志、事違い、絶望して帰ってくるというようなストーリーだったと記憶しているが、、、。
その露悪的な内容、そして土俗的な描写にショックを受けた、これはまるで日本むかしばなしではないか?
まるで、民話の世界なのである。
それは、次に読んだ、「笛吹川」で実証された。これはまさに民話である。時は戦国時代、
甲州武田の興亡に準じた貧農一家の生死を非常に露悪的土俗的に描いた傑作である。
これほど次から次に物語の主人公達が死んでしまうものも珍しい。
『東北の神武たち」も農家の、次・3男達の性の渇望を描いた土俗的な作品である。
長男が全て所有し2・3男はまるで作男、使用人、嫁ももらえねば、分家も出来ずただ長男にこき使われるだけ。そうした中で性の渇望を募らせていくという筋立てだった。
「楢山節考」は代表作ということになっているが、あまり良いとは私は思わない。
わたしてきには、前記の3作品が最高である。
まだ読んだことがない人はぜひ前記の3作品を読んでみていただきたい。
「甲州子守唄」「東北の神武たち」『笛吹川」「楢山節考」この4作で深沢ワールドを堪能できるでしょう。
ちなみに、以下の作品は映画化されてます。
○「東北の神武たち」市川昆監督1957年
○『笛吹川」木下恵介監督1960年
○「楢山節考」1953年木下恵介監督
これは1983年今村昌平監督で再映画化されてもいますね。
とにかく深沢七郎は異色な作家です。
私生活でも作家デビュー以前は放浪生活ですし、
作家デビュー後は
あの事件で
身を隠して逃亡生活ですし、
やっとその呪縛から解放されてからは
ラブミー農場での独居生活ですね。
まあ昔はこうした異色な作家がたくさんいた物でしたね?
どんな作家がいたかって?
まずは
深沢七郎からがそうでしょ、
それまでの放浪生活から、突然「楢山節考」で新人賞受賞。選者の三島由紀夫を驚嘆させたという。
おつぎは、、
三好京三
「子育てごっこ」でデビュー。その後その養女との確執があったりマスコミをにぎわしました。
そして、、、
森敦
「月山」で注目される。孤高の異色作家として名をはせる。
さらには、、、
胡桃沢浩司
「黒パン俘虜記」は傑作ですが、その後商業作品ばかり書いてましたね。
これらの作家に共通するのは、この代表作だけで他にはこれといって作品がないことですね?
一発やと言ったらしかられるでしょうか?
もちろん他にも、たくさん書いていますが記憶に残るのがこの作品しかないのです。
(深沢は前記の4作品が傑作ですよ)
でもそれでいいと思います。
世の中には作家志望でそれこそ有名になりたいという人は雲霞のごとくいます。
でも、結局は泣かず飛ばずで終わってしまうのです。
しかしこれらの作家たちは一作といえど傑作をこうして残せたのですから
もって冥すべし、でしょう。
それにしても、、
こういう異色作家と比べてはなんですが
大江健三郎とか
村上春樹などは
いかにも職人的な、職業作家?ですよね?
つまり作品にそつがないし、、
実に小器用に、うまく作られている。
まあ、
ワタシハ正直って
こういう職人的なうまい作家というのは嫌いですね。
八方破れの?
一発屋の
異色作家のほうが
すきですよ。