Ⅳ:現状を把握して武器を創ろう。
「知らない天井だ……」
とりあえずテンプレっぽい台詞を言ってみたが、実際に目の前に広がる光景は木々枝々、その間から覗く青空であって、天井なんてものは存在していない。
どうやら寝転がっているようなので身体を起こす。ついさっきまで魂だけの存在だったため多少動きに違和感があるがすぐに慣れるだろう。ついでに周囲を見渡して現状を確認してみたが、すぐ近くに泉があり森の中でも少し拓けた場所のようだ。
さて、まず何から確認するべきか。そうだな、まずは服装からだ。素っ裸じゃ話にならなし、奇抜で浮くのも勘弁したい。一応感じからしてちゃんと服を着ているようなのでどんな格好かを確認しよう。
そう思い下げた視線に入ってきた服は――普通だった。
七部袖のシャツに長ズボン。色は両方とも薄い黒、墨色と言えばいいかな。その上に黒檀色のノースリーブロングコートを羽織っている。靴は脛まである編み上げブーツで色は黒。ちなみにズボンの裾はブーツの中だ。
こんな普通の服装で大丈夫なのだろうか? あ、そういえばミナカヌシ様が元居た世界と同等程度に科学も発展した世界って言ってたっけ。ならこの服装も在り来たりのものなんだろう。
じゃあ次はアマテラス様が言っていた何でも仕舞える道具袋だ。それらしいものが何処にも転がっていないって事は腰に提げているこのカーキ色のサイドポーチがそうなんだろう。早速開けて中を見てみると真っ暗な空間が広がっていた。
これはひょっとして亜空間、または異次元収納というやつなのだろうか? だけど亜空間、または異次元収納の道具をこの世界で使っても大丈夫なんだろうか?
そんな事を思った瞬間、頭の中にそれに対する情報が浮かんできた。なるほど、生きていくのに困らない知識とはこういう事か。
その知識によると、この世界で異次元収納の魔術のかかった道具が古代文明の遺物としていくつか存在するらしい。それならこのポーチも古代文明の遺物という事で通そう。
とりあえず欲しい物を思い浮かべればそれを手にする事が出来るという事なので、取扱説明書みたいなものはないかな、と思いながらポーチの中に手を突っ込んだらすぐに紙の様なものに触れたため、それを掴んで取り出した。
取り出した紙はまさにメモ書き。しかも明らかに日本語ではない文字で書かれているのに難なくその文字を読む事が出来て理解も出来た。
たぶんこの文字がこの世界の文字なんだろう。理解出来るという事はオモヒカネ様の言葉通りという事だな。さて、メモには何が書かれているのやら――
この紙を読んでいるという事は現状の確認をし、私達が授けた物の確認をしてい
るところですね。
私が授けた道具袋の事は『考える意思』の管理者より授けられた知識で理解でき
たかと思います。
では、私が授けましたもうひとつの武器・防具を創造する事が出来る力ですが、
あの時に申した通り3つまです。創りたい武器・防具の形や付与する能力を思い
描き『具現せよ』の言葉で想像する事が出来ます。
お金も貴方の望み通りこの世界で半年間、何もしなくても暮らしていけるだけの
額が入っています。あとで確認してください。
それでは良き人生を―――― 『豊かさの意思』管理者より
わざわざメモ書きでの説明ありがとうございます、アマテラス様。それでは早速武器・防具の創造をやろうと思います。
さてと、まずは武器よりも防具だな。よく攻撃は最大の防御って言うけど実際そう上手くいかないと思う。確かにゲームでも攻撃力に能力を多めに振り分け、早めに戦闘を終わらせるという方法もあるが、防御力を決して疎かにしてはいけない。ゲームは進めば進むほど、難易度が上がれば上がるほど防御の方が重要になるのだ。
それを踏まえて防具を創ろうと思うのだが、どういった物がいいだろうか? やっぱりテンプレ通りにありとあらゆる攻撃を無効化する腕輪にすべきか?
でもそうするとせっかくの身体能力や魔法――いやこの世界では魔術か――が宝の持ち腐れ状態になっちゃうな。
それならば――――よし! 決めた!
目を閉じて形と能力を思い描きながらなんとなしに両手を合わせる。
「具現せよ!」
言葉と共に両手を離し、暫く経ってから目を開くと離した両掌の間に銀色で青い宝石が付いた腕輪が宙に浮かんでいた。それを手に取り左腕に通し二の腕辺りまで上げるとピタリと嵌った。数回腕を上下に動かしてみたがずれる様子もなくて一安心する。
ちなみにこの腕輪の能力は致命傷と不意打ちになる攻撃の完全無効化。致命傷は言わずもがなだが不意打ちって言うのは、毒殺や狙撃といった突発的で対処する準備が出来ていない時に攻撃を受けた場合の防御だ。
うん、我ながらいい物を創ったと思う。あとの防具は街みたいな所に着いてから買えばいいかな。この世界は『剣と魔法の世界』なんだ。武器屋、防具屋が何処かにはあるはず。
さ、次は武器だ。やっぱりここも日本人異世界トリップのテンプレで刀だよな。でも普通の刀じゃあなんか味気ない。せっかく身体能力も上がってるしどんな物でも扱える知識もあるんだ。それを活用しな手はないよね。
そうだ、野太刀にしよう。別名で『大太刀』『斬馬刀』とも呼ばれる刀。中には刀身だけで3mを超える長さの物もあるらしい。そこまで長いものじゃなくていいけど、そうだなぁ……持ち運びも考えると全長が俺の身長よりもちょっと長いぐらいが妥当かな。
よし、じゃあ創るか。
「具現せよ!」
腕輪を創った時と同じ要領で野太刀を創る。現れたのは鞘、柄、鍔、全て黒の全長約200cmの刀。刀身は約150cmぐらいにしており、絶対に折れない・曲がらない・錆びない・刃零れしない・切れ味が落ちないという特性も持たせた。
ついでに刀身が長いので鞘から抜けない、なんて間抜けた事が無いように鞘から10cmほど抜いたら鞘が消え、仕舞う時は刀身を10cmほど撫でれば鞘が現れるという仕組みも付け加えた。
自画自賛になるがなかなかいいアイデアだと思わない? そして創造はあと残り1回。そうだ、狭い空間の事も考えて同じ特性を持たせた小太刀も創っておこう。
さあ次は魔術だ!
2、3話ほど設定の話が続きます。
あえて野太刀を選びました。刃の長い刀って憧れますよね。