表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

Ⅸ:初戦闘はスライム的な雑魚。普通ならね。

 

さて、登録もつつがなく終了したし、ここは初依頼を受けるべきだろうか?


だがこういった場合、よくある異世界転生とか異世界トリップでは主人公が男の時は超絶美人の、女の場合は超イケメンの同業者が現れて主人公と一緒に依頼に行くのが常識セオリーらしい……我が妹曰くだけど。


さらにはその美人&イケメンは大概が王族、あるいは公爵といった上級貴族の人間だったりするらしい。まあ、1番最初に出逢うというフラグがあってこそ意味のある常識セオリーらしいのだが……

まさかリガードさんがそれに当たる可能性はさすがにないよな? 本人もしがない商人だって言ってたし……

いやでも不運を和らげる事の出来る縁が今の俺にはあるわけだし……


よし、とりあえず今は考えるのはやめよう。もしそうなったらそうなった時に考えるべきだ。うん。


でもよくよく考えると普通あり得ないよな。王族とか上級貴族が冒険者ギルドに登録しているって絶対にあり得ない。道楽だとしても非常識だぞ。ご都合主義というのは恐ろしいな。


とりあえず壁際の端末を眺めながら受けること出来そうな依頼を探す。受付での説明通り、1つ1つの依頼の情報の詳細にちゃんとランク付けがされてあった。


俺は登録したばかりのランクFだから……受けられるのは街の住人の雑事と採取依頼ばかりだな。まあ予想通りと言えば予想通りなんだけど。

それは置いといて1番最初に目に入った薬草採取の依頼を受けるかな。登録したばかりの初心者が受けるにはセオリーな依頼だろうし、剣と魔法の世界なら薬草の採取は避けては通れないイベントだろ。


そんなメタな事を考えながらライセンスを読取機リーダーに差し込み依頼番号を入力。ピッと短い電子音の後、出てきたライセンスを取り受付へ向かい先程登録手続きをしてくれた受付嬢に言葉をかける。


「依頼を受けたいんですが」


「はい早速ですね。ライセンスをお預かりします」


相変わらずの接客用笑顔(ゼロ円スマイル)で差し出したライセンスを受け取り、手元にある受付専用の端末なのだろう、それにライセンスを指し込み俺が受けようとしている依頼を確認する。


「ランクF、リブル草採取の依頼ですね。間違いありませんか?」


「大丈夫です」


「では、正式に依頼受諾となりました。初仕事、頑張って下さい」


励ましの言葉を貰いライセンスを受け取りギルドを後にする。


最後の言葉だけはマニュアル通りの社交辞令じゃなかったな。まあ初心者の初仕事という事での励ましだな。受付嬢としてはいつもの事なのだろうがこちらとしては意外とやる気が出てくる。現金だという事もあるけどね。


とりあえずリブル草の情報と群生地はオモヒカネ様から貰った知識があるから問題はないし、ランクも最低ランクという事でそうそう危険な事もないだろう。緊張する事もなく遠足気分で向かいますか。




そう思ったのが約2時間前。どうしてこうなった?


俺は今、全長5メートルはあるかという大きな狼に道を塞がれている状況にある。


リブル草の群生地となっている街から南に数キロ先にあった森に入り、特に魔物と遭遇する事もなく、順調に群生地までたどり着き、本当に苦もなく採取でき、意気揚々と帰ろうと来た道を戻ろうとした時、いきなり木々の奥から巨大な狼が現れた。←今ここ。


こいつの頭がいいのか、それとも偶然なのか、森の外に出るにはこの塞がれている道を通るしかない。まあ、遭難覚悟で脇に入る事は出来るが食料がない現状では自殺行為だ。


……こいつと戦う事もある意味で自殺行為かもしれないけど。


しかしおかしい。知識によるとこいつの名前は『グランベルウルフ』。本来ならこんな所に棲息する魔物じゃない。さらにはBランク指定の討伐対象。つまりはBランク冒険者ハンター単体か、Cランク冒険者ハンター数人で討伐する魔物だぞ。

間違っても今日登録したばかりの新米ひよっこFランク冒険者ハンターが戦って勝てる魔物じゃない。


う~ん……やはり不運だね俺。多少なりの改善って言われていたけど、こういう事故みたいな不運は余り解消されていないと見た。改善されたのは人との出会いの運なんですねミナカヌシ様。


