Ⅱ:この世に神はいなかったようだ。
【気を悪くしたのならすまない。だがお主の不運には理由があるのだ】
どうやら俺がちょっとイラッときたのを感じ取ったようで、主神っぽい方は少しだけ慌てて弁明していた。
まあ確かにちょっとだけイラッときましたが、別段そこまで慌てて謝られるほど怒っているわけじゃないんだけどな。それよりも聞き捨てならない事言いましたよね?
えっと……俺の不運の理由って何ですか?
【ウム、本来ならお主も普通の人間と余り変わらない運気で人生を歩むはずだった。だが何故かは分からぬがお主の運気のほぼ全てが、お主の双子の兄に移っていたのだ】
それってつまり……俺の運が生まれる前に悠斗に吸い取られていたって事ですか?
【有体に言えばそういう事だ】
確かに理由があったようだが衝撃の事実だった。
名前が出たのでここで一応紹介しておこう。
俺の兄の名は神鳥悠斗。双子だから実際にはどっちが兄・弟というのはないのかもしれないが、悠斗の方が先に出てきたという事で便宜上は兄になっている。
お互いに『悠吏』『悠斗』と呼び合っているので俺たちの中では余り上下を気にした事はない。
さて、この我が双子の片割れ悠斗なのだが、外見は一卵性双生児だから俺とそっくり。身長体重身体つきも全く同じなため、見分けられるように悠斗が髪を伸ばしていた。
で、そんな悠斗なのだが。今考えると確かに人より運がよかったような気がする。俺自身がちょっと不運なため普通の人ですら運がいいように見えるため余り深く考えてこなかったが、確かに悠斗は運がよかった。
いろいろと逸話があるのがだそれは割愛させてもらおう。でも確かに俺の運気を吸い取っていたと言われたら納得せざるを得ない逸話が多くあるな。
なるほど。そういう事だったんだ。あっ! となれば俺が死んだら悠斗の運気はどうなるんですか!? もしかして運気が下がるって事は無いですよね!?
【そういう事だったんだってお前……それで納得するのか。そして聞く事がそれか?】
いや気になるじゃないですか。
【安心しろと言うのもおかしいが、今さら運気が変わる事はない。それよりも不公平だとは思わないのか? 同じ魂と肉体を分け合った双子だぞ?】
いえ、そうは言いますが筋肉様。俺が不運になる事であいつが幸運になるのならいい事じゃないですか。それが赤の他人なら確かにちょっと理不尽かと思いますが、一卵性双生児だからいわばもう1人の自分じゃないですか。だからそこまで理不尽に思う事はないですよ。
【誰が筋肉様だ】
突っ込むところはそこですか? というか俺は皆様の名前を知りませんので便宜上、外見の特徴で呼ばせて頂いたんですが?
【そういえば名乗っていませんでしたね。とは言っても私達には確固たる名というものは無いのです】
女神様が何処か困ったように仰った。
名前がない? えっと、申し訳ありませんが貴方がたは人間が言うところの、所謂『神』と呼ばれる方々ではないのですか?
【その推察は間違いではいないが正しくもない。我々は『管理者』と呼ばれる存在だ】
俺の疑問に女神様の隣の無表情様が、やはり無表情で答えてくれた。
管理者……ですか?
【そうですよ。ですが君達人間が『神』と呼ぶ存在でもありますからね。人である君に分かり易い名を告げるなら、私の名は『思兼神』『メティス』といった人々の『知』を司る神、と言ったところですかね。実際には『考える意思』の管理者ですが】
少しだけ楽しそうに筋肉様の隣にいる長髪様が仰った。
しかし驚いた。詰まる所、世界各地に存在する神話や叙事詩に登場する神々は全て今、俺の目の前にいる5人?(人でも神でもないから5人という認識があってるか分からないが)の名前を変えた姿という事だ。
俺は盲目的に神という存在を信じているわけでもなければ、絶対に存在しないと否定しているわけでもないから、『管理者』という存在はある意味で納得できる事だった。
何となく理解しましたが、メティスは女性神ですよ? 貴方はどう見ても男性の様な気が……
【我らに人の言うところの『性別』は存在しない】
あ、やっぱりそうなんですか。という事は筋肉様。貴方は所謂『武』を司る神の――
【そうだ。お前たちが言うところの『建御雷神』『アレス』。そして『生きる意思』の管理者だ】
【私は『天照大御神』『アフロディーテ』と呼ばれています。『豊かさの意思』の管理を任されています】
【我は『月読命』または『ハーディス』等と称される、『安寧の意思』の管理者】
何やら本当に錚々たる名前が出てきたな。でもまあ管理している意思を聞くと納得出来る。詳しくは聞かないけどこの『意思』って言うのは恐らく『世界意思』とか呼ばれる、人間には意識的に認識は出来ないけど無意識に理解している生きる世界の流れ、みたいなものだろう。
そう考えるなら、今俺の目の前にいらっしゃる主神様は――
【如何にも。我は『天之御中主神』『ヤハウェ』と称される、『統合されし意思』の管理者だ】
つまり、創造神・唯一神と呼ばれる存在だという事だろう。しかし本当に驚愕の真実だな。世界に神は存在しないが、その神の元となった存在が在るとは……人間、一度は死んでみるものだ。
とりあえず便宜上、長髪様をオモヒカネ様、筋肉様をタケミカヅチ様、女神様をアマテラス様、無表情様をツクヨミ様、主神様をミナカヌシ様と呼ぼう。
貴方がたがどういった存在なのかも、俺の運気が無かったのも分かりました。それに対して不憫に思われている事もとりあえず受け入れましょう。
本当は不憫なんて思われたくはないけど、そうしないと話が進みそうにない。まあ不憫と思っているのはあちらの方々であって俺は思っていないのだから変に目くじらを立てる事でもないよね。
それで本来はこんな事はしないと仰いましたが、俺がここに呼ばれた――でいいでしょうか? その理由をお聞きしてもいいでしょうか?
【そうであったな。お主、もう一度人生を歩んでみぬか?】
人生って、そう簡単にまた歩めるものなんだろうか?
意思の管理者の設定や名乗った神の名前についてツッコミはしないで頂けると嬉しいです。




