spiral~one~11
「ん?」
顔だけ振り向く。
部屋の入り口。そこに二人が立って、ドアにもたれかかるようにして見てた。
何時から見られてたのか、わからない。血の気が引いて、それからすぐに真っ赤になった。
「きゃあーっ」
二人に背中を向けるようにベッドに寝転がる。恥ずかしくて、まともに見られないよ。
てっきりお兄ちゃんあたりが冷やかすんだと思って、耳を塞いだ。
すると、片手だけをソッと外されて、
「腹減った。飯食うぞ」
と囁き、お兄ちゃんはまたリビングへと戻っていった。
あたしの盛大な独りごとには、一切触れず。
気まずい思いをしながら、リビングを覗くと、
「遅ぇ!」
短いその一言で怒られた。
怒られたのに、気まずかったはずなのに、それが今は何もなくなってた。
あの冷たい部屋で味わうことがなかったいろんな感覚。
「ごめんなさい」
不思議とね、笑って謝ってた。それでも許してくれるって、どこかで思えたから。
すこしずつ、ゆっくりとでも誰かに自分を知ってもらう。そんなこと考えたことすらなかった。必要がないと思ってた。
「そっか。やっぱ女の子だな、お前」
「やっぱりって」
二人でずっと話をしてた。
最初はどこか警戒してた、お兄ちゃんも男の子だしという気持ちは薄れてた。
伊東さんはママのことがあるからと、家に帰った。明日にでも冷蔵庫に食材を買いなさいって、お金を置いて行ってくれた。
帰る頃には素直に言えたありがとう。それと、おやすみなさい。
普通の挨拶がこんなにも新鮮に感じられたことはなかった。
「あまり買ってもらったことなくて」
そう。甘い物の話。明日の買い出しで、ひとつだけ好きなものを買っていいという話。
散々悩んだ挙句、お菓子がいいといったあたし。
「じゃ俺も、なんかお菓子にすっかな」
他愛ない話。今日初めて会った男の子と二人きりなのに、怖くない。楽しい。
今日だけ、あたしのベッドの横にお兄ちゃんが布団を敷いた。
ずっと昔から知っていたような感覚。
あんなによくしてくれた伊東さんより早く、お兄ちゃんと呼べた。
年が近いから? うーん……なんだろう。わかんない。自分の感情なのにね。
「今度でいいから、お兄ちゃんの話も聞きたい」
自分を知ってもらって、嬉しくて。今までの自分を認めてもらえたのが幸せで。
あたしはすこし、調子に乗ってしまった。でも、そう思うのって当たり前といえば当たり前のような。
「俺の話か? つっまんねぇぞ」
そのお兄ちゃんの言葉に、逆にドキドキしてた。
「ううん、いい。つまんなくてもお兄ちゃんの話が聞きたい」
もう一度いうと、お兄ちゃんは大きく息を吐いてから呟く。
「今度、な」
って。
あたしも今度って言ったからいいんだけど、どこか哀しげで。
「いつか、な」
念押しをしてるのか、言い聞かせてるのか。どっちとも取れる繰り返しの言葉に、胸の奥がざわざわしだした。