Ⅶ:高度な科学は魔法と見分けがつかないらしい。
死んで送られた異世界にて、第1異世界人発見!
んなアホなナレーションが頭の中に流れてしまった。でも好きだったんだよねあの番組のあのコーナー。死ぬ前に見た最後のテレビ番組があの番組で良かったような、ある意味でむなしいような……どっちでもいいか、今さら。
「それで、君は何処を目指していたんだい?」
はい、何処に行けばいいのか皆目見当すらついておりません。ちなみに今、俺は例の『軽トラモドキ』の中におります。
俺の目の前に止まった軽トラモドキ。前の世界と同じように自動で窓が開くと、その中にいたのはいい感じに渋さが出てきた中年のおじさん。
ひと言ふた言、挨拶のような会話をしていたはずなのに、いつの間にか送ってもらえる事になりあれよあれよと軽トラモドキの中に促された。
この軽トラモドキ、造りは確かに前の世界の軽トラとほとんど同じだが、微妙に違うところもある。
まず運転席が真ん中で左右に1人ずつ、計3人乗る事が出来る。運転席の前にはちゃんと速度計と回転速度計があるが、燃料計は付いていない。そして最大の違いがハンドルではなくレバーで減加速、方向転換をするようだ。
さて、軽トラモドキの説明はこの辺りまでにして誰か何故こうなったのか詳しく説明してくれ。普通ならこんな怪しい奴を出会って2・3分で迎え入れるか? これもあれか、ご都合主義のなせる技なのか。
そんな俺の混乱を余所に、おじさんは質問の後、少し慌てたように言葉を続けた。
「それよりも自己紹介の方が先だったね。私の名はリガード・ブレインズ。しがない商人だよ」
「あ……っと、ユーリ・フレスヴェルグです。一応旅人?」
「なんで疑問形なんだい? 自分の事だろうに」
俺の答えが思いのほかツボに嵌ったのか、おかしそうに笑いを堪えるリガードさん。
いやしかしそう言われても自分の立ち位置なんて何にすればいいのか全然分からないんですよ。だって考える前に貴方に会ってしまったんですから。
本当なら道を歩きつつゆっくりと自己設定を考えるつもりだったのに……こんなにも早くこの世界の住人に会えた事が幸運なのか不運なのか。
えぇい! とりあえず頭の中に出てこい! この世界の世界地図と人口分布率と現在地!
半ばヤケクソ気味に心内で叫んだら、一瞬にして頭の中に何やらサーモグラフィーのように色分けされ、1ヶ所だけ黒い点がある地図が現れた。
地図は中央に大陸があり、それを囲うように北西から南にかけて三日月の様な形の大きな大陸、北東に鳥が羽を広げた様な形の大陸、南東に大陸というには小さいが島というには大きい陸地が5つ集まっている。そして少し離れた東に小さな島が点在している。
そうかこれが世界地図か! そしてどうやら赤に近い色が人口が多く、青に近い色が人口が少ないと考えていいようだ! そしてこの黒い点が現在地だな! よし! 現在地は鳥の羽根の辺りで東の小さな島に近い! 島にもそれなりに人がいるから恐らく島国なんだろう! ならば俺はこの島国から船で渡ってきた田舎者という設定だ!
この間の思考時間僅か2秒。
「えっと……東にある島から船で大陸に来たばかりの田舎者ですから」
「ああ、なるほど。ライザール諸島からの来たのかい。あそこの島国はまだこちらとの交易が盛んじゃないからね。独自の文化を持ってるようだし――ああごめん。決して君の故郷を田舎と言ってるわけじゃないんだ」
通じた事にホッとしていたら、どうやら気分を悪くしたと勘違いしたのだろう、リガードさんは少しだけ取り繕うように言ってきた。こっちも取って付けた設定だから別に怒る事でもない。
「いえ別に気にしてません。俺が住んでいたところは本当に田舎ですから。だから言っては何ですけど……この乗り物って何ですか?」
見た事もないといった風で聞くと、リガードさんは特に煩わしいといった感じもなく俺の疑問に答えてくれた。
「これは『魔動車』という人や物を運ぶ『魔道具』だよ。『魔道具』が何かはさすがに分かるよね」
『魔道具』は読んで字の如く、『魔力を利用して使う道具』の事。
魔術を考える時には思い浮かばなかったけど、この世界に魔力は2種類あり、人間の体内に存在する『小源魔力』と世界の自然に存在する『大源魔力』に分けられる。
人が使う魔術は『小源魔力』を使い、『魔道具』は『大源魔力』を使うのだ。
いろいろと事細かい理論があるのだが、難しい事を考えていても仕方ないし、別に知ったからといって作るわけでもないので『魔道具』=『大源魔力』を利用した道具と思っておこう。
しかし『キャリッジ』って英語で『馬車』って意味だぞ……まあ安直に『カー』じゃなくてよかったとここは思うべきだろう。
「魔道具は知っていましたけど、こんな物まであるんですね」
「はは、やっぱり驚くよね。魔動車はまだ開発されて20年ぐらいしか経っていないからね。かく言う私も初めて見た時は物凄く驚いたものさ」
開発されたそんなに経ってないんだ。その割にはしっかりとした作りだよな。造形なんかも前の世界の最新の物と何ら遜色ないし。
でもまあ恐らく、使うのに必要な電力やガソリンが魔力になっただけで、『前の世界の文明の利器』=『魔道具』ってな捉え方で問題ないだろう。
なるほど、これがミナカヌシ様が仰っていた『前の世界と同等程度に化学が発展した世界』という言葉の証拠なのか。どんな魔道具があるかは後々の楽しみのために今は考えないでおこう。
「ところでユーリ君は冒険者になるためにこっちに来たのかい?」
「え?」
ハンター? 狩人のハンター?
いきなりの質問に呆然と返してしまった。またもや思ってもみなかった反応だったのか、リガードさんは再びおかしそうに笑いを堪えながら荷台の方を指さした。
「だって荷台の乗せた物と君の腰にある物、それを見れば誰が見ても冒険者になるためだと思うんだけど、私の勘違いかな?」
どうやらこの世界には『ハンター』なる職業があるそうです。
本来、体内にある小源魔力は『オド』、自然に存在する大源魔力を『マナ』と呼びますが、この物語では独自の呼び名にしましたのであしからず。




