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spiral  作者: 本城千聖
11/20

spiral~one~11

「ん?」

顔だけ振り向く。

部屋の入り口。そこに二人が立って、ドアにもたれかかるようにして見てた。

何時から見られてたのか、わからない。血の気が引いて、それからすぐに真っ赤になった。

「きゃあーっ」

二人に背中を向けるようにベッドに寝転がる。恥ずかしくて、まともに見られないよ。

てっきりお兄ちゃんあたりが冷やかすんだと思って、耳を塞いだ。

すると、片手だけをソッと外されて、

「腹減った。飯食うぞ」

と囁き、お兄ちゃんはまたリビングへと戻っていった。

あたしの盛大な独りごとには、一切触れず。

気まずい思いをしながら、リビングを覗くと、

「遅ぇ!」

短いその一言で怒られた。

怒られたのに、気まずかったはずなのに、それが今は何もなくなってた。

あの冷たい部屋で味わうことがなかったいろんな感覚。

「ごめんなさい」

不思議とね、笑って謝ってた。それでも許してくれるって、どこかで思えたから。

 すこしずつ、ゆっくりとでも誰かに自分を知ってもらう。そんなこと考えたことすらなかった。必要がないと思ってた。

「そっか。やっぱ女の子だな、お前」

「やっぱりって」

二人でずっと話をしてた。

最初はどこか警戒してた、お兄ちゃんも男の子だしという気持ちは薄れてた。

伊東さんはママのことがあるからと、家に帰った。明日にでも冷蔵庫に食材を買いなさいって、お金を置いて行ってくれた。

帰る頃には素直に言えたありがとう。それと、おやすみなさい。

普通の挨拶がこんなにも新鮮に感じられたことはなかった。

「あまり買ってもらったことなくて」

そう。甘い物の話。明日の買い出しで、ひとつだけ好きなものを買っていいという話。

散々悩んだ挙句、お菓子がいいといったあたし。

「じゃ俺も、なんかお菓子にすっかな」

他愛ない話。今日初めて会った男の子と二人きりなのに、怖くない。楽しい。

今日だけ、あたしのベッドの横にお兄ちゃんが布団を敷いた。

ずっと昔から知っていたような感覚。

あんなによくしてくれた伊東さんより早く、お兄ちゃんと呼べた。

年が近いから? うーん……なんだろう。わかんない。自分の感情なのにね。

「今度でいいから、お兄ちゃんの話も聞きたい」

自分を知ってもらって、嬉しくて。今までの自分を認めてもらえたのが幸せで。

あたしはすこし、調子に乗ってしまった。でも、そう思うのって当たり前といえば当たり前のような。

「俺の話か? つっまんねぇぞ」

そのお兄ちゃんの言葉に、逆にドキドキしてた。

「ううん、いい。つまんなくてもお兄ちゃんの話が聞きたい」

もう一度いうと、お兄ちゃんは大きく息を吐いてから呟く。

「今度、な」

って。

あたしも今度って言ったからいいんだけど、どこか哀しげで。

「いつか、な」

念押しをしてるのか、言い聞かせてるのか。どっちとも取れる繰り返しの言葉に、胸の奥がざわざわしだした。


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