まあなんだかんだ言っても勝てないわけじゃない。


現れた当初はその大きさや風貌に多少なりにビビっていたけど(嘘です実はションベンちびりそうでした)、今は危機感が殆どない。何とかなると思えてしまっているのだ。


「記念すべき異世界ファンタジー初戦闘にしてはいささか相手のランクが高すぎる気がするけど――」


独りごちりながら野太刀を手に取り鞘を抜き放ち刀身を露わにする。


「とりあえずまあ、やってみますか」


身を沈めてグランベルウルフの右側面に移動。


おお! 常時の身体能力が以前の倍近くになっているのを忘れいた。思っていた以上に速くてちょいとばかりビビった。


だがまあ、それでこちらを見失うほどグランベルウルフも馬鹿じゃない。なんせBランク指定されているほどだ、突っ込んでくる俺を迎え撃つように右前脚を振り上げ叩きつけてきた。


野太刀と鋭利な爪が交差――撃ち勝ったのは俺の野太刀だった。


風切り音を上げて宙を舞う3本の爪。さすがに驚いたのかグランベルウルフはすぐさま間合いを取るように後ろに跳びずさった。

往々にしてランクの高い魔物は知性も高いらしいが、瞬時に自分の状況を判断するなんて思っていたい以上に頭がいいな。


グルルルゥ


低い唸り声を漏らしながら姿勢が前屈みなっていく。どうやら自身と同等以上の存在と認識したらしい。一方的に狩る立場にいない事をあれだけで理解したようだ。


ならこちらも油断なく行こう。知識と身体能力から状況的にも戦力的にも精神的にも負ける要素は殆どないが、だからと言って油断だけはしない。よく言うだろう注意一秒怪我一生。

野太刀を担ぐように構え腰を落とす。それを戦闘態勢と見て取ったのかグランベルウルフは地面を蹴り低い姿勢から飛び掛かってきた。


って、さっきの唸り声は風の魔術かよ!?


予想以上の速さで飛び掛かってきたため迎撃する暇もなく横に跳んで攻撃をよける。

グランベルウルフがBランク指定されている理由。それが自身に気流を纏わせることで周囲の風の流れに乗り高速移動が出来る、というものだ。知識により確認。


というよりよく反応出来たよな自分。ぱっと見と通り過ぎていった感覚なんだけど、時速200キロぐらいは出てたぞ多分。この身体をくれたタケミカヅチ様のお陰なんだけど自分を褒めてやりたい気分だ。


気を取り直して再び構える。身体能力と武器だけで勝とうというのはいささか無理があったかな。やってやれない事はないけど、戦闘に慣れていない現状では素直に魔術を使って早く終わらせた方がいいかな。


「【付加エンチャント切味抜群スライサー――起動アクション】」


野太刀に斬撃UPの魔術を付与する。高速移動や身体強化でもよかったけど、今の俺は意識的に火事場の馬鹿力――身体能力の極限――が使えるんだからあまり意味がないんだよね。

ちなみに詠唱に関してはツッコミノーサンキューで。いい言葉が思いつかなかったのだ。


先程と同じように野太刀を担ぐように構え腰を落とす。一瞬の静寂、それを破るように再びグランベルウルフが低い姿勢から飛び掛かってきた。


同時に地面を蹴り低滑空で突っ込んでくるグランベルウルフのさらに下に潜り込むように身を沈める。させじと両前脚を押し潰すように突き出してきた。


予想通り。


振り払うように担いでいた野太刀を一閃。何の抵抗も感じることなくグランベルウルフの両前脚を斬り落とす。そしてその勢いを殺す事なく野太刀を振り上げ、唐竹割の要領で一気に振り下ろした。

肩口から刃が食い込み、まるで紙を切るかのようにほとんど抵抗もなくグランベルウルフの身体を通過していく。


鋭利過ぎる刃物で切られると生物はしばしその傷を認識するのに時間がかかる。


何かの本でそう書かれていたが、野太刀の切味と相互の移動速度それが相まって交差した後も、グランベルウルフは何事もなく地面に着地し佇んでいた。だがこちらを振り向こうとした瞬間に、前脚は胴を離れ身体は肩口から左右に分断。断末魔の悲鳴を上げる事もなく轟音と共に地に落ちた。


そんな姿を見ながら、俺は初めて命を奪うという行為をしたのに、自分が思っていた以上の罪悪感も嫌悪感も抱いていない事に気付いた。


この世界で生きていくうえでのミナカヌシ様たちの取り計らいなのだろう。確かにこの世界は魔物という存在がいる以上、命の在り方は前の世界の俺が住んでいたところよりは低いのだろう。


でも、それでも、少しだけ切なく感じるのをやめる事は出来なかった。

久し振りの投稿です。空き過ぎましたね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