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Ⅲ:やっぱり展開はテンプレでなきゃ。

 

人生っていったいなんだろう。


哲学的な意味じゃなくて言葉的な意味でだけどね。


読んで字のごとく『人が生きる』って事なんだろうけど、果して死んだ人間がもう一度人生を歩むことが可能なんだろうか? それはつまり輪廻転生の事だろうか? でもそれだと別の人間の人生になると思うんだが……


【考え込んでいるところ悪いがちゃんと聞いてほしい】


あ、すみませんでした。


【いや大丈夫だ。話を続けるがお主には選択権がある。望めば再び生きる事を、そうでなければ通常通りに輪廻を巡る事になる】


やっぱり普通は輪廻転生なんだ。という事は再び生きる事を選択できるというのはかなり破格な扱いと思っていいのだろう。でも俺ってそこまで不公平で不憫だったのかなぁ……まあいいや。


あの、もし生きる事を選んだ場合、死んだ事が無かった事になるんですか?


【それは無い。死んだ事を無かった事にするのは我らでも出来ない。一度世界を離れた魂は輪廻を巡らない限り同じ世界へ戻る事は出来ない】


ツクヨミ様の言葉から察するに、もし生きる事を選ぶなら、今まで生きていた世界とは違う世界で生きていくという事なのだろう。


テンプレだ。テンプレの異世界トリップものだ。妹の悠那の大好物な展開だ。


名前が出たのでついでだから紹介しておこう。

俺の妹の名は神鳥かんどり悠那ゆうな。悠那は俺たち双子をそれぞれ『とー兄』『りー兄』と呼ぶ。そして気付いていると思うが家の兄妹は全員が名前に『悠』の字が使われている。それは何故か。父の名が悠哉ゆうやで母の名が悠子ゆうこだからだ。


何と我が一家は最後の一文字で名前を区別している。それでいいのか父母よ。


それは置いておくとして、妹の悠那は3つ下の中学2年生。聡い皆様ならもうお分かりだろう。そう、あいつはただ今『中二病』まっただ中の、しかもかなりの重症患者だ。

妹よ、頼むかそろそろそういうのは卒業してくれ。来年は高校受験だぞ。りー兄は死して尚お前の病気が心配です。死んでも心配させてくれるな妹よ……


えっとつまり、生きる事を選んだら違う世界に行くと考えていいんですね?


【その通りです。それでどうしますか?】


改めて確認すると、アマテラス様も改めて問い掛けてきた。


さて、どうしようか。未練が無いと言えば嘘になるが、だからと言って今まで生きていた世界じゃなきゃ嫌だという執着もない。違う世界に行きたいという願望もあるが、その世界で本当に生きていけるのかという不安もある。


なんせ俺はまだ17年しか生きていない。しかも日本という比較的平和な国で、特に不自由を感じる生活を送ってきたわけじゃない。そんな人間が果して今までとは違う世界に行って独りで生きていけるのだろうか?


【もし違う世界に行くことに不安を感じているのなら心配はいりませんよ。ちゃんとその世界で生きていけるように取り計らいますから】


俺の不安を見抜いていたらしいオモヒカネ様が安心させるように仰った。


そうですか。なら違う世界に行く事にします。やっぱりまだ『自分』として生きていたいですから。


【自らの思いに従い生きるのはいい事だ。それが生きる意思に最も必要な事だからな】


タケミカヅチ様の声が若干嬉しそうに聞こえるのは勘違いじゃないかもしれない。


しかし俺も現金だな。違う世界で生きることを決めた途端、その世界がどんな世界なのか物凄く興味が湧いてきた。こういう時のテンプレは『剣と魔法の世界』だけど、果して俺が行く事になる世界はどんな世界だろうか?


【して、どのような世界で生きていきたいのだ? 行きたい世界も選んで構わぬ】


俺が選んでもいいんですね!? なら『剣と魔法の世界』に行ってみたいです! やっぱり一度は憧れる世界ですから!


ミナカヌシ様の言葉に思わず興奮してしまう。実はこれでも生前は結構ゲーム好きだったのだ。特にRPGロールプレイングゲームが。これに関しては軽度のオタクと言ってもいいかもしれない。


【ではお主の望み通りの世界に……そうだな、同時にお主が前に居た世界と同等程度に科学が発展した世界に送ってやろう】


大盤振る舞いですねミナカヌシ様! いいですよいいですよ大歓迎です!


【興奮が漏れ出てますよ。では我々も君のために贈り物をしましょう。私からはその世界で生きていくのに困らない知識を。言葉や文字も理解出来るので安心して下さい。それとどんな物でも扱う事が出来る知識も与えます】


ありがとうございます、オモヒカネ様。それなら世間知らずで恥をかく事もないですね。


【我からは新たな魂の器、身体を授ける。それと同時に自分の意思で力の限界まで使え、それに耐え得るようにしておこう。それと普段は今までの倍ぐらいの身体能力になるからな】


つまり、意識的に火事場の馬鹿力を出せるって事ですね。ありがとうござます、タケミカヅチ様。


【ならば我からはその世界で必要となる『魔力』なる力を授けよう。どのように扱うかは向こうに着いてから決めよ。その世界の法則に縛られるが多少なりに融通は利くであろう】


『剣と魔法の世界』ですから魔力が無くちゃダメですよね。ありがとうございます、ツクヨミ様。


【最後に私から。その世界で生きていくための武器と防具、そしてあらゆる物を仕舞える道具袋を授けます。向こうの世界に着いたら思い浮かべ創造して下さい。ただし3つまでですから気を付けて下さい。そしてもし望むなら一生暮らしていけるだけのお金も用意しますが、どうしますか?】


お金は半年過ごせるぐらいで結構です。きちんと自分の手で稼いで生きていきたいと思っていますから。でも心遣いはありがとうございます、アマテラス様。


【そうですか。では私から特別に一生で一度、でも最高の愛の繋がりを授けます】


それって所謂『運命の相手』と巡り会えるって事ですか? 何やら嬉しそうに見えるのは俺の見間違いでしょうかアマテラス様? つまり貴女は『愛を司る神』も担ってるって事ですね。


【それぞれ授ける物が決まったようだな。ならば1つだけ忠告を。違う世界に行ったからといって、輪廻を巡っておらぬお主の不運は、多少は改善されるが完全になくなるわけではない】


やっぱりそうですか。でもまあ、多少なりとも改善されるならそれで十分です。


【ウム、故に我から繋がりの縁を授ける。これからお主が出会う者達との繋がりが、お主の不運を少しは和らげてくれるだろう】


そこまでしていただけるなんて……もう感謝の言葉すらないです。


【では最後に新たな名を決めよ。これからの生は確かにお主のままだが新たに歩む生だ】


なるほど、俺自身のままだけど違う世界で新たに始まる人生だからそれに見合った新しい名前が必要って事ですね。それなら名前はそのままにして苗字を変えます。


【して、その名は?】


ユーリ。ユーリ・フレスヴェルグで。


【ではユーリ・フレスヴェルグよ。新たな世界で新たな人生をお主の思うままに歩むがよい】


そんなミナカヌシ様の言葉を聞いた直後、俺の意識は白い世界に覆われたのだった。

フレスベルグは北欧神話に出てくる死者の魂を啄む大鷲です。扱いとしては凶鳥ですが、主人公の苗字『神鳥』を『神話に登場する鳥』という風に捉えて『フレスヴェルグ』としました。


神話に登場する鳥の中でフレスベルグが一番カッコイイ名前だと思いませんか?

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